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本を読んでいただけ。
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本を読んでいた。それは、暑い夏の日のことで、昔から病弱だった俺は、外で楽しそうにする子供達の騒ぎ声に何処か嫉妬心を抱いていた。本に集中出来ないのもあり、その集団を睨みつけた。外と中の間にあるガラスがとても深い溝のように感じた。すると、
「隣良いですか?」
俺と同い年位の子供が、こちらを見つめてそう問いかけていた。
「えっ…あっ…うん。い、いいよ。」
突然のことに驚き、声がどもってしまった…。
それにしても、珍しい。今、小学5年の俺と同じ位の年の人が休日に図書館で本を読んでいるなんて。隣に座った少年が俺に話しかけてきた。
「なんで、さっき睨んでたの?」
見られていた…。
「少し羨ましかったんだ。俺ね、病気になりやすくて、外であんまり遊べないんだ。」
別の理由を考えるのも面倒くさくて、真面目に答えた。
「今も病気酷いの?」
少し無神経だなぁ、とも思いつつ俺は答えた。
「今は大丈夫だよ。落ち着いてるから。」
「ふーん。」
そっちから、聞いてきたくせに無愛想な答えだなぁ。
「じゃあ、僕と散歩しよ!!」
唐突の提案にビックリした。
「…は?なんで…。」
「僕ね、図書館の後ろにある森に行ってみたいんだけど…。一緒に行く人がいないと怖くて。少しだけ!お願いっ!」
外で遊ぶことに憧れていた、俺からしたら最高の誘いだった。ただ、高額な医療費を払ってくれている親に罪悪感をもった。
「ごめん。行かない。」
すると、隣の席の少年は
「そっかぁ…。じゃあ、1人で行ってくるね。」
そう言って、席を立った。しかし、少年はこっちを凝視している。
「なんだよ。」
「どうしても来ない…?」
「…うん。」
「どうしても??」
「…う…ん。」
しばらく沈黙して。少年は俺の手をぎゅっと掴んで。
「やっぱり、行こう!!」
と言って、俺を無理やり外へ連れ出した。
「は!?いや、俺はいいから!」
「だって、つまらなそうなんだもん…。」
少年は茶色の髪の毛を揺らしながら俯いた。
困っているのか、緊張しているのか、後悔しているのかは分からないが、気まづそうにこちらを見つめてくる。
「はぁ…。少しだけだからな。」
仕方なく、了承してしまった。下を向いていた少年の顔は一気に明るくなり、主人に甘える猫みたいな目をキラキラと輝かせ
「ありがとう!」と言い、俺を連れて森までかけていった。
走るのは久しぶりでとても疲れた。
森の近くまで到着した。
「うぇ…。疲れ…た。」
死ぬかと思った…。こんなに走ったのはいつぶりだろう。
「あはは。疲れるの早すぎだよ~。」
そう言いながら少年はけたけたと笑った。
「少し休む?」
「そうだな…。」
近くのベンチに2人で座った。
上を見ると、空が広がっていた。天井しか見えなかった毎日から解放された俺はとても気分が上がっていた。
「外出て良かったでしょ?」
そう言われて、自分の顔が緩んでいたのに気づいた。
「あぁ…。良かったよ。」
少しだけ笑ってみせた。少年も少しだけ微笑んだ。
「よっし!じゃあ、行くぞ!」
少年はベンチから立ち上がり拳を空に向かって高く振り上げた。
そこからは、俺の知らないことだらけだった。
初めに、虫を捕まえた。図鑑でしか見ない虫は案外捕まえずらいこと。思ってた以上に、虫は綺麗だということ。
2番目に、川へ行った。川にはいっぱい魚がいること。川の水はとっても冷たいこと。
初めて知ることがいっぱいで、とても楽しかった。色んなものを見つける度に、少年は俺にたくさん情報をおしえてくれて、いっぱい変なことを言って笑わせてくれた。
「迷ったな。」
「…迷ったね。」
森で遭難してしまった。空はオレンジ色になり始めそろそろ帰らなければいけない時間だ。きっと、親に心配もされる。それ以上に、これからは外出もしずらくなる。
頭の中でいっぱいの不安が押し寄せてきた。
「ごめん…。僕のせいだ。嫌だって言ってるのに無理やり連れ出したりしたから…。ごめん。本当にごめん。」
少年を見ると、泣きだしそうなくらい目に涙を浮かべていた。俺以上に不安なんだろう。
「とりあえず、帰る方法みつけだそう。」
俺がそう言って、なんとか覚えている道や遊んだ川を思い出して歩き始めた。
少年は俺の服の袖を、ぎゅっと掴み鼻水を啜りながら、後ろからついてきた。10分程歩き、沈黙が辛くなってきた。
「大丈夫か?」
「…うん。ズビッ」
「なら良かった。」
「僕から誘ったのにごめんね。」
「別にいいよ。川の音も少し聞こえて来たし、方向間違えなきゃ帰れるよ。」
「ありがと…。」
「…」
「…」
しばらくすると、川に到着した。ここまできたら、図書館までは楽勝だ。相変わらず、少年は俺の服の袖を離さない。
しかし、少年は泣き止んだらしく、話し始めた。
「あのね。実は、僕ずっと君のこと知ってたんだ。」
いきなりの、暴露と、沈黙の途切れに驚いた。
「え?なんで、知ってるの?てか会ったの初めてだよな?」
「そっかぁ。覚えてないならいいや!」
焦らされたら余計、内容が気になってしまう。
「なんだよ。教えろよ。」
「それより、君の名前って何?聞いてなかったよね。」
話題を変えられたが、確かに1日一緒に遊んでいて名前を言っていなかった。
「俺は、日高しゅん。お前は?」
「僕の名前は、早見はるき。」
やっぱり聞いた事ない気が…。
「俺と、どこであったんだ?」
「もう、その話はいいよ。忘れてwもしかしたら、僕が人違いしてるだけかも!」
少し違和感もあったが、そうこうしているうちに図書館の後ろに到着した。
「ふぅ…。良かった。今日はありがと、本当にごめんね。」
はるきと名乗った少年は、そう言って申し訳なさそうに頭を軽く下げた。
「別にいいよ。俺こそ色んなこと教えてくれてありがとう。」
「また、会えるといいね!」
また という言葉がとても嬉しかった。はるきとまた、遊べる。これから、もっと仲良くなる。想像するだけでわくわくが止まらなかった。ふと、時計に目をやると門限ギリギリの時間だった。
「やばい。俺そろそろ行かないと。」
「そっかぁ…。また、図書館に来る?」
はるきが、心配そうにこちらをみつめた。
「うん。近いうちにまた来るよ。」
「やった!じゃあ、すぐに会えるね!」
はるきの笑顔を見て安心した。
「バイバイ~!」
「またな。」
家に帰ってからは地獄だった。
普段、図書館にいるはずの俺が服に葉っぱが着いていたり、靴にドロがついていることに気づいた母親が、俺に説教をした。当たり前に皆がやっていることを、俺がすると怒られる。仕方がない事だと諦めて、怒られてやった。母親は、しばらく学校以外は行くなと言った。行くとしたら母親同伴のようだ。母親に内緒で遊び回った挙句、森で遭難まで仕掛けたのだ。俺は母親の言うことをすべて受け入れた。
はるきに会えないのも、仕方なかった。
2ヶ月後、俺はやっと母親に外出を許された。もちろん、すぐに図書館に向かった。
はるきに会える!!またいっぱい遊べる!期待を胸に図書館の扉を開けた。しかし、そこに少年の姿はなかった。森へ行っても。どこを探して彼はいなかった。
どうすれば良いか分からず立ち尽くしていた俺に、図書館の受付のおばちゃんが話しかけてきた。
「あら、久しぶり。何か探してるのかい?」
「どうも、はるきって名前の俺と同い年くらいの男の子、見かけませんでしたか?」
すると、図書館のおばちゃんが何かに気づいたような顔をして、俯いた。その雰囲気に嫌な予感がした。
「しゅんくん。落ち着いて聞いてね。」
嫌な予感がより、正確にしてきた。
「はい。」
「はるきくんはね、つい一週間前、図書館でいきなり心臓発作を起こして亡くなっちゃったのよ…。」
時間が止まったみたいに、音が聞こえなくなった。脳内真っ白になって。信じられなかった。本当に現実で起きていることなのか分からなかった。
「えっ…。」
俺が困惑しているとおばちゃんがひとつの手紙を差し出してきた。
「これ、はるきくんからよ。もともと体調も良くなかったみたいだし…。本人も少し分かってたのかもね。」
手紙には、俺の知らなかった、いや。気づかなかったことがいっぱいいっぱい書いてあった。
「しゅんくんへ。
この手紙を渡すことになったってことは、しゅんくんは今とってもビックリしてるよね。実は僕も、しゅんくんと同じで病気なんだ。森で迷子になった時に誤魔化しちゃったけど、しゅんくんは僕の唯一の友達だったんだよ。僕がしくしく泣いてても、しゅんくんはいつも袖で涙を拭いたあとにいっぱい励ましてくれて、力強かったよ。なにせ、病室で隣同士だったんだもの!しゅんくんが忘れちゃってたのは少し残念だけど、また思い出が作れたから僕はもう満足です。まだまだいっぱい遊びたかったけど、僕があんなに危険な目に合わせたせいでしゅんくんはもう図書館に来なくなっちゃったよね。本当にごめんね。」
手紙の文字は所々、涙で滲んでいた。最後に残った彼のごめんの言葉に、俺は涙が溢れ出してきた。誤解を解きたかった。俺が諦めて母親に従っていた時間、彼はどれだけ苦しんだんだろう。
そして、俺は2年前のことを思い出した。
はるきは、病室で隣にいたはるくんだったんだ。3年生の時の記憶なんて、手術で苦しかったことばかりで、ほとんど自分で誰かを励ましていたなんて、ほとんど覚えていなかった。
でも、茶髪で、肌が白くて、ふわふわしていた少女はたしかに一緒に遊んでいた。あの時はずっと女の子だと思っていた。初恋の相手。毎日2人で遊んで看護師におこられていたなぁ。
今、思い出してもなんの解決にもならない。
彼の最後の手紙が、俺の胸に深く突き刺さった。
そして、自分のわくわくもドキドキもしっかりと森の遭難での吊り橋効果にかかっていたことに、気づいてしまった。
「隣良いですか?」
俺と同い年位の子供が、こちらを見つめてそう問いかけていた。
「えっ…あっ…うん。い、いいよ。」
突然のことに驚き、声がどもってしまった…。
それにしても、珍しい。今、小学5年の俺と同じ位の年の人が休日に図書館で本を読んでいるなんて。隣に座った少年が俺に話しかけてきた。
「なんで、さっき睨んでたの?」
見られていた…。
「少し羨ましかったんだ。俺ね、病気になりやすくて、外であんまり遊べないんだ。」
別の理由を考えるのも面倒くさくて、真面目に答えた。
「今も病気酷いの?」
少し無神経だなぁ、とも思いつつ俺は答えた。
「今は大丈夫だよ。落ち着いてるから。」
「ふーん。」
そっちから、聞いてきたくせに無愛想な答えだなぁ。
「じゃあ、僕と散歩しよ!!」
唐突の提案にビックリした。
「…は?なんで…。」
「僕ね、図書館の後ろにある森に行ってみたいんだけど…。一緒に行く人がいないと怖くて。少しだけ!お願いっ!」
外で遊ぶことに憧れていた、俺からしたら最高の誘いだった。ただ、高額な医療費を払ってくれている親に罪悪感をもった。
「ごめん。行かない。」
すると、隣の席の少年は
「そっかぁ…。じゃあ、1人で行ってくるね。」
そう言って、席を立った。しかし、少年はこっちを凝視している。
「なんだよ。」
「どうしても来ない…?」
「…うん。」
「どうしても??」
「…う…ん。」
しばらく沈黙して。少年は俺の手をぎゅっと掴んで。
「やっぱり、行こう!!」
と言って、俺を無理やり外へ連れ出した。
「は!?いや、俺はいいから!」
「だって、つまらなそうなんだもん…。」
少年は茶色の髪の毛を揺らしながら俯いた。
困っているのか、緊張しているのか、後悔しているのかは分からないが、気まづそうにこちらを見つめてくる。
「はぁ…。少しだけだからな。」
仕方なく、了承してしまった。下を向いていた少年の顔は一気に明るくなり、主人に甘える猫みたいな目をキラキラと輝かせ
「ありがとう!」と言い、俺を連れて森までかけていった。
走るのは久しぶりでとても疲れた。
森の近くまで到着した。
「うぇ…。疲れ…た。」
死ぬかと思った…。こんなに走ったのはいつぶりだろう。
「あはは。疲れるの早すぎだよ~。」
そう言いながら少年はけたけたと笑った。
「少し休む?」
「そうだな…。」
近くのベンチに2人で座った。
上を見ると、空が広がっていた。天井しか見えなかった毎日から解放された俺はとても気分が上がっていた。
「外出て良かったでしょ?」
そう言われて、自分の顔が緩んでいたのに気づいた。
「あぁ…。良かったよ。」
少しだけ笑ってみせた。少年も少しだけ微笑んだ。
「よっし!じゃあ、行くぞ!」
少年はベンチから立ち上がり拳を空に向かって高く振り上げた。
そこからは、俺の知らないことだらけだった。
初めに、虫を捕まえた。図鑑でしか見ない虫は案外捕まえずらいこと。思ってた以上に、虫は綺麗だということ。
2番目に、川へ行った。川にはいっぱい魚がいること。川の水はとっても冷たいこと。
初めて知ることがいっぱいで、とても楽しかった。色んなものを見つける度に、少年は俺にたくさん情報をおしえてくれて、いっぱい変なことを言って笑わせてくれた。
「迷ったな。」
「…迷ったね。」
森で遭難してしまった。空はオレンジ色になり始めそろそろ帰らなければいけない時間だ。きっと、親に心配もされる。それ以上に、これからは外出もしずらくなる。
頭の中でいっぱいの不安が押し寄せてきた。
「ごめん…。僕のせいだ。嫌だって言ってるのに無理やり連れ出したりしたから…。ごめん。本当にごめん。」
少年を見ると、泣きだしそうなくらい目に涙を浮かべていた。俺以上に不安なんだろう。
「とりあえず、帰る方法みつけだそう。」
俺がそう言って、なんとか覚えている道や遊んだ川を思い出して歩き始めた。
少年は俺の服の袖を、ぎゅっと掴み鼻水を啜りながら、後ろからついてきた。10分程歩き、沈黙が辛くなってきた。
「大丈夫か?」
「…うん。ズビッ」
「なら良かった。」
「僕から誘ったのにごめんね。」
「別にいいよ。川の音も少し聞こえて来たし、方向間違えなきゃ帰れるよ。」
「ありがと…。」
「…」
「…」
しばらくすると、川に到着した。ここまできたら、図書館までは楽勝だ。相変わらず、少年は俺の服の袖を離さない。
しかし、少年は泣き止んだらしく、話し始めた。
「あのね。実は、僕ずっと君のこと知ってたんだ。」
いきなりの、暴露と、沈黙の途切れに驚いた。
「え?なんで、知ってるの?てか会ったの初めてだよな?」
「そっかぁ。覚えてないならいいや!」
焦らされたら余計、内容が気になってしまう。
「なんだよ。教えろよ。」
「それより、君の名前って何?聞いてなかったよね。」
話題を変えられたが、確かに1日一緒に遊んでいて名前を言っていなかった。
「俺は、日高しゅん。お前は?」
「僕の名前は、早見はるき。」
やっぱり聞いた事ない気が…。
「俺と、どこであったんだ?」
「もう、その話はいいよ。忘れてwもしかしたら、僕が人違いしてるだけかも!」
少し違和感もあったが、そうこうしているうちに図書館の後ろに到着した。
「ふぅ…。良かった。今日はありがと、本当にごめんね。」
はるきと名乗った少年は、そう言って申し訳なさそうに頭を軽く下げた。
「別にいいよ。俺こそ色んなこと教えてくれてありがとう。」
「また、会えるといいね!」
また という言葉がとても嬉しかった。はるきとまた、遊べる。これから、もっと仲良くなる。想像するだけでわくわくが止まらなかった。ふと、時計に目をやると門限ギリギリの時間だった。
「やばい。俺そろそろ行かないと。」
「そっかぁ…。また、図書館に来る?」
はるきが、心配そうにこちらをみつめた。
「うん。近いうちにまた来るよ。」
「やった!じゃあ、すぐに会えるね!」
はるきの笑顔を見て安心した。
「バイバイ~!」
「またな。」
家に帰ってからは地獄だった。
普段、図書館にいるはずの俺が服に葉っぱが着いていたり、靴にドロがついていることに気づいた母親が、俺に説教をした。当たり前に皆がやっていることを、俺がすると怒られる。仕方がない事だと諦めて、怒られてやった。母親は、しばらく学校以外は行くなと言った。行くとしたら母親同伴のようだ。母親に内緒で遊び回った挙句、森で遭難まで仕掛けたのだ。俺は母親の言うことをすべて受け入れた。
はるきに会えないのも、仕方なかった。
2ヶ月後、俺はやっと母親に外出を許された。もちろん、すぐに図書館に向かった。
はるきに会える!!またいっぱい遊べる!期待を胸に図書館の扉を開けた。しかし、そこに少年の姿はなかった。森へ行っても。どこを探して彼はいなかった。
どうすれば良いか分からず立ち尽くしていた俺に、図書館の受付のおばちゃんが話しかけてきた。
「あら、久しぶり。何か探してるのかい?」
「どうも、はるきって名前の俺と同い年くらいの男の子、見かけませんでしたか?」
すると、図書館のおばちゃんが何かに気づいたような顔をして、俯いた。その雰囲気に嫌な予感がした。
「しゅんくん。落ち着いて聞いてね。」
嫌な予感がより、正確にしてきた。
「はい。」
「はるきくんはね、つい一週間前、図書館でいきなり心臓発作を起こして亡くなっちゃったのよ…。」
時間が止まったみたいに、音が聞こえなくなった。脳内真っ白になって。信じられなかった。本当に現実で起きていることなのか分からなかった。
「えっ…。」
俺が困惑しているとおばちゃんがひとつの手紙を差し出してきた。
「これ、はるきくんからよ。もともと体調も良くなかったみたいだし…。本人も少し分かってたのかもね。」
手紙には、俺の知らなかった、いや。気づかなかったことがいっぱいいっぱい書いてあった。
「しゅんくんへ。
この手紙を渡すことになったってことは、しゅんくんは今とってもビックリしてるよね。実は僕も、しゅんくんと同じで病気なんだ。森で迷子になった時に誤魔化しちゃったけど、しゅんくんは僕の唯一の友達だったんだよ。僕がしくしく泣いてても、しゅんくんはいつも袖で涙を拭いたあとにいっぱい励ましてくれて、力強かったよ。なにせ、病室で隣同士だったんだもの!しゅんくんが忘れちゃってたのは少し残念だけど、また思い出が作れたから僕はもう満足です。まだまだいっぱい遊びたかったけど、僕があんなに危険な目に合わせたせいでしゅんくんはもう図書館に来なくなっちゃったよね。本当にごめんね。」
手紙の文字は所々、涙で滲んでいた。最後に残った彼のごめんの言葉に、俺は涙が溢れ出してきた。誤解を解きたかった。俺が諦めて母親に従っていた時間、彼はどれだけ苦しんだんだろう。
そして、俺は2年前のことを思い出した。
はるきは、病室で隣にいたはるくんだったんだ。3年生の時の記憶なんて、手術で苦しかったことばかりで、ほとんど自分で誰かを励ましていたなんて、ほとんど覚えていなかった。
でも、茶髪で、肌が白くて、ふわふわしていた少女はたしかに一緒に遊んでいた。あの時はずっと女の子だと思っていた。初恋の相手。毎日2人で遊んで看護師におこられていたなぁ。
今、思い出してもなんの解決にもならない。
彼の最後の手紙が、俺の胸に深く突き刺さった。
そして、自分のわくわくもドキドキもしっかりと森の遭難での吊り橋効果にかかっていたことに、気づいてしまった。
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