首のない花

夕季 夕

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首のない花

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「今からお葬式を始めます」

 そう言って、先生は教室から出て行った。クラスメイトたちは「お葬式だって」と顔を見合わせながら、自分たちの机を教室の隅に寄せていく。そして、私も同じように机を片付けた。
 どうして教室でお葬式を行うのか、どうしてみんなは当たり前のように机を片付けているのか、どうして私はここにいるのかわからなかったけれど、なんとなく、そうするべきな気がした。

「誰のお葬式だろうね」

 ニコニコしながら声をかけてきたのは、小学校時代の同級生。私と彼女は別の高校に進学したはずだ。しかし今、同じ空間に存在している。
 お互い、どちらのものでもない、どこかの高校の制服を着て。

「はい、お花」
「お花をどうするの」
「棺に入れるの。ほら、あそこ」

 彼女は空っぽになった教室の中心を指差しながら、私に花を押しつけた。“花”とは言うが、首の部分がもげていて、茎と葉しか残っていない。
 他のクラスメイトの手元を見ると、みんな、私たちと同じように首のもげた花を持っていた。

「どうして教室でお葬式をするの」

 何もない教室の中心を見ながら、私はつぶやいた。

「今、誰かが死んじゃったからだよ」

 彼女がそう言うと、教室の扉が開いた。一度出て行った先生の後ろに、棺を運ぶ大勢の男子生徒が見える。

「お葬式が始まるね」

 まるで、これからお祭りでも見るかのような笑顔で彼女は言った。
 それから、彼女は私の手を引いて、いつの間にかできていた参列者の列に並んで行った。
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