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二章
五十三話
しおりを挟む死ぬ……のか……な。
仲良くなる前は殺されるのが当たり前だった。入れ替わり立ち代わり6回も殺されたのに。そんな事わかってたはずなのに。はずなのに。──何してんだよ俺。
ただ、キャミソールが欲しかった。そんな人生だった。……のか? YES。
あぁ、なんて情けない最後なんだ。
10分ループでおねだりすれば良いだけなのに、インターバルの僅かな時間を待つ事が出来なかった。
──その結果、死ぬ。
悔いている。けど、気持ちは正直だ。
だってここは10分ループ!!
目の前の死よりもここに来れた事が嬉しい。
どう幸せに死ぬか。頭の中はそれだけだ。最初の頃に戻っちゃったな。でも心地が良いんだ。
「お、お姉さん……がはっ」
「喋っちゃダメよ。10分経てば元に戻るから。安静に、今はとにかく生きて。それだけを考えるの」
無理だよ。今にも意識が飛びそうだ。でも、幸せ。
温かい。膝枕越しにぎゅぅぅぅって抱きしめてくれるお姉さんがとっても心地いい。
たわわなお山と太もものセッション。
前も後ろもむにむに柔らかい。頭の四隅を包み込むようにお山がふたっつ。太ももがふたっつ。全方位むにむに。
わんわんパワーも全開で痛みはない。
アディショナルタイムも終わり、ホイッスルも鳴った。それでも何故かボールを追いかけてる。今はそんな謎の状況。とっくに死んでるはずなんだ。でも生きてる。全方位むにむにが俺を生かしている。
8回目はあるのだろうか。また、10分ループに来れるのかな……。
自業自得の自己責任。免罪でもないし言い訳も出来ない。
クンカクンカすぅーはぁーするヤバい奴が寝込みを襲い、謝る事もなく、あまつさえ食って掛かって来た。
──そりゃ、こうなるよ。死んじゃうよ。
「アヤノちゃん……お願いだから……死なないで……こんな最後は嫌よ……」
掴みかけた幸せがこの手から全て零れ落ちる。そんな時なのに心も体も幸せな気持ちに包まれてる。
ありがとう。全方位むにむに。
ありがとう。お姉さん。
──でもね、願わくば、最後の瞬間はアーマーモードで迎えたいな。
アーマーモードになりたくてこんな事になっちゃったんだ。このままじゃ無駄死にだ。そんな自分が滑稽で哀れで悲しい。まるでピエロじゃないか。
嫌だ。そんなのは嫌だ!!
だから諦めない。もう一度、アーマーモードになって死ぬ。アーマーモードのまま死ぬ。
死にたいんだアーマーモードで!!
「お、お姉さんの…………これ、これが欲しい。交換…………ぐはっがはっ……最後の、お願い……ぶはっ」
ぎゅっぎゅっ。
視界がボヤける。目を開ける事すらも限界なのか……。
手が上がらない……キャミソールを、キャミソールを掴むんだ。気持ちを伝えるんだ。上がれ……上がれよ腕……。うぅ。
ぎゅっぎゅっ。
──あぁ、ダメだ。もう、手に力が……。キャミソールまで届かなかった。ショーパンの裾を掴むので精一杯。
「……わかったわ。お着替えさせれば良いのね。まったくもう。こんな状況でもブレないのね……ぐすっ。でも、アヤノちゃんらしいわ。お姉さんに任せなさい」
良かったぁ。伝わった。さすがはお姉さん。
よし……頷くんだ。意思を示すんだ……。
コクリ。
なんて贅沢な最後だ。ここで死ぬ事に意味が見出せた。等価交換。いや、それ以上。
「ごめんねアヤノちゃん。急いで脱いで着させてあげるから、良い子に横になってて。絶対に死んじゃダメよ」
コクリ。大丈夫。アーマーモードになるまでは死んでも死ねないよ。
……たわわが離れ、太ももも離れ、膝枕終了。
もう、声も出ない。目も開けられない。体も動かない。虫の息。でも、意識はある。この命、あとちょっとだけでいいから持ってくれ。
「アヤノちゃん、手バンザイ出来る?」
あっ、そうか。お姉さんが脱がしてくれるんだ。なんてそそるシチュエーション。最高だぁ!
バンザイして洋服を脱がされて、「いいこ。たいへんよくできました」なんて言われて頭を撫でられちゃうのかな。えへ。えへへ。
……腕が上がらない。手に力が入らない。バ、バンザイできない。ちくしょう。
もう、秒速で死ねるフェーズに突入してるんだ。
あと少しだけ、頼むよ……。少しだけ……。
「アヤノちゃん……動けないのね……。大丈夫よ。お姉さんが脱がしてあげるから」
情けない。これじゃ赤ちゃんだ。介護だよ。
それでも俺は……アーマーモードになりたい。ごめんねお姉さん。最後のわがままだから。
目が開かない、目の前真っ暗。そんな状態で脱がされる初めてのこの感覚。お姉さんに襲われてるみたいで、なんだか恥ずかしい。
あっ、Tシャツ脱がされちゃった。来るっ、アーマーが、来るっ!
頭から入ってくる。キャミソールが!!
ぽわ~~ん。
──フルアーマー・フェロモン verキャミソール。
幸せだ。また装着出来た。身体が熱いよ。さぁ、死のう。もう、死のう。今すぐ死のう。ありがとうお姉さん。
……じゃあね。
って、あれ? なんだこの違和感。あれ?
お姉さんの手が短パンを……あれ、あれれ? 掴んでる?!
ひゃぁっ。た、短パンが下げられる。お尻から太もも、膝へ……脱がされちゃった。なにごと?
もしかして、これ、本当に襲われてる?!
ビクッ。つま先に感じるこれは……脱がされたと思った短パンが戻ってくる。リリースされてる。
でもこれは……この生地、質感。ちょうど膝までリリースされたけど、重力を感じる。濡れてる。びっしょりと濡れてる。熱いッ。なんか身体が物凄く熱いッ。
ドクンッ。
ま、まさか、これは……。確信はない。けど、これは……。さっきまで履いてた物とは、明らかに違う。
お尻を伝う……履いた。履かされた。ドクンドクンッ。待って、ドクンドクン。これは……? ポリエステルじゃない……コットン100%? 吸い過ぎている。このショーパンはフェロモンを吸い過ぎている!!
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンッ。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンッ。
体が熱い。燃えるように熱い。鼓動がやばい。止まりかけだった心臓がフルスロットルだ。
コットン100%フェロモン100%!! コットンとフェロモンが共鳴している!! キャミソールとショーパン。ルームウェア上下セットのシンパシーーーー!!
全身を包み込む。フェロモンが全身を包み込んでしまっている!!
──フルアーマー・フェロモン『改』!!
生命が漲る。なんだ、なんだ? うおおおおおお!!
シャキーーンッ! 目が見開く! 身体が動く。
ま、眩しい。お、お姉さん!! ──下着姿?!
「ワンワンワンワンワン!!」
わんわんモードの制御ができない?! 強制発動……なのか?
「ワンワンワンワンワンワン!!」
こ、これは……。
〝エクストラわんわんモード!!〟
命が、みなぎる。パワーがみなぎる!!
「えっ、アヤノちゃん?」
下着姿できょとんと驚く表情のお姉さん。ドクンッ。
「ワオーーーーーーン」
──俺は飛び込んだ。フルアーマー・フェロモン『改』を身に纏い、下着姿のお姉さんのお山に。それはもう押し倒すように、気付いたら飛び込んでいたんだ。
むぎゅむにぺろっ!!
がむしゃらに、むちゃくちゃに……時間を忘れてむぎゅむにした。
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