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しおりを挟むあれから一週間。
カリンは学校を休み続けた。こうなってくると兄として心配なのは、やはり勉強。九九を覚えてまだ一年も経っていない。せめて算数だけは……。
とは言え、いきなり言っても聞いてくれないだろう。だから用意した。小学四年生用の算数ドリルを!
それは夕食後のひととき。
デザードに出したバニラアイスを美味しそうに頬張っているとき。
俺はスッと算数ドリルをカリンが座るテーブルの前に置いた。
「え、なにこれ」
「算数ドリル。カリンが向こうで過ごしてきたって言うなら四年生の問題だって解けるだろう?」
少し意地悪な気もするけど、これは必要なこと。これくらい出来て当たり前という空気を作ることが大切。
難しい漢字が並ぶ『神話系』の書物を読み漁っているカリンなら、できる!
しかし、カリンは首を横に振った。
「呆れた。こんな計算ができるからなに? 社会に出てから何の役にたつの?」
それを言っちゃおしまいだ……。だけど!
「そうだけど。カリンなら朝飯前だろ? ほら、異世界なら魔法演算とかあるんじゃないのか? 術式とか高度な知識を有しそうじゃん」
「そういうのは賢者や魔導師連中の得意分野だから。わたし知らないし」
なんてことだ。あっさり言い逃れされてしまった。
上手いこと逃げる術を事前に用意してたか。
とは言え、右手にドラゴンを封印した設定なのだろう。だったら魔法は使ってるはずなんだ。
魔法が使えるという言質さえ取れれば、算数ドリルへと繋げられる。よしっ!
「じゃあ、カリンはなんだったの?」
「大天使イザベラから祝福された人界唯一の聖剣使い」
へぇ。大した設定だな。
でも大天使なのに名前がピンと来ないな。オリジナルかな。
でも、聖剣ってことは……答えは一つだな。
「勇者ってこと?」
「そうとも言う」
ビンゴ!
ははーん。カリンは勇者って設定だったか。なんとなくそうだとは思ってたけど。
「別に好きで勇者になったわけじゃないよ。わたしを異世界に召喚したのがイザベラだったから。その縁。……ちがうね。そのせいで勇者になった」
嫌々、渋々勇者になったと。
あるね。あるある。あるよ!
「イザベラさんはなにしてるのかな? カリンを呼び出した時みたいに、迎えには来てくれないの?」
「死んだよ」
「あ。ごめん。野暮なこと聞いて」
そういう設定だとわかってても引け目を感じてしまうな……。空気が重くなってしまった。
算数ドリルとか言いづらい。
勇者ってことなら、魔法使えるのに……。まずったな。
「別にいいし。あいつはわたしを天界に召喚して地上に投げ捨てたゲスなやつだから」
「へ、へぇ。ひどいことする人もいるんだね」
「話聞いてた? 人じゃなくて、大天使。種族が違うから」
こりゃ、凝ってることで。
伊達に夏休み、神話系の書物を読み漁ってないってことか。今もなお、毎日読んでるしな。
算数ドリルはできなくても、勉強はしてる。
こうやって覚えることは、後々の糧になるって聞くし。
よくある◯◯子供博士みたいなやつ。
少し急ぎ過ぎたかな。もう少し、経過を観察しよう。そう思った、食後のひとときだった。
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