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二章

四十二話

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「なにをコソコソと話してるんですか?」
「んー、カシスには関係ない話だよぉ。ねぇアヤノちゃん?」
「むぅ。気になるじゃないですか」

 仲良くテーブルを囲みガールズトーク。
 でも会話の雲行きが怪しい。

 ──この話、知られる訳にはいかない。絶対に……。


「そうだね。カシスちゃんにはまだちょっと早いかも……」

「むぅ。むぅ。むぅ!!」

 座りながら、ぐいっぐいっぐいっと距離を詰め、隣にピタッ。二の腕ピタッ。ドキッ‼︎

 少し湿ってる。よく見ると前髪が汗で額にくっついてる箇所がある。その小っちゃい体で走り回っていたのだろうか。

 頑張るこの子を放って酒場で飲んでいたという、あの男がますます許せなくなった。


「早いってなにがですか? ツンツンッ」

 あっ。このボディタッチは!!


「無駄に大きいだけじゃないですか。なにが早いって言うんですか? ツンツンっ」

「おい、クソカシス。わたしのアヤノちゃんに何してるのかなー?」


 え、エリリンっ!! いま、いいとこだったのに!! クッ。

「むぅ。だってだって……ごめんなさい……」
「わかればいいんだよ。大きくなったらわかる事だから、ね?」

 エリリンがカシスちゃんの頭を優しく撫でてるだと? おまけに乾いた汗でべたっと張り付いたままの前髪を直してあげてる……。
 

「ほら、行って来ていいよ。カシスはわたしが見てるから」


 この援護射撃はなに? ……まさかっ、1kの狭い部屋。
 そうか、俺とヒメナちゃんの会話を全部聞いていたから……。

 あぁ、なんと言う事だ。エリリンもまた誤解しているんだ。あぁ、なんてこった。なんてこった。なんてこったぁー。


「アヤノちゃん行こっ! ご褒美の時間だよっ」

 ヒメナちゃんに手を引かれ、洗濯物がある場所へ、そう脱衣所へと連れていかれた。

 どうしてこうなった? このルートは色んな意味で危険だ。生存ルートはこれしか用意されていないのか?!

 ◇

 狭い脱衣所。何故かまた壁ドン体制のヒメナちゃん。

「カシスも居るから、静かにね」

 シーっと人差し指を唇に。可愛いっ。だけど、今はそれどころじゃない。だって手に持ってるそれは〝危険〟なのだから。


「はぁい。ご褒美っ! 良い子に待ててえらいえらい~」

 股ドンッ。からのぐしゃっ。ぐしゃぐしゃぐしゃっねじねじっ。

 壁ドンする手は肘に変わり、肘ドン&股ドン。そそるシチュエーションなのだろう。が、今は違う。

「うーー、うぅーー」

 ねじねじはやばい。破壊力が増すっ。や、やめて、やめて……誤解なんだ。うっ。


 遠い目をする俺を見て笑っていた。それはもう、嬉しそうに。

 ヒメナちゃんは何かに目覚めてしまったのか。
 パンドラの箱を開けてしまったとでも言うのか……。


「そんなに嬉しいのぉ?」
「うーーーー、うーー」
「ほらほら、ほらぁ!」


 ──うぅっ、う。うぅぅ。
 ……………………。


「また良い子にしてたらあげるからね。これは、二人だけの秘密っ」

 またも人差し指を唇に。可愛いっ。

 一歩、また一歩。確実にヒメナちゃんと仲良くなれている気がする。〝二人だけの秘密〟──そそる言葉。

 保身的になるな。逃げるなっ……ここで攻めずしてなんとするっ‼︎

「ヒメナちゃんありがとう。だ、だいしゅき」

 意識が……視界がボヤける。まったく別の意味で、やばい意味で目がとろ~んとしている気がする。

「もぉー、そんなこと言っても焙煎ばいせん済みはこれしかないよぉ~? おねだりしても今日はこれだけぇ!」

 ねじねじぐしゃっ!! ──ぶはぁ。

 だ、だめだぁぁ。攻めてもコレに収束してしまうのか。な、なんという、なんという危険なルートなんだ……。

 ば、バタリ……………。


 ◆◇◆◇◆◇◆


 夜も更け、おやすみの時間。
 俺とエリリンはロフトで、カシスちゃんとヒメナちゃんは下で寝る事になった。


「ちょっと、ヒメナ。あまりこっちに来ないで下さい。やぁっ。だめっ」

 ドクンドクン。な、なに? 何してるの?!


 なに? この声??


「ああっ。うっ」

 な、なにしてるんだよーー?!

 く、クソッ! あっちが当たりだったか!!


「アヤノちゃん、すごい脈打ってる。どしたの? 眠れない?」

 ドクンドクンドクンドクン。

 うぅー。エリリン‼︎ こっちはハズレなのぉ?

 スリスリスリ。スリスリぎゅっぎゅ。

「あはっ、くすぐったいよぉ~。なんていうかー、甘えん坊さんだよね?」

 上下に首を五回振った。高速で!

「ははっ! いいよ。今日は怖かったもんね。たくさん甘えさせてあげるっ」

 え、エリリン……ワオォーーーン‼︎

 こっちも当たりでした!!


「こんな風に抱き合いながら寝るのは初めてかも。不思議。安心するんだね」

 切なそうに手のひらを眺める。
 魔力切れを懸念しているのだろうか。

 ツインテールも解かれおやすみモードの金髪ストレート。
 普段の強気な彼女ではない。弱々しくもみえる。──可愛いだけの普通の女の子だ。

 大丈夫。俺が側に居るよ。むぎゅっ。
 そう、これはエリリンの不安を解消させる為の抱きつき。安眠へ導く!

 だ、断じてやましい事などない!!

 ──スリスリぎゅー。むぎゅむぎゅぎゅー。んにゃ!


「あはは。甘えたさんのアヤノちゃんっ」

 本日限りのチワワ同盟。
 でもね、明日も明後日もこうしていたい。


 明日が来るのか……不安で眠れない。はずなのに、エリリンの胸の中は温かくて優しくて……。


 ──無事に、朝を迎えられますように。
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