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プロローグ

何て素敵なアイテムボックス

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 貴方、誰と聞かれてもすぐに答えることは出来なかった。
 足音が聞こえたので、すぐにベッドに戻って寝たふりをする。お嬢様も面倒事は嫌だったのか、横になって目を瞑った。

「なんで私がこんなことを…」

 相変わらず文句を言っているのは、今朝食料を持って来た女だ。
 飲めもしないだろうに、と言いながら、水差しを交換してスープをまた置き、朝持って来たスープ鍋を回収して出て行く。
 物語だとクズ野菜のスープを出すなんて描写があるが、いちいちクズ野菜でスープ作る手間をかけずに主人と使用人のために大量に作ったスープの余り持って来ているんだろうな。
 病人など無視して小屋ごとファイヤー!すれば良いもの、食料を与えつつ、積極的に危害を加えないのは後妻もその娘も派手な見かけと強気な態度に反して、小心者で信心深いからだ。
 だからお嬢様には危害を加えず、あくまでも家庭内の問題に収まる程度しか嫌がらせを行わず、離れに閉じ込めた。
 
「お嬢様、スープ飲みます?」
 
 起き上がって聞くと、どこか呆れたように溜息を吐かれる。

「飲むわ」

 今朝と同じ冷めたスープを同じ量で盛り、介助しながら食べさせると、私も遠慮無く食べる。できるだけ、ルームの中の食料には手をつけたく無いのでできるだけこっちの食料で腹を満たす。
 ヘレンにスープの上澄みだけを飲ませ、ジャックに水を飲ませる。ジャックに至っては、排泄する体力すら無いようだった。
 その間、お嬢様はじっと観察する様にこちらを見ていた。
 最後に体を拭くことできないので、せめてと三人に洗浄クリーンをかけるとまた目眩がした。

「話はあとでいいわ」

 ふらふらとベッドに転がる。
 囁くようなお嬢様の声にありがたく目を瞑った。

 目を覚ませば暗くなっていた。
 鑑定でルームの詳細を知りたいところだけど、お嬢様も目を覚ました気配を察知したのか、寝返りをうってこっちを見ているのが分かった。
 これ以上は引き伸ばせないか。
 諦めて他の二人寝ていることを確認すると、ルームを展開する。お嬢様は訝しげにルームの扉を見ているのが分かった。
 それを気にせず玄関のドアを開いて、後ろを振り向くとお嬢様も身を起こしたところだった。

「お嬢様、背負って良いですか?」

 熱があるせいでちゃんと動けないお嬢様に背を向ければ、大人しく背中に乗ってきた。
 思ったよりも簡単に持ち上げられた。ドワーフの血を感じる。
 背負ってルーム内に入り電気つければ、急に明るくなったことに驚いたのか強くしがみつかれた。そのまま、廊下を通り部屋の中に入りベッドに転がす。
 ベッドの柔らかさにお嬢様は驚いたようだった。
 ベッドの感触を確かめているお嬢様を見ながら、少し顔を顰める。思ったよりも発疹が酷い。薬をまとめているケースの中から体温計を取り出す。
 脇に挟むタイプだから抵抗があるかと思ったが、意外とすんなり測ってくれた。
 と言うか、抵抗する気力体力が無いのかもしれない。

「38度4分…高熱じゃん…お嬢様、寝て。話は熱が下がってから」

 そう一方的に告げると、物言いたげなお嬢様を無視して戸棚からゴム製の水枕を取り出そうとしたけど、前世より背が低くなっているから手が届かなかった。
 ンーとちょっと考えるとルームを抜け出し、テーブルの近くに置いてあった丸椅子を持って来て、それに乗っかり今度こそ水枕を取り出して氷と水を入れて口を閉じる。
 風呂場の脱衣所からタオルを持って来ると水枕に巻きつけ、ベッドに力なく転がるお嬢様の頭の下に差し込む。じんわりと頭が冷えてきたのか、ほっと息を吐き出す。薄手の毛布を掛けるとうとうととし始めた。
 この熱で良くスープとは言え、食べたな。
 知らん人間に対して弱みを見せたくなかったのか?
 寝たことを確認すると私も動き出す。昼まで寝たせいで睡気がさっぱり来ないので、諸々のことをやってしまおう。

 洗浄クリーンで身綺麗にしたら、髪の毛をバンダナを被って纏める。
 まず、取り出したのは本葛の粉。お高かったヤツです。
 本葛でできた葛粉は葛根湯の元にもなっている葛からできている。そのため、葛根湯ほどでは無いが解熱効果があるのだ。
 んー、味は砂糖より馴染み深い蜂蜜かな。ここに生姜とレモンを入れても良いけど、口の中に水疱があると刺激になって痛くなるから辞めておこう。
 手をしっかり洗ったら小鍋でお湯を沸かしてその中に、葛粉と蜂蜜を鍋に入れて透明感ととろみがつくまでシリコンスパチュラで混ぜていく。
 とろみがついたら火から下ろして、ローテーブルまで持っていき鍋敷きの上に置いて粗熱が取れるまで放置。
 
 それが終われば、冷凍庫からミックスベジタブルを取り出してレンジで解凍した後、オーブンを百七十度に予熱する。
 キッチンスケールに置いたボウルに卵とサラダ油と牛乳、塩胡椒を入れて、ホットケーキミックスを投入。生地を作り終わったら適当に切ったプロセスチーズとウインナー、ミックスベジタブルを混ぜる。
 パウンドケーキ型にクッキングシートを敷いて、生地を流し込む。丁度予熱が終わったので、オーブンにいれて五十分。塩味のケーキ、ケークサレだ。
 冷えた葛湯はマグカップ二杯に入れて、ラップをして冷蔵庫。
 小鍋とボウルを洗って布巾で拭いて水気を取ると、ボウルにヨーグルトと卵とバニラオイルを入れて、ホットケーキミックスを入れて混ぜる。牛乳でも良かったがヨーグルトに変える事で腹持ちを良くする。
 時間があれば、自家製ホットケーキミックスを作るし、一晩生地を休ませるなんて工夫もするけど、今はともかく量産が先。
 温めたフライパンは一度濡れた布巾で温度を落ち着かせる。ジュゥゥゥという音を聞いたら、フライパンをコンロに戻して弱火でバターを溶かし、ホットケーキ生地をとろりと入れて焼く。
 両面綺麗に焼けていることを確認したら、次々にアイテムボックスに入れる。
 最後の一枚を焼いたところで、ケークサレが上がった。竹串を刺して生焼けじゃ無いかをチェック。
 しっかり焼けたようなので、まな板で切り分けて端の一切れを味見する。概ねホットケーキミックスの味だが、チーズがなかなか良い感じ。
 切ったケークサレはアイテムボックスへ。
 いつも癖でボウルを洗って使ったが、洗浄でいけるんじゃね?と言うことで使った器具に向かって洗浄クリーンをかけてみた。
 綺麗になった。
 ヤッター!!!!見習いの仕事が!一つ楽になったぞーーーー!!!!!
 ヒャッホーウ!と声を出しそうになったが、病人がいることを思い出し声を出すのを我慢する。
 最後に米を炊飯器に仕込み、朝五時にセットしたら作業は終了。
 お風呂に入りたいが、それはそれで問題が出そうなのでもう一回洗浄クリーンをしておしまい。
 パジャマ代わりに着ている高校時代のジャージに着替える。落ち着く。

 お嬢様はしっかり寝ているようだが、呼吸が荒い。
「寒い」と小さな声が聞こえたので、毛布じゃなくて布団に交換する。こっそり体温を測ってみれば38度5分と上がっていた。
 これはまだ上がりそう。いざとなったらアイスクリームを食べさせて解熱剤かな…。

 客用の布団なんて上等なものは無いので、ローテーブルを隅に寄せたらバスタオルを枕に大き目の膝掛けと夏用のタオルケットを取り出し、電気を消すとラグに転がった。

「ステータス」

 ぼんやりと暗い部屋の中、画面が浮き上がる。
 鑑定でまずはアイテムボックスをチェック。

 スキル:アイテムボックス レベル1
 物を特殊な空間に収納することのできる時空魔法の一種。
 一種一枠としてレベル数×10で収納容量枠が増える。物を出し入れすることで経験値が溜まる。
 特殊な空間なため時間停止している。
 生物の収納不可。(植物は可能)
 
 時間停止している。
 その文字を読んだ瞬間、ガバッと起き上がると冷蔵庫へ向かい。手紙を取り出し、卵と牛乳と生クリームをアイテムボックスに突っ込んだ。
 くっそ!もやしとレタスも入れたいけど容量が無い!
 アイテムボックスさん!どれぐらいでレベルアップしますかね!?
 冷蔵庫の前で未練がましくもやしを見ていると、ポーンと音が鳴り、天使に似た声が響いた。

『ルーム が レベルアップ しました』

 このスキルってレベルアップするの!?
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