不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

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33.やってきた不安な街  

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 翌日、お昼過ぎ。


「――よしじゃあ行きましょうかツキさん!」


「そ、そうっすね」


 明るくはしゃぐフレイ君とは違い、オドオドと辺りを見渡す俺。見える景色はいつも目にする自然ではなく、建物の壁とその隙間から見えるたくさんの人だ。


 ……ああ。本当にボスに内緒で来ちゃったっすよ……。


 いつもとは違う茶髪に茶目になっているフレイ君に気付かれないよう、俺は小さく息を吐いた。


 昨日、あれから何度もボスに報告を! と思うのに、何故かボスを前にすると上手く言葉が出なくなりボスに何も言うことができなかった。喉の調子が悪いのかと思い、ボスの前で「あーあー」と言ってもちゃんと声は出るのに、いざ街へ行く話をしようとすると言葉が出なくなってしまうのだ。これはいくら発声練習をしても、別の人に話そうとしても同じで、ボスは終始そんな俺を怪し気に見ていたが……


『……ツキ、お前何してんだ。なんか隠してんだろ』


『ギクッ!? な、なんでもないっす!!』


『待てゴラァ!!』


『お? なんだなんだ』


『またツキがなんかやらかしたのか?』


『どうせボスのアプローチをまたツキがスルーして頭突きでも喰らわしたんだろ』


 と、途中から野次が飛び交う中、ボスから逃げる謎の鬼ごっこのようなものが始まってしまった。


 ……だってボス怖かったんっすよ。グスン


 だが、そんななんだかんだがあってボスに言えずとも、この企は結局最後にはボスにバレるだろうと踏んでいたのだ。……俺はフレイ君のお世話係り兼一応監視役だ。だが、ボスはそれだけでは安心できないのか(悲しいっす……)、このアジトにいる誰かしらが俺達の行動に常に意識を割き、フレイ君を見張っていた。フレイ君がいなくなった際、俺が誰に聞いてもフレイ君の居場所を教えてもらえたのはそのせいだ。それだけ、ボスはフレイ君になにか感じるものがあるのか、警戒の念は強い。


 フレイ君の悔し泣きの一件以降、少しはその念は弱まったとはいえ、昨日俺はボスの前で変な行動をとってしまっていたし、明らかにフレイ君の機嫌もよかった。勘のいいボスならそんな俺達に対し、警戒心を高まらせるはずだと思っていた。そしてその読みは当たり、普段より警戒の目は強かったように思う。だからアジトから出れば、いや、その前の段階で街に行く企はバレて、連れ戻されるだろうと考えていたのだ。なのに……


 ……まさかフレイ君が転移を使えるとは思わなかったっす……。


 「さぁ行きましょう!」と元気よく言うフレイ君に「すぐバレて連れ戻されちゃうっすよ?」と説得しようとしたら「あ、僕転移使えるのでそれで街まで行きますよ。じゃあ出発!」「え?」で街につくとは思わなかった。……全員の一瞬の隙をついた犯行。流石にたまたまだとは思うが、見る景色が変わった瞬間空いた口が塞がらなかった。


 転移した場所は姉さんの屋敷がある街、フォレスティア街の人気のない路地裏だった。転移魔法なんて高度で難しい魔法、使える人なんて滅多にいない。魔力消費量も多いと聞いたことがあり、姉さんが転移の魔道具を持っていることは知っているが、それは恐ろしい程高価で、やはりこれにも相応の魔力が必要だということで有事の際以外使わないと聞いたことがある。なのにフレイ君は道具ではなく直接魔法を使ってぴょんで飛んで全く疲れていない、まだまだ元気が有り余ってるご様子だ。


 ……フレイ君の魔力量、ボス以上の化け物並みっすか?


 狼絆の中で一番魔力量が多く、相性の有無も無視してなんでもそつなく、様々な魔法が使える疲れ知らずのボスでも転移だけは「ムムッ」と難しい顔をするのだ。ボス以上となるとちょっと想像もつかないが、「魔力に余裕があるならまだ帰れるっす!」と気を取り直してもし万が一、フレイ君を攫った奴等に見つかったらどうするのかと二度目の説得に入ったが……


「色変えればバレませんよ!」


 と、次の瞬間にはフレイ君の髪と瞳の色が変わり驚いた。「ツキさんもね」と言われて見てみれば俺の髪も茶色から赤に変わっていて二度驚いた。


「ええ!?」


 どうなってんっすかこれ!? なんで俺までっすか!? 逆に目立たないっすかこの色!?!?


 ……と、なんだかんだ一通り驚いてからの冒頭に戻る。


「ねぇ、ツキさん! オススメの場所とかってありますか?」


 フレイ君は本当に街に来られたのが嬉しいようで、普段の何倍も明るい生き生きとした表情で興奮気味に聞いてくる。

 
 ……フレイ君。そんなにも街に来られて嬉しいんっすね。


 こんな笑顔のフレイ君、初めて見る。


「ん?」


 そこでフレイ君が胸に掲げる手の中に、三日程前にお給料として渡された少しばかりのお金が入った財布が握りしめられているのに気が付いた。


 ……なるほどっす。だからフレイくん余計に……。


 ボスから渡され、驚き喜びに飛び跳ねていたフレイ君を思い出して苦笑した。ボス達に内緒でここまで来てしまったことに気は落ち込んでしまうが、もうここまで来てしまったのなら仕方ないのかもしれない。


 ……ちょっと不安っすけど、もうこうなりゃやけっすよね、やけ! 俺がしっかりしないでどうするんっすか!


 少し震えている両手をぎゅっと握り締め、顔を上げて覚悟を決める。少しぶらつけばフレイ君の気も済むだろうし、その間くらいなら俺の体質もなんとかなると信じよう。そして、家に帰ったらいっぱい怒られてしまうだろうが、二人で一生懸命ボスに謝ろう。


「ツキさん?」


「はいっす! えーとオススメの話しっすよね? んー? オススメっすか?」


 不思議そうに首を傾げるフレイ君に何があるかなーと考えるも……


「んん?」


 あれ? なんっすかね?


 ボスにはたま~に街に遊びに連れて来てもらえるが、その時はボス主導で街を探索することが多く、どこに行ってもボスと一緒ならすごく楽しいものだ。だからオススメの場所と言われても困ってしまう。下手な場所に案内してバーカルに会うのもまず……


 ……いや、ダメっすね。


 頭を振った。


 それを考えちゃダメっす。忘れようっす。一回落ち着いて無になるっすよ俺。


「…………」


 頭の中を空っぽに、バーカルを消し去る。


「ツキさん?」


「大丈夫っす」


 ……よし。えーと、んー? どこがいいっすかね? あ! フレイ君食べること結構好きっすから……確かあっちの方に食べ物屋さんの露店とかお店が色々あったはずっす。そこならフレイ君も楽しめるかもっす!


「フレイ君! 向こうに確か食べ物を売ってるお店がいっぱいあったはずっす。そっちに行ってみるっすか?」


「! いいですね! 行きましょう!」


「はいっす! ……ん? あれ? でも手紙は……」


「大丈夫です! ちゃんとあとで出しますから!」


「え? そ、そうっすか?」


 あんなに心配してたのにっすか? お、お姉さん優先しなくていいんっすかね……?


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