不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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97.気をつけてれば大丈夫なんっす…

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 ふと思い出したかのように声を上げたバーカル。ボスの名前にバーカルを見ればニコリと笑われる。


「ラックは今日、どうせ女狐(笑)からの命で僕らがダミーで用意した偽本拠地を本物だと思って向かわされているんでしょう?」


「…………」


 いや、知らないっす。


「ふふ、僕達の情報網を侮らないで下さいよ?」


 いや、だから知らないっすって。


 何も知らないのにバーカルは目を細め、したり顔で俺を見てくる。そんな全部知ってるんだぞ、ほらね? みたいな感じを出されてもちょっと困る。


 え? ボス本当にどこに行ってるんっすか? 本拠地? 本拠地って山賊のっすか? バーカルのっすか? ……ハッ! まさかボス、俺に黙ってそんな重大な仕事してるんっすか? 今現在!? ボス、拠点の割り出しの最終チェックだって言ってたじゃないっすか! 最終チェックって拠点を割り出すところまでじゃなくて、止め刺しにいくまでも含んでたんっすか!? そんなの聞いてないっすよ!! くっ……やられたっすっ。


 がっくり肩を落とす。なんということだ。ボスめ、俺を騙したな。


「僕はね、ツキさん。あの女狐(笑)やラックより賢いんですよ。今日の計画も予想はついていましたからね。自分のアジトを襲われたとなれば短期決戦で勝負に出てくるかと思っていましたが見事餌に引っかかってハズレに向かってくれてよかったですよ。……てすが、思いのほか僕達の拠点を割り出すのが早かったですね。撹乱の為わざわざ各地に部下を散らして行動をとらせていたのに、その各地に配置していた数名が数週間前に揃っていなくなっているんですよ。部下達は迷子か、遊んでいるんだろうと僕への報告が遅れてしまったようですが同日に、数名単位で人が消えている。……ツキさん。これはあなた達の仕業ですか?」


 バーカルが真剣に、意味深な表情を向けて聞いてくるが……


「?」


 え? 俺知らないっすよ? なんっすかその現象。同じ日に違う場所でバーカルの部下数人単位で消えたんっすか? なんかそれ怖い話っすねぇ。


 わからず首を傾げた。


「……どうやらその様子だとツキさんはなにも知らないようですね」


「?」


 知らないっすよ? ボスも関係ないと思うっす。みんなバーカルに嫌気さして逃げちゃっただけなんじゃないっすかね?


 可哀想に……と人望薄いバーカルを憐れんでやった。


「……僕の勘だと、必ずその件にはラックが絡んでいると思うんですが……、ツキさん、あなたがただ聞かされていないだけなのでしょうね。まぁ、ツキさんがいれば何が起こって失敗するか分かりませんし、それだけ重要な情報を流石にあなたに教えるわけありませんよね」


「ムッ」


 なんか逆に憐れまれて鼻で笑われたっす。


 なんだそれは、俺が役立たずだと言いたいのか。そんなことはない。その証拠にこの間ボスにはとても重要なお仕事に連れて行ってもらえた。フレイ君の協力のもと、山賊達を捕まえ、拠点を割り出すという大切なお仕事だ。


 フレイ君の護衛としてついて行った俺は、その後、直接倒したのが初めの一人だけだと多少落ち込んだりもしたが、ちゃんと気絶した連中を縄で縛ったり、縄を持つ係とかしていたのだ。そうしてフレイ君と共にたくさんの山賊達を捕まえたという実績がちゃんと俺にはあるのだ。……ん?


 あ。バーカルが言ってるのこれっすか?


 なるほどと一人で納得した。


「まぁ、ラックがハズレの拠点に向かったということはまだこの場所はあいつらにはバレていない可能性が高いということなんでしょうけど、……女狐の部下を最近この周辺で見かけることが多くなりましてね……。バレるのも時間の問題だと思ってどうしようかと考えていたのですが……」


「?」


 バーカルがチラリと俺を見て、勝ち誇ったように笑う。


「ツキさんがこちらにいる分、それらは簡単に一網打尽にできそうですね。本当に、初めにラック達が向こうに向かってくれたのは僕達からすればありがたい話ですよ。そのお陰でラック達には僕からのたくさんのプレゼントを受け取ってもらえそうですしね」


「プレゼントっすか?」


「そうですよ。ツキさん知ってましたか? 女狐もそうですがラック。あいつも僕達にすっごく恨まれているんですよ? 貴重な商品とその奪う機会を悉く何度も奪い、潰し、僕達の仲間を捕まえてと顔大きく好き放題してくれていますからね。だからこそ、ラック達が向かった偽拠点はあいつらを潰すためだけに用意された場所なんですよ。偽拠点周辺にはこいつらとは違う山賊、僕の部下達を百人は配置させています。もちろん偽アジトの中にも用意していますけどね?」


「山賊……百人!?」


 え? 少なくないっすか!?


 俺の驚きをどうとったのか、バーカルは胸を張った。


「そうですよ! 驚いたでしょう?」


「はいっす」


「ふふ! でしょうでしょう! みんな前辺境伯にお世話になり、あの女狐とラックに追い出された者達なんですよ!」


「まじっすか」


 驚きすぎてまた素直に返事を返してしまう。ボスの叔父さんはどれだけ悪党製造人だったのだろうか。百人て、まだいるって、ある意味すごい人だ。……だが百人。それはボスを倒そうとするのには少々少なすぎるのではないだろうか。


 ボス達は百戦錬磨の猛者達だ。俺の不幸体質をものともせず俺と一緒にいてくれる人達。舐めちゃダメだ。百人を超える盗賊団とか前に何回か経験済みだし、人だけじゃなく魔物でも経験済みで、どちらも普通に制圧していた。しかも、そこには俺もいたから嘘話なんかじゃない。数々の問題に見舞われながらもボス達の圧勝だったのだ。


 バーカル達の本拠地(偽)を攻めるとなれば、狼絆のメンバーの非戦闘員とその人達の守りのための戦闘メンバーを除く者達は皆ボスに追随しているだろうし、多分二十人くらいはバーカル達の方に向かっているのではないだろうか?


 もしそうであったのならボス達を倒そうと思えば百人じゃ全然足りないと思う。特に今回は俺は行ってないからとても簡単で余裕なことだろう。そう俺がいない分。


 ……あ、涙でてきたっす。


 俺はどこまで足手纏いな人間なんだろうか。ショックを受けているとまたまたバーカルはそんな俺の態度をどうとったのか、得意げに笑う。


「ふふふふふ、まぁ、その百人を倒そうにも偽拠点に踏み込んだところで僕の部下以外にも多種多様な罠をこれでもかというほど憎しみと殺意を込めてあの中には用意していますけどね。奥に入り込めば入り込むほど複雑な罠を、そして迷路ような遊び心満載の複雑な構造を丹精込めてラックのために作り上げてやったんです!」


「……」


 こいつ暇なんっすかね?


 握り拳を作って自信満々のバーカルにただただそう思う。情報網を甘く見るなとの言葉も暇すぎてやることがそれしかないための行動なのではないだろうかと思う。


 だが、それも仕方のないことなのかもしれない。バーカルの表商売の方は姉さんによって経営破綻一歩手前まで追いやられている状況。表といっても売るものも姉さんによって用意できない状況のようで、何やらバーカル自作でモノを作ったり絵を描いて売ったりしているらしいがそれも悲しい状況のよう。裏もボス達に部下を捕らえられ尽く潰されていってる状況にもう開き直ってしまっているのかもしれない。


「もし、万が一その罠を潜り抜け、最深部に辿り着こうとも結局は僕達はいませんし、なんの情報も得られず、ましてや最後にはその場に爆弾を仕掛けていますから全員揃ってあの世行きですよ!」


「そんなことないっす! あんまりボス達を舐めるなっす! ボスもみんなも全員無事にお前のアジト(偽)を潰すっすよ!」


 爆発など自然、人工ともに過去何度もボス達は経験済みっす! 俺を舐めちゃいけないっすよ!


 こんなことでボスのことを馬鹿にするだなんて片腹痛いと鼻で笑ってやった。しかし――


「ふふ、そうですか。信じないのなら信じなくてもいいですよ? でも――ツキさんみたいな厄病神とずーっと一緒にいる人達ですからね? やっぱり死んじゃうんじゃないですか?」


「っ……」


 バーカルが嘲るように冷たく笑う。その言葉の内容に一瞬息が詰まった。


「僕も色々と細工はしましたが、僕が一番信用しているのはあなたのその体質ですよツキさん。あいつらが生きていると、死なないと思っているのならどうぞと自信を持ち願い続けて下さい。僕達をと思っているのなら是非そう思っていてください」


「……」


「ふふ、ラックの奴、楽に死ねてるといいですね? 僕のためによろしくお願いしますねツキさん。――では、また会いに来ますからそれまでいい子で待っていてくださいよ?」


「…………」


 ヨロヨロとふらつきながらも三下達に支えられ、バーカルは機嫌良く去っていく。それを、俺は今度は静かに見送ることしかできなかった。


「……厄病神じゃないっす」


 厄病神。確かにそうかもしれないが、そういうのんじゃない。


「……気をつけてれば大丈夫なんっす」

 
 そうだ。気をつけていれば誰も死なないのだ。どれだけの罠を仕掛けられていたとしてもボス達は絶対に死なない。心配などいらない。


 ……今頃全員余裕で山賊達を倒して罠も解除して進んでるっす。誰も怪我なんてなく余裕だな~なんていいながら。だって……だって、不幸を呼び寄せちゃう俺はいないんっすからね!


 その光景は簡単に目に浮かぶようだ。

 
「……うん! 大丈夫っすね!」


 明るく言う。大丈夫。大丈夫なはずなのに心臓の嫌なドクドクとした音が止まらない。俺も自分の体質をよく知って理解している。だから今回は大丈夫なはずなのだ。


 いつもと同じような光景。なのに街ではたくさんの人に不幸が襲いかかっていた。それはいつもと同じようで違った。ボスとのキスを思い出してしまう。嫌な方に思い出してしまう。……本当にボスは大丈夫なのだろうか?


「……っ……考えちゃダメっす。考えたら……っ」


 耳を塞ぐよう頭を抱え小さく蹲った。


 ……大丈夫っす。ボス達は強いんっす。不幸なんかに負けないっす。大丈夫なんっすからっ。


 フレイ君が言っていた。この不幸を抑え込んだとしてもそれが解かれた時、反動で不幸が大きくなり跳ね返ってくることはないと。だから大丈夫。いくらバーカルがボス達を罠にかけようともボス達は負けない。必ず生きて戻り、バーカル達を捕まえるだろう。


 ……でも、そう思うことが正しいことなのかわからなくなってくる。不幸はこうならなければの「こう」を起こすことが好きだ。こうだと思ったことの逆を起こすことが好きだ。不幸を起こす俺は側にはいない。だからこそ大丈夫だと思うのにバーカルが見せたニチャリとしたみが蘇る。


『ツキさんみたいな厄病神とずーっと一緒にいる人達ですからね? やっぱり死んじゃうんじゃないですか?』


『僕のために、よろしくお願いしますね? ツキさん』


「……厄病神……」




ーーー


「……かしら、あの指輪返してちまってよかったのかよ」


「もし何かの間違いで魔道具が作動すれば……」


「大丈夫ですよ。あれは完全に壊れてましたから。それよりもあの壊れた指輪を持って死するラックを想うツキさんを想像するだけでなんだか寝取ってる気分で僕はっっ!! ハァハァハァッ」


「「………………」」
 





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