不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

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36.ごめんなさいっす…

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「わっ!」「きゃっ!」「うおっ!?」


「すみませんっす!」


 人混みの中、色々な人にぶつかってしまい、謝りながら逃げる。たまに横や上下から何かが飛んできたり降ってくるがなんとか避けたり、やっぱりぶつかったりしながら走る。


「フレイ君! とりあえず路地に入ってあいつら引き離して撒くっす! それからまた人混みに紛れて完全に逃げるっすよ!」


「わ、わかりました!」


 フレイ君に声をかけたあと左手にあった路地に入り、より入り組んでそうな方に向かって足を進めた。


「くそっ! あいつら逃げ足はぇ!!」


「てか、なんかいろんなもんが飛んでくんだけど!? ギャッ!? 誰だよ花瓶落としてきた奴!?」


「うお!? って! 足が!! 誰だこんなところに穴掘ったやつ!!」


 だいぶ後ろの方で聞こえるギャーギャーと喚く声。そんな声に、俺は得意げに鼻を鳴らした。


 ふふん! 当たり前っす! 俺逃げ足には自信があるっすし、俺にだけ不幸が降りかかるわけじゃないっすからね! そのまま足止めくらっとけっす! そしてこのままおさらばっすよ!!


 ……と、意気込んだ瞬間手に持っていた串付きオモチチを勢い余って前へと振り落としてしまった。


「あっ」


「え?」


「へぶしっ!?」


「ええ!?」


 そしてそのオモチチをきれいに踏んで、顔面から石畳の地面へとダイブしてしまう。


 ……これは痛恥ずかしすぎるっす……っ。


「ツキさん大丈夫ですか!?」


「……だ、大丈夫っす……って……ん?」


 顔に手を当て、鼻血が出ていないか確認しながら立ち上がろうとするも、右足が持ち上がらない。何故だと見てみると踏んでしまったオモチチが靴裏と地面にベッタリと張り付きくっついていた。


「え? うわっ! あ、ちょ、ちょっと!」


 せっかくもう少しで振り切れそうだったっすのに! やっぱこのモチモチダメっすよ!!


「んきぃーっ!! っあ! ゴッあだ!? ~~」


「ツ、ツキさん?」


 必死に足を引っ張り、なんとか地面から引き剥がすことには成功したものの、その勢いのまま後ろに転んで頭をぶつけ悶絶。


「ちょっ、ちょっと待って下さいっす」


「……はい」


 またも痛みに耐えながら、今度は靴の底から串つきオモチチを剥がそうとカリカリ、グーグー掻いたり引っ張ったりする。だが、オモチチは全然剥がれない。


「…………」


 えぇ……オモチチ靴に張り付いたらこんなにも取れないもんなんっすか? すごい食べ物っすね。串掴んでも全然持ち上がってもくれないっすし千切れすらしないんっすけど?


「……あのツキさん大丈夫ですか? 追手が……」


「…………もういいっすこのまま走るっす……」


「え? 本気ですか?」


「…………」


 ……だって取れないんっすもん。


 フレイ君は正気かというように靴に張り付いた串付きオモチチを見る。だが、もうこれは仕方がない。


「――いたぞ! こっちだ!!」


「見つけた!!」


「「!!」」


「早く行くっす!」


「えぇ……? はい!」


 男達の声に急いでまた走り出す。が……


 パタグゥッニュ……ッパタグゥッニュ……ッ


 …………。…………これやっぱ走りずらいっすね!? もしかして靴脱いだ方がいいっ感じっすか!?


 グニュグニュベトベト地面に張り付く感覚や感じる串の違和感がすごい。逃げることに集中しなければいけないのに靴を脱ぐべきか脱がないべきかを先に考えてしまう。


「ツキさん! 通りが見えてきました! でますか!?」


「!」


 フレイ君の言葉に後ろを振り返ってみると、声は聞こえるが男達の姿は見えず、これならあとは人混みに紛れさえすればそのまま逃げ切ることが出来るだろう。


「そうっすね! そのまま出るっす!」


「はい!」


 ……ふぅ……よかったっす。なんとか無事に逃げ切れそうっす。もう帰ろうって絶対にフレイ君に言うっす。 


 逃げ切れるという安心感からついこの後のことを考え始めてしまう。……だが、さっきも言ったようにそういう時に限って襲ってくるのが不幸というものだ。


「――!? フレイ君ッ!!」


「え? ――っ!?」


 フレイ君の頭上に、何かが落ちてくる影を視界に捉え、咄嗟にフレイ君を突き飛ばした。


 ガシャンッッ

「ッッ!! づッ……」


 何かが割れる音と同時に頭がさっき転んで頭をぶつけた時以上の衝撃と痛みに襲われた。


 う゛ぅ……何が……


「……っ」


 倒れ、起き上がろうにも起き上がれず、ぐわんぐわんと頭が揺れる。なんとか薄く目を開けた先には大きな割れた花瓶の破片が目に入った。


 ……っもしかして……これ頭に当たったんっすか? 痛いっすよこれは……。よく、俺、死ななかったっす……。でも、なんで花瓶が落ちてくるんっすかね……。なんかさっきも落ちてきてなかったっすか?


「っツキさん!? ツキさんしっかりして下さい!!」


「……フ……レ……君?」


 フレイ君の声に、なんとか顔を声の方に向けると、すごく焦った顔をフレイ君はしていた。だけど、どこにも怪我はなさそうでホッとした。


「フ……レイ君……に……げるっ……す」


 思い通りに動かない腕を動かして、通りの方を指差す。まだ少し距離があるから誰もこちらの様子には気づいていないようだ。……だんだん男達の声が近づいてくる。立ち上がって逃げたいが、俺はちょっと今は無理なのでフレイ君だけでも早く逃げてほしい。


「何を言ってるんですか! ツキさんを置いて逃げるわけないでしょう!」


「っ……い……い……っす、……お……逃……げて……ほ……いっ……すっ」


 ……いいっす、お願いっすから逃げてほしいんっす。あいつらの狙いはフレイ君っすから。フレイ君の正体がバレたのは俺のせいっすから。今俺がこうなっているのも俺のせいっす。だからフレイ君は気にせず逃げてほしいっす。


 そう言いたいのにもう口は動かず目も霞む。まだフレイ君がそこにいるのに。……霞んだ目に、じわりと涙が滲んだ。


 ……ごめんなさいっす、俺のせいでごめんっす。全部俺が悪いんっす。せっかく街、楽しんでたっすのにごめんっす。こんなことになってごめんっす。本当にごめ……


「…………」


「ツキさん? ツキさん!? しっかりして下さい!!」


「はぁはぁ……やっと追いついた……ってなんだよ一人血まみれじゃねぇか」


「はぁ……はぁ……ほんとだな? まぁいいんじゃね? 頭が求めてんのは晴天族のこのガキだけだろ?」


「いや、こいつも色が違ぇけど、頭が見つけたら捕まえろって言ってた奴に似てる」


 やっとで繋ぐ意識の中で、追いついてきた男達の声が聞こえた。


「んじゃあ二人とも連れて行くか。おい、ガキ! てめぇよくも手こずらせてくれたな!」


「ほら行くぞ! って何やってんだ!」


 ……ああダメっす……フレイ君早く逃げ……


「うるさいちょっと黙って」


「「はぁ?」」


「……これはやばいって。怒られる? 絶対怒られるよね!? え? 誰に? ラックに? モー達に? いや、全員にだよ!! そ、それにこんなこと姉様にバレたらっ……あ゛あー! どうしよ!?」


 ……フレイ君?

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