私、あなた達の味方ではないから。

タッター

文字の大きさ
上 下
8 / 15

8.sideジージル

しおりを挟む


 そんなことがあってからもミルー様と特に関わることもなくそれから半年が過ぎた頃、両親が死んだことでザルコーノ家に引き取られた俺に待っていたものは予想通りというかなんというか…


バシンッッ

『ッっ』


『貴様!!あいつの息子だからとこの屋敷においてやっているのだぞ!!もっと敬意をもって私達に尽くさないか!!』


『貴方みたいな出来損ないを育ててやっているというのにどうして私達にこんな不快な思いをさせるのかしら!?』


『………』


 怒鳴り声と金切り声が耳に障る。


 別にお前らなんかに引き取って欲しいだなんて頼んだ覚えなんかない。勝手に話に割って入ってきて強引に俺を引き取ったのは子爵夫妻の方だ。なのに自分たちの視界に入っただ俺がいるせいで空気が悪いだのなんだかんだと理由をつけて勝手に不快な気分になっている方が悪い。そんなに言うのなら引き取らなければよかったんだ。いや、今からでもいいからここから解放して欲しい。


『……おい。なんだその目つきは何か文句でもあるのかっ!!』


 つい状況の理不尽さに子爵を睨みつけてしまっていると子爵が大きく手を振り上げた。


 …これに当たると痛いんだよな。


 そんな感情を抱きつつも避けることも許されないため、振り下ろされようとしている手を見ていると俺に当たるギリギリの所でその手が止まった。


『……どうしたんだミルー?』


 よく見るとミルー様が子爵の足元にしがみついていた。


『お、お父様!そんな奴放っておきましょう!私ケーキが食べたいわ。一緒に食べましょう?』


『おぉ、おぉそうか?だがな今私は躾中なんだ。こういう生意気な奴には早く自分の立場というものをわからせてやらなければいけない。ミルーもよく覚えておきなさい。我らのような至高の属性の持ち主は此奴らのような出来損ないを正す義務があるのだ』


 …だからどうしてそこまで土属性を崇拝しているのか理解ができない。属性の中で土属性を持っている人間は1番多い。それに比べて水や火の上位互換である氷や炎、他にも光や闇といった属性を持っている人間は少なくまだそっちの方でここまでの選民意識を持っているのならわからなくもないが土属性でここまで威張る意味が全くわからない。世間ではありふれた属性すぎて「ふーん」で終わる属性なのに。


『そ、それでもこれ以上こんな奴を叩いてしまったらお父様が手を痛めてしまうわ!だからもう行きましょう?ね!お母様も!』


『おぉそうかミルーは私の心配をしてくれているのか。ありがとう』


『本当にミルーは心の優しいいい子ね』


 さっきまで鬼の形相で俺を見ていたくせにミルー様を見る時は慈愛に満ちた親の顔をしている。そのギャップに恐怖と嫌悪が湧き上がる。


『ふんっ!ミルーに感謝するんだな!』


『ッぐっ』


 そして最後に子爵は俺を蹴り倒すとミルー様と夫人を連れてこの場から立ち去った。


 …くそっ痛い…油断してた。


『…ジージル大丈夫?』


『…はい。大丈夫です』


 蹴られた箇所を手で押さえていると物陰に隠れていたルルー様が出てきて俺に心配そうに近づいてくる。


『…はい大丈夫です。…でもまたミルー様に助けられました』


 ミルー様は両親と同じく俺達を見下し意地悪もよくしてくる。だが、だからと言って完全に良心がないわけではないようで子爵夫妻が酷い暴力を振るいそうな時にはさっきのようになんだかんだ理由をつけて助けてくれる。


 …これを知っているからこそルルー様はミルー様がいい子だと言っていたのか。


『…ごめんなさい。何もできなくて』


『それは仕方がありませんよ』


 申し訳なさそうに謝るルルー様に微笑む。もしあそこにルルー様が出てくれば事態はさらに悪化するだろう。それは今までの経験からもわかることだ。


『…あのね。ジージル』


『はい。何ですか?』


『最近ミルーの様子がおかしいような気がするの』


『おかしい?…確かにそうですね』


 最近のミルー様は何かに追われているように苦手な勉強に取り組み本を読み漁っていた。今までは勉強の時間になればなんだかんだと理由をつけて両親に甘えて逃げていたのに。それに俺達にも以前のように突っ掛からなくなってきてもいた。


『私はそれが気になって仕方がないの』


『…気持ちはわかりますがミルー様に理由を聞こうにも……』


『ええ。ミルーには常に両親がついているから声なんてかけられないわ』


 この家に来て初めて知ったことだがミルー様には常に子爵夫妻が張り付いている。見ているだけでも息が詰まりそうな光景になんど顔を顰めたことか。


『だから私が何とか両親の意識を逸らすからジージルにはミルーをどこかへ連れ出して話を聞いてあげて欲しいの』


『なっ!?そんなことをすればルルー様がっ!それにそれなら俺でもっ』


『いいえ。私ではミルーの力になれない。私は外にほとんど出たことがないから普通がわからない。でもあなたなら外の世界を知っている分きっとあなたの話はミルーのためになるわ』


『ルルー様…』


 ルルー様は聡いお方だ。ミルー様の悩みも大体の見当がついているのだろう。だからこそ俺がミルー様の話を聞くのに適任だと思っている。だけど…


『ふふ。私なら大丈夫よ。それに自分の妹のためですもの。これくらい平気だわ。だからお願いジージル。ミルーを…』


『……わかりました』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」  はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。 「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」  ──ああ。そんな風に思われていたのか。  エリカは胸中で、そっと呟いた。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...