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ダンジョン学校編

二日目:初ダンジョン

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 元は温泉客に送迎に使われていただろう、小さなバスに揺られること数十分。
 その元レジャーランドは、姿を現した。小雨の降っている中見る廃墟の遊園地はなかなかのホラーで、廃墟マニアなら涎を垂らしそうなほど雰囲気があった。
 バスから降りると、雨に打たれたアスファルト特有の匂いがした。学校で貸し出していた透明なビニール傘をさすと、パタパタと雨が当たって音を立てる。

「不気味ぃ」

 小さく佐藤が言う。その言葉に「雰囲気あるよな」と、神田が同意した。
 全員がバスから降りると、それぞれの武器の入った袋やケースを受け取る。武器を持ったのを確認するとこっちだと小野川が先導して歩き出す。錆びたレジャーランドのゲートは、【菖蒲沼レジャーランド】の文字だけが妙にはっきりとしていた。アスファルトは意外としっかりしていて歩きにくくはない。
 雨の中の廃墟の遊園地を歩くこと数分、シャッターの閉められた売店を横目に歩くと遠くからも見えていた錆びた観覧車が近くなる。
 菖蒲沼レジャーランドという名前だけあって菖蒲沼と呼ばれる沼がシンボルとなっているが、水辺というのが一層廃墟のレジャーランドの不気味さを引き立たせる。
 元々ダンジョンができたときにはすでに閉園されていたレジャーランドだったのだが、元オーナーである土地の所有者の男性がまさかと思って見回ったところ発見されたダンジョンだ。
 元レジャーランドというだけあって土地が広いため、どこからでも誰でも侵入しやすくトラブルにつながりやすく何かあっても責任が取れないということで、すぐに国に売られた。それなりにトラブルがあったものの、現在では優良なダンジョン学校の実習場となっている。
 レジャーランドの入り口には監視カメラ、周りは森に囲まれているため入り込みやすそうで入りにくいのが特徴だ。
 肝心のダンジョンへの入り口は、ちょうどメリーゴーランドのあたりにあった。
 周りは草が生い茂っているのに、ダンジョンへの入り口だけ整備されていて一角だけ浮いていた。畑のダンジョンよりも大きな穴は、人工的に広げられていて屋根がついていて屋根の下には、ベンチと自動販売機、傘立てが置いてあり、とりあえずの配慮が現れている。

 ダンジョンの入り口は畑のダンジョンとは違って階段が作られていた。雨が入ってこないため、歩きやすくなっている。穴の中には落ち葉が溜まっていて湿り気を帯びた独特の土の匂いがした。
 階段正面にダンジョンへの入り口である横穴があって、小野川を先頭に生徒全員で入っていく。横穴は畑のダンジョンと同じくらいの長さで、すぐに大きな水晶クラスターのようなステータスチェッカーのある小ホールに出た。ダンジョン特有のひんやりとした空気が頬を刺す。
 畑のダンジョンとは異なり、ロッカーとベンチがいくつか備え付けられている。ロッカーに貴重品を入れるように言われたため、それぞれ財布やスマートフォンなどを入れていく。鍵をこの中に入れろと、小さめのボディバックが配られた。
 ゴロゴロと中に何か入っているボディバックのジッパーを開けると、ポーションが二本入れられていた。

「ポーションは保険だ。しかし、怪我をしないように気を付けろ」

 一階で使われることはほとんど使われることはないと、小野川は告げた。
 それぞれボディバックの中に、ポーションが入っているのかをチェックし、ロッカーの鍵を入れると講義が始まる。

「知っているかと思うが、これがステータスチェッカーだ。これに触れることによって、自分の現在の能力を数値化して見ることができる」

 そういって小野川がぺたりと無造作にステータスチェッカーに触れた。特に何が起こるわけでもなく、ステータスとやらが現れることもない。

「ステータスが見れるのは、本人と許可を与えたものだけだ。基本的にステータスは、他人に簡単に教えないほうがいい」

 トラブルの原因になる、と言葉が続けられる。
 特に注意したいのがスキルで、人によってはレベルアップするとその人だけの特殊なスキルが発現することもあり、それが原因で監禁されたり、未成年にもかかわらず奴隷労働のような働きをさせられたという事件も実はあったと伝えられた。

(ダンジョン怖っ!)

 思わず作菜は噛みしめるように思った。特殊なスキルがあったとしても、誰にも言わないでおこう。

「じゃ、ステータスチェックしてみろ。口に出してもいいし、心の中で思うだけでステータスは確認できる」

 小野川のその言葉に、それぞれが好きにぺたりとステータスチェッカーに触れる。

(ステータス)

 心の中で言ってみると、目の前にダブレットサイズの四角い板のようなものが現れた。ゲームのステータス画面とそっくりだ。レベルだけではなく体力・筋力・俊敏・器用・魔力・精神・運が並んでいる。女性の平均はどれぐらいかがわからないためなんとも言えないが、全体的に自分のステータスは良くないのだろうな、と作菜は考えた。若干、ガッカリしている自分はいるが、器用だけ妙に高いのは趣味の影響だろうかと疑問に思う。

「せんせー、これって平均どれぐらいなんすっかー?」

 学生のように手をあげて小川が聞く。それに小野川があー・・・と言いにくそうに声を上げる。
 不都合でもあるのだろうか、と生徒の視線が講師に向いた。

「確かに数値化されているから気になるトコロだろうが、データを集めたのは男女ともに自衛官と警察官のものだ」

 常日頃鍛えている方々と一般人では比較にならない。

「一般人のデータは今集めているところだな。みんな秘密にしたがる傾向がある。プライバシーに関わるので、あまり政府も突っ込めない部分だ。あくまで任意だが初期ステータスなら提出してもいいなら、あとで数値を書いてくれ」

 微妙な対応が、とても日本的な話だった。
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