3 / 15
3.
しおりを挟むベッドに寝転びながらこれからどうするかを考える。両親にカーバルは姉の婚約者だと言った所で聞く耳は持たないだろう。両親のことだから姉との婚約はさっさと破棄して私とカーバルを結婚させようとするだろう。カーバルが幼い頃姉を見初めたからこそ、両親はまだ姉をこの家においているのだ。そうでなければとっくの昔に理由をつけてこの家から追い出している。
母達には無理を言ってこの歳まで婚約者は設けないで欲しいと頼んでいたため、私に婚約者はいない。両親にとってカーバルが姉との婚約を破棄し、私と婚約を結び直すと言うのならば両手を挙げて歓迎するべきものだろう。なんの障害もなく伯爵との縁は切らずにこれで姉をこの家から追い出すことができるのだから。
「………」
ベッドから起き上がり、そっと部屋を抜け出して姉の秘密の場所へと向かう。
姉と私は別に仲のいい姉妹ではない。姉への出来損ないだという誤解は調べている内に解けたし、両親達が異常だと言うこともその時にあった出来事でちゃんと理解している。だが誤解が解けたからと言ってすぐに仲良くなれるわけでもないし、今まで両親と一緒になって姉を見下していたのだ。そうそう態度も変えられない。だが自分のプライドや気持ちから放置もできなかったため、姉のことは別に好きでもなんでもなかったが、仕方がなく一応ケジメとして色々と謝罪を込めてやったのはやってあげた。
だけど今思い返せば怒鳴るように謝ってしまったり、気合いを入れすぎて握りつぶして萎れてしまった花を渡してしまったり、緊張で躓いて姉の数少ない衣服を破いてしまったりと色々とやらかしてしまったように思う。そしてそんな私を姉はいつもポカンとした顔で見ていた。
まぁそれで少しは話をする程度にはなったが今でも仲がいいというほどでもない。それに姉と関わるにも注意が必要だった。もし私が姉と話しているのが両親に見つかれば姉は折檻を受けるし私も怒られる。
『貴様!!私達の許可なくミルーに近づくな!!』
『ミルー貴方もあんな無能と話していたらダメでしょう!!あなたまで無能になってしまったらどうするの!!』
そう言って私が姉と関わるのを両親は嫌がる。だけど姉を貶める時だけは私が姉と話すのを許す。そこでまた姉を擁護するかのような言葉を発すれば姉は私を唆したと殴られ、また私は叱られる。
そして、まるで監視するかのように四六時中私に張り付き姉がどれほどダメで愚かな人間か。私がどれだけ選ばれた存在なのかを永遠と聞かせてくる。これが本当にうるさいし、やっぱり定型文のお決まり言葉しか言わずめんどくさい。だからこそ姉と面と向かって関わることなんてほんとんどない。それに姉は放っておいても大丈夫なタイプだ。
『…お姉様は私のこと嫌い?』
『嫌いじゃないわよ?ミルーは私の可愛い妹だもの』
姉は両親と一緒になって自分を馬鹿にし虐げ、姉には与えられることもない両親からの愛情を一心に受けて育っている私に向かって、優しく微笑みながら可愛い妹だというような馬鹿でお人よしな人だ。
そんな姉だからこそ、姉は両親には嫌われ何かにつけて折檻されたり食事を抜かれることはあるけれど、屋敷の中で姉に味方している者は多く、影ながらみんな姉を守っている。だから私が何か手を貸すまでもない。
そんな姉の味方の使用人達によって作られたのが屋敷の中にある庭の草木をかき分けた先にある隠された小さな空間だ。そこには小さな畑のようなものが作られており、これが姉にとって大切な食料元になっている。姉は両親によって平気で3日ほど食事を抜きにされることが多いから。
この場所は秘密の場所だからこそ静かで近くに両親の気配も感じない落ち着ける場所だった。私がここを知ったのは偶然だけれど一応姉には許可をもらっているしいつでも来ていいとも言われている。両親に愛されていると言っても毎日毎日、中身のない同じ言葉を延々と聞かされるのは想像以上に苦痛だ。
だけどここには滅多に来ない。変に両親に勘づかれて姉の唯一の場所を奪うわけにもいかないから。でも今日みたいな日にはどうしてもここに来たくなる。…いや、ここにいる人物に会いたくて来たくなる。
「どうしたんですか浮かない顔をして?」
私が踏み入れた場所には赤い髪と淡いオレンジ色の瞳をした青年がいた。
「別に何でもないわ。ちょっと面倒なことになりそうで休みに来たのよ」
「そうですか。…バレていませんよね?」
「ムッちゃんと警戒していたし確認もしたわよ」
「それならいいです」
澄ました顔をしながら私を見た後また畑をいじりはじめる男。姉と同い年でこの屋敷の下男として働いている男だ。
「あなた仕事は?下男のくせにまたサボっているの?」
「別にサボってなんかいませんよ。今は休憩時間ですし、昨日ルルー様に頼まれたので様子を見に来ただけですから」
「…へー昨日…ね。そんなこと言って毎日ここに来ているのでしょう?」
「ま、そうですね」
私の言葉にあっけらかんと答えられ男…ジージルにイラッとする。
やっぱり毎日ここに来ているんじゃない。何が『お姉様に頼まれて』よ。毎日来ているのなら頼まれたも何もないでしょうが。
それに何が昨日だ。さっきも姉と2人で会ってたくせに。本当イライラする。
…私にはずっと昔から好きな人がいる。でも今、目の前にいるその人物は私の姉のためにせっせと畑を整えている。
「…はぁぁ」
…本当、お姉様のことが好きね。
15
お気に入りに追加
458
あなたにおすすめの小説
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる