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目指せ!王都

それは悪魔か亡霊か(said:ユーフェミア)

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 化粧下地を塗り、肌をマットな感じにする透明なフェイスパウダーを塗る。
 アイブロウペンシルで眉毛は直線的な上がり眉を意識して太めに、一本一本描く様に。
 自分で眉毛を描こうとしたが「私がやるわ」とお嬢様がアイブロウペンシルを手に取って言った。自分でやるよりも良いかと思って、男の子っぽい眉の描き方と眉の位置だけを教えて任せる。
 それが終わると自分でパウダーアイブロウで仕上げ。
 マスカラでまつ毛に塗っていく。まつ毛を長く見せるのではなく、黒く見せることが目的だからは割と適当。
 鏡でチェックする。ンー、まあぱっと見、髪色との違和感が少なくなったかな。
 元は現代日本人の成人女性なので、職業柄メイク控えますが、化粧品一式くらいは持っています。プチプラだけど。

「何その化粧」
「マスカラって言ってまつ毛を濃く長く見せるための化粧品。目力が上がるの」
「目力」
「どう」
「…第一印象、男の子?女の子?って迷う感じね」
「じゃあ、こんなもんかな」

 マジックバッグから、チュニックとズボンを取り出し着替える。その上からポンチョを羽織れば、旅姿の少年に見えなくもない。
 この男の子っぽい服は見習いでも出ていた給料でノラが買ったものだ。元々この子家出願望があったんじゃないかな。
 全身用の鏡でチェックする。ついでに顔を見られない様にキャスケットも用意すれば、一の鐘つまり午前六時まで三十分を切っていた。慌ててお嬢様に冷蔵庫とキッチンの使い方、お風呂の使い方を教える。
 冷凍したおにぎりとインスタントのスープを二人で食べるとノラが履いていたブーツを履いて「いってきます!」とルームを出た。





******



 騒がしい娘が居なくなると、一気に部屋はしんと静まり返った。
 主人が居なくなると、この部屋は驚くほど寂しい。

「ノラ…」

 ノラの顔をしたあの子は違う。ノラは一生懸命仕事を覚えようとしていたが、いつも何処か身の置き場がないような不安定さがある娘だ。
 ノラの母親は南国から嫁いで来た女性らしい。政略結婚なのか、恋愛結婚なのかはノラも知らない。
 水が合わなかったのか、ノラを産むと程なくして亡くなった。そのせいもあってノラは苦労したと寂しそう笑っていた。
 この辺にはない色彩のせいで苦労した娘。裕福な家の出だけど寂しい、その様子はどこか自分に近いような気がしてユーフェミアはノラを自分付きのメイド見習いにした。
 根が生真面目から真面目に仕事をおぼえようとして、警戒しながらも徐々に野良猫が懐く様に自分に近づいてくる様子が可愛かった。
 そのうち、妹のように思い始めた。
 それが良かったのか、悪かったのか今でも分からない。

 婚約が決まったと泣いたあの日からすぐに病が流行り、不安な日々を過ごす中、結局二人で病に罹ってノラが息を引き取ったのを見守った。
 もうすぐ自分も逝くのだなと、冷たくなっていくノラをぼんやり眺めて眠り、次に目を開けた時にはウロウロ彷徨いていた時の驚きよ!
 蘇る死体リビングデッドになったのかと警戒していたら、病人相手にオロオロしながらも看護し始めたので、殺すのはやめた。
 観察しているとどうもノラではないなと判断した。口調が違う、癖が違う、心構えも違う。なんなら声のトーンも違った。悪霊でも入り込んだと思ったが、ずいぶんお人好しの悪霊だ。
 どうにも可笑しいと見ていると、手紙を見せられ、突然訳の分からないスキルを発動させてユーフェミアをしっかり看護するものだからコレは手紙の内容を信じるしかないし、悪霊では無いなと確信した。
 しかし、肉体自体はノラのものと考えると非常に複雑な気持ちになる。
 どうやら、ノラの中に居るのは逃げようと考えていることが分かった。確かにこのスキルがあれば逃げやすいだろう。
 ノラと違って家族に対しての思慕も無ければ、ユーフェミアに対しての忠誠心も無いのだからここにいる理由もない。
 さて、自分はどうしようか。領主としてはそこそこだが家庭には興味のない父親。浪費と寄付が好きな義母。既に男にチヤホヤされるのが好きな異母妹。

 私も逃げたわ。

 ………。
 それは悪くないのでは?
 忌小屋は助からないと判じられた病人が入れられる小屋だ。自分も助からないと思われたから入れられた。つまり死人も同然という事。
 それなら出て行っても良いんじゃないかしら?

(異母妹は跡取りとしては不安だけど、顔は整っているからそれなりの男を捕まえることが出来そうだし、お父様が用意するでしょう)

 故郷愛とか跡取りとしての責任よりも、自由という言葉に天秤はぐらりと傾く。
 そんなことを思いながら過ごして、寝床を譲って、薬を用意し、病人でも飲みやすいもの、食べやすいものを用意するノラの姿をした何かに絆された。
 ユーフェミアは自分が箱入り娘である自覚がある。だが、入っていたはサリバンと言う特殊なだ。だからこそ役に立てるだろう。
 何よりノラだけで行動するのには容姿が幼い。成人に近い自分ならある程度フォローできる。

 乗り合い馬車に向かったノラ(仮)の背中見送り、随分と寝心地の良い寝台へと転がる。

「ちょろい女だったのね、私って」

 ちょっと優しくされただけで絆されるなんて。
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