上 下
41 / 62
二章

四十一話

しおりを挟む

「アヤノちゃんはロフトへ。ヒメナ? いい?」
「わかってる。任せて」

 えっ。えっ?! 

 ◇

 ──ロフトIN。

 やっぱりここが寝室の役割を担ってたのかぁ。ギャルの匂い。乙女の寝室(ロフト)。ふぁぁぁぁ。

 って、今はそれどころじゃない!!

 うーー、でも!!
 バタバタバタバタ。興奮が興奮がぁ‼︎ ぷはぁ!!


「しーっ。これあげるから静かにしててね」

 まるで子供をあやすかのように。そう、飴玉でも渡すかのように、ヒメナちゃんがひょっこり顔を出し〝ニーハイ〟を手渡してきた。それも片方だけ。──ギャルの寝室に暗雲が立ち込める。


「あ、ありがとう。静かにするね……」

「良い子。無事に事が済んだら……もう片方もあげるからね」


 ──どうしてこうなった? 頭を優しく撫でられながらも素直に喜べない自分が居た。

 なびく美しい銀髪。見事なくびれに大きな胸。輝く綺麗な脚、そして太もも。お姫様にして美少女。


 ……その正体は、やはり馬鹿なのだろうか。



 ◇


 カチャカチャ。カチャカチャカチャカチャ。

「あ、開けて!!」

 女の声? 誰だっけ、この声……。

 ロフトで息を潜めながら聞き耳を立てる。

 ──安定の傍観者。無力。


「なんだー、カシスじゃん。何?」
「何? じゃないですっ!! ヒメナは? ヒメナ見なかったですか?!」

 カシスちゃんか! あぁ懐かしいなぁ。クマゴロウ。


「やっほー!」
「えーーっ?! なんでそこにヒメナが居るんですか?」

 シュタッ。ドンッ。


 何処に居たの? 天井っぽい。


「いや、追ってだったら刈り取ろうかなーーって。で、何しに来たの? 子供は帰る時間だよっ!!」

「めちゃくちゃ怖いんですけど。ていうか、ヒメナの癖に生意気な……探していたのですよ……どこにも居ないから。てっきりエリリンにほふられてしまったのかと。鎧だけが不自然にベッドにあったので……」


 とんでもない会話だな……。あの鎧。確かに誤解するな。


「おいクソチビ。屠る? ずいぶんな言いようだな?」
「あの、エリリン。今はその乗りキツイです。ごめんなさい」

 やっぱりこの二人は仲が悪い。あの最悪な状況を見て来た身としては、この程度の会話ならホッコリしてしまうけど。
 

「ははーん。詠唱完了した状態で玄関をノックしてたなぁ? とりあえずその魔法消すところからだね!」
「はい。ヒメナにはわかっちゃいますよね。エリリン相手にはこれしか無いですから。非礼を詫びます。ごめんなさい。すぐに消します」

 しゅぅぅぅ。ぽんっ。

 ガチで殺しに来てたのかよ……。カシスちゃん侮れない。



「で、敵意は無いの?」

 マジ声のエリリン。

「ありましたけど、ヒメナが屠られたと思ってたので、無事を確認出来た今、どうでもよくなってしまいました」


 何事にも真っ直ぐ全力。うんうん。


「生きてるから!! ここにいるから!!」

「そうなんです。居るんですよね。とりあえず、灯は消した方が良いですよ。たまたま前を通ったら電気が付いていたので立ち寄りました」


 「「あーっ!」」


 ◇◆◇

「あの、なんでこの子が普通にエリリンの服を着てくつろいでるんですか?」
 

 テーブルを囲い、カーテン越しの僅か過ぎる月明かりで語る女子四人。

 青春かなっ? チームエリリンにカシスちゃんも加わり生存ルートは濃厚確実!


「ダメなの? 口答えするならやっちゃってもいいんだけど?」

 エリリンは絶賛チワワ中のはずだ。しかし、悟られない為なのか、戦いのエキスパートにしてエリートのテンプレのように振舞っている。

 戦えない。今のエリリンは戦えない!! はいここ重要!!


「いや、別にそんなつもりでは……ごめんなさい」

 ちょっぴりビビってる模様。今のカシスちゃんなら赤子を捻るかの如く屠れるだろう。けど、それを悟らせないエリリン。まじパない!!



「それでー、レオとジャスミンは?」

 本題と言わんばかりに続けるエリリンっ!

「ジャスミンはわかりません。別行動で森を探してましたので。レオは酒場に居ましたね。店主曰く、夕方には既に居たとか」

「ははっ。わたしが任務放棄して邪魔立てまでしたってのに、そんな早くから。あははっ」
「エリリン。気を確かに。元からそういう男です。だからこそ、明日にはケロッとしてますよ。今日さえ越えれば何事も無かったかのように明日を迎えられます」

「あんたに慰められるとか、余計に悲しくなるわ」


 やっぱり仲はよろしくない。けど、上下関係的なそれは出来上がってるように見えた。そんな中、俺を助ける為にあの世界では戦ってくれたのか……。

 繰り返した世界の記憶が糧になる。信用出来るかどうか、すぐにわかる。


 ただ単に破滅エンドを回避するだけじゃダメだ。
 チロルちゃんとも約束したんだ。

 〝勇者追放〟

 チャラ男の呪縛からみんなを解き放ち、救いたい。そして……じゅるり。



 ──残すピースはあと一つ。ジャスミン姉さん。
 
 無力なチワワはお祈りをする。今はただ、祈る事しかできない。


 ◇◆


 トントン。肩を叩かれた。誰?
 ヒメナちゃんでした。

「良い子に待てて偉かったね!」

 あ、やばい。これはやばいパターンだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。

白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。 筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。 ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。 王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

執着系逆ハー乙女ゲームに転生したみたいだけど強ヒロインなら問題ない、よね?

陽海
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生したと気が付いたローズ・アメリア。 この乙女ゲームは攻略対象たちの執着がすごい逆ハーレムものの乙女ゲームだったはず。だけど肝心の執着の度合いが分からない。 執着逆ハーから身を守るために剣術や魔法を学ぶことにしたローズだったが、乙女ゲーム開始前からどんどん攻略対象たちに会ってしまう。最初こそ普通だけど少しずつ執着の兆しが見え始め...... 剣術や魔法も最強、筋トレもする、そんな強ヒロインなら逆ハーにはならないと思っているローズは自分の行動がシナリオを変えてますます執着の度合いを釣り上げていることに気がつかない。 本編完結。マルチエンディング、おまけ話更新中です。 小説家になろう様でも掲載中です。

処理中です...