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142.ぽっかりするっす…
しおりを挟む『ええ治りますよ』
その言葉に俺達は感嘆の声を上げた。そして、
「あんなことがあったのに今、まだ、ツキさんの中に力が残っていることの方が不思議なのです。本当に、本当にお馬鹿な子で申し訳ありません。――フレイ」
女神様は所々を強調しながらフレイ君を促した。
「ぐっ……わ、わかってるよ」
フレイ君は俺の側までくると俺の手を取り繋いだ。そうすると、身体の中心から何かがフレイ君の方に流れていくのを感じる。
「…………」
……うーん、これは本当に何かとしか言い表せない変な感覚っすね……。
ちょっとソワッ! ソワソワッってする感じだ。
「はい。これで終わりです」
「……もうっすか?」
「うん。どこか変な所はある?」
フレイ君が俺の手を離し、尋ねる。
「……んーなんかスッキリしたようなしないような物足りないような変な感じがして落ち着かないっす……」
眉が下がる。胸にぽっかりと穴が空いたようなすっごく何かを埋めたい感じがする。
……これどうやったら治るんっすかね? ご飯食べたら治るっすかね? なんか飲んだら治るっすかね? なんか……なんか……。
そわそわそおろおろとしてしまう。
「ずっと身に馴染んでいたものですので違和感が強いのですね。食べても飲んでも治りませんよ。暫くすれば馴染むと思います」
「……そうっすか……」
……本当に治るっすかね?
女神様の言葉にピタリと止まるも不安だった。それにこれでもう大丈夫だと言われても困ってしまうほどの呆気ない終わりだった。ずっと悩んできた体質がこんなにも簡単になくなるとは思わなかった。これからもずっと付き合い続けていくるものだと思っていたし、その覚悟もできていた。だが、それはなくなった。その呆気なさに、胸に残る喪失感と共になんとも言えない気持ちになってしまう。
「ツキ、よかったな」
「ボス……」
ポンっと頭に置かれた手にボスを見上げた。するとレト兄やモー達が俺の近くにやって来て不思議そうに聞いてくる。
「ツキ、本当になくなったのか?」
「信じられねぇよな」
「おい、ツキちょっとこの辺一周して来てみろよ」
「え? 嫌っすよ」
試したい気持ちはあるが今はまだしんみりタイム中なのだ。だが、それでもモー達に走れと言われたのでしかなたく訓練場をぐるりと一周走った。一回転けた。全員無言で女神様を見た。
「「「「「…………」」」」」
「……あれはツキさんがただ転んだだけです」
……らしい。その後二十周も走らされた。全力疾走で。
「ぜぇっ……はぁ……ぜぇ……っ!」
なんで俺こんな走らされてるんっすかね? しんみりどころじゃないっすよこれ!
一周という話はどこへいったのやら、ここまで走ってようやくモー達もレト兄も本当だと頷いた。
「……ツキ、罠にかからなかったな」
「だな。普段のツキならこれだけ人に見られてる中走ってりゃあと三回は転んでる」
「んで転んだ先で立ち上がろうとしてたたら踏んで足挫いた反動でよろけてぜってぇ罠に落ちてる」
「ツキ……よかったな!」
「よくないっすよ!!」
なんっすか罠って!? 俺聞いてないっすし、具体的でありそうな展開言うのやめてほしいっす! 落ちる? 落とし穴っすか!? どこにあったんすか!?
周囲の地面を警戒しつつそっと爪先歩きでボス達の元へと戻る。少しの距離とはいえ油断できない。
「「「おぉ……戻ってこれてる」」」
「いつものツキなら今ので確実にかかってるのに……」
「鳥も憎しみ込めて飛んでこねぇな」
みんな感心するように俺を見、ボスの言葉に空を見上げた。自分でもちょっと驚いた。レト兄の言葉にだって「そんなことないっす!」……と反論したいところではあるが俺も同感だった。日頃の経験からして警戒しててもやっぱり落ちるかと内心ちょっと思っていたのだ。だが、本当に何も起こらずボスの元に戻って来られた。ボスの言う通り鳥も飛んでこない。なのでもう一回走ってこようかとすら思える。これでまた何も起こらずボス達のところに帰ってこれたのならそれはすごいことではないのか。本当に体質が治ったという証拠ではないのか。
え? どうしようっすかね? 行っちゃうっす? 行っちゃうっすか? 行くっす!!
入る気合いにモー達からも「行ってこい! 頑張れ!」との激励の声が飛んだ。もう胸のぽっかり感へのしんみりさはない。違和感はまだあるがこうしていれば治るような気がする。そうして走る体勢を作り、前へと身を乗り出しかけた時――
「…………ねぇ、姉様。……やっぱり僕も姉様と一緒に帰るの?」
「当たり前です」
「!? うえぇ!? だっ!?」
聞こえた会話に足がつんのめり転んだ。
なんか今聞き捨てならない言葉聞こえたっすよ!?
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