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世界はとても残酷で(特にご飯が)

ユーリア・アノーヒナ

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 もう、何も考えたくなかった私は、透子さんに言われるままお風呂に入り、歯を磨いて、透子さんに仕上げ磨きされて、11匹のニャンコが活躍する絵本を読んでもらいねんねした。
 中身は大人だろうって?
 体と記憶の齟齬があるんだよ。
 ねこちゃんがんばえ~~~!って気持ちと、猫めちゃくちゃ破天荒やな…って心が二つある~~~状態なのよ。
 でも、明日にはがんばえ~!って方が強くなりそう。
 …コレ、夢じゃないかな。夢だったらいいな。




 まあ、夢じゃなかったですよね。
 天蓋付きのベッドに、猫足の白い椅子。天井に吊るされた照明はシャンデリア。
 外国のお洒落な子供部屋みたい。
 枕元にあったやたら手触りのいいテディベアを抱っこして、ベッドの中でゴロゴロしていると控えめにノックがされ、透子さんが入ってくる。
 目が合うと透子さんは驚いたように目を見開く。

「おはようございます。今日は早起きですね」
「うん。おはよう」

 一般的に八時過ぎが早起きかどうかは置いておく。

「今日は何を着ましょうか?」
「ンー、コレー」

 子どもの成長なんか知ったこっちゃねェ!と言わんばかりに取り揃えられた服の中からお気に入りの一着を選ぶ。
 バルーンのようにふんわりとした袖の、淡いパープルのワンピース。
 基本的にワンピースが好きなので選んだら、透子さんはほっとしたようだった。
 昨日から様子が可笑しいもんね。
 着替えさせようとする透子さんに、みのり一人でお着替えする!と主張してもったもたと着替える。
 五歳になっても着替えすら、人の手でしてもらうのが女児の普通。
 あらあら、一人でやりたがる時期なのね、と言う透子さんの視線を受けながらパジャマを脱いで、ワンピースを着込む。
 一人お着替え初体験の幼女でもこれぐらいはね…。
 顔を洗ってダイニングに行くと、透子さんが朝食を用意してくれる。
 スープにパンにサラダ、ご飯に味噌汁に鮭なんて物じゃなく、ナッツとグラノーラの入ったお皿に牛乳をかけたものと、オレンジジュース(正しくは、オレンジ味のビタミンなんかが配合された飲むサプリメントみたいな飲み物)と言う簡単な朝ご飯。
 物心ついた時からコレだし、このスタイルが一般的なんだろうな。決して透子さんが手を抜いているわけではない。

 食べ終わって歯を磨くとテレビタイムである。あれです。おかあさん○いっしょ。
 こちらだとおにいさんといっしょ。
 うーん。イケメン。
 テレビが終わると、この建物内にある温水プールで約一時間程度の水遊びをする。
 小さな頃から運動習慣を身につけましょうってことだよね…。

 バタ足やらボール取りゲームやらを、インストラクター付きで他の幼女と楽しみ、それが終わると昼食と昼寝。
 午後は散歩したり、字を習ったりして夕食。
 コレが藤堂実五歳の日常である。
 幼稚園や保育園には行かない。不特定多数が出入りしやすいところでは、女児は誘拐される可能性があるから。
 散歩にも透子さん以外の護衛が付く。
 おもちゃが欲しい。お洋服が欲しい。アレがしたい、コレはイヤ。叱られることは滅多になく、我儘は叶えられる。
 だって女の子は子どもを産めるから。
 この世で最も重要な生き物だから、真綿で包んで桐箱に入れて蝶よ花よ宝玉よと育てられるのだ。

 リビングでソファに転がりながら、タブレットを眺める。BGM代わりにお気に入りのアニメを流しているので、透子さんはおそらくアニメを見ていると思っているだろう。
 アニメ?数少ないけどあるよ。女性声優?いないよ。
 全て男性声優の声を加工してるか、両声類が大活躍だよ。
 村○歩君が引っ張りだこの世界線だよ…。


 女性減少現象を調べる。もちろんインターネットの情報を全て信じるわけじゃ無いけど、概要くらいは分かるからね。
 外に出た…と言っても、プールだけだけど気になったことがあったし、お昼寝して頭がスッキリしたら色々気になることが出てきた。
 一番気になったのは、と言う点。
 前の日本の見た青年誌?の広告。男性が少なくなって女性しか居なくなって、ハーレムになるやつ。
 アレ見て、減る対象が男性でも女性でもめちゃくちゃ管理されるんだろうなって思ってたんだよね。
 でも、管理はされているんだろうけど、そんなに息苦しくはないというか。
 出かけるにしてもGPSを着けて護衛が居れば自由だし、思ったより世界は殺伐としていない。
 単純に女性が少なくなるって労働力も減るってことなのに。

 と言うことで助けて大手検索サイトさん。

 現在の世界総人口は48.28億人。
 これは急激に減ったわけではなく、徐々に減っていっているから。将来的にはもっと減る予想。
 アフリカあたりは女性争奪戦でヤバいことになってるらしい。
 1980年頃から始まった女性減少にやや遅れて、日本はバブル期に突入する。世間では最後の祭りだと大騒ぎになったが、政府や大企業はガンガン研究やインフラにお金を注ぎ込んだ。
 大都市圏に人が集中するようにして、地方の過疎部は切り捨て。
 医学、薬学、工学、農学、食品化学などにガンガンドバドバ。このおかげで、前世と年代はあまり変わらないのにこっちの世界の方が科学技術が発達している。
 切羽詰まり度が違うだろうしね。
 ふんふん読み進めていくと、気になる記述があった。
 
 ユーリア・アノーヒナ。

 ロシア…この年代だとまだソ連か。
 ソ連の十四歳の少女だ。少し荒い画像の中で栗色の髪色のお人形のような女の子が、睨みつけるようにこちらを見ていた。

 管理されると考えたが、当然女性が減っていってることがわかった当初、その風潮はあった。
 子どもの産める年齢の女性を収容所に入れ、ともかく子どもを産ませようと言う女性の人権何ぞ知ったこっちゃない計画。
 実行に移さなかったのは女性だけではなく、女性の親兄弟、恋人、夫などの反発を恐れたから。
 しかし、そんなクソみたいな計画を実行した国がある。
 ソビエト社会主義共和国連邦。
 人類救済を謳い、12歳から40歳の女性を強制連行したのだ。
 もちろん、上手く行くはずがない。
 絶望した一人の少女の自殺を皮切りに、他の女性達も次々に自殺。
 そんな中で生き延びて、自殺した女性達の身内の助けもあってアメリカに亡命したのが、このユーリアらしい。
 亡命後、彼女は国連でスピーチをしている。

女性は家畜ではありません」

「私達は人であり、誰かの妻、恋人、娘であり、姉で妹です」
「人類が危機的な状況なのは分かっていますが、それが私達を踏みつける理由にしてはいけない、なってはいけないのです」
「踏みつけるのならば、今度こそ私は私の喉に刃を上手に突き立てましょう」

 十四歳の少女の精一杯の脅し。
 でも、効果は絶大だった。
 このスピーチが発信された次の日、若い女性ー世情を薄らとでも理解している12歳前後の女の子までーを中心に包丁あるいはロープが全世界で売れた。

 女の無言の脅しだ。
 お前達は人類滅亡を早める勇気があるか?

 その脅しに男性は降伏。
 女性を管理はすれど、自由は奪わずという体制へと緩やかに移行していったのがこの世界だ。

 ちなみにソ連崩壊もこの出来事を理由に前の世界より早まっている。
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