26 / 96
25.頑張ってっす!
しおりを挟む「――フレイ君っ! 頑張ってっす!」
「はいっ」
朝、食堂に入る前。その扉前で意気込むフレイ君に俺は声援を送っていた。
姉さんのもとを訪ねてから早一週間。ケーキを食べ終わった後、フレイ君は事情聴取のため姉さんとボスに連れられ部屋を出て行った。……そう、俺だけポツンと応接室に残されたのだ。「一緒に行きたいっす!」と言ったのに「ダメ」と有無を言わさずボスに扉を閉められ、一人寂しくシクシクと泣きながらお菓子を食べてボス達を待つことになった。追いかけるにはガラス台が割れたショックが抜き切れていなかったのだ。
そうして暫くして部屋に戻って来たフレイ君は、何を話したのかわからないがちょっと憔悴しているように見えた。そこからボスの急かしにより、姉さんのお家をお暇し、用事も終わったことだしじゃあ街へゴー! とフレイ君と機嫌よく街に向かおうとしたところでボスが……
『はあ? あの変態がまだその辺彷徨いてるかもしれねぇんだぞ。今日はやめだやめ』
と、これまた有無を言わさずアジトへと帰ることになってしまい、久しぶりに街で遊べると思っていた分すごくショックを受けて泣いてしまった。フレイ君と俺とで頑張ってボスに縋ってみたのだけれどやはりダメだった。ボスはバーカルを毛嫌いしているため、それは仕方のないことなのかもしれないがとても悲しく、涙を流す量を増やしながら家路につくこととなったのだが、俺よりもフレイ君の落ち込みようの方が酷くて……
『っくそ。せ……地……来たの……で自由……ないの? 街……てってく……言ったか……めんど……調……下手に出……に! タダ金……計画……だ――ブツブツ』
『フ、フレイ君?』
と、絶妙に聞こえない声量でぶつぶつと黒いオーラをフレイ君は放っていた。
……いや、ほんとあの時のフレイ君怖かったっす。
もう途中から街に行けなかったショックで泣いているのか、フレイ君が怖くて泣いているのかわからなくなったほどだ。ボスはそんなフレイ君を不思議そうに見た後、放っておけとフレイ君を放置して帰ろうとするし、そんなボスに慌ててフレイ君は追いかけてきてはやっぱ黒いオーラを放ち、置いていかれそうになったりと、そんなことをアジトに帰るまでに数回も繰り返していた。
やっぱりボスってフレイ君に対して当たりが強すぎると思うんっすよね。
そうしたボスの態度に、アジトに帰ってからも黒いオーラを迸らせていたフレイ君は色々と考えていたらしい。そして、あることを実行する素晴らしい勇気ある決断を下し、今日それを実行することに決めたのだ。
俺はフレイ君を尊敬するっす。
フレイ君はすごく。本当にすごくいい子なのだ。俺と一緒にいてどんな不幸に巻き込まれても遠い目をすることはあっても俺といることに嫌だと言ったり怖がったりすることはない。そんなフレイ君に俺は歓喜の涙が止まらないが、フレイ君の良いところはそれだけではない。フレイ君はボスの完全なる拒絶の壁へと体当たりをしにいける、とても勇気溢れる子でもあるのだ!!
「あのっおはようございます!」
「………………ああ」
胸元に手を当て、意を決するように食堂の中に入り席についているボスへと挨拶をするフレイ君。そんなフレイ君に対し、ボスは眉を顰め、チラリとフレイ君に視線を向け長いためのあとぶっきらぼうにそう返事を返した。
うわ~ボス、感じ悪いっすね。普通に関わりたくない嫌な人になってるっす。
あんなにも可愛く健気なフレイ君の姿を見てなんて態度を取るのだボスは。だが、普段ならそんなボスの態度に引き下がるフレイ君だが、今日のフレイ君はひと味違う。
「あ、あのラックさん、朝食まだですよね? 僕と一緒にとりにいきませんか?」
「無理。ツキ行くぞ」
「え!?」
そこで俺に振らないでほしいっす!
ボスはさっさと椅子から立ち上がると、部屋の扉から隠れて覗いていた俺の元までき、カウンターを顎差し行ってしまう。とり残されたフレイ君に対しレト兄がフォローをいれるが……
「ご、ごめんなフレイ君。ボスの奴ツキのことずっと待っててさ……」
「いえ……」
「フ、フレイ君も一緒に行こうっす!」
レト兄もそこで俺の名前出さないでほしいっす!
俺は慌ててフレイ君にフォローを入れた。
……フレイ君は、自分がボスからいい感情を抱かれていないことに薄々気付いていた。あれ程露骨な態度なら当然かもしれないが、フレイ君はどうにか恩人であり、ここに置いてくれているボスと仲良くなりたいようで、昨晩、フレイ君からその相談を受けた俺はもちろん手放しで応援することを決めた。それはフレイ君が不思議な行動をとり、アジト内を彷徨い歩いていた日からフレイ君がボスや狼絆の仲間達と仲良くなりたいと願っていたことを知っていたからだ。
そして、じゃあ一緒にボスと仲良くなるためにどうすればいいのかを考えようとすれば、フレイ君は自分の力で仲良くなりたいと言い、そんなフレイ君の心意気に感動した俺はそっと見守り応援することに決めたのだが……
「ツキ!! さっさと来い!!」
「っ!?」
動かない俺にボスが痺れを切らし、腕を引く。そのせいでご飯を取る時も席につく時もボス、俺、フレイ君の構図になってしまう。
「「「……」」」
……いや、普通に気まずいっすって!!
これはいつもの構図だ。なのになぜこうも気まずいのだろうか。どうして今日はこんなにも焦ってしまうのか。
あれっすよねこれ。仲良くなりたいってフレイ君言ってるっすのに俺、すっごく邪魔な位置にいるっすよね? めちゃくちゃフレイ君に申し訳ないっす!
普段は気にならない横並びだが、すごく気になる。この状況下の中でフレイ君が俺を跨ぎ、ボスへと話しかけるのは至難の技に違いない。一度意識してしまえば人一人挟んでの会話は挟まれている本人も挟んで話しかけなければいけない本人も気まずいはず。だが、だからといってもう席についてしまった状態ではどうしようもできない。だって横から席変わるなよって重たい圧も感じるから。
……うぅ~気まずいっすぅ。
フレイ君はボスと仲良くなりたい。だが、その気持ちに勘付いたボスの拒絶の壁。心の中で涙を流しながら俺は朝食を食べ進めた。
……今日一日、フレイ君頑張るって言ってたっすけど、出端からこれって大丈夫なんっすかね……? 心配っす……。
83
お気に入りに追加
355
あなたにおすすめの小説
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる