不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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109.ふざけんなっす!   

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「――ッッ!! ハッ、ッッハァッ、ハァッ、ハァ……あ……俺……」


 飛び起きた。辺りを見回せば思っていた場所と同じようでどこか違う場所だった。


「あ、あれ? さ、さっきの夢っすか? ……っはぁぁぁああ!! ……バーカルのせいで嫌な夢見ちゃったすよ」


 昔の夢。無力感と絶望感に打ちひしがれた時の記憶。バーカルがあんなことを言って気持ち悪い笑みなんて見せるから悪夢を見てしまったではないか。


「…………でも、昔と今の状況、ちょっと似てるかもしれないっすね」


 昔と同じように目の前には鉄格子があって外に出られない状況に、ただただボスが来てくれるのを待つだけの自分。


「……ははっ……ふざけんなっす!」


 意気込み立ち上がる。


 昔と同じ? いや、違う。俺は昔とは違うのだ。ただボスが来てくれるのを待つだけ? そんなことあり得ない。


 俺だってやる時はやるんっすから!


 全く、俺はなにをこんな時に寝こけてしまっているのか。俺はスッと後ろでに結んでいた髪紐を解くと、解いた紐に魔力を通した。するとあら不思議。紐の硬さが変わって針金のような硬さになった。これは昔、ボスからもらったものだ。魔道具とは違って紐の素材自体が魔力を通すことで柔らかくなったり硬くなったりする優れもの。だから魔道具とは違って俺が使っても壊れない! 壊さない! 失くしちゃうことはあるが……と、こんな俺でも使えるとても便利な重要アイテムなのだ。


 そして、その硬くした紐を使って錠前にかちゃかちゃと。本当にあいつらは間抜な奴らだ。全く俺を警戒していない。バーカルもバーカルで、ただ俺のことを不幸で可哀想で何もできないおもちゃだと思っている。見張りもつけずに放置だなんて。ありがたいかぎりだ。


「……ふっ」


 今日でその甘い考えを改めさせてやるっすよ。俺はやればできる子なんっす! 今に目にものを見せて、今度は俺が牢にぶち込んでやるっすからね!!


 目に闘志を燃やしながらカチャリと鍵が外れた音にドヤ顔をしつつ檻の外に出る。そして紐を失くさないよう髪を括ってから出口に向かって出発。


「……と、いってもここどこなんっすかね?」


 辺りを警戒しつつ、足音を立てずにとりあえずの方向に進む。ここでポイントなのがなにも考えず無になることだ。こっちだと勘に従えば大抵ハズレを引く。ならその裏を読めばと思ってもやっぱりハズレを引く。なので何も考えず無で進む方が当たりの道を引く確率が上がるのだ。


 まぁ、まだ一本道っすけどね……。


 と、思った矢先に現れる分かれ道。さぁ、無になろうとしたところでどこかから啜り泣くような声が聞こえた。


「? ……これは……」


 声の方に行ってみると、錠がかけられた分厚い木の扉があった。扉についている小窓から中をそっと覗き込むと数人の女の人と一人の子どもが閉じ込められて泣いていた。たぶんバーカル達が近隣の街や村から攫ってきた人達だろう。とことん姉さんの発した言葉を実現させる俺。


 助けないとっす。


「――、…………」


 声をかけようとして口を開くが、すんでのところでグッと口を閉じた。


 ……ダメっす。落ち着くっす俺。俺だけじゃ何にもできないっす。


 今ここが何処なのか、出口は何処でこの場所にどれだけの人数のバーカルの仲間がいるのかもわからないことだらけだ。バーカルのことだから意地の悪い罠が設置されているかもしれないし、この頑張れば壊せそうな木の扉すらも怪しくみえる。こうして俺が逃げだし、彷徨い歩けている現状すらもひょっとするとバーカルの何かの企みかもしれない。あいつはそういう人が嫌がることをするのが大好きなのだ。


 そんななか、安易に助け出し、引き連れていってしまえば恰好の的にされ、俺だけならいい。だが、この人達を危険に晒してしまうかもしれない。それに……


『厄病神』


「…………」


 俺と一緒にいることすらが危ないっす……。


 理由はわからないが、俺の体質が戻ってしまっている今、弱っているこの人達に追い打ちをかける事態になりかねない。だから自分に言い聞かせる。


 ……大丈夫っす。バーカル達もわざわざこうして捕まえてる人達、商品に危害を加えるような真似はしないはずっす。だから、ここで俺が助けるより、先にここから脱出してボス達に知らせて助けに来る方が確実なんっす。確実にこの人達を安全に助けられるんっす。だから……


「ふぇ……お母さ……!」


「……ふ……ぅぅ……助けてっ」


「っっ」


 拳を握りしめる。見て見ぬ振りしかできない自分に腹が立った。本当ならすぐにでも駆けつけて「もう大丈夫っす!」「安心して下さいっす!」と声をかけたい。でもどうしてもダメなのだ。俺がこんなん厄病神だから。


「……絶対助けに来るっす」


 ぎゅっと唇を噛み締め、絶対に助けに戻ると心に決めてこの場所を忘れないよう頭に刻み込んだ。そして、一刻も早くここからの出口を探すため、踵を翻し土壁に覆われた薄暗い道を進んだ――。







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