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113.必ず守り抜く
しおりを挟む中央に向かって走ると、すぐに女の人を引っ張っていた男がこちら気付いた。
「ん? なんだよもうこっちに来んのかよ。せっかくのお楽しみがよぉ。まぁ頭の命令だしな」
そう言って男は剣を持つと簡単に自分が襲いかかっていた女の人に向かってその手を振り上げた。
「ひっ」
「っっつ!! ――どくっす!!」
振り上げられた剣に今までにないほど早く動けたと思う。女の人と男の間に入るとすかさず剣を振り下ろす腕を弾き、男の胸ぐらをつかんで顔面に頭突きを喰らわせた。そして、守るよう人質の人達の前に立つ。
「ガッ!」
「おぉ~すご~い」
「大丈夫っすか? 立てるっすか?」
「ヒッ、あ、は、はい」
さっと目を通すと女の人五人に六歳くらいの男の子が一人、身を寄せ合っていた。
「……じゃああっちに。他のみなさんもっす」
首元についた首輪に一瞬眉を顰めるも、周りの山賊達に意識を向けながら「味方っすから早く」と急かすように言った。
こんな真ん中にいたままだったらどこからでも襲って下さいって言ってるようなもんっす。
移動してる間、俺はその人達を守るようジリジリと男達と睨み合った。首輪はされているが、バーカルが契約紙を失くしてくれたおかげで後ろからドスリとされる心配はなくなった。その他の命令やその違反などによってこの人達に被害がいくこともさなそうで、俺の不幸もたまには役に立つというもの。
自信満々に嫌がらせで悪巧みするからこうなるんっす!
そうして全員が壁際まで移動したのを確認した後クルッと女の人達の方を向いた。
「いいっすか。絶対ここから動かないで下さいっすよ。できるだけ身を低くして頭を守っていてくださいっす。何が落ちてくるか飛んでくるかわからないっすからね」
「え? は、はい」
全員が戸惑いながらも頷いたのを見て、俺も頷く。
よし……!
「っく、この野郎!!」
さっき頭突きを喰らわせた男が鼻を押さえながら立ち上がる。焦っていたし頭突きだけでは完全に意識を刈り取ることはできなかったようだ。でも、結構痛かったようで顔を真っ赤にさせ怒っている。
「………ふぅ」
俺は息をつき、呼吸を落ち着けた。
数は……一、二、三と……えーと二十人くらいっすかね。
今、俺が一番優先すべきことは後ろの人達を守ること。この数と武器を持っている相手に後ろの人達を守りながらでは苦手とか言っている場合ではなく剣とか魔法……はダメだから武器を使わないといけないだろう。でも、俺は何の武器も持っていないから奪わなければならない。
……本当は木剣とかあればありがたいんっすけど贅沢は言えないっすよね。なんとか目の前の奴らから剣を奪うっす。でも真剣怖いんっすよね……。
もし折れた刃先が後ろの人達に飛んで行ったりしたら大変だ。
「……ほんとに頭伏せてて下さいっすね?」
チラッと後ろを見てもう一度言っといた。
「は、はい」
「おうおう、余所見なんてしてんじゃねぇよ!」
「っ」
男が俺に向かって大きく剣を振りかぶった。
「っ避けんな!」
「避けるに決まって――ガキンッぎゃ!?!?」
……この男、振りかぶった剣を地面なんかに叩きつけたりするからその衝撃で刃先が折れて飛んできた。咄嗟に避けることができたものの心臓はすごくドキドキだ。
もう! だから真剣とか武器系統苦手なんっすよ!
こういうことがあるから油断ならないのだ。攻撃を避けたからといって油断することなかれ。俺が使っていなくても今みたいに剣が折れたりしてこっちに飛んでくる可能性は十分にあるのだ。
「いたっ!? ちょっとこっちに飛んできましたよ!?」
「え? す、すんません!」
「?」
心の中で文句をつけていると、どういう軌道を描いて飛んで行ったのか、折れた刃先はそのままバーカルの方へと飛んでいき、バーカルの頬を軽く切ってしまったらしい。ギャーギャー喚くバーカルの声が聞こえる。
「…………!」
前言撤回っす! 真剣だろうと他の武器だろうとどんとこいっすよ! んで全部馬鹿の所飛んでいけっす!!
ザマァみろと心の中で笑っているとそんな俺の内心に気付いたのかバーカルが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「全く……。さっきからちょくちょく石も落ちてくるし窪みに躓くし紙もなくしますし、流石厄災の源ですね。やっぱりあなたといると碌な事が起こらないですよ」
「…………?」
知ってて連れてきたくせに何言ってるんっすかこいつ?
というかなんでちょっと頬っぺたを切ったくらいでこんな機嫌悪くしてるのかこいつは。
……まぁ、どうでもいいっすね。今は目の前の敵に集中するっす。
バーカルから目を逸らし、俺達を囲む連中へと目を戻した。
ここにいる敵の数は二十人くらいと見たが、うち数人はバーカルの護衛のようでバーカルの近くに待機している。今から俺がすべきことは相手から武器を奪って後ろにいる六人を守り切ること。でも……
「…………」
……そんなのできるんっすかね? ここにいるのでバーカルの仲間が全員かわからないっす。これ以上人数が増えたらどうすればいいんっすか? 本当に俺なんかが守り切れるんっすかね? 一人で? 厄病神っすのに? いつまで……?
「………っ。………ふぅぅ」
いけないっす、ダメっす。一旦落ち着くっす。
マイナス方向に向かいそうになる思考を頭を振ることで止めた。そして、ぎゅっと手を握りしめる。
大丈夫っす。バーカルのことだからすぐに俺達を殺すってことはしないはずっす。バーカルは俺が痛がったり恐怖したりすれば喜ぶ変態っす。ならまずは俺のことを嬲りにかかってくるはずっす。さっきも俺の恐怖とか苦痛に歪む顔が見たいとか言ってた鬼畜っすからね。俺も、多分後ろの人達もすぐには殺されないと思うっす。
チラリと周りに目をやると男達はみんなニヤニヤと笑っていて緊張感のかけらもない。自分達はこの場の上位者でどうやって俺達で遊んでやろうかと考えているのが丸わかりだ。――だが、だからこそ勝機があるというもの。
この様子なら俺一人でも倒せるかもしれないっす。でも、油断して後ろの人達に危害が行くことはダメっすよ。
守るは絶対。全員倒すはできれば、そうしてボス達が来てくれるまでの時間を稼ぐのだ。
「お、お兄ちゃん……」
「!」
くいっと服を引かれて後ろを振り向く。この中の唯一の子ども、小さな男の子が俺の元まで来て目に涙をいっぱい溜めて俺を見上げてきていた。服を掴んでいる手は震えている。
「……」
……そうっすよね……怖いっすよね。ボスならこんな時……
「……そんな不安そうにしなくてもいいっすよ! こんな状況で、俺だけじゃ不安かもしれないっすけど俺強いっすから!! すぐに俺の他にもかっこいいお兄さんやおじさん達が助けに来てくれるっすからね、安心してくださいっす!」
パッと笑って子どもの頭をヨシヨシと撫でた。そして、目を合わせるようにしゃがみ込む。
「大丈夫っす。必ず助かるっすから。でも、さっきも言ったように出来るだけお互いくっついて身を低くして頭とかを守るように丸めておいて下さいっすね。動いてもダメっすよ? もしかしたらさっきの剣みたいに折れちゃったりしていろんなものが飛んでくるかもしれないっすからね」
「う、うん」
「よしよーし。いい子っすね~。――絶対君達には手を出させないっすから、守るっすから俺を信じて待っててくださいっす」
「うん」
男の子が頷き、女の人達の元に戻って俺が言ったように頭を手で抱えて身を小さくする。それを見届けたあと、俺は体の向きを男達の方へと戻した。
「気合い充分だなァ」
「それがどれだけ持つかねぇ」
ずっと男達はニヤニヤ笑っている。
……笑いたければ笑えばいいんっす。こっちだって笑ってやるっすからね!!
「いつまで持つか? そんなの最後までに決まってるっすよ!!」
堂々と、強気に笑って宣言する。どれだけ俺のことを馬鹿にしていてもある道はただ二つ。俺がこいつらを倒しきるかボス達が来てくれるのが早いか、どっちかに一つしかない。バーカルの思い通りになんかさせない。
大丈夫……俺ならやれるっす!! 俺だって誰かを守ることくらいできるんっすから! 俺で遊ぼうっていうんならその慢心につけこんでとことん付き合ってみんなを守り切ってみせようっす!! さぁ、来いっす!!!
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