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一章

二十五話

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「あやのさん。息子に脅されている訳ではないのですか? もしそうじゃないなら騙されてます。これは親としての監督責任。経緯を話していただけませんか?」


 悲しいぜ親父。信用ゼロ。
 俺をなんだと思ってやがる。


「いえ。たかしさんの事を心の底から愛してます。澄んだ瞳、キリッとした唇、気の利くスマートなお人柄。わたしには勿体無いくらいです」

 ズドンッ。

 あれ? また尻餅着いちゃったよ。大股広げてガクガクしてる。

 流石に盛り過ぎたかな。でもな、痩せればスマートだ!
 それに姿形なんて光の反射に過ぎない。所詮はその程度。大切なのは心さ! うんうん。う、ん……う……ん。


「あなた。あやのさんの服装をみてご覧なさい。彼シャツトランクスよ? 疑う余地なんてないでしょう」

「カレシャツ……トランクス……アサチュン」

 何故、カタコト?

 ーーあれ、親父と挨拶以外の言葉を交わすのは何年振りだろう。


「はいはい。仕事に遅刻しますよ?」
「み、みさこ。今晩は……赤飯を頼む」
「あら、もう。わかりましたよ!」

 〝赤飯を頼む〟その言葉は愛の告白でもするかのように恥じらいながら斜め45度下を向いて放たれた。お、親父……。



「カレシャツ……トランクス……アサチュン」

 バタンッ。

 まるでおまじないでも掛けるかのように、親父はこの言葉を発し玄関を後にした。

 
 あの厳格な親父すらも納得した。
 彼シャツトランクスやばしっ。


 異常を日常に変えた。窮地を救った!

 〝彼シャツトランクス〟


 ーーその後、この言葉が全てを解決に導いてくれた。
 

 母ちゃんとの話し合いの末、とりあえずこの家、たかしの部屋に住むことになった。彼シャツトランクス……この家でのユニフォームにしよう。元よりユニフォームだけどっ!

 たかしは住み込みで働きに出た事にした。

 こんな無茶な話も彼シャツトランクスの前では信じる他ないのだ。

 なぁ、たかし(俺)おまえはどんだけ信用がないんだよ。自分で自分が恥ずかしくなるぜ。


 ううん。わかってる。
 あやのちゃんが婚約者としてこの家に来た事。信じたい気持ちがきっと全てを否定しちゃうんだよね。

 ーー母ちゃん、親父。ごめん。


 ◇


 とりあえず次の月曜日を待つ。
 チロルちゃんが言う事が確かなら、毎週月曜日に何かあると考えるのが妥当だ。

 こんな事になるならチロルちゃんが何処の誰なのか聞いておくべきだった。


 事態は深刻。由々しき事態だ。打つ手がない。

 いや、ある。現ナマを……現ナマを手にして女子力を磨く。魔道具の調達。ウィッグ、エクステ……。ダツモウ。ツメ、コスメ。


 しかし現ナマを掴むには覚悟が必要だ。

 箱から出さずにサランラップを巻いてディスプレイされているフィギュアたち。俺嫁たち。

 決して売る日を想定していた訳ではないんだ。違うんだ。本当に……。大切だからこそ……。

 その想いが売価を上げる。なんという矛盾。尊い。


 ーーどうやら、死を覚悟する必要があるらしい。

 時間はない。次の月曜日で終わりかもしれないしそうじゃないかもしれない。

 でも、万が一終わったら……。
 クソッ。こんな日が来るなんてな。


 ーーあやのちゃん……君を俺の唯一にして最後の俺嫁にする時が来たのかもな。


 ……ははっ。違うだろ!!
 カシスちゃん……ヒメナちゃん……ジャスミン姉さん……。エリリン。


 俺に力をくれ!! 本物と言う名の次のステージに行く力を‼︎


 過去の俺嫁にさよならを告げるんだ!!
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