29 / 30
第一章
14話 魔術決闘Ⅱ-1 【1/2】
しおりを挟む
「またせたなー、ラーミアル!」
ラーミアルのターコイズブルーの瞳には、ご機嫌なカミルが映っていた。
カミルは正門で出会った時と違い、見た目が極端に変化している。軽装すぎるため不安にさせられるほどだ。腰に巻き付けた長剣だけは、肌身離さず引き連れている。
「カミルさん、このような機会をいただけてありがとうございます」
「まーなっ! これもあいつとの約束だしな!」
ラーミアルの眉がピクッと微動する。カミルは相変わらず、笑みを浮かべたままだ。彼の背後には、同行するフォエ二等騎士の姿があった。
カミルは待機位置の円の中で足を止める。フォエは二人の中間地点の引かれた白線の上へと足を運んだ。
「おっ、親戚の嬢ちゃんとー、なんだあの美人のねーちゃんは!?」
客席にいる二人の人物に視線を送るなり、表情を大きく変えて驚愕する。ラーミアルも横目で捉える。
シュクとエルリダは、こちらを食い入るように見ている。
「あの人はエルリダ=アヴァ・カレラさんです」
「ほー、あの美女がねー」
カミルは髭をさすりながら、「なるほどねー」と納得する。ラーミアルは二人を確認したことで、顔を塞いでいた氷壁が少し溶けた。打刀を掴む力も心なしか軽くなる。
「それじゃー、はじめっかな!」
「はいっ!」
闘技場には、天を遮るモノがなく神々しい穏やかな光が入り込む。
暫し沈黙が続く。
それは、ラーミアルにとって感覚が乱れたように終わらない時間に感じた。構えているだけだが、心臓は激しく脈打ち汗が流れる。
フォエが閑静な空間を断つように、腕を掲げた。
「これより、カミル一等騎士長とラーミアル=ディル・ロッタの戦闘を始めます!」
甲高い辺りに反響する声に気を引き締められるように、ラーミアルは深く頭を下げる。同じくして、カミルも礼儀正しいお辞儀する。二人は身体を起こすと、お互いに目が合った。
僅かな準備時間。
ラーミアルは戦闘態勢に入る。抜刀し、片手にそれぞれ鞘と刀を握りしめる。
一方のカミルは長剣の太いグリップを力強く掴んだ。そこから、一般男性が二人掛かりで持ち上げることは不可能であろう刀を軽々と持ち上げてみせた。
眠りから覚めた剣は、天から注がれる施しに当たり銀色の光輝を放つ。眺めているだけで、戦闘への活力を削がれる。
欠けることを許さない重圧のある鉄塊。剣の幅はラーミアルの顔よりも確実に大きい。
カミルの顔からは――色が消えた。
冷徹であり欲がない、戦闘への感情がまるで見えない。笑顔を撒き散らしていた人物と同一か、疑わずにはいられない。
ラーミアルの身体は一瞬にして委縮した。呼吸すら容認さない、恐怖。感じたことのない耐え忍ばなくてはいけない、引力。
[立ってるだけで精一杯とは‥‥‥]
ラーミアルは全神経を集中させて、戦意を保たせる。
フォエも腕を維持することで精一杯のように見える。顔にはラーミアル以上の大粒の汗をかいている。
ラーミアル、カミルの身体に動きがなくなった。そのことを確認を終えたフォエは、震える腕を大きく降下させた。
「ハジメ――!!」
ラーミアルのターコイズブルーの瞳には、ご機嫌なカミルが映っていた。
カミルは正門で出会った時と違い、見た目が極端に変化している。軽装すぎるため不安にさせられるほどだ。腰に巻き付けた長剣だけは、肌身離さず引き連れている。
「カミルさん、このような機会をいただけてありがとうございます」
「まーなっ! これもあいつとの約束だしな!」
ラーミアルの眉がピクッと微動する。カミルは相変わらず、笑みを浮かべたままだ。彼の背後には、同行するフォエ二等騎士の姿があった。
カミルは待機位置の円の中で足を止める。フォエは二人の中間地点の引かれた白線の上へと足を運んだ。
「おっ、親戚の嬢ちゃんとー、なんだあの美人のねーちゃんは!?」
客席にいる二人の人物に視線を送るなり、表情を大きく変えて驚愕する。ラーミアルも横目で捉える。
シュクとエルリダは、こちらを食い入るように見ている。
「あの人はエルリダ=アヴァ・カレラさんです」
「ほー、あの美女がねー」
カミルは髭をさすりながら、「なるほどねー」と納得する。ラーミアルは二人を確認したことで、顔を塞いでいた氷壁が少し溶けた。打刀を掴む力も心なしか軽くなる。
「それじゃー、はじめっかな!」
「はいっ!」
闘技場には、天を遮るモノがなく神々しい穏やかな光が入り込む。
暫し沈黙が続く。
それは、ラーミアルにとって感覚が乱れたように終わらない時間に感じた。構えているだけだが、心臓は激しく脈打ち汗が流れる。
フォエが閑静な空間を断つように、腕を掲げた。
「これより、カミル一等騎士長とラーミアル=ディル・ロッタの戦闘を始めます!」
甲高い辺りに反響する声に気を引き締められるように、ラーミアルは深く頭を下げる。同じくして、カミルも礼儀正しいお辞儀する。二人は身体を起こすと、お互いに目が合った。
僅かな準備時間。
ラーミアルは戦闘態勢に入る。抜刀し、片手にそれぞれ鞘と刀を握りしめる。
一方のカミルは長剣の太いグリップを力強く掴んだ。そこから、一般男性が二人掛かりで持ち上げることは不可能であろう刀を軽々と持ち上げてみせた。
眠りから覚めた剣は、天から注がれる施しに当たり銀色の光輝を放つ。眺めているだけで、戦闘への活力を削がれる。
欠けることを許さない重圧のある鉄塊。剣の幅はラーミアルの顔よりも確実に大きい。
カミルの顔からは――色が消えた。
冷徹であり欲がない、戦闘への感情がまるで見えない。笑顔を撒き散らしていた人物と同一か、疑わずにはいられない。
ラーミアルの身体は一瞬にして委縮した。呼吸すら容認さない、恐怖。感じたことのない耐え忍ばなくてはいけない、引力。
[立ってるだけで精一杯とは‥‥‥]
ラーミアルは全神経を集中させて、戦意を保たせる。
フォエも腕を維持することで精一杯のように見える。顔にはラーミアル以上の大粒の汗をかいている。
ラーミアル、カミルの身体に動きがなくなった。そのことを確認を終えたフォエは、震える腕を大きく降下させた。
「ハジメ――!!」
0
お気に入りに追加
77
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる