転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛

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世界はとても残酷で(特にご飯が)

透子さん、初体験

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 葛木のおばあちゃまにサポートしてもらいながら、包丁を含めた調理器具一式(我が家に果物ナイフはあっても包丁が無かった)、粉類、卵と野菜と豚肉、胡椒(食品売り場のめちゃくちゃ片隅にあった)を購入した。
 黒胡椒しかなかったけど胡椒があって良かった…。ダディあたりに海外で買ってきてもらうルートしか考えられなかった。
 最悪自力で栽培…できるよね…?
 顔色の悪い透子さんに同情したのか、連絡先を交換してくれたのもありがたい。

「おばあちゃま、ありがとうー。作ったら連絡するね!」
「あんたは大人しく見てな。台所は危ないから」
「うん」

 バイバイと手を振って、葛木さんと別れる。
 良い出会いでした。そう言えば、醤油味噌はスーパーでも見かけなかったな…。
 ネット通販ならあるかな?
 地元でしか売ってないマイナー調味料だったらどうしよう…。
 …醤油味噌は存在してるよね?ね?
 流石に麹菌の培養して作るのは無理。
 そんなことを考えながら帰宅。
 お昼ご飯はいつものシリアルバーと鶏肉と野菜を混ぜてペーストにしたものとサプリメント。…今日、この非人間的な食事から私は卒業する!
 ウキウキソワソワしながらも、普段行かない場所に行った疲労でお昼ご飯を食べたら、スコンと眠りに落ちてしまった。

 はっと気がつけば寝心地のいいベッドの上。

「ご飯!」

 ガバッと起き上がって時計を見れば、まだ十五時だった。
 前世であればおやつの時間と心ときめく時間だけど、この世界ではおやつの時間って言うか、補給の時間って感じなんだよね…。
 薄ら甘みのついたオートミールを固めたようなクッキーっぽい何かを、牛乳と一緒に食べる…みたいな。
 牛乳はあるから、それはちょっと心の支えだよ…。ミロもココアもイチゴ牛乳の素も無いから、味変して楽しめないけど。
 希釈タイプのコーヒーはあるから、カフェオレはいける。ただ、カフェインが入ってるから、子どもは飲ませて貰えない。ノンカフェインのコーヒーは売ってない。コーヒーは完全に大人の飲み物。
 ん?牛乳と砂糖と卵があればプリンが…!あ、ダメだ。バニラが無い。
 転生者御用達のお菓子プリンだけど、バニラがないと卵感強すぎて甘い茶碗蒸しなんだよね…。…前世でバニラエッセンス入れ忘れたプリン作ったことがあるから、実体験としてわかる。
 バニラ…バニラエッセンスとかあるのかな…この世界。製菓用リキュールとかもないし…。
 いや、でも牛乳減らしてコーヒー入れれば、コーヒー風味のプリンができるのでは…?
 いやぁ、でも楽しいなぁ。
 今まではいかにスーパーに行き、食材をゲットするか、ってことばかり考えていたけど、どうやったら美味しいものが食べれるかを具体的に考えられる。
 うへへへ、と笑いが漏れた。
 おっと、こうしちゃいられない!
 待ってろコロッケー!

 キッチンを覗くと、ビビりながら透子さんがじゃがいもを茹でていた。

「竹串がすっと入ればよし…竹串…?竹の串…フォークとかでいいかな…?…う、うーん、まだ固い気がする…」

 適当にお湯の中に入れておけば、茹で上がるのにね。
 完全に未知の料理と言うものに混乱しつつ、沸騰するお湯から目が離せないようだった。
 効率を考えるなら、茹でてる間に野菜や肉を切った方がいいんだけど。
 まあ、暖かく見守ります。
 混乱する透子さんの後ろでジュースとオートミールのクッキーっぽいものを一人で用意して、料理を見学する。
 ぶっすぶっす、フォークで刺してるけど大丈夫だろうか、じゃがいも…。

「これぐらいでいいかな…?」

 ザバーっとお湯をシンクに捨てたところで、ようやく私に気がついた。

「お嬢様、起きてらっしゃたんですか!?」
「起きたんです」
「声をかけていただければ、私が用意しましたのに」
「透子さんの邪魔しちゃダメかと思って」
「だ、大丈夫ですよ!ほら、この通り」

 茹で上がったじゃがいもは、一個だけボロボロになっている。

「これ、あったかいうちに潰した方がいいんじゃないかなぁ」
「あ、そうですね」

 茹でたじゃがいもの水気を飛ばした方がいいけど、言えないよねー。
 不器用そうな手つきで透子さんは、しゃもじを使ってじゃがいもを潰す。
 ポテトマッシャーなんてものはない。ブレンダーもないし、フードプロセッサーもない。かろうじてミキサーはある。
 ナイナイ尽くしですよ…。
 ついでマヨネーズもケチャップもソースもオイスターソースも豆板醤系も見つからなかった…。
 コロッケは塩で食べる予定です。
 再現しやすいのは、転生者御用達のマヨネーズだよね…。…作り方はわかるけど、前世で上手くいった試しがないんだよー!
 どうしても油が全面に出たような味になってしまう…。しっかり混ざってないせい…?
 レシピ一つないのに、再現できる転生者しゅごい。

 これでいいのかしら…?と言う不安そうな声と共に炒めた肉と玉ねぎをじゃがいもと混ぜる。
 まあ、肉も玉ねぎも大きさがバラバラで、玉ねぎが生っぽそうなところもあるけど、肉には火が通ってるみたいだから大丈夫か。
 …自分で駄々こねておいてなんだけど、初手コロッケは難易度が高かったね…。
 ごめんね、透子さん。でも、どうしても食べたかったんだ…!

 たっぷりの油で揚げると言う作業は流石に無理だと思ったのか、フライパンに多めの油を入れて揚げ焼きすれば、こんがり狐色というにはやや色が濃いけどちゃんとコロッケができた。
 形は歪で大きかったり、小さかったり。
 結局、できたのは三時間以上経ってから。
 夕飯の時間としてはちょうどいい時間帯にコロッケは出来上がった。
 無機質なワンプレートの上にはシリアルバーと野菜のペーストのほかに、コロッケがごろんと乗っている。
 念願の!料理!

「いっただきまーす!」

 今世ではこんなに開けたことがないってくらいに、大きく口を開けてガブリとコロッケに齧りつく。
 調理時間が長くて冷めてはいるが、それでもまだ失われていないパン粉のサクッと感。
 バランスは悪いものの、それでも感じる肉と玉ねぎとじゃがいもの旨味。
 料理だ…。
 料理だぁぁぁぁぁ!

「美味しい!」

 うまー!うま~!!食べていると、透子さんも恐る恐るコロッケを食べ始める。

「あ」
 
 一口食べて、驚いたように口元を押さえる。

「美味しい…」
「ね。美味しいよ、透子さん」
「料理…って無駄なものかと思ってました」
「…でもコロッケ美味しくて、みのりは幸せ」
「そうですか…お嬢様が幸せなら料理しないといけませんね」
「そう。透子さん頑張って作ってよ」
 
 負担かと思いますが、我儘が許されている立場ですので、思いっきり幼女特権使いますわよ!

「あ、葛木さんに送る写真撮り忘れました!」

 透子さんの皿にも、私の皿にもコロッケは残っていなかった。

 
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