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十五話

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「あはっ! 脆いなぁ。ていうかぁ、ゴクアークを助けようとしてる流れ、やばくなぁーい?」

 後ろから剣を飛ばしてきたのか……。
 少し遠いなぁ。無駄に広いこの部屋が招いた悲劇。
 六畳一間だったら存在に気付けたのに。


 浮いた箒の上で脚を組んで座ってる。
 それじゃパンツは見えないよ。──刺すだけ刺してサービスなし……。最悪な殺され方だ。


 ──あははと笑いながら喋るこの子は、エリリン。
 やや控えめな長さの金髪ツインテール。

 真っ白な肌、大き過ぎず小さ過ぎずの絶妙な胸。
 現代のドレスコードに例えるならギャルだ。

 性格や仕草、口調。それら全てもギャル。

 はっきり言って苦手なタイプ。

 ◇


「エリリン……ころす」

 誰か、カシスちゃんを止めて……。

「あー、こわっ! カシスさぁ沸点、低過ぎなぁい?」
「うるさいだまれ」

 ピキッ。
「ふーん、タメ口ね。歳上に対する態度、教えてあげる!!」


 ふ、二人を止めて!! 誰でも良いから!!
 「わんわんわんわん‼︎」


 ◇◆

「ダメッ。どうして? 癒しが全く効かない。アヤノちゃんあなたは……」
「わんわん‼︎ ぐはっ」
「あー、もう。本当に変態さんなのね。ここがいいのよね」

 ぎゅーとお山に抱きしめられる。神秘の泉で何を見たのだろう……。きっと欲望の全てを見られたに違いない。は、は、恥ずか死ぬ。わんわん‼︎


「よぉーしっ! カシスに加勢するぞぉー! エリリンころす! エリリンころす! エリリンころす!」

 ヒメナちゃん?!
 そんな怖いワードを行進曲みたいに……馬鹿なの?!

「待ってヒメナ。この子お願いしていい? あたしの癒しじゃダメみたい」


「しょうがないなぁ!」
《キュアキュアキューア》

 ミニステッキ振りかざす。眩い光が収束し、丸くなった。そしてこっちに飛んでくる? え、攻撃魔法にしか見えないんだけど?!

 あ、当たる!!

 〝バンッッ!!〟


「うっそ? 効かないよ?!」
「おかしいわねぇ……」

 こ、怖いよ?



「くぅーん。わんわん‼︎ ぐはっわんわん‼︎」

 無力。またしても俺は吠える事しか出来ないのか……。誰か、カシスちゃんを……。



 れ、レオ様は?! 

 入り口前でポカーンとしていた。女同士の争いに割って入れないダメな男の典型的な顔だ。いや、気持ちはすごいわかるけどさ。

 ◆

「とりあえずカシスを止めてくるわ。あんたが加勢したら収拾つかなくなるから」

 さすがジャスミン姉さん!

「うーん。いいよー!」
「ありがとう。それでね……コソコソ」

 一瞬上を見上げ考えてる風な感じだったけど即答。ヒメナちゃん……エリリンころすって息巻いてたのに……。



 それは突然だった。ヒメナちゃんがすごいさげすんだ目で見てくる。──な、何を聞いたの?!


「じゃあ、頼んだわよヒメナ!!」
「はーい。まっ、いっかぁ!」

 あぁ、お姉さんの谷間が離れていく。でもカシスちゃんを止めてくれるんだ。

 待てよ?! わ、わんわんモードが解ける? やばい。やばい……。

 ◆

「よいしょっとぉ!」

 あれ? 心地いい。なにごと?

 キョロキョロキョロキョロ!

「くすぐったいから頭動かさないでよー。この変態!」

 変態だと?! これは……ヒメナちゃんが膝枕をしてくれている‼︎
 ぼ、ボーナスステージに突入したのか……。


「わんわん‼︎ ぐはっぐはっわんわん‼︎」

 わんわんモードも継続。いけるのか? 


 …………。

 ──いや。ダメだ。結局は無力。終わりの時を待つ事しかできない。哀れなチワワ。


 だからこそ、俺は選ばなければならない。究極の選択。

 うつ伏せになるのか仰向けになるのか。
 逆膝枕という選択肢を行使するのか否か。




 この世界の俺は間も無く死ぬ。何故か効かない回復魔法。刺された時点で終わったんだ。

 もし次があるのなら、エリリンが刺してきた理由を、このルートの展開を1秒でも長く知る必要がある。


 欲望のままに逆膝枕なんてしたら、目の前は真っ暗。
 視界には何も映らない。でも、でも……。ふぅーふぅー。


 ◇


『美味しいクレープ屋さんがあるねん!』
『美味しいクレープ屋さんがあるねん!』
『美味しいクレープ屋さんがあるねん!』

 脳内でリピートされる。

 あぁ。そうだな。忘れちゃいないさ。クマゴロウ。
 約束したもんな。例え、この世界では叶わなくても。



 ──俺が取る行動は最初から決まってる。欲望よりも守りたい約束がある!
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