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42.寂しいっす…

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 シクシクシクシクシク……


 ……もう無理っす。


 シクシクと部屋の隅に丸まるよう座り込み涙を流した。


 俺達が住む建物の、地下にある謹慎部屋。そこに閉じ込められ反省文を書き上げ続けるも三日経った辺りでもう限界だった。手がではない。手が痛いのもそうだが、寂しさに耐えきれない。


 ……三日。まだ三日っすか? あと四日もあるんっすか? うぅ……このお仕置きすっごく効果ありっすよ。


 指折り数えて、残り日数にまた涙を流した。


 ベッド、机、椅子、水差し、あと反省文セットしかない部屋。窓がないことと物が少ないことを除けば普通の部屋と変わりない部屋といえど、この静寂さに耐えられない。


「う゛ぅ~……」


 ボス~、モージーズー~、フレイ君、レト兄、イーラさん、みんな~っ。一人は嫌っすよ~……。


 自分の啜り泣き声以外何も聞こえない静かな場所。思えばここまでなにもなく、静かな時間はボスに助けられてから初めてかもしれない。俺は今回が初めての謹慎デビューなのだ。だから、こんなにも謹慎が辛いものだなんて知りもしなかった。……いつも誰かが側にいた。みんなが仕事に行って一人残される時もあったが、俺も掃除とか畑仕事とかそっちに集中していれば平気だったし、アジト内には見えなくとも誰かしら人がいて、そんな人の生活音や気配がいつもあって、一人でも一人だと思うこともなかった。なのにここは何もない、聞こえない。隔離された空間に全然人の気配がしない場所。声も聞こえない部屋。反省文を書くこと以外何もない、静かな空間に独りぼっちの俺。……寂しい。このまま忘れられないか不安になってくる。


「……ご飯、ちゃんと持ってきてくれるっすから大丈夫っすよね……?


 テーブル上にはお皿がある。お昼ご飯、残してしまった。だが食べる気がしないのだ。せっかく作ってくれたもの。ちゃんと食べなければ。でも、もしものためにも……


「……!」


 いやいやと頭を振った。


 ……もしもなんてないっすよ。みんなに限ってそれはないっす! それは考えすぎなんっすからあれはあとでちゃんと食べるんっす。それで食べ終わったら……次は晩御飯っすよね? ちゃんと来てくれるっすよね? 誰が来てくれるっすかね? その時、ちょっとお話しできるっすかね? してくれるっすかね?


 ちゃんとこの三日間朝、昼、晩と仲間達が交代でご飯を持ってきてくれる。二、三言でも頑張れよと扉越しに声を掛けてくれるのだ。それが今から楽しみだった。……けれど、それでも謹慎終了までまだ四日もあるのだ。その間にもしご飯を持ってきてくれる回数が減っていったら? 声を掛けてくれなくなったら? ……もし、俺がいない快適さに、俺のことを邪魔だと思いこのまま忘れ去られていってしまったら……


「……っ……怖いっす。……ぅ゛ぅっ……」


 ポロポロと涙が零れ落ちる。そんなことないとわかっているのに嫌でも昔の記憶と今を重ねてしまう。こんな状態で俺は後四日も耐えられるのだろうか。もう今ですらギリギリな感じなのに。お仕置きの怖さをヒシヒシと感じ、ひんひん一人で泣いていると……


「――ツキさん? 大丈夫ですか?」


「! ……っフレイ君?」


「はい。泣いてるみたいですけど何かあったんですか?」


 扉越しに聞こえたフレイ君の声に、急いで立ち上がり扉に飛びついた。ガンッ! とおでこを扉にぶつけるも痛みも気にならない。フレイ君の他にも誰かいるようで、クスクス笑っている声が聞こえる。


「ぷぷーフレイちゃん聞いてやんなよ」


「ひひ~どうせ寂しくて泣いてんだろうぜ」


「ぷす~ツキちゃんは甘えただもんね~?」


「「「ギャハハハ!!!」」」


「! モジモジーズー!!」


「「「なんでまたその呼び方した!!」」」


 笑い声の正体はモージーズーの三人組だった。いつもの三人の様子にホッと涙があふれた。


「な、なんでここにいるんっすか? ご飯っすか?」


 涙を拭いながら尋ねた。


「飯はさっき別のやつが持ってきてただろ!」


「寂しがり屋のツキちゃんのために様子見にきてやったんだよ!」


「ありがたく思え!」


「で、でもっ俺、謹慎中っすのに会いに来ても大丈夫なんっすか? ボスに怒られるっすよっ?」


「それは大丈夫ですよ。ちゃんときょ――んぶ!?」


「「「ギャハハハ!! 俺達だぞ? 大丈夫大丈夫!!」」」


「そ、そうなんっすか……」


 ホッとした息がこぼれると同時に嬉しくて笑みがこぼれた。


 それからモージーズーは涙声の俺を揶揄って暫くしてフレイ君と去って行った。悲しかった。また泣いた。だけれど、それから短時間であれどフレイ君やモージーズー達がちょくちょくと謹慎部屋まで俺に会いに来てくれるようになった。他にもレト兄やイーラさん、他の仲間達も来てくれた。街に勝手に行ったこと、誰も怒っていなかった。それどころか心配したと、気を付けろよとボスが言っていた通りの言葉を掛けてくれて、そしてあと数日頑張れと俺を鼓舞してくれた。


 その優しさに安堵し、無理だと思っていた残りの四日間も寂しさに負けることなく過ごすことができた。なお、ボスはその間一回も来てくれなかった。



 ……――謹慎部屋の扉が開く。


 モー達みんなに感謝し、孤独に耐え抜いた謹慎終了日の朝。レト兄と共に部屋へとやってきたボスに、俺はキリリとした顔で近付き書き溜めた反省文を手渡した。


「はいボス、反省文っす」


「ああ」


「じゃあっす!!」


「あほか。確認するからちょっと待て」


「ぐぇっ!」


 反省文を渡してはい終わりとは行かず、ボスに首根っこを掴まれ、部屋から出てようとしたのを阻止された。そしてそのままレト兄へとパスされる。


「……ちゃんと書いたっすよ?」


「…………」


 ボスは俺の言葉を無視して、反省文を読み始める。


 ……ちゃんと書いたっすのに……。


 ぷくっと頬を膨らましながらも、早くみんなの所に行きたいとしょんぼりとした。だが、ボスは渡した反省文に目を通したままこちらを見ない。


 ……もしかして全部読み終わるまでこのままっすか? モー達が謹慎解除祝いに美味しいもの食べさせてくれるって言ってたっすのに……。


 「まだかな~」とレト兄に首根っこを掴まれたまま足を床に擦らせ待っていると……


「……ツキ」


「はいっす?」


「確かにちゃんと書いてんな」


「でしょっす?」


「ああ。けど途中から感想文になってねぇかこれ? なんだよ『子どもとぶつかって転けました。痛かったかったっす』って。んで『服グジャグジャになって燃えました。新しいの買ってほしいっす』って。なんの報告と要望だよ。なんで燃えてんだよ。何があったんだよ! 書くならそれも書けよ! 通りでお前の服焦げ付いてたわけだ。あと反省文の中にも『っす』を入れてくんな!!」


「だって五十枚以上も書くことないっすもん!!」


「初めはちゃんと書けてんだろ! その調子で頑張れよ!」


「無理言わないでほしいっす!」


 五十枚っていくら反省していても流石に書くことなくなるっすよ!?


 睨みつけてくるボスに負けじと俺もキッ!っと睨み返した。すると、ボスが溜息を吐き出す。


「……はぁぁ。本当に反省してんのか?」


「……それはしてるっす……」


 今度はしょんぼりとして言葉を返す。


 これはもう一回書き直しのパターンっすか……? もう一回謹慎っすか……?


 うるうると目に涙を溜めながらボスを見上げ、モー達が用意してくれているであろう料理の山を思い浮かべた。するとお腹までキュルルル……と悲しく鳴って余計に悲しくなった。


「…………まぁ、今回は特別に許してやるよ。……腹鳴ってるし久しぶりに一緒に――」


「本当っすか!! ありがとうっす!! 行って来るっす!!」


 ボスから許可をもらい、すぐに食堂へと走る。


 ごっはん♪ ごっはん♪ みーんなと一緒! ごっはんっす~♪


「「…………」」


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