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37.ボス怒ってるっす!
しおりを挟むザァーザァー外から雨の音が聞こえる。雨は好きだが、この他の音を掻き消そうとするかのような雨音は嫌いだ。
ズキズキ ズキズキ
視界が暗い。あと、頭が痛い。
……うぅ……なんか頭ズキズキするっす……。痛くて目開けられないっす寝起き最悪っす音嫌っす……。
「――てめぇ!! ふざけんなよ!!」
ビクッ!?
……え? え? お、俺っすか?
「ボス! ちょっ落ち着けって!」
寝ぼけた頭に届くボスの怒鳴り声と、そんなボスを落ち着かせようとするレト兄の声。痛すぎて目が開けられないから怖すぎて目が開けられない変わった。ひしひしと感じるボスの怒気に、どうしてボスはこんなにも怒っているのだろうかと考えた。そして、すぐに頭が痛い原因から何まで全てを思い出した。
「あ゛あ゛!? 勝手な行動したこいつが悪いだろうが!!」
ひぎッ! こ、これ絶対黙って街に行ったこと怒ってるっすよね!? ボス怖いっす~っ!!
プルプルッ
触れる感触からどうやら俺はベッドの上にいるよう。そこで直立不動の姿勢を崩せないまま、頭痛いっすしボス怒ってるっすし、頭痛いっすし目開けられないっすし怖いっすし痛いっすしやっぱり怖いっすし……ともう色々な感情がごちゃ混ぜになってじわりと目が熱くなった。でも――
ダメっすよ泣いちゃ! 泣いたらバレるっすよ!! 起きてるのバレたら怒られるっすよ!? 今はダメっす!!!
「……ちょっと二人とも落ち着きなよ。そんな大きな声出したらツキ君が起き……って泣いてる!?」
うわ~ん! バレたっす!!
「っ……ツキっ」
イーラさんの声にボスが側に来たのがわかった。だが、やはり目は開けられない。ビクリと反応しなかった自分を褒めてやりたい。
……まだっす。俺はまだ寝てるっすからね。起きてないっすよ。起きてないっすからねっ!
ぷるぷる震えながら心の中で必死に唱えた。
「……ツキ……怖い夢でも見てんのか?」
?
思ったよりボスの声が優しく、頭が「?」で埋め尽くされる。
……もしかして起きてるのバレてないっすか? 怒ってないっすか?
勘の鋭いボスにしては大変珍しい。俺の頭に優しく触れるボスの手に、これはもしかして起きても大丈夫なのではないかとの考えが過ぎった。……だが、だというのならさっきの怒鳴り声は誰に対して発していたものなのだろうか?
「……ツキ……」
「……あの……ボスさん。本当にすみま――」
「黙れ」
?
今の声……もしかしてフレイ君っすか? よかったっす……フレイ君無事だったんっすね! それじゃあボスのさっきのは、フレイ君に対して怒ってたんっすか?
「……でも……」
「……俺は黙れっつってんだよ。何がすみませんでしただ。テメェのくだらねぇ我儘のせいでツキがこうなってんだろ」
「……っ。……はい」
「わかってんならさっさとこの部屋から出ていけ。金輪際ツキに近づくな」
「……それは……できません。僕もツキさんが起きるまでここにいるし近づかないのも……」
「は? 何言ってんだ?」
……やばいっす。なんかボスの機嫌が降下していく気配を感じるっす。せっかくいけるかと思ったのに目を開けるタイミング完全に逃しちゃったっすよ……。
「……っだって僕のせいでツキさんがこんな怪我をして……。ツキさんが目覚めるまで、う、ううん、ツキさんに謝れるまでここにいてイーラさんのお手伝いをします!」
「……いらねぇ。すぐに出ていけ」
「嫌です!」
「ッフレイ、てめぇ!!」 ガタンッ
「うわっボス、ダメだって!」
「離せ!!」
?????
……え? え? 今何が起こってるんっすか?
ボスがめちゃくちゃ怒ってフレイ君になにかしようとしてるんっすか? それをレト兄が止めようとしてるっすか? ガタッて何の音っすか? ……そんないろんな疑問が頭を過ぎった。ボスが何をしようとしているのか知りたい。これはもう目を開けなければいけないことが隣で起こっているような気がするのだ。
……開けるっすか? 開けても大丈夫っすか? ……よし、いち.に.の.さんで目を開けようっす。いくっすよ? せーの、い――
「ボス殴っちゃダメだって!」
「はぁ!? うっせぇくそレト離せ! 俺がどんだけ怪しいこいつを放り出したいのを我慢してここに置いてやってたと思ってんだ!! ベッタベタにわかりやすい媚び売って周囲に撒き散らしやがって!! 全部無駄なんだよやってること全部が!! わかりやす過ぎんだよ!! 憐れすぎて放置してたのが間違いだった! こいついい加減にシメめる!! 無断でツキ連れ出して怪我までさせやがって!! 毎日ツキにベタベタされてふざけんなよ!?!?」
「最後のはただの嫉妬だろ!!」
「憐ッ!? ~~っ!!」
……な、なんかボス、すっごい鬱憤たまってそうな声っすね。媚び? 憐れ? いや、それよりええ!? ボス、フレイ君殴ろうとしてるっすよね今!? それはダメっすよボス!!!!
「――……ス……。……?」
……あれ? なんかめちゃくちゃ弱っちい掠れた声が出たっす。もっと「ボス! 暴力はダメっすよ!」みたいな感じで止めようとしてたんっすけど……。
「!! ツキ!! 目が覚めたのか!?」
おお?
自分でも声に出たのか出てないのかわからないくらいのか細い声しか出なかったのに、ボスは自分を羽交締めしていたレト兄を振り解くと、急いで俺の元へやってきた。目に映る光景から、ここは家の医務室のよう。
「……ボ……ス……?」
「ツキ……大丈夫か?」
「大……夫……っす……?」
……やっぱりなんか声上手く出ないっすね?
「なんだ? どこか変なのか?」
「?」
変っちゃ変っす。
違和感に内心首を傾げる。そんな俺にボスはどんどんと不安の色を濃くする。
「はいはい。ボス、ちょっとどいてね? ツキ君、無事に目開けられてよかったね? ボス怖かったよね~」
ボスを押し退けたイーラさんがニコリと俺に笑う。
「!」
ギグっす! もしかしてイーラさんには全部バレてるっすか?
「ふふ、なんか色々考えてたようだけど意識、思考はしっかりしてる?」
「……はい……っす」
「目は霞んでない? 頭ぐらぐらしたり吐き気とか気持ち悪いとかある?」
「……な……っす」
「他、どこかおかしなところは?」
「……大丈……っす。……あ、……でも……なんか……喉……からから……してる……っす」
「ああ。喉が乾いてるんだね? ちょっと待ってね」
イーラさんが水差しからコップに水を入れ、それを飲ましてくれようとする。だが、その前にボスがそのコップを奪い取った。
「よこせ。俺がやる」
「はいはい」
イーラさんは呆れた顔をしてボスにその場ごと明け渡した。
「ツキ飲めるか?」
「大丈……す」
「無理はするなよ」
水を飲むため起き上がろうとすれば、ボスが俺の背を支えながらベッドの端に座り、俺をボスの方に引き寄せてくれた。ボスにもたれることができる分、一人で座るより楽だった。
「……ありがとうっす」
「ああ。ゆっくり飲めよ?」
「……はいっす」
ゆっくり飲めと言われたのにコップを掲げた瞬間一気に水が口の中に入ってきた。
「おいっ」
「ゴフッ!! ゲホッゲホッケホッうぇ~っいだいっずぅ~」
案の定、咽せて涙は出るし喉は痛いし、反動でさっきよりもズキズキと頭が痛むしで大変だ。
傾ける加減間違えたっす……。
「ったく、お前は……」
ボスは呆れを滲ませながらもせっせと俺の顔を拭き、噴き出してしまった水も拭ってくれる。
「うぅ……ごめんなさいっす」
「いい。それより頭痛ぇんだろ? ほら横になれ」
「ズズあい」
鼻を啜り、今度はボスに支えられながら横になった。
……なんか至れり尽くせりっすね? もっと「ゴラァ!!」って初めっから怒られると思ってたっす。……って
「違うっす!! フレイ君は!? あのあとどうなったんっすかっいだ!?」
勢いよく飛び起きた反動で頭にズキンッと痛みが走った。
「っ馬鹿か!! 怪我に響くだろ! 大声をだすな、安静にしとけ!!」
「ぶふ!?」
「ラック!? お前こそそんなんしたらダメだろ!?」
ボスに顔面を鷲掴みにされ、枕へと沈められた。あまりの出来事にレト兄のボスの呼び方が昔に戻ってるいるが、俺もそう思う。
さっきまでの優しいボスどこにいったんっすか? 幻だったんっすかね???
「うぅ……ボス……フレイ君無事っすか? 殴ってないっすよね?」
頭に響く痛みに眉を顰めながらボスへと尋ねると、ボスは苦い顔をする。
「…………無事だ。……俺がんなことするわけねぇだろ」
「……どの口が……」
「あ゛あ? 黙れレト。あとてめぇ誰が名前呼んで言いっつった」
「いだだだだ!」
「よかったっす……。あ、フレイ君」
「っ」
ボスに顔面鷲掴まれているレト兄の後ろにフレイ君を発見した。ボスの言う通りフレイ君に怪我はなさそうでホッと笑顔になる。だが、そんな俺を見てフレイ君は一瞬息を詰まらせるとポロポロと涙をこぼして泣き出してしまった。
「フ、フレイ君?」
「っツキさん大丈夫ですか? 怪我痛いですか?」
フレイ君はトタトタッと俺の元まで来ると怪我の具合を聞いてくる。
「だ、大丈夫っすよこれくらい! こ、こんなの怪我のうちに入らないっすからね! ほらっい゛っ」
「こらツキ君! 頭叩かないの!!」
「ご、ごめんなさいっす……」
大丈夫だと示すため頭を叩いてみたものの流石にそれは痛かったしイーラさんにも怒られた。しょんぼりしながらチラリとフレイ君を見ればさっきよりも涙を流す量が増えていた。
「っふ……うぅ……」
「フ、フレイ君?」
な、なんでこんな泣いてるんっすか?
「……よか……た」
「え?」
「……よ、よかったヒックッよかったぁ……! ごめんツキさん!! ぼ、僕のせいでっこんな……っほんとびっくりしてっヒックッごめんなさっ……~~っっうわーん!!」
わーわー泣くフレイ君に、俺もボスもレト兄達もみんな目を丸くしびっくりした。少し呆気に取られるも、ハッと意識を戻し、俺は慌てて首を横に振った。
「え、あ……ち、違うっすよ? これは俺のせいなんっすから! フレイ君はなんも悪くないっすよ?」
「……え? 俺の……? どうして……」
そんな俺にフレイ君はピタリと泣き止み、困惑気な表情を浮かべる。何故そんな顔をするのだろうか。これは俺のせい。それは当たり前のことなのだ。だって――
「ほら、俺不幸体質っすから!」
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