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プロローグ

閑話

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 盗賊すら寝るど深夜に光源の魔法一つ灯してテクテク歩く。その横をお嬢様もテクテク歩く。

「コレからどうするつもり?」
「王都に行きます。それで護衛を雇って、ソーマラビアに向かいます」
「まあ、悪くないルートね…ただ、護衛じゃなくて奴隷を雇った方が良いわ」

 そうだった。この世界、奴隷制度があるんだ。
 でも、奴隷…奴隷ねェ…。
 めっちゃ抵抗あるわ。

「ンー…そこはもうちょい考えます。あ、そうだ。お嬢様ちょっとお願いがあるんですけど」

 そのお願いにお嬢様は目を見開いた。



*******


 一の鐘が鳴ってしばらくして、バタバタと俄に屋敷内が騒がしくなった。
 優雅さのカケラもない騒がしさに、辺境伯のエイデン・アルトゥール・サリバンは眉を顰めた。朝食前の日課である書類のチェックをやめて何事か聞こうと席を立とうとした瞬間、些か乱暴に執務室のドアがノックされた。
 
「入れ」

 許可すると「失礼します」と入って来たのは、執事の一人だった。家令はどうしたのかと思ったが、病気で伏せっていることを思い出す。

「どうした?」
「お嬢様、お嬢様が居られません!」
「は?」

 そう言われて頭に過ったのは、後妻の娘であるロザンナだ。母親に似た美貌の娘は、将来社交界の花となるだろう。
 ただ、娘は頭が軽い。
 見目の良い男に声を掛けられればホイホイ着いていきそうな危うさが幼いながら既にあった。
 病気が流行したことで、トモダチや商人を呼ぶことを制限したので退屈しているのは知っている。故に軽率に家を出るならロザンナだと考えた。

「ユーフェミア様が居られないのです!」
「何?」

 先妻の娘であるユーフェミアは、流行り病に罹り医者も匙を投げた。感染性の病のため隔離し、ろくな治療もさせていないはず。
 些か思うところはあるが、領主として病を広げないための判断をしたつもりだ。
 いつ、死亡の報告をされるのかと覚悟はしていたが、居なくなるなど予想外の報告だった。

「それと、お嬢様よりも前に発症したお嬢様付きのメイド見習いも居なくなっています」
「二人で逃げたとでも言うのか?病の体で?」
「おそらく」

 下品だが思わず舌打ちしてしまった。

「探せ!病をこれ以上広げるわけにはいかん!」
「かしこまりました」
 
 医者も匙を投げたと言うことは、治る見込みがないと言うことだ。
 そんな体で、病の子供二人で出て行くなど、正気の沙汰とは思えない。遠くに行くことは難しいだろうと考えた。
 この時は父親であるエイデンも、探せと命じられた執事も、その執事から捜索を命じられた兵士たちもすぐに見つかると思っていた。

 しかし、その後二人の姿は杳として消息は知れなかった。
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