転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛

文字の大きさ
上 下
5 / 18
世界はとても残酷で(特にご飯が)

お菓子までディストピア

しおりを挟む
 結局パパは泊まらず帰って行った。良かった良かった。長時間居座られても会話が続かないしね。
 本棚探査を行えば結構見つけました、食べ物の本!
 やったぜ、ぐりぐら・しろくまちゃん・カラスさん!やはり絵本…絵本が、世界(の食)を救う…。
 コレなぁに?作戦ができる!
 頑張るぞ!


 作戦決行の前に幼女達とお茶会ですけどね。
 マンション内にあるちょっとした公園の様な空間には、休憩できる小さな東屋がある。
 暑くも寒くも無い時期なので、そこでお菓子を広げてお茶の用意をした。ちなみにコーヒーやお茶は希釈タイプ。原液を薄めて飲むのが一般的で、優秀な透子さんでも何故か濃かったり、薄かったりと味が統一しない…。
 今回お茶を用意したのは、豊華ちゃんのベビーシッター。

「はい、これがパパからのお土産。どーぞ」

 しっかりとした箱の中から出てきたのは、一見すればディアマンクッキーの様だった。
 少し分厚いクッキーの周りに、大粒のザラメ糖が塗されている。
 ちょっと黒いけど…。待って、売り物でもこのクオリティ?
 シッターさんを含めてみんなで食べる。

 あっま"
 
 ザラメ糖だけじゃ無い砂糖のざらっと感に、どことなく焦げ臭い小麦の香り。その奥に感じるバターの風味と焦げの苦味。

「甘くて美味しいね!」
「おいちいねぇ」

 幼女達の笑顔が眩しい。

「美味しい!こんなの久々に食べました」
「某有名店のやつらしいですよ」
「この砂糖!贅沢ですよね~」
 
 シッターさん達の笑顔も眩しい。

 そっかぁ、このクオリティで美味しいのかぁ。(絶望)
 あっま。お茶…うっす。そっか、豊華ちゃんのシッターさんも希釈できない人かぁ…。
 なんで…なんで前世を思い出しちゃったかな、思い出さなきゃ、幼女達と一緒に美味しいねって言えたのに…。
 それでも場を乱すことなく、美味しいねぇと言えた私を褒めて欲しい。
 お茶が終わると、幼女達と遊んで過ごした。


 同い年の子と遊ぶのは楽しいなー。
 思考は大人寄りだけど、感覚は幼女寄りなんだよね。
 つまり基本ベースは、名前も思い出せない北国のお菓子販売員<藤堂実。でも、お菓子販売員さん、食への執念生まれ変わっても手放してくれないの。
 私も美味しいを思い出しちゃったから、忘れられないし…。
 逆ハーレムや女の子が生まれない原因追求は、どっかに居る主人公に任せます。
 私は私の食生活を救うので精一杯。
 はー。(クソデカため息)美味しいもの食べたい!



 というわけで、今夜決行です。コレなぁに?作戦。
 寝る前に透子さんにコレ読んでと、11匹のニャンコの絵本を差し出す。
 字は読めるけど、読み聞かせは別腹です。
 透子さんのゆったりとした男の人よりも高く、女の人よりも低い声が心地よい。
 そう…心地よく眠く…。

「透子さん!コロッケってなぁに!?」

 っは!危ない!!寝ることろだった。

「それとなんで鳥さん丸焼きにするの?可哀想」
「え、そうですね。えーと、ちょっと待ってください」
 
 いきなり大声を出してしまったので、驚かせてしまいました…。
 透子さんは驚きながらも、エプロンからスマホを取り出し調べ始める。
 コロッケって大正時代からあるんだっけ?なら、調べればわかるはず…!
 イヤ、鳥の丸焼き良いよね…北京ダック食べたい…ケンタッ○ー恋しい…が、幼女の見える世界では鳥は鑑賞するものなのよ。
 都市部じゃ、食べ残し、生ゴミが極端に減ってカラスさえ見なくなってるからね。
 食べるなんてもっての外って世界なの…。唐揚げ食べたい。

「コロッケとは、茹でたじゃがいもを潰して炒めた肉や野菜を合わせ、パン粉をつけて油で揚げた料理…ですね」
「じゃがいもってなぁに?ご飯ってベシャベシャな物でしょう?」
「えーとそのベシャベシャの素と言いますか、えっと…食べ物です」
「じゃがいも食べてみたい!」

 コロッケとかハードルの高い食べ物は言わないわ。この際、茹でたじゃがいもにバター乗せて食べるだけでも良い。(必死)

「じゃがいも…え、茹でただけで食べられるの…?」

 スーパー?スーパーに行けば良いのかしら?
 透子さんが混乱している。
 まあ、基本的に女児の食糧や生活雑貨なんかは生協が持ってきてロッカーに入れ、コンシェルジュがチェックして我が家に運ばれるって流れだしね。
 二十代後半の透子さん自身も効率化した食糧で育った世代だから、おそらく生鮮食品とは縁がない。

「じゃがいも…」
「じゃあ、明日のご飯はじゃがいもを使ったペーストにしましょう!」
「やぁだぁ!茹でたじゃがいもぉぉぉぉ!」

 うわーん!と泣いてしまった。
 自分が思った以上に食事に対してストレスが大きく、じゃがいもすら手に入らない絶望感でいっぱいだった。
 ペーストもシリアルバーも物珍しさで頑張って食べてたけど、じゃがバターすら食べられないの~~~!?
 ギャンギャン泣いた末に寝落ちした。


 泣き過ぎたせいでショボショボする目を開けた。
 朝だー。けど、やる気が出ない。
 こうなったら、透子さんの目を盗んで脱走するかとも考えたが、スーパーの位置は知らないし、リスクがデカすぎる。
 詰んだか~?
 イヤ、諦めちゃダメだ。私は美味しいご飯が食べたい。
 あの効率だけを考えた非人間的な食事を続けてたら心折れる…。
 この情緒不安定さもきっとご飯のせい。
 白米たべたいよぅ…おにぎり、卵かけご飯、味噌汁はわかめがいいな…合わせるのは豆腐もいいけど、じゃがいもも好き…あさりの味噌汁も大好き…。
 あさりといえば、酒蒸しも良いよね…。ニンニクとバターをアクセントにしてさ…。
 ボンゴレも美味しい。パスタといえば、時々無性にミートソースとかナポリタンが食べたくなるのは私だけ…?
 幼女今幼女だから、お子様ランチが許されるわね…。ハンバーグに、エビフライに、オムライスにミニデザートにプリンでも付いてたら最高。



 ヤバい…食べられない不安と不満で、欲望だけが肥大していく…。


「お嬢様。スーパー行きますよ」


 マジで!?
 透子さん最高!!!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました

市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。 ……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。 それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?! 上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる? このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!! ※小説家になろう様でも投稿しています

処理中です...