上 下
22 / 31

4

しおりを挟む



(((((…………))))) 


(……執事長)


(……なんじゃ?)


(今、聖女様こっちを見ましたよね?)


(…気のせいじゃろ)


(…そうですか?)


「イアン様ぁ~ここにあるクッキー全部食べてもいいですかぁ~?」


(((((何!?)))))


「ぬ?そんなに美味かったのか?」


「はい~とっても~!これこの屋敷の人達が作ってくれたんですよね~?」


 そう言ってまたチラリとこちらを見るアリス。


(((((…………)))))


(…あの……やっぱり普通に私達の存在聖女様にバレてません?)


(おいおい、何言ってんだよ。そんなわけないだろう。どれだけ距離が離れてると思ってんだよ)


(そうですよ。それに私達はイアン様のために日々努力を重ねています。あんな小娘が私達の存在に気付くことなどあり得ません)


(ですが……)



「ああそうだ。私のためにいつも手作りで作ってくれているのだ。他所の菓子も美味いが我が屋敷の者達が作る料理は全て絶品である」


「ふふ、そんなんですね~。このクッキーと紅茶、本当にすぅっごく美味しいですよぉ~。イアン様がとーっても愛されているっていうのが伝わってくる味ですぅ~♪」パク


 そう言ってアリスはクッキーを食べつつまたチラリと見る。


(…あの、やっぱり完全にバレてますって。それに嫌がらせされてるってわかっててのあのセリフですよ?理由も含めて全部バレてそうなんですけど?)


(たわけが!黙らぬか!)


 執事長も内心アリスに場所と目的がバレていることに焦る。流石は聖女。侮れぬ。


「そ、そうか?」


「そうですよぉ~!」


 イアンはどこか自慢げに嬉しそうに呟く。その姿にアリスは優しく微笑みつつ、今度こそニコニコと笑いながら執事長達の方を見ながら言葉を発した


「…本当に愛されていますね~。何だか久しぶりに楽しくなって来ちゃいますよぉ。ーーこんなものでは私は負けませんよ♪」ボソ


(((((ブルッ⁉︎))))))


 その場にいた使用人達に寒気が走る。アリスはニコニコと笑っているはずなのにどこかその雰囲気が挑発的だ。


(((((…………))))) 


「む?何か言ったか?」


「いいえ~♪」


 ニコニコと笑うアリスにイアンは不思議に思うものの「そうか」とその話を終わらせ、それから1時間後にアリスは「ではまた~」と言って帰っていった。




 ーー使用人部屋(休憩室)


「……あの執事長?皆さん?」


 アリスが去った後、室内に戻った皆の様子に見習い執事が戸惑い気味に声をかける。


 アリスが言った「負けませんよ」と言う言葉。あの言葉はイアンには聞こえていなかったようだが、耳を強化しアリス達の会話を聞き逃さまいとしていた使用人達の耳にはきちんと届いていた。そこから執事長、他使用人達が皆下を向いたまま無言なのである。


「……あの…」


「………ゃ」


「……執事長?…っ?」


 何事かを呟いた執事長の言葉に耳を澄ませようとした執事見習いは気づいた。執事長…いや、その場にいる全員の口元が弧を描いていることに。


「……上等じゃ」


「いいね~久々にたぎるじゃねぇか」


「ええ、ええ、本当に」


「「「フフフ…」」」


 暗い笑みを浮かべつつ「フフフ」と笑い出す上司達に執事見習いは嫌な予感に顔が引き攣る。


「…あの皆さ…」


「「「「「っあの女!!何が負けないだぁ!!絶対目にもの見せてやる!!」」」」」


「………」


 執事見習いの言葉を遮り、目に闘志を宿しながらそう叫ぶ執事長達に執事見習いは悟った。これは絶対に面倒臭いことになると…。


 そうしてイアンへの忠誠心を拗ねらせた者達は暴走を始めた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗
恋愛
聖女であるアルメアは、無能な上司である第三王子に困っていた。 彼は、自分の評判を上げるために、部下に苛烈な業務を強いていたのである。 それを抗議しても、王子は「嫌ならやめてもらっていい。お前の代わりなどいくらでもいる」と言って、取り合ってくれない。 それなら、やめてしまおう。そう思ったアルメアは、王城を後にして、故郷に帰ることにした。 故郷に帰って来たアルメアに届いたのは、聖女の業務が崩壊したという知らせだった。 どうやら、後任の聖女は王子の要求に耐え切れず、そこから様々な業務に支障をきたしているらしい。 王子は、理解していなかったのだ。その無理な業務は、アルメアがいたからこなせていたということに。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

処理中です...