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秘薬ちゃん+αのお話
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『早く遠くへ逃げるんだ!ここはもう長くは持たない!!』
『でも、それじゃおばちゃん達はどうなるの!?』
『判ってくれ…私達ドラケアの民は何があろうとその血を絶やしてはならない。私達は皆老いぼれだ、もう永くは生きられない。お前達しか居ないんだ……済まない』
『俺達がしっかり退路は確保してやる、だから…逃げてくれよ、おじちゃんだってたまにはかっこいいとこ魅せたいからよ』
遠くで古龍が咆哮を上げる。建物や大地、引いては空間までもが歪み出したと錯覚する程にまで、その大きな物体がぶつかり合う。産み出された余波は突風を巻き起こし、私達の髪を靡かせるだけでは留まらず、服を切り裂き、肌に赤い線を浮かばせる。むしろそれだけで済んだのは、今、それから庇ってくれた村人の影から、赤い液体がぽたぽたと流れ落ちているからか。
『ひっ…やだ、そんなっ……』
『早く行け!!お前がここにいる間にも戦ってるヤツらが俺以上の怪我を負ってんだ!!!』
『私達にだって弱いけれど生の力は与えられるわ、心配しないで』
そう言って一人の老婆が男の切り刻まれた背中に手を当てると、ぽうっとかざした場所から緑色の淡い光が漏れ出す。するとどういう訳か、その光を受けた場所の傷がゆっくりと塞がっているように見える。
『はぁ…はっぁ……___ちゃんだったら一瞬なんだけどな』
『やかましい、黙って治療を受けなさいよ』
軽口を叩きあっている老夫婦は、おちゃらけた口調とは打って変わって真剣な顔つきをしている。
未だに唖然とした私に、長老が語り掛ける。
『___、もしここで貴女が手を貸したとして、あの狂った龍には勝てないでしょう。彼奴は文字通り”世界を越える”程の力を有しており、今、そこで動きを止められているのが奇跡な程です。ですから、今はこの血を繋ぐまたとないチャンス。ここで貴女を逃がせなければ、間違いなくこの血は途絶え、今まで村に居たぐるぐるちゃんが世界を終わらせるのかも知れません』
『それに、アチュリアには貴女が必要です。妹を守ってあげられるのは、もう、貴女しかいません』
『……私が…この子を』
『えぇ、そうですとも。この世に二人といない貴女の唯一の妹ですから』
『……っごめんなさい、ごめんなさい皆…!』
そう言って林道を駆け出す。未だに嵐は止まず、その中心に私が生きた故郷がある。頭に浮かぶ物全てを否定して、まだ物心も着いていない幼児の手を引きながらひたすらに走る。あの場所から、私達の思い出を全て置き去りにして。痛む足を治す事すら忘れて、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。お父さん、お母さん、八百屋のおじさん、漁師のお兄さん、鍛冶屋のお姉さん。みんなみんな、私達の為に戦っている。速く、もっと速く。あの頃に戻りたいけれど、地を掛ける思いが無情にも時間を進めていく。走れ、走れ、一歩でも遠くへ、せめて愛する妹だけでも守る為に。
______
____
__
秘薬ちゃんのお話
狩の世界
……また、あの時の夢か。
朝日が窓から寝起きの私を突き刺し、その痛みで私は目が覚めた。
隣には、まだ眠っているアチュリアが私の腕を抱き抱えている。
『あらあらかーわいー』
微笑ましい光景をまだ眺めていたい気持ちを無理やり不意にして、起こさないようにそこから手を抜いて豚さんのぬいぐるみを抱かせておく。
さて、今日は何を食べようか。きのうの残りが幾つかあったはずだから、それに加えて何か一品増やそうか。
『じゃああたしはあれがいいな、あの畜生の肉と無駄な卵焼いたやつ』
じゅーじゅーとベーコンの焼ける音と匂いに釣られて、可愛い可愛いねぼすけさんが眠たい芽を擦りながらベッドの中からはい出てくる。
「おはよ~ぉ、おねーさま」
「おはよう、アチュ。昨日は良く眠れた?」
「うん、ばっちり!だから今日も沢山採取出来るよ!!」
『そうかそうか、沢山寝るのは良い事だ。特に育ち盛りなんだからいっぱい食べていっぱい寝なさいよと』
そう言ってアチュリアは胸を張って全力でアピールしてくる。案外、こう言った小さな子が、高値の薬草やキノコを取ってくるものである。我が家の財源に多からずとも確実に貢献している自慢の妹だ。
「そっか、それは頼もしいねぇ。よいしょっと、今日の朝ごはんは昨日のクリームシチューと、今焼いてるベーコンエッグだよ。早く顔洗っておいで?」
はーいといい返事で答えた妹は、洗面所へと向かう。
その間に私は出来たベーコンエッグを皿に取り分け、温めたシチューを器に装う。
そうしていると、顔を拭きながら扉を開いたアチュリアが目を輝かせて食卓を眺める。
「さ、食べましょう?ちゃんと手を合わせてー」
『「「頂きます」」つってもあたしは眺めてるだけだけどー』
そうして私達の一日が始まる。満面の笑みでパンを頬張る妹の姿は見ていて飽きない。
私も食べようとシチューを匙で一掬い、少し温めたりなかったかな?なんて思いながら今日の予定を立て始める。そうだね…少しギルドの方で依頼を見てから、アチュの採取に合流しよう。…日用品も少し切れてたっけ、ギルドの帰りに買って、家に置いて……
『たまには狩猟とか行かないのか?お古の装備も沢山あるだろうよ』
……うるさい、そんな怖い事したくないの
『まーまー危なかったらそれとなくあたしが教えてやるって、見てたらなー』
「……おねーさま?」
全く宛にならない気の抜けた声と喋っていると、最愛の妹が私の顔を覗き込んでくる。
「ご飯食べ終わったから、採取して来る、って言ってたんだけど…」
「あっ、ご、ごめんね?食器は片付けておくから、行ってらっしゃい?」
「行ってきまーす」
とてとてと小さな足音を立てて、アチュリアは外へと向かった。毎日のことだけど、やっぱり少し心配な姉心。でもそうやって少しづつ、子供は大きくなっていくものです。そう思いながら食器を片付け、私も外へと出る準備をします。
『良い依頼があったらいいな』
「あったら良いですね」
外に出ると、まだ時期でもないというのに身体に寒さが張り付いてくる。私は未だ緑々しい葉っぱの絨毯をくしゃくしゃと踏み鳴らしながら、街へと向かいます。
数十分程歩くと、小さな街が眼前に拡がります。この辺りの地域では、余り人口が多い方ではありませんが、私達にはこのくらいの方が気兼ねなく通えて、居心地も良い。街の門を潜って、またまた少し歩くと、辺鄙ではありますが確かなギルドが佇んでいます。中に入ると、少し埃っぽいですが整っていて、最低限人を招ける場所、と言った具合です。私は早速依頼版を覗きます。えーと…
『あ、青熊狩猟とか良いじゃない?大して強くも無いしさー』
だから狩猟はしませんって
『お、こっちは観光案内だとさ。小綺麗な紙とか使っちゃってー何処の貴族?』
…ここに貼るようなものじゃ無いでしょ、もっと大きい街で貼れば良いのに。なんて考えながら、私は草や虫とか手頃な採取依頼に名前を書きます。
『また今日も地面とにらめっこか、毎日飽きないもんだねぇ』
こうでもしないと生きてけないのよ、あなたにはわからないでしょうけど
『そりゃーね。はーあ、たまには死闘を繰り広げてるところが見たいもんさ』
一通り、ギルドでやる事を終えた私は、薄い財布を持って商業区へと向かう。朝も早い事から、まだ始まっていないお店もちらほらある市場を巡って切れていた日用品を買い集めました。中には常連だからといっておまけしてくれるお店もあって、やはり人との繋がりは大切だなと改めて実感します。
『やっぱり人間っていいものだよ、別嬪さんには下心を隠そうともせず好感度をあげようとするんだ。どれだけ子孫を残すことに躍起になっているのかわかり易すぎるねぇ』
…誰しもがそういう訳じゃないでしょ、それにあの人は女性よ。
『そうなのか?まぁあたしにとっちゃ性別なんてどっちも変わらねぇからさ』
等と中身の無い会話を繰り広げ、私は荷物を纏めて帰路へ向かう。
…少し重たい。買いすぎたか、人の善意で押しつぶされそうになってるかは最早どうでもいいと自分の腕を使い潰しながら自分の家へと急ぐ。今頃アチュは一人寂しく採取を続けていることだろう。悪い人や怖い獣に合わなければいいのだけれど。
そんな事を考えながら歩いていると、街の片隅に何かボロきれのような物が転がっている事に気づいた。
いや、それが、ただのボロきれであれば、風も吹いていない今、弱々しく陽の差す方へ這いずっているはずが無いのだ。少しづつ照らされたそのボロきれは、対となった漆黒の翼で、その真ん中には、真っ黒の二つの楕円と、まるで疫病を治す為の医者が患者からの感染を防ぐ為につけていたマスクのような無骨な嘴があった。
「グルルル…」
もしかしてこの鳥のようだがこの地域ではあまり見かけない生き物は、この薄暗い居住区の片隅で息絶えようとしているのでは無いかと、赤ん坊でも推察できるだろう。
『……どうするんだ?』
決まってるでしょう。余り外では、ましてや街の中では使いたくないが、ここで尊い一つの命が尽きようとしているのならば致し方ない。私は手袋を外し、その黒い鳥へと手を掲げた。すると、掲げた掌から深い緑の波動が、その鳥へと向かって行き、黒い鳥の息絶えかけた生命を元の元気な場所まで回復させていく。その黒い鳥は、自分の翼が思い通りに動くと理解した瞬間、こちらにこくりと一瞥し、街の外へと飛び出していく。
「あ、待って!まだ最後まで…」
行き場をなくした緑の波動が、街の路地に命を芽吹かせる。汚れ切ったタイルは新品同様に艶やかに、壊れた配管は繋がっていく。
「や、やっちゃった…」
『やってしまいましたねぇ』
私はその場から足早に逃げ出しました。
『でも、それじゃおばちゃん達はどうなるの!?』
『判ってくれ…私達ドラケアの民は何があろうとその血を絶やしてはならない。私達は皆老いぼれだ、もう永くは生きられない。お前達しか居ないんだ……済まない』
『俺達がしっかり退路は確保してやる、だから…逃げてくれよ、おじちゃんだってたまにはかっこいいとこ魅せたいからよ』
遠くで古龍が咆哮を上げる。建物や大地、引いては空間までもが歪み出したと錯覚する程にまで、その大きな物体がぶつかり合う。産み出された余波は突風を巻き起こし、私達の髪を靡かせるだけでは留まらず、服を切り裂き、肌に赤い線を浮かばせる。むしろそれだけで済んだのは、今、それから庇ってくれた村人の影から、赤い液体がぽたぽたと流れ落ちているからか。
『ひっ…やだ、そんなっ……』
『早く行け!!お前がここにいる間にも戦ってるヤツらが俺以上の怪我を負ってんだ!!!』
『私達にだって弱いけれど生の力は与えられるわ、心配しないで』
そう言って一人の老婆が男の切り刻まれた背中に手を当てると、ぽうっとかざした場所から緑色の淡い光が漏れ出す。するとどういう訳か、その光を受けた場所の傷がゆっくりと塞がっているように見える。
『はぁ…はっぁ……___ちゃんだったら一瞬なんだけどな』
『やかましい、黙って治療を受けなさいよ』
軽口を叩きあっている老夫婦は、おちゃらけた口調とは打って変わって真剣な顔つきをしている。
未だに唖然とした私に、長老が語り掛ける。
『___、もしここで貴女が手を貸したとして、あの狂った龍には勝てないでしょう。彼奴は文字通り”世界を越える”程の力を有しており、今、そこで動きを止められているのが奇跡な程です。ですから、今はこの血を繋ぐまたとないチャンス。ここで貴女を逃がせなければ、間違いなくこの血は途絶え、今まで村に居たぐるぐるちゃんが世界を終わらせるのかも知れません』
『それに、アチュリアには貴女が必要です。妹を守ってあげられるのは、もう、貴女しかいません』
『……私が…この子を』
『えぇ、そうですとも。この世に二人といない貴女の唯一の妹ですから』
『……っごめんなさい、ごめんなさい皆…!』
そう言って林道を駆け出す。未だに嵐は止まず、その中心に私が生きた故郷がある。頭に浮かぶ物全てを否定して、まだ物心も着いていない幼児の手を引きながらひたすらに走る。あの場所から、私達の思い出を全て置き去りにして。痛む足を治す事すら忘れて、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。お父さん、お母さん、八百屋のおじさん、漁師のお兄さん、鍛冶屋のお姉さん。みんなみんな、私達の為に戦っている。速く、もっと速く。あの頃に戻りたいけれど、地を掛ける思いが無情にも時間を進めていく。走れ、走れ、一歩でも遠くへ、せめて愛する妹だけでも守る為に。
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秘薬ちゃんのお話
狩の世界
……また、あの時の夢か。
朝日が窓から寝起きの私を突き刺し、その痛みで私は目が覚めた。
隣には、まだ眠っているアチュリアが私の腕を抱き抱えている。
『あらあらかーわいー』
微笑ましい光景をまだ眺めていたい気持ちを無理やり不意にして、起こさないようにそこから手を抜いて豚さんのぬいぐるみを抱かせておく。
さて、今日は何を食べようか。きのうの残りが幾つかあったはずだから、それに加えて何か一品増やそうか。
『じゃああたしはあれがいいな、あの畜生の肉と無駄な卵焼いたやつ』
じゅーじゅーとベーコンの焼ける音と匂いに釣られて、可愛い可愛いねぼすけさんが眠たい芽を擦りながらベッドの中からはい出てくる。
「おはよ~ぉ、おねーさま」
「おはよう、アチュ。昨日は良く眠れた?」
「うん、ばっちり!だから今日も沢山採取出来るよ!!」
『そうかそうか、沢山寝るのは良い事だ。特に育ち盛りなんだからいっぱい食べていっぱい寝なさいよと』
そう言ってアチュリアは胸を張って全力でアピールしてくる。案外、こう言った小さな子が、高値の薬草やキノコを取ってくるものである。我が家の財源に多からずとも確実に貢献している自慢の妹だ。
「そっか、それは頼もしいねぇ。よいしょっと、今日の朝ごはんは昨日のクリームシチューと、今焼いてるベーコンエッグだよ。早く顔洗っておいで?」
はーいといい返事で答えた妹は、洗面所へと向かう。
その間に私は出来たベーコンエッグを皿に取り分け、温めたシチューを器に装う。
そうしていると、顔を拭きながら扉を開いたアチュリアが目を輝かせて食卓を眺める。
「さ、食べましょう?ちゃんと手を合わせてー」
『「「頂きます」」つってもあたしは眺めてるだけだけどー』
そうして私達の一日が始まる。満面の笑みでパンを頬張る妹の姿は見ていて飽きない。
私も食べようとシチューを匙で一掬い、少し温めたりなかったかな?なんて思いながら今日の予定を立て始める。そうだね…少しギルドの方で依頼を見てから、アチュの採取に合流しよう。…日用品も少し切れてたっけ、ギルドの帰りに買って、家に置いて……
『たまには狩猟とか行かないのか?お古の装備も沢山あるだろうよ』
……うるさい、そんな怖い事したくないの
『まーまー危なかったらそれとなくあたしが教えてやるって、見てたらなー』
「……おねーさま?」
全く宛にならない気の抜けた声と喋っていると、最愛の妹が私の顔を覗き込んでくる。
「ご飯食べ終わったから、採取して来る、って言ってたんだけど…」
「あっ、ご、ごめんね?食器は片付けておくから、行ってらっしゃい?」
「行ってきまーす」
とてとてと小さな足音を立てて、アチュリアは外へと向かった。毎日のことだけど、やっぱり少し心配な姉心。でもそうやって少しづつ、子供は大きくなっていくものです。そう思いながら食器を片付け、私も外へと出る準備をします。
『良い依頼があったらいいな』
「あったら良いですね」
外に出ると、まだ時期でもないというのに身体に寒さが張り付いてくる。私は未だ緑々しい葉っぱの絨毯をくしゃくしゃと踏み鳴らしながら、街へと向かいます。
数十分程歩くと、小さな街が眼前に拡がります。この辺りの地域では、余り人口が多い方ではありませんが、私達にはこのくらいの方が気兼ねなく通えて、居心地も良い。街の門を潜って、またまた少し歩くと、辺鄙ではありますが確かなギルドが佇んでいます。中に入ると、少し埃っぽいですが整っていて、最低限人を招ける場所、と言った具合です。私は早速依頼版を覗きます。えーと…
『あ、青熊狩猟とか良いじゃない?大して強くも無いしさー』
だから狩猟はしませんって
『お、こっちは観光案内だとさ。小綺麗な紙とか使っちゃってー何処の貴族?』
…ここに貼るようなものじゃ無いでしょ、もっと大きい街で貼れば良いのに。なんて考えながら、私は草や虫とか手頃な採取依頼に名前を書きます。
『また今日も地面とにらめっこか、毎日飽きないもんだねぇ』
こうでもしないと生きてけないのよ、あなたにはわからないでしょうけど
『そりゃーね。はーあ、たまには死闘を繰り広げてるところが見たいもんさ』
一通り、ギルドでやる事を終えた私は、薄い財布を持って商業区へと向かう。朝も早い事から、まだ始まっていないお店もちらほらある市場を巡って切れていた日用品を買い集めました。中には常連だからといっておまけしてくれるお店もあって、やはり人との繋がりは大切だなと改めて実感します。
『やっぱり人間っていいものだよ、別嬪さんには下心を隠そうともせず好感度をあげようとするんだ。どれだけ子孫を残すことに躍起になっているのかわかり易すぎるねぇ』
…誰しもがそういう訳じゃないでしょ、それにあの人は女性よ。
『そうなのか?まぁあたしにとっちゃ性別なんてどっちも変わらねぇからさ』
等と中身の無い会話を繰り広げ、私は荷物を纏めて帰路へ向かう。
…少し重たい。買いすぎたか、人の善意で押しつぶされそうになってるかは最早どうでもいいと自分の腕を使い潰しながら自分の家へと急ぐ。今頃アチュは一人寂しく採取を続けていることだろう。悪い人や怖い獣に合わなければいいのだけれど。
そんな事を考えながら歩いていると、街の片隅に何かボロきれのような物が転がっている事に気づいた。
いや、それが、ただのボロきれであれば、風も吹いていない今、弱々しく陽の差す方へ這いずっているはずが無いのだ。少しづつ照らされたそのボロきれは、対となった漆黒の翼で、その真ん中には、真っ黒の二つの楕円と、まるで疫病を治す為の医者が患者からの感染を防ぐ為につけていたマスクのような無骨な嘴があった。
「グルルル…」
もしかしてこの鳥のようだがこの地域ではあまり見かけない生き物は、この薄暗い居住区の片隅で息絶えようとしているのでは無いかと、赤ん坊でも推察できるだろう。
『……どうするんだ?』
決まってるでしょう。余り外では、ましてや街の中では使いたくないが、ここで尊い一つの命が尽きようとしているのならば致し方ない。私は手袋を外し、その黒い鳥へと手を掲げた。すると、掲げた掌から深い緑の波動が、その鳥へと向かって行き、黒い鳥の息絶えかけた生命を元の元気な場所まで回復させていく。その黒い鳥は、自分の翼が思い通りに動くと理解した瞬間、こちらにこくりと一瞥し、街の外へと飛び出していく。
「あ、待って!まだ最後まで…」
行き場をなくした緑の波動が、街の路地に命を芽吹かせる。汚れ切ったタイルは新品同様に艶やかに、壊れた配管は繋がっていく。
「や、やっちゃった…」
『やってしまいましたねぇ』
私はその場から足早に逃げ出しました。
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