上 下
11 / 72

10.グスン…

しおりを挟む



 美少年君が目を覚ました。


「イーラさん!! 美少年君、目を覚ましたっすよ! どうするっすか!? どうすればいいっすか!? どうしよっす!?!?」


 ずっと楽しみに待っていたこともあり、テンションがおかしくなってパタパタオロオロと俺の手も足も体も心も大忙しだ。


「……うん。とりあえずツキ君は一回落ち着きなさい。ほら深呼吸は?」


「はいっす!! スゥーハァースゥ……」


 ピタリとその場に立ち止まり、大きく深呼吸をして心を落ち着けた。


「……はい。できたっす!」


「よろしい」


「へへ……ごめんなさいっす」


「……えっとあの……?」


「あ! 騒がしくしてごめんっす。……体調はどうっすか?」


 自分のパニックように恥ずかしくなって頬をかくも、聞こえた困惑気な声に俺は慌ててベッドの上、起き上がった美少年君の元に戻って体調を尋ねた。


「え? あ、だ、大丈夫です」


「そうっすか……。よかったっす」


「あの……僕を助けてくれた方ですよね? ここは……」


「! 覚えてくれてるんっすね! ここは俺達の狼絆のアジトっすよ! 美少年君三日も意識が戻らなかったんっすよ? 目が覚めてよかったっす!」


「び、美少年君? ……あのそれってもしかして僕のことですか?」


「そうっす!」


 美少年君以外ここには美少年はいない。美形はいるが。そうやって前のめりと矢継ぎ早しに美少年君へと話していると、イーラさんにコツンと頭を小突かれた。


「こらツキ君。全然落ち着いてないじゃないか。とりあえずボスを呼んできてくれる? その間に診察をするから」


「そうっすね! すぐ呼んでくるっす」


 了解っす! と、早く早くと急いで医務室から出てボスを探しに行こうとしたところで――


 ガコッッ!

「だッ!?」


 勢いよく掴んだドアノブが外れ、そのまま下にガクッとなった。勢いがよかった分、肩と腕への衝撃が……


「~~!!」


 う、腕とれるかと思ったっす。か、肩もやっちゃったっす……っ。


「……ツキ君大丈夫?」


「は、はいっす……」


 痛いっすけど、行ってくるっす。


ーー


「――んで、体調に問題はないんだな」


「はい。助けていただきありがとうございました」


「ああ。それでお前に聞きたいことがあるんだが……」


「……はい。僕にお答えできることでしたらなんでも」


 見つけたボスを医務室へと連れてくると、ボスはすぐに美少年君と話を始めた。その様子を俺は横から椅子に座ってほわ~と頬に両手を当てながら眺めた。


 美男美少年君。目の保養っすね~。


「それじゃあ……いやちょっと待て。……おいツキ、気が散る。どっかいけ」


「嫌っすよ。俺も美少年君と話したいっすもん」


「美少年君……あ、あの僕の名前は……えと、フレイって言います」


「! フレイ君っすか! ごめんなさいっす。そういえば自己紹介してなかったっすね……」


 申し訳なさに眉を下げる。


 もう美少年君って呼びすぎてそれが名前だと思ってたっす。


「クス……いいえ。あなたのお名前を聞いてもいいですか?」


「! あ、お、俺はツキっす! フレイ君よろしくっす!」


「ツキさん……ですね? はい、よろしくお願いします」


「っさん!? はいっす!」


 優しく目元を和らげ微笑むフレイ君に、俺はきゃーっと叫びたいのを耐え、熱くなる頬を抑えた。まさかのさん付けだ。さんなど付けなくといいと言いたいがなんだこの大人な響き。しっかりしなくてはと思うこの気持ち!!


 フレイ君、可愛いうえに優しいっすいい子っす~!


 ゴッ!!

「「ビクッ‼︎」」


 重い音が響き、フレイ君と一緒に肩が跳ねた。恐る恐るその音の方を見ればボスの拳が壁にめり込んでいた。


「ボ、ボス?」


「……悪い」


 ボスは罰が悪そうな顔をしたあと、そっぽを向いた。


「い、いや、あの、ご、ごめんっすね?」


 話の邪魔をしちゃったから怒っちゃったんっすかね……。


「……うわ~心狭すぎ。ツキ君可哀想に」


「うっせぇっ。わかってんだよ!」


「ビクッ」


 引き顔のイーラさんをボスが睨みつける。だが、その声の大きさに俺の肩がまた跳ね、じわりと目に涙が溜まってしまった。だってそれほどボスが怒っているのだ。


「うわ~遂に泣かせちゃったね。最近ボス怒ってばっかで怖いって言ってたし、ツキ君可哀想に……」


 まだ泣いてないっす。ギリギリ耐えてるっすよ。


「……っ……ああ~……ツキ、おっきな声出してごめんな? 怖かったよな」


「コク」


 怖かった。俺は何もしていないのにボスはずっとイライラしているのだ。


「悪かった。もう怒ってないから泣き止んでくれ」


「ズズ……本当っすか?」


「ああ。ほらな」


 鼻を啜り、見上げてみるも、ボスの眉間にはもう皺は寄っておらず、いつもと同じちょっと不遜気な顔つきのボスに戻っていた。そんなボスにホッとしてからムッと言葉を返す。


「泣いてないっす」


「そうだな。泣いてないな」


 ふっと笑って近づいてきたボスに、ヨシヨシと頭を撫でられる。そのままボスの方へと引き寄せられたため、ボスの服で気付かれないように涙と鼻水を拭いてやった。


 意趣返しっす。


「……うわ~ボス顔気持ち悪」


「…………あの……僕はこれ一体なにを見せられているんでしょうか?」


「え? 二人のイチャイチャ?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜

Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、…… 「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」 この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。 流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。 もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。 誤字脱字の指摘ありがとうございます

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 見た目と真逆で口が悪いノアが、後宮を出て自由に暮らそうと画策したり、ユリウスをモノにしようとあれこれ画策するも失敗ばかりするお話し。 他の王子たち、異世界からやってきた自称聖女、ノアを娶りたい他国の王子などが絡んできて、なかなか距離が縮まらない二人のじれじれ、もだもだピュアラブストーリー、になるといいな……

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

底辺冒険者で薬師の僕は一人で生きていきたい

奈々月
BL
 冒険者の父と薬師の母を持つレイは、父と一緒にクエストをこなす傍ら母のために薬草集めをしつつ仲良く暮らしていた。しかし、父が怪我がもとで亡くなり母も体調を崩すようになった。良く効く薬草は山の奥にしかないため、母の病気を治したいレイはギルのクエストに同行させてもらいながら薬草採取し、母の病気を治そうと懸命に努力していた。しかし、ギルの取り巻きからはギルに迷惑をかける厄介者扱いされ、ギルに見えないところでひどい仕打ちを受けていた。 母が亡くなり、もっといろいろな病気が治せる薬師になるために、目標に向かって進むが・・・。 一方、ギルバートはレイの父との約束を果たすため邁進し、目標に向かって進んでいたが・・・。

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

処理中です...