私、あなた達の味方ではないから。

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 ベッドに寝転びながらこれからどうするかを考える。両親にカーバルは姉の婚約者だと言った所で聞く耳は持たないだろう。両親のことだから姉との婚約はさっさと破棄して私とカーバルを結婚させようとするだろう。カーバルが幼い頃姉を見初めたからこそ、両親はまだ姉をこの家においているのだ。そうでなければとっくの昔に理由をつけてこの家から追い出している。


 母達には無理を言ってこの歳まで婚約者は設けないで欲しいと頼んでいたため、私に婚約者はいない。両親にとってカーバルが姉との婚約を破棄し、私と婚約を結び直すと言うのならば両手を挙げて歓迎するべきものだろう。なんの障害もなく伯爵との縁は切らずにこれで姉をこの家から追い出すことができるのだから。


「………」


 ベッドから起き上がり、そっと部屋を抜け出して姉の秘密の場所へと向かう。


 姉と私は別に仲のいい姉妹ではない。姉への出来損ないだという誤解は調べている内に解けたし、両親達が異常だと言うこともその時にあった出来事でちゃんと理解している。だが誤解が解けたからと言ってすぐに仲良くなれるわけでもないし、今まで両親と一緒になって姉を見下していたのだ。そうそう態度も変えられない。だが自分のプライドや気持ちから放置もできなかったため、姉のことは別に好きでもなんでもなかったが、仕方がなく一応ケジメとして色々と謝罪を込めてやったのはやってあげた。


 だけど今思い返せば怒鳴るように謝ってしまったり、気合いを入れすぎて握りつぶして萎れてしまった花を渡してしまったり、緊張で躓いて姉の数少ない衣服を破いてしまったりと色々とやらかしてしまったように思う。そしてそんな私を姉はいつもポカンとした顔で見ていた。


 まぁそれで少しは話をする程度にはなったが今でも仲がいいというほどでもない。それに姉と関わるにも注意が必要だった。もし私が姉と話しているのが両親に見つかれば姉は折檻を受けるし私も怒られる。


『貴様!!私達の許可なくミルーに近づくな!!』


『ミルー貴方もあんな無能と話していたらダメでしょう!!あなたまで無能になってしまったらどうするの!!』


 そう言って私が姉と関わるのを両親は嫌がる。だけど姉を貶める時だけは私が姉と話すのを許す。そこでまた姉を擁護するかのような言葉を発すれば姉は私を唆したと殴られ、また私は叱られる。


 そして、まるで監視するかのように四六時中私に張り付き姉がどれほどダメで愚かな人間か。私がどれだけ選ばれた存在なのかを永遠と聞かせてくる。これが本当にうるさいし、やっぱり定型文のお決まり言葉しか言わずめんどくさい。だからこそ姉と面と向かって関わることなんてほんとんどない。それに姉は放っておいても大丈夫なタイプだ。


『…お姉様は私のこと嫌い?』


『嫌いじゃないわよ?ミルーは私の可愛い妹だもの』


 姉は両親と一緒になって自分を馬鹿にし虐げ、姉には与えられることもない両親からの愛情を一心に受けて育っている私に向かって、優しく微笑みながら可愛い妹だというような馬鹿でお人よしな人だ。


 そんな姉だからこそ、姉は両親には嫌われ何かにつけて折檻されたり食事を抜かれることはあるけれど、屋敷の中で姉に味方している者は多く、影ながらみんな姉を守っている。だから私が何か手を貸すまでもない。


 そんな姉の味方の使用人達によって作られたのが屋敷の中にある庭の草木をかき分けた先にある隠された小さな空間だ。そこには小さな畑のようなものが作られており、これが姉にとって大切な食料元になっている。姉は両親によって平気で3日ほど食事を抜きにされることが多いから。


 この場所は秘密の場所だからこそ静かで近くに両親の気配も感じない落ち着ける場所だった。私がここを知ったのは偶然だけれど一応姉には許可をもらっているしいつでも来ていいとも言われている。両親に愛されていると言っても毎日毎日、中身のない同じ言葉を延々と聞かされるのは想像以上に苦痛だ。


 だけどここには滅多に来ない。変に両親に勘づかれて姉の唯一の場所を奪うわけにもいかないから。でも今日みたいな日にはどうしてもここに来たくなる。…いや、ここにいる人物に会いたくて来たくなる。


「どうしたんですか浮かない顔をして?」


 私が踏み入れた場所には赤い髪と淡いオレンジ色の瞳をした青年がいた。


「別に何でもないわ。ちょっと面倒なことになりそうで休みに来たのよ」


「そうですか。…バレていませんよね?」


「ムッちゃんと警戒していたし確認もしたわよ」


「それならいいです」


 澄ました顔をしながら私を見た後また畑をいじりはじめる男。姉と同い年でこの屋敷の下男として働いている男だ。


「あなた仕事は?下男のくせにまたサボっているの?」


「別にサボってなんかいませんよ。今は休憩時間ですし、昨日ルルー様に頼まれたので様子を見に来ただけですから」


「…へー昨日…ね。そんなこと言って毎日ここに来ているのでしょう?」


「ま、そうですね」


 私の言葉にあっけらかんと答えられ男…ジージルにイラッとする。


 やっぱり毎日ここに来ているんじゃない。何が『お姉様に頼まれて』よ。毎日来ているのなら頼まれたも何もないでしょうが。


 それに何が昨日だ。さっきも姉と2人で会ってたくせに。本当イライラする。


 …私にはずっと昔から好きな人がいる。でも今、目の前にいるその人物は私の姉のためにせっせと畑を整えている。


 「…はぁぁ」


 …本当、お姉様のことが好きね。


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