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 使用人一同が打倒アリスを掲げてから早数週間。それそろ見合いを始めてから1ヶ月が経った。


 アリスは様々な手法を持って自分に嫌がらせをしようと挑んでくる使用人達と遊び…避けながら、イアンとの逢瀬を楽しんでいた。


 今日はイアンと共にスターチス邸自慢の庭園を案内してもらい花を見ながら散歩の時間である。


「とっても綺麗ですねぇ~」


「そうであろう。なにせ我が家の庭師達が丹精を込めて育て作りあげたものであるからな」


「そうなんですねぇ~」


「そうだ。それにこの庭園は庭師達によって工夫もされておってな。その工夫というのがーー」


 アリスはニコニコと微笑みながらイアンが庭について説明するのを聞いていた。アリスにとってイアンが自慢気に庭を説明する姿は目の保養であり微笑ましいものであったのだ。


「…………?」


 そんな時、アリスは道の行手に不自然な小さな穴を見つけた。その穴は巧妙に魔法によって隠されているようであったが、アリスにとってはなんの問題もなかった。


「…クス」


「む?どうかしたのか?」


「ふふ。いいえ~…っきゃ!」


 アリスはわざとその穴に躓きイアンへと抱きつく。


「!?大丈夫か?」


「はい~。イアン様ぁ~ありがとうございますぅ!」


 そしてそのまま腕に身体を軽く寄せ上目遣いで礼を言う。ここでポイントなのが必要以上に密着して下品に思われないことである。アリスは細心の注意を払いつつイアンの様子を観察する。アリスはゆるふわ系の美人だ。大抵の男ならこんなアリスに皆、頬を染め、動揺を示すだろう。だが…


「ああ。怪我がないようならよかった」


 イアンは大した動揺も見せずにアリスに問題がないことを確認するとそっとアリスを腕から離そうとする。


(…やっぱりダメですかぁ~)


「………アリス嬢、腕を離してくれないか?」


 アリスはそんなイアンに内心残念に思いながらもイアンの腕を決して離さない。イアンは力を入れようともびくともしないアリスの手に混乱する。だがこれ以上力を入れて女性を力ずくで引き離すことなど出来ず、アリスに直接離すように伝える。


「えぇ~?離さないとダメですかぁ?」


「当たり前である。女性が無闇矢鱈に男にくっつくものではない」


「確かにそうですねぇ~」


 アリスはイアンの言葉にパッと手を離す。これ以上言い募ったとしてもイアンの自分への心象が悪くなるだけだろう。アリスはそう判断を下した。


 そして、そんなアリスにイアンは表には出さずホッとする。


 イアンにとってアリスは見合いと称して自分に近づいてくる、簡単には払い除けられない厄介な人物である。だが特別アリスを嫌っているわではない。面倒な相手であることは確かだが、この国を救ってくれた聖女だ。それなりに敬意を持って接するべき相手として認識はしている。だがアリスはイアンにとってただそれだけの人物で、恋愛対象として見る気は皆無であった。


 イアン・スターチス、36歳は今までの経験から自分が誰かから敬意を持たれることはあったとしても恋慕を寄せられるなど頭の片隅にも思ったことなどなかった。それは自分の容姿のことを1番自分が理解しているからでもあるし、今までの経験から言ってもそれを証明しているからだ。


 いくら一目惚れだと言われてもそれがどこまで真実かわからない。愛だの恋だの今はアリスが自分のことを本当に好きだったと仮定してもそれがいつまで持つかもわからない。イアンにとってこのアリスの言動はいっときの気の迷いか、何かの勘違いであろうと考えていた。そして、イアンはこの見合い中に必ずアリスは正気に戻り自分に求愛したことを後悔するだろうと考えていた。


 期待はしていない。だからこそ、さっさとアリスの正気が戻り、この時間が早く終わらないかと常に考えていた。


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