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しおりを挟む「……すみませんミルー様。ちょっと聞き取れませんでした。もう一度お願いできますか?」
「だからお姉様の婚約者であるカーバル様から婚約の打診が来たのよ」
「……は?まじですか?」
「ええ」
私の言葉にようやくジージルが私を見た。その目は大きく見開いているが予想していたような歓喜の色はなかった。
「……まさか受けませんよね?」
「さぁ?とりあえず相手の出方を見てみるわ」
「…出方を見る?」
「ええ。非常識にも姉と婚約していながら私との婚約を打診してきたのよ?確か明後日にはカーバル様がお姉様に会いに屋敷に来るはずだから私も会ってくるわ」
「ルルー様とカーバル様が会っている時にですか?」
「当たり前でしょう?」
カーバルと2人きりで会うなど寒気が走る。カーバルは努力もしないナルシストだ。日頃から姉に負けないように嫌いな勉強に励み、魔法を鍛えている私からすればヘラヘラとしてなんの努力もしないあの男は嫌いな男の類だ。それなのに何故かカーバルは私を自分より勉強ができないか弱い女性だと思い込んで絡んでくる。これも日頃両親が私の身体は弱いと言っているせいだ。体調を崩したことなど5歳くらいまでの話でそこから今まで風邪もひいたこともない健康体なのにいつ、誰の話をしているんだと言う話だ。
「…でも子爵夫妻の事ですからカーバル様との話は乗り気なのでは?
「そうなのよ。ほんとふざけてるとしか思えないわ」
「…じゃあそれでそのままカーバル様と結婚することにでもなったらどうするんですか?」
「どうしましょうね~」
予想以上のジージルの話の食いつき方に少し面白くなって来る。もしかして私の心配をしている?いつもは素っ気なくほとんど私の顔を見ることもないジージルが私を見ていることに愉悦を感じる。だけどだんだんと私を見る目が据わってきているように見えるのは気のせいだろうか?
「…ミルー様なんだか楽しそうですね」
「ええ。そうね」
「………」
ジージルの様子に少し揶揄い気味に返事をしてしまうが、これ以上怒らせるのは本意ではないため心配しないように伝える。
「別にそんなに心配しなくても大丈夫よ。それより心配なのはお姉様だわ」
明後日カーバルと両親がどんな行動を起こすのかは大体の予想はつく。だからこそ姉をどうするか…。あの両親のことだから何も持たせずに姉を外に放り出すくらいのことはする。悔しいがやっぱりジージルが姉を連れてここから逃げ出すのが1番安心できる。
「………そんなことどうでもいいですよ」
「…え?」
姉のことを考えていると空耳が聞こえた。ちょっと耳の調子がおかしいかもしれない。
「だから今はルルー様のことはどうでもいいでしょう?」
「……は?」
……え?どうでもいい?姉のことなのに?予想外のジージルの言葉に呆気に取られてしまう。
「今大切なのはミルー様とカーバル様の話でしょう?何が出方を見るですか?何が心配ないと?子爵夫妻は乗り気なのにどこにそんな根拠が?」
「ジ、ジージル?」
ジージルは低い声を出しながら私を睨みつける。
…いや、なんで私が睨みつけられないといけないの?
「…ミルー様はどんな結婚相手をお望みなんですか?」
「えぇ?」
急に結婚相手の話?今の話から何でそこにいったのかがわからない。でも私が望む相手はただ1人。だけどジージルは姉に夢中で私のことなど眼中にないはず…。
「…別に特に何も望まないわ。強いて言うなら暴力を振るってきたり、金遣いが荒いとかではない限りは結婚相手なんて誰でもいいわ」
「誰でも…。では相手が浮気性の男でもいいと?カーバル様は自分の婚約者の妹に粉をかけるような男ですよ?他にもふらふらしていてあまりいい噂は聞きませんが?」
「だからまだ話を受けるだなんて決まっていないわよ?でも別に公の場ではきちんとしてくれて義務を果たしてくれるのなら浮気をしても気にしないし愛も求めないわ」
「はぁ?」
「…何よ。何か文句でもあるの?どうして怒ってるのよ」
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