かいがらさんちまとめ

かいがら

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秘薬ちゃん+αのお話

昔話と未来の話(1)

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『早く遠くへ逃げるんだ!ここはもう長くは持たない!!』
『でも、それじゃおばちゃん達はどうなるの!?』
『判ってくれ…私達ドラケアの民は何があろうとその血を絶やしてはならない。私達は皆老いぼれだ、もう永くは生きられぬだろう。お前達しか居ないんだ……済まない』
『俺達がしっかり退路は確保してやる、だから…逃げてくれよ、おじちゃんだってたまにはかっこいいとこ魅せたいからよ』

遠くで龍が咆哮を上げる。建物や大地、引いては空間までもが歪み出したと錯覚する程にまで、その大きな物体がぶつかり合い。産み出された余波は突風を巻き起こし、私達の髪を靡かせる。しかしそれだけでは留まらず、服を切り裂き、肌に赤い線を浮かばせる。むしろそれだけで済んだのは、今、それから庇ってくれた村人の影から、赤い液体がぽたぽたと流れ落ちているからか。

『ひっ…やだ、そんなっ……』
『早く行け!!お前がここにいる間にも戦ってるヤツらが俺以上の怪我を負ってんだ!!!』
『私達にだって弱いけれど生の力は与えられるわ、心配しないで』

そう言って一人の老婆が男の切り刻まれた背中に手を当てると、ぽうっとかざした場所から緑色の淡い光が漏れ出す。するとどういう訳か、その光を受けた場所の傷がゆっくりと塞がっているように見える。

『はぁ…はっぁ……『秘薬』ちゃんだったら一瞬なんだけどな』
『やかましい、黙って治療を受けなさいよ』

軽口を叩きあっている老夫婦は、おちゃらけた口調とは打って変わって真剣な顔つきをしている。

未だに唖然とした私に、長老が語り掛ける。

『『秘薬』、もしここで貴女が手を貸したとして、あの狂った龍には勝てないでしょう。彼奴は文字通り”世界を越える”程の力を有しており、今、そこで動きを止められているのが奇跡な程です。ですから、今はこの血を繋ぐ最後の可能性。ここで貴女を逃がせなければ、間違いなくこの血は途絶え、今まで村に居たぐるぐるちゃんが世界を終わらせるのかも知れません』
『それに、アチュリアには貴女が必要です。妹を守ってあげられるのは、もう、貴女しかいません』
『……私が…この子を』
『えぇ、そうですとも。この世に二人といない貴女の唯一の妹ですから』
『……っごめんなさい、ごめんなさい皆…!』

そう言って林道を駆け出す。未だに嵐は止まず、その中心に私が生きた故郷がある。頭に浮かぶ物全てを否定して、まだ物心も着いていない幼児の手を引きながらひたすらに走る。あの場所から、私達の思い出を全て置き去りにして。痛む足を治す事すら忘れて、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。お父さん、お母さん、八百屋のおじさん、漁師のお兄さん、鍛冶屋のお姉さん。みんなみんな、私達の為に戦っている。速く、もっと速く。あの頃に戻りたいけれど、地を掛ける思いが無情にも時間を進めていく。走れ、走れ、一歩でも遠くへ、せめて愛する妹だけでも守る為に。

______
____
__

どれだけ走ったのだろう、
どれだけ歩いたのだろう、
どれほど逃げてきたのか、
どれほど彼等を見殺しにしたのか。
後ろを歩く妹はいつの間にか腕の中にある。それなのに私の息は上がらず、落ち着いている。
いや、落ち着いていた、と言った方が正しいか。
人はどう言った時に息が上がるのだろう。激しく運動した時や、好きな人といる時。お年を召して、病に冒された際になることもある。でも、それとは別に。極度の緊張状態の時にも、息は上がるものです。

『……っ、はーっ、はっ、……ぁ』

あの首のない龍の影響か、村の周りの獣や竜が暴れだしていたことは知っている。でも、それは酷く脅えていて、何かから逃げている様だった。しかし今はどうだろう。耳を澄ませても荒れ狂う轟音や風きり音は聞こえず、あれほど耳にこびりついていた悲鳴も何も無い。つまり、今私の目の前にいるこの病竜は、なんの変哲もなく、ただただこの世界に審かな、
腹を空かせた竜だ。

そうか
あれ程時間を稼ぎ
これ程逃げたにも関わらず
結果は何も変わらないんだ。
周りの人が死に
妹が死に
私も、すぐそこに。
アチュが今眠っている事だけが救いか
苦しまずに逝かせて欲しい
そう願っている
ただ、そう。
私は目を閉じた

______


_____ _


___    ____


おかしい。
何秒と時間が経ったが、来るはずのその時がいつまで経ってもやって来ない。体の震えは時間共に消えてなくなり、強ばりながら抱き抱えていたアチュリアへの腕を緩めながら、ゆっくりと、対の眼を目覚めさせる。

『…』

そこには、落ちた病竜の首と、その前に佇む一人の人物が居た。覆い被さる木々から零れ落ちる月明かりでしか物事を判断できないため、ハッキリとはしないが、それは妖艶な着物の様な装備で、翠と紅の大剣で空を斬り、相当な重量だろうに、それを肩に背負う。
誰がどう見ようと。彼が、病竜の首を、断ったのだろうと言う事は明らかだ。しかし、彼は見たところ、その様な事が出来る程の膂力など検討も着かず。一般的な高身の人物だ。だがしかし、たった今、大人の男性よりも大きな板の様な大剣を二つ背負い、尚且つ大層な着物を着ていても、汗一つかかずに佇み、こちらを訝しげに覗き込んでいる。
色々な事が起こりすぎている。狂龍の襲来、村の壊滅に逃げ筋の違和感。そして命の危機と強大な力を持つ何か。
私は…夢でも見ているの……

『っ待て!君…達、一体何処か_ら__

______

____

__


いつの間にか眠っていたようで、少し記憶があやふやです。ハッキリと覚えているのは、崩れた瓦礫の音と、あの絶望的な光景。それと_
ふわふわとした微睡みの中。私はハッと目を覚ましました。そこは小綺麗にされた、まるで木の洞の中で、ですが一通りの家具や窓など、広く捉えればログハウスのような部屋、私はそこの隅にあった大きなベッドに寝かされていたようです。
次第に意識がはっきりして、周りの様子が理解出来ます。それと同時に、私は妹の安否が心配でなりません。幾らきょろきょろと辺りを見渡しても、そこには私しか居ない。記憶を探って手掛かりはないかと目を瞑る。だけど、どうにも曖昧で、それでも焼き付いて離れない、あの人の顔。

「あの後…一体」

そう、ぼそりと呟いた時。扉がバンッ!と開かれる。思わずひゃっと小さな声が漏れだした。
開いた扉からは、ぴょこっと小さなあほ毛を振りながら此方へ来る最愛の妹。妹の無事を確認出来たことで、少しだけ心に平穏が戻り、ほっと胸を撫で下ろす。だけどそれも少しの間だけ。その妹の後ろから、高身で白髪の人物がゆっくりと現れた。間違いない、昨日、病竜を瞬く間に屠ったその人だ。
目が熱くなる、瞳孔が開いていくのが感じられる。
私達は…この人に捕えられた?
そう考えるのは用意だった。得体の知れない不安と、体の緊張が全身を伝わり。どろりとした嫌な汗が背筋を伝う。それと同時に、彼は私へと口を開く

「…驚かせた、すまない」
「おねーさまやっとおきたー…おそいよー?」
「…あ、アチュ……その人は」
「んー?わたしたちをー…ほかく?してくれたって」
「ほ…捕獲…」

捕獲…?この人、私達を捕獲したって?

「あ、あぁ…すまない。少し聞きたい事があった。それに寝てしまっていたようだ。運び込むのは楽だった」
「捕獲って…わ、私達に何をするつもりですかッ!?お金なんて持ってませんし…こんな子供にまで……アチュを一体何処に連れて言ってたんですか…貴方はっ、何を考えているの……」
「…私が恐ろしいと見える。ならば直ぐにでも出て行くか?」
「えっ、えぇ!ここまで守り通した妹を…唯一の家族を、こんな所で失う訳には…」
「…、街ならば近い。だが、そこにはそこらの獣等より恐ろしく醜いものばかりだ」
「だからって、だからってあなたの手篭めになる気なんて…っ!」
「……?いや、ただ。そう易々と食い物にされるなよ、と。もっとも、私の隣を歩けばそんな心配とは無縁だが…」
「っ…あなたは……あなたは何者なんですか…?何故私達を助けたんですか、何故私達を捕らえる必要があったんですか!?あの場所は村の人意外には知られていないはず。この力だって…」
「なぜ助け、ここへと運び込んだのか…先から申している通り。聞きたい事がある。それだけだ」

その言葉を皮切りに、彼は私へと近づく。いや、気がついたら目の前に居たと言った方が正しいだろうか。少し遅れて、部屋の中に突風が吹く。
そして、彼は私の顔に手を掛け、ゆっくりと口を開く

「…耳だ」
「っ、ふぇ…?え…//」
「貴様達の耳と、私の耳が極端に酷似している。…龍なのか…?いや、私の様な存在がそう易々と生まれる筈が無い…しかし」

身体が熱くなっていく気がする。鼓動が速くなるのを感じる。
今すぐにだって、彼は私を殺せる。声を出す間もなく首を手折れるんだ。だから、この気持ちは恐怖心。それ以外有り得ない。
だと言うのに…私の身体は発汗を止めない。顔の火照りが隠せないのはなんで?そんな訳無いって、頭の中で言って聞かせているのに、私は…私は?

「おねーさま、かおまっかー」
「…?病気か、薬の調合書は……」
「いっ、いやっ!?なんでもないです…//なんでも……だ、大丈夫です!それより…っ……」

そうして身をよじると、やっと彼は手を離す。

「あぁ、耳の事だ。貴様達は私と同じく龍なのだろうか?それと…あの夜、何故あの森へ来た?異変が起こった場所では何があった?」

彼は眉一つ動かさず此方を眺める

「そ、そそんなこと急に言われてもっ…?それに、なんで何かあったところに居たって……?」

「……先の会話、あの場で向こうを背にして座っていた、靴が擦り切れていた、それにまともな様子では無かった。何か違っていたか?」

彼はそう言い終えると、その傷一つ無い滑らかな指先を、私の頭へと乗せ、 縦へ横へと動かしていく。
私っ、もしかして撫でられ_

「遠かったろう、かなり憔悴していた。何があったか知ることは出来ないが、余程の事なのだろうな」

あぁ、ダメ。それ以上は

「この妹を担いで来たのか?それで道中、そこまで竜とは出くわさずにあの森までやって来たのか」

それ以上言われたら、私、お姉ちゃんだから、守るのは当然だから、だから…

「…っ」
「……よく、頑張った」

怖かった。辛かった。逃げ出したって追いかけてくる絶望と戦っていた。だからだろうか、例え何を言われようが、どれだけ怪しげだろうと、あの場から助けてくれた人。例えるならばヒーローの様な、そんな人に優しい声を掛けられたら_

「ひっ、う、うぅあっ…ぁぁあああ!!!…っく…ぅ……!」
「なかないでー、おねーさま、わたしがそばにいるよ」
「……やはり有る、髪に隠れてはいたが…」


__________

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