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25.頑張ってっす!

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「――フレイ君っ! 頑張ってっす!」


「はいっ」


 朝、食堂に入る前。その扉前で意気込むフレイ君に俺は声援を送っていた。


 姉さんのもとを訪ねてから早一週間。ケーキを食べ終わった後、フレイ君は事情聴取のため姉さんとボスに連れられ部屋を出て行った。……そう、俺だけポツンと応接室に残されたのだ。「一緒に行きたいっす!」と言ったのに「ダメ」と有無を言わさずボスに扉を閉められ、一人寂しくシクシクと泣きながらお菓子を食べてボス達を待つことになった。追いかけるにはガラス台が割れたショックが抜き切れていなかったのだ。


 そうして暫くして部屋に戻って来たフレイ君は、何を話したのかわからないがちょっと憔悴しているように見えた。そこからボスのかしにより、姉さんのお家をお暇し、用事も終わったことだしじゃあ街へゴー! とフレイ君と機嫌よく街に向かおうとしたところでボスが……


『はあ? あの変態がまだその辺彷徨いてるかもしれねぇんだぞ。今日はやめだやめ』


 と、これまた有無を言わさずアジトへと帰ることになってしまい、久しぶりに街で遊べると思っていた分すごくショックを受けて泣いてしまった。フレイ君と俺とで頑張ってボスに縋ってみたのだけれどやはりダメだった。ボスはバーカルを毛嫌いしているため、それは仕方のないことなのかもしれないがとても悲しく、涙を流す量を増やしながら家路につくこととなったのだが、俺よりもフレイ君の落ち込みようの方が酷くて……


『っくそ。せ……地……来たの……で自由……ないの? 街……てってく……言ったか……めんど……調……下手に出……に! タダ金……計画……だ――ブツブツ』


『フ、フレイ君?』


 と、絶妙に聞こえない声量でぶつぶつと黒いオーラをフレイ君は放っていた。


 ……いや、ほんとあの時のフレイ君怖かったっす。


 もう途中から街に行けなかったショックで泣いているのか、フレイ君が怖くて泣いているのかわからなくなったほどだ。ボスはそんなフレイ君を不思議そうに見た後、放っておけとフレイ君を放置して帰ろうとするし、そんなボスに慌ててフレイ君は追いかけてきてはやっぱ黒いオーラを放ち、置いていかれそうになったりと、そんなことをアジトに帰るまでに数回も繰り返していた。


 やっぱりボスってフレイ君に対して当たりが強すぎると思うんっすよね。


 そうしたボスの態度に、アジトに帰ってからも黒いオーラを迸らせていたフレイ君は色々と考えていたらしい。そして、あることを実行する素晴らしい勇気ある決断を下し、今日それを実行することに決めたのだ。


 俺はフレイ君を尊敬するっす。


 フレイ君はすごく。本当にすごくいい子なのだ。俺と一緒にいてどんな不幸に巻き込まれても遠い目をすることはあっても俺といることに嫌だと言ったり怖がったりすることはない。そんなフレイ君に俺は歓喜の涙が止まらないが、フレイ君の良いところはそれだけではない。フレイ君はボスの完全なる拒絶の壁へと体当たりをしにいける、とても勇気溢れる子でもあるのだ!!


「あのっおはようございます!」


「………………ああ」


 胸元に手を当て、意を決するように食堂の中に入り席についているボスへと挨拶をするフレイ君。そんなフレイ君に対し、ボスは眉を顰め、チラリとフレイ君に視線を向け長いためのあとぶっきらぼうにそう返事を返した。


 うわ~ボス、感じ悪いっすね。普通に関わりたくない嫌な人になってるっす。 


 あんなにも可愛く健気なフレイ君の姿を見てなんて態度を取るのだボスは。だが、普段ならそんなボスの態度に引き下がるフレイ君だが、今日のフレイ君はひと味違う。


「あ、あのラックさん、朝食まだですよね? 僕と一緒にとりにいきませんか?」


「無理。ツキ行くぞ」


「え!?」


 そこで俺に振らないでほしいっす!


 ボスはさっさと椅子から立ち上がると、部屋の扉から隠れて覗いていた俺の元までき、カウンターを顎差し行ってしまう。とり残されたフレイ君に対しレト兄がフォローをいれるが……


「ご、ごめんなフレイ君。ボスの奴ツキのことずっと待っててさ……」


「いえ……」


「フ、フレイ君も一緒に行こうっす!」


 レト兄もそこで俺の名前出さないでほしいっす!


 俺は慌ててフレイ君にフォローを入れた。


 ……フレイ君は、自分がボスからいい感情を抱かれていないことに薄々気付いていた。あれ程露骨な態度なら当然かもしれないが、フレイ君はどうにか恩人であり、ここに置いてくれているボスと仲良くなりたいようで、昨晩、フレイ君からその相談を受けた俺はもちろん手放しで応援することを決めた。それはフレイ君が不思議な行動をとり、アジト内を彷徨い歩いていた日からフレイ君がボスや狼絆の仲間達と仲良くなりたいと願っていたことを知っていたからだ。


 そして、じゃあ一緒にボスと仲良くなるためにどうすればいいのかを考えようとすれば、フレイ君は自分の力で仲良くなりたいと言い、そんなフレイ君の心意気に感動した俺はそっと見守り応援することに決めたのだが……


「ツキ!! さっさと来い!!」


「っ!?」


 動かない俺にボスが痺れを切らし、腕を引く。そのせいでご飯を取る時も席につく時もボス、俺、フレイ君の構図になってしまう。


「「「……」」」


 ……いや、普通に気まずいっすって!!


 これはいつもの構図だ。なのになぜこうも気まずいのだろうか。どうして今日はこんなにも焦ってしまうのか。


 あれっすよねこれ。仲良くなりたいってフレイ君言ってるっすのに俺、すっごく邪魔な位置にいるっすよね? めちゃくちゃフレイ君に申し訳ないっす!


 普段は気にならない横並びだが、すごく気になる。この状況下の中でフレイ君が俺を跨ぎ、ボスへと話しかけるのは至難の技に違いない。一度意識してしまえば人一人挟んでの会話は挟まれている本人も挟んで話しかけなければいけない本人フレイ君も気まずいはず。だが、だからといってもう席についてしまった状態ではどうしようもできない。だってボスから席変わるなよって重たい圧も感じるから。


 ……うぅ~気まずいっすぅ。


 フレイ君はボスと仲良くなりたい。だが、その気持ちに勘付いたボスの拒絶の壁。心の中で涙を流しながら俺は朝食を食べ進めた。


 ……今日一日、フレイ君頑張るって言ってたっすけど、出端からこれって大丈夫なんっすかね……? 心配っす……。




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