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140.穴があったら入りたいっす…っ
しおりを挟む「女神様ー。ちょっと質問いいですかー?」
「はい」
ズーが手を上げた。
「そのツキの力に気付くきっかけつぅのってもしかして……」
「はい。あなた方が 岳岩飛竜と闘った時です」
「!」
あれっすか!
あのボスとドラゴンが死闘繰り広げたやつ!
「「「「あー……やっぱり」」」」
「え? 何っすかその納得声」
「……その時に何かあったの?」
不思議に見る俺とフレイ君にモー達、そしてレト兄は悩むように腕を組んだ。
「……んーいや~な? まぁ今だからこそもう言ってもいい話だと思うんだけど……。それ今から六年くらい前の話なんだけどさぁ。俺達がここに住み始めてすぐに竜の野郎が飛来しやがってさぁ」
「流石に竜だろ? 竜種っていやぁ強いだろ? 岳岩飛竜と言やぁ、デカいし硬いだろ? ……フレイ君もちょっと聞いたと思うけど、ボスが死闘繰り広げたとか言ってたあれ、実はその前に俺達みんなやられちまっててよぉ……」
「死人は出なかったし、ボス以外死まで一歩手前みたいな奴はいなかったけど……結構な重傷者は実は何人かいたんだよなぁ」
「うんうん」
「ええ!? 俺それ知らないっすよ!?」
語られた内容に叫ぶ。
あの日のことははっきりと覚えている。雨が降りそうな曇り空の中、背中に山を携えたような一匹の大きな竜がいきなりアジトへと飛んできたのだ。ボスは俺を家に入れ、絶対出てくるなと狼絆の戦闘メンバー全員で打って出たが戦況は困難を極めた。確かにボス以外みんな倒れていた。だが翌日、俺が目を覚ました時にはみんなガハガハ酒を飲んで笑っていたぞ? ボスだけは一週間眠っていたが……ってあれ?
「?」
んん? あれっす? そういえば俺なんで寝てたんっすっけ? みんな倒れててボスもボロボロでそれで……ああ! 確か窓から見ててその途中に飛んできた小石に当たって俺、気絶したって聞いたっす!
「まぁ、んでよぉ……。ボスだけが立って最後まで戦ってたんだけど、やっぱさっきも言ったけど相手って竜じゃん? 一応俺らが戦った奴、国総出で戦ったり、規格外のバカ強ぇ連中が徒党組んで倒すレベルのすごいやつだし流石の俺達でもまだその当時はそこまでのレベルには達してなくて、ボスも一人じゃあなぁ……」
「ああ?」
ボスがモーを睨む。「てめぇらが邪魔だったんだよ」の目だ。
「まぁ善戦はしてたけど最後はやっぱりボス膝ついちゃってドラゴンに踏み潰されそうになってたんだよなぁ」
「は?」
ジーの言葉にボスは「なんだ? 俺が負けたっていいてぇのか?」の目をしている。
「けど、そうやってボスが負けそうになって殺されそうになった瞬間に家からツキが飛び出してきてなぁ、すんっごい怒り顔で『ボスっ殺すなっす!!!! みんな怪我させるなっす傷つけるなっす!!! どっかいけっすぅ!!!!』ってめっちゃ怒ってな」
「へ?」
俺っすか?
ズーの言葉に目が点になる。
「いや~あんだけ迫力あるツキ見たの後にも先にもあん時だけだったわ~」
「その後、突風と何十もの大竜巻に本当に竜がどっか飛んでったのには笑えばいいのか安心すればいいのかビビればいいのか、いやわかんなかったわ~」
「全員目が点になったよなぁ。んでもう、ああこれツキといても絶対死なねぇわって思ったわ~」
「「「うんうん」」」
「なんでっすか!?」
いや、普通にめちゃくちゃ怖がって近寄らなくなるような出来事じゃないっすか!? 一緒にいたらいつか死ぬなって思うパターンじゃないっすか? なんでそこで大丈夫って思うんっすか!! 俺、竜巻なんて知らないっすよ? 俺がしたんっすかそれ!? そんなんした覚えも叫んだ記憶もないっすよ!?
……どうやら俺はその後ぶっ倒れ、所々の記憶が飛んでいたらしい。なので都合よく嘘の情報を吹き入れ、ボス以外大した怪我もなく元気で、竜とはボスが引き分け(しゃーないから負けたじゃなくてちょっと花を持たせてやるよ)に改竄し俺に教え込んだらしい。
そんな事実を知り、俺はヨロヨロとよろめいた。
「そ、そんな……俺、全然知らなかったっす……」
「「「だって教えてたら気にすんだろ?」」」
「ツキ、俺達の怪我に敏感だったからなぁ」
モー達とレト兄が言う。
「っそ、そうっすけど……っ」
なんだ、それならボスだけではなくみんな俺に隠して死ぬような目に遭っていたのではないか。なのに俺はそれを知らずに大丈夫だと決めつけて……
「……っ……うぅ~!」
俺馬鹿っす……穴があったら入りたいっす……っ。
身を縮めて泣いた。
「あーあ、ツキ泣いちゃったよ」
「ズーが余計なこと女神様に聞くからだぞ」
「えーだってみんな気になってただろ? 暗黙の了解みたいな感じであんま話題にはしなかったけど、神力でおっきな出来事っつってパッと思いつくもんといやぁあれしかないし、みんな知りたいかなーって思ってよ」
「「「まぁそりゃあ、あれはなぁ……」」」
そう言ってモー達は俺を慰めるように縮まる俺を取り囲み始めた。
「ほら、ツキ。んなの昔のことなんだからな。死人もいなかったんだし元気出せよ。俺達みんな元気だっただろ?」
「そうそう。俺ら別に無理して笑ってたわけじゃねぇんだぜ? ツキといりゃなんか怪我の治りも早いんだよ」
「そうだぞ。お前といたら大概の怪我は一日、二日あれば治ったし治癒力がなんかすごかったぞ? 他にも、感覚研ぎ澄まされたり体が軽くなったり丈夫になったり鍛錬すればするほどどんどん強くなってく感覚もしたし、そのおかげで俺達ちゃんとリベンジ果たしたぞ?」
「なんっすかリベンジって!?」
「いや~坊ちゃんが負けっぱなしは嫌とか言うから頑張って探して……な?」
「な!?」
行ったんっすか!? 屈辱晴らしに行ったんっすか!? さっき強くてそう勝てない的な話してたっすのにあれ実は自慢だったんっすか!? いつ行ったんっすか? 俺に内緒でなんで行くんっすか!!!!
「竜肉、美味しかっただろ?」
「食ったんっすか!?」
どれっすか!? いつっすか!? 食える部分あったんっすか!? もう言ってっすよぉぉおお!!!!
「そういえば、ズーが言った怪我が治るのが早かったり、五感が澄まされたり身体が頑丈になったりのそれってやっぱり……」
レト兄の言葉に女神様は眉間に皺を寄せ頷いた。
「……ツキさんの力の影響でしょう」
「「「「ああ……やっぱり」」」」
「……通常ではあり得ないことですが、ツキさんに神力が宿った経緯が経緯ですから漏れ出す力や人へと与える影響力も大きかったのでしょう」
「「「「なるほど……」」」」
感慨深く頷くモー達。
なんっすか? 俺そんな周りに影響与えてたんっすか!?
「…………ぅぅ……」
シクシクシクシクシク……
よくわからなくてまた涙が出てきた。
「おい、話を戻すがその竜の話は六年も前の話だろ? フレイが隠蔽に走ったとしてもんな時間がかかるものなのか? なんで今更フレイが力の回収とやらで出てくるんだよ」
「っ」
ボスの言葉に「ん? そうだな?」と全員女神様を見た。すると女神様は一瞬「うっ」と言葉を詰ませら咳払いを一つした。
「そ、それはフレイが逃げ隠れしていたため捕まえるのに少々時間を割き、捕まえた後は情報を吐かせ叱るのについ時間がかかりすぎてしまい……。神と人とでは時間の感覚に少し差がありますので……」
「「「「「「…………」」」」」」
お、おおう。差が六年っすか……。
これは本当に感覚の差なのだろうか。なんとなく節々から漂う女神様のフレイ君への鬱憤と怒りに、女神様のフレイ君への怒りがそれほどだったがためにかかった時間の差のような気がした。
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