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第一章
07話 薬屋 【2/2】
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思い出したかのように、扉の開いた薬屋へと身体の向きを変える。
薬屋の入り口に足を踏み入れると、扉をゆっくりと閉めた。
店内は、5メートル四方の狭い間取りになっている。両脇に商品棚が配置され、新鮮な緑色の草や、透明な容器に入った液体が並んでいる。奥には店員空間があり、壁には扉がついている。
狭いスペースの分、置く商品は考えられているのであろう。配置を考えられていて、女性向けの雑貨店みたいな雰囲気が出ている。店員は大雑把な男性というよりも几帳面な女性、という印象を受ける。
薬屋という理由から店内は不快な臭いがする。ということもなく、身体を撫でる安らかな快適な匂いになっている。
「コショさん、来ましたよ!」
ラーミアルは前方にいる人物に、元気よく挨拶した。店内の奥にある店員が立つスペースから、返事が聞こえてきた。
「あらー、ラーミちゃん。やっと来たのー。もー、遅いわよっ!」
低くダンディーな声。間違いなく声だけで魅了される女性だっているであろう。しかし、口調に違和感がある。
シュクはこの口調に聞き覚えがあった。どこか懐かしい。ラーミアルの背中の先にいる男性を、恐る恐る垣間見た。
[まさか、な]という気持ちで、脳裏に一人の知人を思い浮かべていた。
以前、研究室に所属していた研究生の男性。シュク――久能周多に対して、とにかくボディータッチが多かった。他のメンバーへのボディータッチは少ないという。久能が軽くあしらっても、離れようとしない。離そうとするが、彼の鍛えた筋肉には無意味な抵抗であった。
そんな記憶が蘇る。
ラーミアルの背中越しに視界へ入ったのは――茶髪のショートヘアーで、顔が小さい男性である。大人のカッコよさを兼ね備えている。腕や胸、視界に入る限りの部位の筋肉が鍛錬されている細型のマッチ
「いろいろありまして」
「ラーミちゃんのことだから、また人助けでもしてたんでしょ?」
ラーミアルは「ハハハー」と笑顔で誤魔化した。コショは「わかってますよ」と言わんばかりの表情で、笑い返す。この数回のやり取りだけでも、2人の関係が良好だということは理解できる。
「ところで、後ろの子はどちら様かしら?」
コショは体を横に向け、シュクの存在を確認した。
「シュクって言うんだよ、コショさん」
と、ラーミアルはシュクが口を開く前に説明をした。
「シュクちゃんね、可愛い女の子っ。でも残念、あたしは男にしか興味ないのよ」
「それは良かったです」
シュクは口惜しそうなコショの顔を眺めながら、素っ気なく返答する。
「あなたくらいの男の子は、とても良いわよ。料理しがいがあるわ」
「料理って」
解釈し難い内容の発言に、シュクは呆れ顔になる。
「コショさん、料理得意ですからねっ!」
「そうよ、この料理は下拵えが大事なのっ。下拵えがちゃんとしてると、とても美味しくなるの」
「そうなんですね! 私もその料理食べてみたいなー」
「だめよ! ラーミちゃんでもあげないわよ」
ラーミアルとコショは、楽しそうに会話をする。そこに、シュクがすかさず割り込んだ。
「ラーミアル、それは食べ物じゃないよ」
「えっ? そうなんですか?」
間の抜けた可愛い声でラーミアルは小首を傾げた。コショはくすくす笑い、シュクも表情には出ないが心で微笑んでいる。
ラーミアルは「何が変なんだろう?」という面持ちで、2人の顔を確認している。
数秒が経過したところで、場が落ち着いた。そこで、ラーミアルは本題とばかりにコショを見た。
「ところで用事って何ですか?」
「そうそう。ラーミちゃん、今、学園の方はお休みなのよね?」
「はい。今日から10日間あります」
「それでね、折り入ってお願いがあるの! “ネガット草”を探してきて欲しいの。いつも通り銀貨30枚でどう?」
「ネガット草ですね。わかりました。お受けします」
「いつもありがとー。助かるわっ!」
「いつまでに必要ですか?」
「そうね。7日後までにお願いしたいわ」
ラーミアルとコショは、口約束で契約を交わした。コショが棚の下から籠を取り出すと、ラーミアルに手渡した。
すると、丁度良いとばかりにコショはシュクを見つめ、
「シュクちゃんにもお願いできるなら、銀貨30枚払っちゃうわよ?」
と、ラーミアルに歩み寄るシュクに仕事を持ち掛けた。
[とりあえず、稼がないことには始まらないか]
と、シュクは首を縦に振る。それを見たコショは笑顔になり、両手を軽くパンッと鳴らした。
「ありがとー! 追加報酬で美味しい料理をご馳走するわよ」
「それは普通の食材を使った、普通の料理だよな?」
「どうかしら?」
シュクとコショは、お互いの顔色を覗う。まるで、心理戦で闘っているような。そんな、無言のやり取りに板挟みになっている、ラーミアルは状況を全く把握できていなかった。2人の顔を交互に見て、首を傾げるラーミアル。その仕草は、可愛らしい小動物のようで心癒される。
「シュクちゃん、気に入ったわ。これから仲良くしてちょうだい」
「よろしく」
コショはダンディーな爽やかさを噴出する。それに対し、シュクは無表情で淡々としている。
「そういう、素っ気ない対応にビンビンきちゃうわっ!」
コショは己の身体を抱きしめ、くねくねと悶えだした。その様子に呆れた顔になるシュク。完全に無視し、ラーミアルを呼びかける。
「脳内がお花畑の店主は置いといて、そろそろ帰らないですか?」
「そうですね。もう夕方になってますし、戻りましょうか」
ラーミアルは「では、また来ます」と言い、お辞儀をする。シュクも簡単に会釈する。コショは動きを止め、2人に手を振った。なぜだか満足そうな表情をしているのは、触れずに置いておこう。
「じゃーよろしくね、ラーミちゃん。シュクちゃん!」
甲高く、低い声。彼の言葉を残し、薬屋の扉を開けた。
薬屋の入り口に足を踏み入れると、扉をゆっくりと閉めた。
店内は、5メートル四方の狭い間取りになっている。両脇に商品棚が配置され、新鮮な緑色の草や、透明な容器に入った液体が並んでいる。奥には店員空間があり、壁には扉がついている。
狭いスペースの分、置く商品は考えられているのであろう。配置を考えられていて、女性向けの雑貨店みたいな雰囲気が出ている。店員は大雑把な男性というよりも几帳面な女性、という印象を受ける。
薬屋という理由から店内は不快な臭いがする。ということもなく、身体を撫でる安らかな快適な匂いになっている。
「コショさん、来ましたよ!」
ラーミアルは前方にいる人物に、元気よく挨拶した。店内の奥にある店員が立つスペースから、返事が聞こえてきた。
「あらー、ラーミちゃん。やっと来たのー。もー、遅いわよっ!」
低くダンディーな声。間違いなく声だけで魅了される女性だっているであろう。しかし、口調に違和感がある。
シュクはこの口調に聞き覚えがあった。どこか懐かしい。ラーミアルの背中の先にいる男性を、恐る恐る垣間見た。
[まさか、な]という気持ちで、脳裏に一人の知人を思い浮かべていた。
以前、研究室に所属していた研究生の男性。シュク――久能周多に対して、とにかくボディータッチが多かった。他のメンバーへのボディータッチは少ないという。久能が軽くあしらっても、離れようとしない。離そうとするが、彼の鍛えた筋肉には無意味な抵抗であった。
そんな記憶が蘇る。
ラーミアルの背中越しに視界へ入ったのは――茶髪のショートヘアーで、顔が小さい男性である。大人のカッコよさを兼ね備えている。腕や胸、視界に入る限りの部位の筋肉が鍛錬されている細型のマッチ
「いろいろありまして」
「ラーミちゃんのことだから、また人助けでもしてたんでしょ?」
ラーミアルは「ハハハー」と笑顔で誤魔化した。コショは「わかってますよ」と言わんばかりの表情で、笑い返す。この数回のやり取りだけでも、2人の関係が良好だということは理解できる。
「ところで、後ろの子はどちら様かしら?」
コショは体を横に向け、シュクの存在を確認した。
「シュクって言うんだよ、コショさん」
と、ラーミアルはシュクが口を開く前に説明をした。
「シュクちゃんね、可愛い女の子っ。でも残念、あたしは男にしか興味ないのよ」
「それは良かったです」
シュクは口惜しそうなコショの顔を眺めながら、素っ気なく返答する。
「あなたくらいの男の子は、とても良いわよ。料理しがいがあるわ」
「料理って」
解釈し難い内容の発言に、シュクは呆れ顔になる。
「コショさん、料理得意ですからねっ!」
「そうよ、この料理は下拵えが大事なのっ。下拵えがちゃんとしてると、とても美味しくなるの」
「そうなんですね! 私もその料理食べてみたいなー」
「だめよ! ラーミちゃんでもあげないわよ」
ラーミアルとコショは、楽しそうに会話をする。そこに、シュクがすかさず割り込んだ。
「ラーミアル、それは食べ物じゃないよ」
「えっ? そうなんですか?」
間の抜けた可愛い声でラーミアルは小首を傾げた。コショはくすくす笑い、シュクも表情には出ないが心で微笑んでいる。
ラーミアルは「何が変なんだろう?」という面持ちで、2人の顔を確認している。
数秒が経過したところで、場が落ち着いた。そこで、ラーミアルは本題とばかりにコショを見た。
「ところで用事って何ですか?」
「そうそう。ラーミちゃん、今、学園の方はお休みなのよね?」
「はい。今日から10日間あります」
「それでね、折り入ってお願いがあるの! “ネガット草”を探してきて欲しいの。いつも通り銀貨30枚でどう?」
「ネガット草ですね。わかりました。お受けします」
「いつもありがとー。助かるわっ!」
「いつまでに必要ですか?」
「そうね。7日後までにお願いしたいわ」
ラーミアルとコショは、口約束で契約を交わした。コショが棚の下から籠を取り出すと、ラーミアルに手渡した。
すると、丁度良いとばかりにコショはシュクを見つめ、
「シュクちゃんにもお願いできるなら、銀貨30枚払っちゃうわよ?」
と、ラーミアルに歩み寄るシュクに仕事を持ち掛けた。
[とりあえず、稼がないことには始まらないか]
と、シュクは首を縦に振る。それを見たコショは笑顔になり、両手を軽くパンッと鳴らした。
「ありがとー! 追加報酬で美味しい料理をご馳走するわよ」
「それは普通の食材を使った、普通の料理だよな?」
「どうかしら?」
シュクとコショは、お互いの顔色を覗う。まるで、心理戦で闘っているような。そんな、無言のやり取りに板挟みになっている、ラーミアルは状況を全く把握できていなかった。2人の顔を交互に見て、首を傾げるラーミアル。その仕草は、可愛らしい小動物のようで心癒される。
「シュクちゃん、気に入ったわ。これから仲良くしてちょうだい」
「よろしく」
コショはダンディーな爽やかさを噴出する。それに対し、シュクは無表情で淡々としている。
「そういう、素っ気ない対応にビンビンきちゃうわっ!」
コショは己の身体を抱きしめ、くねくねと悶えだした。その様子に呆れた顔になるシュク。完全に無視し、ラーミアルを呼びかける。
「脳内がお花畑の店主は置いといて、そろそろ帰らないですか?」
「そうですね。もう夕方になってますし、戻りましょうか」
ラーミアルは「では、また来ます」と言い、お辞儀をする。シュクも簡単に会釈する。コショは動きを止め、2人に手を振った。なぜだか満足そうな表情をしているのは、触れずに置いておこう。
「じゃーよろしくね、ラーミちゃん。シュクちゃん!」
甲高く、低い声。彼の言葉を残し、薬屋の扉を開けた。
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