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第二章

Re:店員ロボットくんとお客様ユキちゃん

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 4月16日 日曜日




 休日のお昼過ぎ。

 現在、僕は喫茶店でバイトをしている。


 「ご注文はいかがいたしますか?」
 「えっとねー、アイスコーヒーでお願い」
 「アイスコーヒーですね。かしこまりました。少々お待ちください」


 僕はカウンターにいる髪と髭が白色の男性の元へと向かう。


 「マスター、アイスコーヒー、1つお願いします」
 「はい、わかりました。2番テーブルの日替わり定食ができたので運んでください」
 「わかりました。2番テーブルは‥‥‥井戸川さんなのでマヨネーズで良いですよね?」
 「エクセレント、そのようにお願いします」


 僕の目の前にいるダンディーな老人が店長のマスター。
 僕はマスターから、出来たての料理を受け取り、席へと運ぶ。


 「おまたせしました、井戸川さん。日替わり定食です」
 「一くん、ありがとう。いつものお願いしてもいいかな?」
 「わかってますよ、これですよね?」
 「わかってるね、一くん! やっぱりカレーはマヨネーズに限るよね!」
 「ごゆっくりしてください」


 僕は慣れた手つきで、接客や皿洗いをしていく。
 店内の時計を確認すると、既に14時だ。

 昼時の大きな波は収まり、客足も落ち着いてる。
 
 マスターに言って、休憩をもらうか。

 僕はカウンターにいるマスターのところに行き、許可を取ることにした。


 「マスター、休憩いただいてもいいですか?」
 「そうだね、大丈夫ですよ」
 「そういえば、今日はあの2人はいないですね」
 「エルたちは今日、予定があって休みですよ」
 「そうですか。では、休憩いただきますね」


 そうして、僕はマスターとマスターの奥さんに了承を得て、店内の奥へと進む。




 僕は休憩室でマスターが作ってくれたランチを堪能した。


 そういえば、昨日、林木さんが「また明日」って言っていた気がするが。
 どういうことだったのだろう?

 僕は休憩中に思い出したように、考えていた。




 休憩から上がり、マスターと話していると入口のドアベルの音が鳴った。


 チリーンチリーン


 この音が鳴ると条件反射のように口が開く。


 「いらっしゃいませ」


 僕はドアから入ってくるお客さんを案内するべく、迅速に動く。


 1名で、女性で――

 えっ!?


 「1人でお願いします」


 お客さんは笑顔で僕を見つめた。


 僕の目の前で立っているのは、林木さんだった。

 
 制服しか見た時がなかったので、私服が新鮮に感じる。
 春らしい服装で、長髪にロングスカートがかなり好感度が高い。
 可愛さの相乗効果ですね、これは。

 って、今はアルバイト中だ。
 いつも通り、平常心で接客しよう。


 「こちらへどうぞ」
 「はい」


 僕は自然に振舞いながら席へと案内する。

 そうして、林木さんを空いているテーブルに着席させた。


 「ご注文が決まりましたら、お呼びください」


 僕は焦りを見せないように、定型文をそのまま言葉にした。


 「ありがとうございます」


 僕はその場を何とかやり過ごし、カウンターへと戻る。


 「一君、あのエルと知り合いなんですか? かなり緊張しているようでしたが」
 「そ、そうですね。高校の顔見知り程度ですが」
 「そうですか。一君、男というものは待っていてはいけませんよ。攻めの姿勢が大事です」


 ん?
 マスターは突然何を言い出しているのか?


 「なので、ちゃんとお話ししてきてください。後のことは私たちに任せてください」


 マスターは親指を立て、決め顔を向ける。
 マスターの奥さんは手のひらで口を隠し、にこにこしながら頷いている。

 よくわからないが、これは林木さんと話して来いということか?

 意味がわからないのだが。
 ここは遠慮しておこう。
 せっかくの休日。林木さんに迷惑をかけてしまうだろうし。


 「いや、今は仕事中ですしー」
 「一君、気にしなくていいよ!」
 「いやー」
 「これも仕事だよ!」


 マスターは笑顔で僕を圧倒しにかかる。

 これは断れないやつだ。

 僕は諦めたように小さく、

 「はい」

 といって頷いた。




 「お待たせしました。こちらマスター自慢のオムライスでございます。一君にはサービスのコーヒーです」
 「ありがとうございます、マスター」
 「では、ごゆっくり。一君、ボンクラージュ!」


 マスターは僕にだけ見えるよう、お盆裏で親指を立て、ウインクをする。
 苦笑いを返すことしかできない。

 僕は正面に視線を戻すと、林木さんが座っている。

 どうしてこうなったんだ?

 マスターが林木さんに許可をとりに行ったら、2つ返事で承諾された。
 そこからは僕が渋々、林木さんに頭を下げて一緒に座らせてもらうことになったのだ。
 こうして面と向かって、林木さんを見ると別次元の可愛さだと再確認させられる。
 テレビで見るアイドルよりも、林木さんは確実に可愛い。

 僕は林木さんの前に座っていること自体が夢のようだが。


 「ロボット先輩、昨日ぶりですね」
 「は、はい」
 「ここには料理も美味しいと聞いたので来ました。気合を入れて、今日は朝ご飯も抜いてきました!」
 「えっ、気合入れ過ぎじゃないですか」
 「それはロボット先輩が・・・・・・あっ、オムライス冷めないうちに食べないとですよね?」
 「そうですね」


 林木さんは慌てて、オムライスを口に運ぶ。

 林木さんは僕に何かあるような口ぶりをしていたが。
 何だったのだろう?


 「お、美味しいですっ!!」


 林木さんは可愛らしく、感動したような声を上げた。

 やはり、マスターの料理は自信を持って勧められる。

 それ以上に、林木さんは美味しそうに食べるのだな。
 見ている僕も昼食が食べ終わったのに、お腹がすいてくる。
 これは林木さんの才能なのかもしれない。

 林木さんはスプーンを止めずに、オムライスを食べ続けている。


 これは、食べ終わるまで話しかけたら悪いな。

 僕はコーヒーを飲みながら、腹の虫が鳴り始めないように我慢した。




 林木さんは満足気な顔でチョコレートパフェを食べている。
 オムライスを食べ終わってすぐに、続けてパフェを注文するとは。
 よほどお腹を空かせていたのだろう。


 「パフェも美味しいですね!」
 「この店の料理は全部美味しいですよ」
 「それなら、また食べに来ます!」


 林木さんはパフェを食べながら、目を輝かせていった。

 小さい体でもよく食べるのだな。
 林木さんは、食べることが好きなのだろう。


 「林木さんは美味しそうに食べますね。 って、僕は何を口走っているのだ。セクハラみたいなことを」
 「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ! 私、食べるのが好きなんです! 今までは好きに食べられなかったので‥‥‥。あっ、今言ったことは気にしないでください!」
 「えっ、あ、わかりました」


 林木さんは慌てて手を振る。


 僕は時計を見て、バイトが終わる時刻だと気付いた。


 「そろそろバイトが終わる時間なので戻りますね」
 「あっ、わかりました。今日はありがとうございました」
 「いえ、僕は感謝されることは何もしてないので。マスターに言ってあげてください」


 そして、僕は店の奥に戻ろうと席から立ち上がる。


 「また来ますね!」


 優しく微笑みながら林木さんは、パフェを完食した。

 やはり、林木さんは笑顔が似合っている。


 「いつでもお越しください」


 僕は普段、似合わないような対応で言葉を返した。


 「はい!」


 僕は林木さんにお辞儀をして、店のカウンターへと戻った。




 攻める男というのは僕には難しいようだ?
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