私、あなた達の味方ではないから。

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7.sideジージル

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 俺が9歳の頃親が死んだ。それから親戚に引き取られることになっていた俺をミルー様の父であるザルコーノ子爵が待ったをかけて俺を引き取ると言った。親戚の奴らは俺が貴族に引き取られると言うことで「よかったな」と笑っていたが、俺は内心嫌な予感しかしなかった。それを言おうにも子爵は強引に「大切な親友の子だから」と言って俺を引き取った。


 …何が「大切な親友の子」だ。確かに父と子爵は友人ではあったが最近では疎遠になっていた。その理由は俺が土属性を持っていなかったからだ。伯爵は父に連れられ屋敷に来る俺を見るたびに「残念だ」「可哀想に」といい俺を見下していた。一番初めに会って俺を見た時のセリフも


『…はぁぁ。君の子ならば優秀な土属性の使い手が生まれただろうと思っていたのにまさかこんな出来損ないの子どもが生まれてしまうとは…君もついていないな』


 と父に向けて同情的に言葉を発した。一瞬俺も父も何を言っているのか分からなかったが子爵の頭がおかしいことだけはわかった。そこからも俺への態度は日を重ねるごとに悪化していった。少しでも粗相をしようものなら手を上げられることまであった。そのため父は子爵と言い争うことが多くなり絶縁間近まで仲は悪くなった。こんなことがあってもまだ縁を完全に切らなかった理由はザルコーノ家の長女であるルルー様のことがあったからだ。


『ルルー様も大変ですね…』


『仕方がないわ。お父様達の期待に添えなかったんだもの』


 そう言って儚げに微笑むルルー様。ルルー様の家族はみんなおかしい。何故そこまで属性に拘るのか理解ができない。子爵夫妻からの誘いを父はいつも顔を顰めて断ろうとしていたが、行きたいとついて行くと俺はいつも父にお願いしていた。父はその言葉に難を示しつつも子爵家へと行く際には俺を連れて行ってくれていた。子爵に会うのは俺だって嫌だ。だけど俺はルルー様が気になってしょうがなかったのだ。親友だと言っている父の子でもある俺にまで平気で暴力を振るってくる奴らだ。ルルー様だって危ないはず。


 だからこそいつも父について子爵家へ訪れていた。父が子爵夫妻と話している時だけはルルー様は安心して休むことができる。その間少しでも気晴らしになればと思って面白話をルルー様に聞かせる。そうしてクスクス笑うルルー様を見ると安心するのだ。だけど


『またあなた達2人でこんな所でお喋りしているのね!残念な者同士が集まって何をしているの?』


 そう言っていつも俺たちの話の邪魔をするミルー様。ミルー様も子爵夫妻同様ルルー様を見下し、虐げている。


『…別にミルー様には関係ありません』


『まぁ!何が関係ないの?私は何をしているのか聞いているだけでしょう?それに関係ないって言うのなら私の視界に入らないでよ。いい迷惑だわ!貴方達みたいな出来損ないを見ていると気分が悪くなる!』


 そう言ってまだ小さいながらに胸を張って威張るようにして俺らを見下すミルー様。ミルー様は黙っていれば可愛いのに、言動が子爵夫妻にそっくりで嫌悪が湧き立つ。何故自分の家族であり自分の姉でもあるルルー様を平気で馬鹿にして見下せるのか理解できない。


『………』


『あら?今度は黙りなの?』


『…ミルー。ジージルとお話をしたいのなら一緒に話をしたいと言わなくてはダメよ?』


『なっ!?お姉様は何を言っているんですか!そんなわけないでしょう!全くもう!!』


 ルルー様の言葉にミルー様は怒りながらそそくさとこの場を去っていく。何しにきたんだろう?


『ごめんなさいねジージル』


『…いえ。でもルルー様は本当に大丈夫なんですか?』


 こんなにも自分を見下してくるような奴らと四六時中一緒にいることを想像するだけで息が詰まりゾッとする。


『…大丈夫よ。だってミルーがいるもの。ミルーはとてもいい子だから』


『……え?』


 自分の姉を平気で見下す奴がいい子?


 …もしかしてルルー様はこんな状況に置かれているために頭がおかしくなってきているのかもしれない。そう思ってつい同情的な目を向けてしまう。


『…ふふ。そんな目で見ないで。ミルーはねとても単純で純粋な子なの。きっとあなたもミルーときちんと話せばあの子の良さがわかるはずよ』


『………』


 ミルー様と仲良くするつもりはないがルルー様が言うことだから難しい顔になりながらも頷く。そんな俺をクスクスとルルー様は笑いながら見ていた。


『大丈夫。あの子はちゃんとした常識の持ち主だし両親とは違うわ…』



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