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ダンジョン学校編
山崎さんの事情
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風呂の準備をして部屋を出ると、ちょうど二つ奥の部屋から小川がちょうど部屋を出てくるところだった。
「さっさん、お風呂?」
「うん。小川ちゃんも?」
「そー、一緒に行くべー」
人懐っこく近寄ってくると、明るく誘う。その顔はいつものつけまつげアイラインバッチリ、メイクで作られた涙袋、黒目の大きく見えるカラコンという装備が外されているせいか、顔立ちの幼さが際立つ。
違和感を感じて、失礼ながら作菜は小川の顔をまじまじと見てしまう。
「さっさん何ー?ヤメて、今すっぴんだからしっかり見ないでー」
きゃー、エッチぃーと顔を隠す。そんな仕草をする理由も女性としてわかりながらも、それでも作菜はじっと見た後、口を開いた。
「…小川ちゃんって、いまいくつだっけ?」
「十八」
十八歳ねぇ…と呟きながら、こめかみをもんだ。
「で、なぁに考えてるの?」
歳を聞いた後、何か考え込んだまま温泉に来てしまった年上の女性に小川は詰め寄った。ダイエットしにきたの、と言っていた女性の体はお湯越しに見ても引き締まりつつあるのがわかった。停滞期に悩んでると言っていたのに、ずいぶんスムーズに痩せているように見える。ダンジョンダイエットってすげーと小川は感心した。
それにしても年上のお姉さんのおっぱいが大きい。揉んだらダメかな?と思春期男子のようなことを小川は思った。話し相手がそんなことを考えているとは思っていない作菜は、詰め寄られたことに気がついて少し身を離す。
「小川ちゃん…佐藤さんっていくつに見える?」
「え?確か、二十歳とか言ってなかったっけ?」
小柄で華奢な体型、言動の幼さに、男性陣の誰かがいくつ?と聞いたのが発端で、それぞれの年齢を言い合ったのは数日前。二十歳です!とニッコリ笑って言い切っていたので、そうか二十歳か、まぁ、甘やかされて育った子ならこれぐらいの子はいるだろう、とみんな納得したからそれで終わった。
しかし二十歳かと言われればメイク的には納得できるのだが、成人を過ぎしっかり社会人をやってそれなりのメイクをしてきた作菜だけは、それからずっと違和感を感じていた。
最初に温泉で行き合ったときの顔の幼さ、大人びて見えるように工夫されたメイク、実際に見たメイク越しじゃない十代の小川の肌。それなりにケアはしているのだろうけれど、額や頬にニキビができている佐藤と小川の肌。
「私、佐藤さん…十代に見えるんだよね。小川ちゃんより下の」
作菜の言葉に、キョトンと小川は見返した。十代と言われれば、確かに納得できるほど幼くはある。でもしかし、入学年齢制限でありえないはずだ。
「えぇー…でもー…」
「いや、わかるよ。言いたい事はわかる。でもさぁ…この子、十代じゃね?って考えが頭から離れないんだよぉ」
ダンジョン学校に入学するためには、戸籍抄本または謄本が必要となる。仮に十代だとしたら年齢の問題をどうやってクリアして、入学したのかさっぱりわからないのだが、しかし、彼女が十代の女の子に見えて仕方がない。
「…家出?」
「十代の家出少女が、払える入学代じゃないでしょ」
「親が送り込んでたら、それはそれで問題じゃん」
二人で顔を見合わせる。いや、まさかぁ…と思っていることが目と目を合わせ合うことでなんとなく分かり合えた。少しの沈黙の後、同時にため息を吐き出した。
本当に十代で、何かしらの手を使って入学していた場合は大問題だ。年齢的にも補導される。
「ケーサツ沙汰は勘弁してくれー」
「マジ、それな」
熱い温泉に、のぼせそうだった。
自分が考えた仮説に頭が痛くなり、久しぶりに酒が飲みたくなった。ちょうど明日は、レベルが上がったため疲れが溜まっているだろうし一区切りということで、午前中にスキル構成の授業と二者面談、午後からは休みというスケジュールのため、お酒を飲んでも良いだろうと温泉から上がったら売店へと向かった。久しぶりのアルコールのため、度数の低い梅酒の缶チューハイを一本と、ナチュラルチーズと素焼きのアーモンドをおつまみに買う。
ついてきていた小川が、ポテトチップスにチョコレート菓子、シュークリーム、ジャスミンティーを購入するのを眺める。
「若い」
「ん?」
「小川ちゃん、その食欲は、若い。私はもうそんな食生活はできない…」
「いやー、昔から代謝が良くてすぐ腹減っちゃうんだよねー」
照れたように小川が笑う。胃腸が丈夫でうらやましい。
「運動は、続けなよ…」
社会人になり、動かなくなったことで代謝が下がった実感のある作菜はしみじみ忠告した。リハビリを終えて体力を取り戻そうと、ウォーキングを始めたら体力の落ち具合にびっくりしたことを思い出す。
売店の片隅にあるイートインスペースに二人で座ると、ナッツとチーズ、小川のポテトチップスを開けて「かんぱーい」と梅酒の缶とジャスミンティーのペットボトルをぶつけ合う。ぽこんと気の抜けた音がした。
そこからはだらだらと好きな芸能人の話や昨日見ていたテレビの話など、くだらない話をする。なんとなくダンジョンの話は、無意識に避けていた。明日は半日は休みだから、昼ごはんは外に行こう、観光にいくのもいい、と話していると「楽しそうだなぁ」とのんびり声をかけられる。
振り向くとそこには、山崎がビールを持って立っていた。隣良い?ととりあえずは聞いてくるが、断られるとは思っていないのか、良いですよという前に、作菜の隣に座った。
「ザキさんも、お酒ー?」
「ええ、明日はとりあえず休みですしね」
「じゃあ、かんぱーい」
小川の言葉に釣られるように大人二人もかんぱーい、というとお互いに缶をぶつけ合った。ビールを一口飲むと、山崎が「これどうぞ」とビーフジャーキーを机に置く。
「何話してたんですか?」
「明日は、午後から観光に行こうかって」
作菜が答えると、ああ、と頷く。
「ずっと、ダンジョンとホテルの往復ですしね。気分転換は確かにしたい」
どこにいこうか、夕飯も外で食べようと一頻り盛り上がる。
会話が途切れたところで、前々から聞きたかったことを作菜は思い出した。隣に座る山崎に視線を移す。
「前から聞きたかったんですが、なんで山崎さん、なんでここいるんですか?ちゃんとお勤めしてますよね?」
「リストラされた人かもしれませんよ」
からかうように山崎は言い返す。その落ち着いた口調と態度が、リストラでダンジョンで一獲千金を狙ってここに来るであろう人とは違う。
リストラから一攫千金狙いならもっと切羽詰まった雰囲気になっているだろう。勤め人の大人の男らしい余裕が彼にはあった。
「まぁ、きちんと働いてる人って雰囲気がありますからね」
「野上さんのお勤めは?」
「小川ちゃんには言ったんですが、事故で怪我して入院して会社辞めて、今は実家でニートしてます。ここにはダイエットと体力回復に」
場違いそうな作菜がなぜいるのか疑問だったのか、答えると納得したような表情になった。そして、どこか困ったような雰囲気で作菜を見て、興味がありそうな小川に視線を移しビールを飲むとため息を吐き出した。
「僕はスポーツ用品メーカーに勤めてまして…そこそこ、ダンジョンには関わり合いの深い会社です。というか、スポーツ用品はどこのメーカーもダンジョン素材を使ったもの開発の競争が激しくなっています」
基本的には全てダンジョンドロップは政府が買取という形になっているが、新素材でなければ企業が冒険者と直接交渉して買い取るという形もできていた。
ダンジョン素材で作られるジャージなどは、不思議とダンジョンに来て入るとモンスターからの攻撃の衝撃などを和らげる。それもあって、基本的に買取という仕組みは無視されて、直接企業に素材を売りに行く冒険者もいるらしい。
「んじゃ、メーカーの人自らダンジョン潜って素材を取りに?」
ポテトチップスを食べていた小川が小首をかしげる。
「社員の安全性を考えれば、多少価格が高くなっても冒険者さんに頼むのが良いんですがね。 …問題は、僕の家の方でして」
「「家?」」
女性陣二人の声がそろって、思わず二人で顔を見合わせた。あまりのタイミングの良さに、山崎が小さく笑う。それで力が抜けたのか、どこか言い淀んでいた口を開く。
「僕の父方の祖母の家が、ダンジョンになってしまいまして。家は祖母と祖父が建てたものを手放したくないと所有権をそのままに、一般公開したまでは良かったんですが・・・・ダンジョンだったんです」
「ん?何ダンジョン?」
「…初級の、昆虫系ダンジョンだったんです」
ああー、と再び二人の声がそろった。山崎もそういうリアクションになりますよね、という表情になる。
素人でも入りやすい初級ダンジョンの中にも、人気不人気がある。素材がわかりやすく、様々な場所に活用しやすい動物系植物系は人気で、動きが遅く攻撃は当てやすいが、純粋に硬いため不人気な鉱物系に続き、なんか生理的にいやという人が多く不人気なのが昆虫系ダンジョンだ。
昆虫系のドロップ自体はとても注目されている。細いが強度のある糸や外骨格などのドロップは素材的には美味しいのだが、小型犬程度の大きさの虫を相手にして平静を保っていられる人は少ない。一部のマニアには人気があって素材は美味しいが、放置気味になりやすい傾向にある。
「土地の所有権を持っていると、その人がダンジョンを管理する必要があるんですよね?」
「え?そーなの?」
「そうです。よく知ってますね、野上さん」
「弟が大学のダンジョン科に行ってて…色々聞くんですよね」
嘘ではない。本当のことしか言っていないが、重要な部分はすっ飛ばした。それでも納得したのか、小川と山崎が納得する。
「人が来ないものだから、行政指導が入ってしまって…祖母は手放す気がないようだから上司に相談したところ、うちの会社でダンジョン攻略しながら素材を手に入れようってことになってね。所有者の孫だから責任持ってダンジョンの資格取ってこいと、五人ぐらいの虫が平気な同僚や後輩が通いで別のダンジョン学校行ってて早急に必要な僕だけは、合宿で最短で取れってことで出張扱いです」
温泉にじっくり入りながら、そこそこのんびり資格取れるっていうのは良いんですけどね、とビールをすすりながらぼやく。
「山崎さん、虫平気なんですか?」
「割と。小さい頃は昆虫採集とかしてました。…でも、どうだろうなー、虫かなり大きいって言うし、実際見たら逃げ出すかも」
アルコールにそんなに強くないのか、ビール一本だけで顔を赤くしながら、陽気に言う。多分、楽しいお酒の人なのだろう。
「でかい虫とかチョーヤダ。うちそれはムリ」
モンスターを相手にする覚悟はできても、でかい虫を相手にする度胸がない。
作菜も実家の猫サイズの虫を相手にする自分を想像して無理だ、と判じる。女性陣のテンションが駄々下がりしたのがわかったのか、申し訳なさそうに山崎がお開きにしましょうか、と気を利かせた。
「さっさん、お風呂?」
「うん。小川ちゃんも?」
「そー、一緒に行くべー」
人懐っこく近寄ってくると、明るく誘う。その顔はいつものつけまつげアイラインバッチリ、メイクで作られた涙袋、黒目の大きく見えるカラコンという装備が外されているせいか、顔立ちの幼さが際立つ。
違和感を感じて、失礼ながら作菜は小川の顔をまじまじと見てしまう。
「さっさん何ー?ヤメて、今すっぴんだからしっかり見ないでー」
きゃー、エッチぃーと顔を隠す。そんな仕草をする理由も女性としてわかりながらも、それでも作菜はじっと見た後、口を開いた。
「…小川ちゃんって、いまいくつだっけ?」
「十八」
十八歳ねぇ…と呟きながら、こめかみをもんだ。
「で、なぁに考えてるの?」
歳を聞いた後、何か考え込んだまま温泉に来てしまった年上の女性に小川は詰め寄った。ダイエットしにきたの、と言っていた女性の体はお湯越しに見ても引き締まりつつあるのがわかった。停滞期に悩んでると言っていたのに、ずいぶんスムーズに痩せているように見える。ダンジョンダイエットってすげーと小川は感心した。
それにしても年上のお姉さんのおっぱいが大きい。揉んだらダメかな?と思春期男子のようなことを小川は思った。話し相手がそんなことを考えているとは思っていない作菜は、詰め寄られたことに気がついて少し身を離す。
「小川ちゃん…佐藤さんっていくつに見える?」
「え?確か、二十歳とか言ってなかったっけ?」
小柄で華奢な体型、言動の幼さに、男性陣の誰かがいくつ?と聞いたのが発端で、それぞれの年齢を言い合ったのは数日前。二十歳です!とニッコリ笑って言い切っていたので、そうか二十歳か、まぁ、甘やかされて育った子ならこれぐらいの子はいるだろう、とみんな納得したからそれで終わった。
しかし二十歳かと言われればメイク的には納得できるのだが、成人を過ぎしっかり社会人をやってそれなりのメイクをしてきた作菜だけは、それからずっと違和感を感じていた。
最初に温泉で行き合ったときの顔の幼さ、大人びて見えるように工夫されたメイク、実際に見たメイク越しじゃない十代の小川の肌。それなりにケアはしているのだろうけれど、額や頬にニキビができている佐藤と小川の肌。
「私、佐藤さん…十代に見えるんだよね。小川ちゃんより下の」
作菜の言葉に、キョトンと小川は見返した。十代と言われれば、確かに納得できるほど幼くはある。でもしかし、入学年齢制限でありえないはずだ。
「えぇー…でもー…」
「いや、わかるよ。言いたい事はわかる。でもさぁ…この子、十代じゃね?って考えが頭から離れないんだよぉ」
ダンジョン学校に入学するためには、戸籍抄本または謄本が必要となる。仮に十代だとしたら年齢の問題をどうやってクリアして、入学したのかさっぱりわからないのだが、しかし、彼女が十代の女の子に見えて仕方がない。
「…家出?」
「十代の家出少女が、払える入学代じゃないでしょ」
「親が送り込んでたら、それはそれで問題じゃん」
二人で顔を見合わせる。いや、まさかぁ…と思っていることが目と目を合わせ合うことでなんとなく分かり合えた。少しの沈黙の後、同時にため息を吐き出した。
本当に十代で、何かしらの手を使って入学していた場合は大問題だ。年齢的にも補導される。
「ケーサツ沙汰は勘弁してくれー」
「マジ、それな」
熱い温泉に、のぼせそうだった。
自分が考えた仮説に頭が痛くなり、久しぶりに酒が飲みたくなった。ちょうど明日は、レベルが上がったため疲れが溜まっているだろうし一区切りということで、午前中にスキル構成の授業と二者面談、午後からは休みというスケジュールのため、お酒を飲んでも良いだろうと温泉から上がったら売店へと向かった。久しぶりのアルコールのため、度数の低い梅酒の缶チューハイを一本と、ナチュラルチーズと素焼きのアーモンドをおつまみに買う。
ついてきていた小川が、ポテトチップスにチョコレート菓子、シュークリーム、ジャスミンティーを購入するのを眺める。
「若い」
「ん?」
「小川ちゃん、その食欲は、若い。私はもうそんな食生活はできない…」
「いやー、昔から代謝が良くてすぐ腹減っちゃうんだよねー」
照れたように小川が笑う。胃腸が丈夫でうらやましい。
「運動は、続けなよ…」
社会人になり、動かなくなったことで代謝が下がった実感のある作菜はしみじみ忠告した。リハビリを終えて体力を取り戻そうと、ウォーキングを始めたら体力の落ち具合にびっくりしたことを思い出す。
売店の片隅にあるイートインスペースに二人で座ると、ナッツとチーズ、小川のポテトチップスを開けて「かんぱーい」と梅酒の缶とジャスミンティーのペットボトルをぶつけ合う。ぽこんと気の抜けた音がした。
そこからはだらだらと好きな芸能人の話や昨日見ていたテレビの話など、くだらない話をする。なんとなくダンジョンの話は、無意識に避けていた。明日は半日は休みだから、昼ごはんは外に行こう、観光にいくのもいい、と話していると「楽しそうだなぁ」とのんびり声をかけられる。
振り向くとそこには、山崎がビールを持って立っていた。隣良い?ととりあえずは聞いてくるが、断られるとは思っていないのか、良いですよという前に、作菜の隣に座った。
「ザキさんも、お酒ー?」
「ええ、明日はとりあえず休みですしね」
「じゃあ、かんぱーい」
小川の言葉に釣られるように大人二人もかんぱーい、というとお互いに缶をぶつけ合った。ビールを一口飲むと、山崎が「これどうぞ」とビーフジャーキーを机に置く。
「何話してたんですか?」
「明日は、午後から観光に行こうかって」
作菜が答えると、ああ、と頷く。
「ずっと、ダンジョンとホテルの往復ですしね。気分転換は確かにしたい」
どこにいこうか、夕飯も外で食べようと一頻り盛り上がる。
会話が途切れたところで、前々から聞きたかったことを作菜は思い出した。隣に座る山崎に視線を移す。
「前から聞きたかったんですが、なんで山崎さん、なんでここいるんですか?ちゃんとお勤めしてますよね?」
「リストラされた人かもしれませんよ」
からかうように山崎は言い返す。その落ち着いた口調と態度が、リストラでダンジョンで一獲千金を狙ってここに来るであろう人とは違う。
リストラから一攫千金狙いならもっと切羽詰まった雰囲気になっているだろう。勤め人の大人の男らしい余裕が彼にはあった。
「まぁ、きちんと働いてる人って雰囲気がありますからね」
「野上さんのお勤めは?」
「小川ちゃんには言ったんですが、事故で怪我して入院して会社辞めて、今は実家でニートしてます。ここにはダイエットと体力回復に」
場違いそうな作菜がなぜいるのか疑問だったのか、答えると納得したような表情になった。そして、どこか困ったような雰囲気で作菜を見て、興味がありそうな小川に視線を移しビールを飲むとため息を吐き出した。
「僕はスポーツ用品メーカーに勤めてまして…そこそこ、ダンジョンには関わり合いの深い会社です。というか、スポーツ用品はどこのメーカーもダンジョン素材を使ったもの開発の競争が激しくなっています」
基本的には全てダンジョンドロップは政府が買取という形になっているが、新素材でなければ企業が冒険者と直接交渉して買い取るという形もできていた。
ダンジョン素材で作られるジャージなどは、不思議とダンジョンに来て入るとモンスターからの攻撃の衝撃などを和らげる。それもあって、基本的に買取という仕組みは無視されて、直接企業に素材を売りに行く冒険者もいるらしい。
「んじゃ、メーカーの人自らダンジョン潜って素材を取りに?」
ポテトチップスを食べていた小川が小首をかしげる。
「社員の安全性を考えれば、多少価格が高くなっても冒険者さんに頼むのが良いんですがね。 …問題は、僕の家の方でして」
「「家?」」
女性陣二人の声がそろって、思わず二人で顔を見合わせた。あまりのタイミングの良さに、山崎が小さく笑う。それで力が抜けたのか、どこか言い淀んでいた口を開く。
「僕の父方の祖母の家が、ダンジョンになってしまいまして。家は祖母と祖父が建てたものを手放したくないと所有権をそのままに、一般公開したまでは良かったんですが・・・・ダンジョンだったんです」
「ん?何ダンジョン?」
「…初級の、昆虫系ダンジョンだったんです」
ああー、と再び二人の声がそろった。山崎もそういうリアクションになりますよね、という表情になる。
素人でも入りやすい初級ダンジョンの中にも、人気不人気がある。素材がわかりやすく、様々な場所に活用しやすい動物系植物系は人気で、動きが遅く攻撃は当てやすいが、純粋に硬いため不人気な鉱物系に続き、なんか生理的にいやという人が多く不人気なのが昆虫系ダンジョンだ。
昆虫系のドロップ自体はとても注目されている。細いが強度のある糸や外骨格などのドロップは素材的には美味しいのだが、小型犬程度の大きさの虫を相手にして平静を保っていられる人は少ない。一部のマニアには人気があって素材は美味しいが、放置気味になりやすい傾向にある。
「土地の所有権を持っていると、その人がダンジョンを管理する必要があるんですよね?」
「え?そーなの?」
「そうです。よく知ってますね、野上さん」
「弟が大学のダンジョン科に行ってて…色々聞くんですよね」
嘘ではない。本当のことしか言っていないが、重要な部分はすっ飛ばした。それでも納得したのか、小川と山崎が納得する。
「人が来ないものだから、行政指導が入ってしまって…祖母は手放す気がないようだから上司に相談したところ、うちの会社でダンジョン攻略しながら素材を手に入れようってことになってね。所有者の孫だから責任持ってダンジョンの資格取ってこいと、五人ぐらいの虫が平気な同僚や後輩が通いで別のダンジョン学校行ってて早急に必要な僕だけは、合宿で最短で取れってことで出張扱いです」
温泉にじっくり入りながら、そこそこのんびり資格取れるっていうのは良いんですけどね、とビールをすすりながらぼやく。
「山崎さん、虫平気なんですか?」
「割と。小さい頃は昆虫採集とかしてました。…でも、どうだろうなー、虫かなり大きいって言うし、実際見たら逃げ出すかも」
アルコールにそんなに強くないのか、ビール一本だけで顔を赤くしながら、陽気に言う。多分、楽しいお酒の人なのだろう。
「でかい虫とかチョーヤダ。うちそれはムリ」
モンスターを相手にする覚悟はできても、でかい虫を相手にする度胸がない。
作菜も実家の猫サイズの虫を相手にする自分を想像して無理だ、と判じる。女性陣のテンションが駄々下がりしたのがわかったのか、申し訳なさそうに山崎がお開きにしましょうか、と気を利かせた。
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