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第一章

告白するロボットくんと見守るユキちゃん

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 4月13日 水曜日




 この世の中は不公平だとつくづく思う。


 「皆、異論はないなー」

 「「「はーい!」」」

 「じゃ、2年4組の学級委員長は渡會友わたらいゆうで決定な」

 「「「はーい!」」」


 ロングホームルームの時間。

 クラスの学級委員長が決まった。
 普段なら興味ないが、今日は訳ありだ。

 僕は教室の前に立つ渡會友を眺める。

 短髪で気の強そうな顔をした女子だ。
 学内でも指折りの美人として有名な上、次期生徒会長の最有力候補だ。

 僕との能力値に差があり過ぎる。
 不公平だ。

 僕にとって、人生で関わり合うことのない人種。


 そう思っていた――昨日までは。


 僕は今、渡會のことを考えている。


 「渡會友です! これから1年間クラスのことを任されたので頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。皆仲良くしてねー!」

 「「「うぉぉぉおおおーー!」」」
 「「「はーい!」」」


 クラスの男子は雄叫びを上げ、女子たちは笑顔で拍手をしている。

 どんだけ人望あるんだよ。


 僕は机に視線を下げて、封筒から取り出した1枚の手紙に目を通し始めた。


――――――――

 にのまえ ひかる 様

 拝啓
 
 穏やかな春日和が続いております。学校生活では有意義にお過ごししていると存じます。
 このたびは、1つお願いがあり手紙をしたためました。大変恐縮ではございますが、本日4月13日の16時に体育会の裏側でお待ちしております。
 極秘裏の内容につき、他言無用でお願いいたします。
 
 末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。

 敬具
 4月12日

 渡會 友
 

 追伸
 
 本当に1人で来てくださいね。

――――――――


 今朝、下駄箱に入っていたモノだ。
 手紙は丁寧に包装され、達筆な字で綺麗に書かれている。


 これは、まさかのラブレターなのか?
 渡會が僕に対して、好意があるってことか?


 始め、この手紙を読んだ瞬間は心が舞い上がった。
 まー、渡會が僕に好意があるなんて天地が逆転してもありえないだろうが。


 僕は顔を上げ、席に戻る渡會に視線を送った。
 すると、渡會は僕の視線に気付いたのか、表情が笑顔になった。

 僕に向けられたのかはわからないが、慌てて顔をそらした。


 これは、そのまさかなのか!?


 って、僕は何を期待しているのだろう。


 終わらないロングホームルーム。


 僕は再び、手紙を確認することにした。

 文面に記された『体育会裏』という言葉が、どうにも引っかかる。
 体育会裏といえば漫画やアニメで、不良が弱者から金銭を巻き上げ、暴行を行う場所。
 という印象が強い、偏見かもしれないが。

 まさか、渡會も!?

 いや待て。
 弱者というのは当てはまるが、渡會がそんなことをするような人ではない。
 と信じたい。

 すると、何が目的だ?

 僕は退屈な担任の話を聞き流し、渡會のことを考えていた。
 疑問を抱えたまま、放課後になるのを待つことにした。




 15時55分、体育館の裏。

 まだ、渡會の姿はない。
 本当は呼び出すだけ呼び出しといて、来ないというパターンもありえたな。

 今週だけで、やたらとコミュニケーションの場が多くなった気がする。

 リア充は毎日、よくこんな生活を送れるな。
 尊敬する。

 僕は携帯電話で時間を確認した。

 15時59分50秒

 本当に来ないのではないか?

 15時59分55秒

 まー、その方が早く帰れるのだが。

 15時59分59秒


 「ごめんにのまえ君! 待たせちゃったね一!」


 16時ちょうどに僕の名前が呼ばれた。

 この凛とした清楚な声は、渡會友だ。

 僕は声の方向へ顔を向けると、走ってくる渡會と目と目が合う。
 すかさず、目をそらしてしまったが。

 恥ずかしいのだから仕方ない。
 いつもながら、自分自身のこの癖みたいな条件反射をどうにかしたい。

 練習を積めば、どうにかなるものなのだろうか?

 しかし、林木さんと会っている時ほど緊張感はない。
 これも連日の成果だろうか?
 ひとまず、僕は口ごもりながらも質問をした。


 「なっ、なんの用ですか?」
 「一君、私ね。今週、気になって気になってずっと眠れなかったの。だから、思いきって一君に聞こうと思って」


 渡會はぽっと頬を紅潮させ、何だが恥じらいが見える。
 まるで、少女漫画に出てくるヒロインが告白する時のような。

 そして、この含みのある言い方。

 本当にこれは・・・・・・

 いや待て。
 美人の渡會がこんな僕何てありえないだろ。
 眼鏡で根暗な僕だぞ。

 しかし、今週だけで観測不能な事態が起きているのも確かだ。
 想定外のことも0.1パーセントの確率で発生するかもしれない。

 ここは、落ち着いて話を聞こう。


 「な、何を聞きたいのですか?」
 「そうだよね。ちゃんと言うから待ってね!」


 すると、渡會は深呼吸をしだした。渡會は呼吸を整えると、決めたという表情で僕のことを見た。


 「一君!」
 「はっ、はい!」


 寸秒もない瞬間。
 しかし、僕にとって何分経ったのかと聞きたくなるほどに長かった。

 女子の友達は愚か、知り合いだって少ない僕が――

 そして、渡會はゆっくりと口を開いた。


 「一君はあの子たちとは知り合いなの?」


 言われたー!
 言われた、

 ・・・・・・言われた?

 えっ、あの子たち?
 誰ですか、それ?


 「えっ、えーと、青丘と梅谷のこと?」
 「違う違う! あの女の子たちだよ」


 誰だよ。

 女の子たち?
 思い当たる節があるとしたら、林木さんと朴野さんのことだろうか?
 その2人しか思い当たる答えがない。
 まさか、バイト先のあの2人では・・・・・・それはないな。

 僕は渡會の期待の眼差しを感じながら、目を合わせないように話す。


 「林木さんと朴野さんのこと?」
 「背の高い美人な子と、背の低い可愛い子!」
 「たぶんその2人で合ってると思います」
 「本当に!?」
 「たぶん・・・・・・はい」


 渡會は目の色を変えて、前のめりで僕に迫ってきた。


 近い近い!

 半径1メートル以内に入らないでくれ。恥ずかしいくて思考停止してしまう。

 僕は距離間を保つために1歩下がり、渡會の様子を覗う。


 「その2人が何か?」
 「林木さんと朴野さんで名前あってる? その2人って関係なの?」


 ん?
 どんな関係とは?

 何を意図した質問をなのか理解できないが、普通に答えよう。


 「普通に友達だと思う」
 「本当に? あんなに仲良さそうなのに」
 「まっ、まー、仲のいい友達だとは思う」
 「それだけなの?」


 言葉を理解できないのは僕だけなのだろうか。

 渡會は普段の温厚で凛とした雰囲気とは、まるで違う。
 よくわからないが、何か恐い。


 「それはどういう」
 「二人は付き合ってたりしないの!?」


 ん?
 付き合ってる?

 付き合うとは、交際という意味の付き合うなのか。

 林木さんと朴野さんが交際?
 渡會は頭でも打ったのか?
 
 それは僕の知る範疇ではないぞ。

 何を望んでるのか想定はできないが、ありのままの回答をしよう。


 「僕が知る限り付き合ってはいないと思う、たぶん」
 「それなら、可能性としてはありえるってことだよね?」


 なぜ、そこにこだわる?
 
 まー、可能性は100パーセントない、とは断言することは難しい。
 そもそも、僕は2人のことを知っているだけでまともに会話をした記憶がない。
 だからこそ、僕の口からいえることは1つ。


 「可能性はあるかもしれない」
 「本当に!? キターー!! ありがとう一君。それを聞けただけで私は嬉しいよ! 今日はありがとうねっ!」


 なぜだか、感謝された。

 よくわからない。

 渡會は満面の笑顔を浮かべて、手を振って帰って行く。

 ‥‥‥と思ったら、また戻ってきた。


 「一君、このことは誰にも言わないでよ!」
 「はっ」
 「もし言ったら、クラスから追放するからねっ!」
 「それってイジメじゃ」
 「よろしくねー!」


 険しく真剣な表情から、また笑顔に戻った。
 表情筋が忙しいな。

 あれっ、なんか脅迫されて話が纏まった感じがするのだが。
 そして、気付いたころには渡會の姿はもうなかった。

 先程の話が全く理解できなかったのは、僕の勉強不足なのだろうか?

 これでも、一応成績は学年で3位だが。

 勉学だけしていても、女性との会話は満足にできないということか。
 コミュニケーションとはやはり奥が深いな。


 「おーい、ロボット!」


 この声は晴馬か?
 確か部活の練習に行ったんじゃなかったのか?

 僕はどこからともなく聞こえてきた声に反応して、辺りを見渡した。
 すると、晴馬とタクが悪い笑みを浮かべて走ってきている。
 タクが何らかの方法で嗅ぎつけて、晴馬を呼んだのだろう。


 「ロボット、まさかとは思ったが渡會に告白するとはなー」
 「えっ?」
 「今日のロボット、普段と違って凄いそわそわしてたから何かあると思って睨んでたんだよな。そしたら、まさかの渡會が来たから驚いたぞ。で、結果はどうだったんだ?」


 この様子だと2人は、先程の一部始終を見ていたのだろう。

 まー、タクの言う通りだな。
 あの様子を客観的に見れば、告白しているようにも見える。
 しかし、晴馬とタクよ、それは不正解だ。
 なぜなら、僕も内容が理解できなかったからな。


 「結果も何もない。別に僕が告白しようとしたわけじゃない。渡會から付き合ってるのかと質問されただけだ」
 「そうか。そういえば、さっきタクに呼ばれて俺が来た時には林木ちゃんもいたな」
 「あー、ちっこいのいたねー。ロボットのところに向かうときには消えてたけど」
 「それよりも、渡會が質問してきたってことはつまり――」




 この後、僕は必死に言い訳をした。

 渡會との会話は他言無用。
 誰かに話したら追放という条件があったため、説明を重ねるうちに変な誤解が生まれた。

 “渡會友が僕に好意を持っている”

 僕はこの件を3人だけの秘密とした。
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