続・私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中

文字の大きさ
上 下
30 / 52
本編

玄武、再会-2

しおりを挟む
 玄武との再会は、思ったよりも早かった。
 ミラノルド島から更に北へと進み、オーバーコートも必要な気温になってきた頃。玄武が滞在しているという噂を聞き、たんぽぽ海賊団はパラ―ルト島に船を寄せた。

「キッドさん!」

 島の酒場で、見覚えのある水色を見つけて奏澄は声をかけた。

「おお! なんだ、嬢ちゃんじゃねぇか」

 玄武海賊団の船長、キッドは以前会った時よりも厚着だったが、以前と変わらぬ少年のような顔で笑った。同じテーブルにはロバートが座っていたが、彼は目線で挨拶をしただけだった。

 島にブルー・ノーツ号が泊まっているのを確認し、まずは船長に挨拶をとキッドを探して、奏澄はメイズと二人で酒場に来ていた。
 玄武は人数が多いせいか、酒場はほとんど貸し切り状態で、中にいるのは玄武の乗組員だけのようだった。奏澄たちが入れたのだから他の客を追い出すようなことはしていないのだろうが、あえてこの中に入ろうという者もいないのだろう。

「久しぶりだなぁ。元気してたか?」
「ええ、おかげさまで」
「なんだ社交辞令が言えるようになったか。ツンケンしてたのも面白かったのに」
「……忘れてくださいよ」

 奏澄はきまりが悪そうに視線を逸らした。あの時の態度を後悔しているわけではないが、今回は頼み事に来ているのだ。失礼な振る舞いをするわけにはいかない。
 その様子を見て、キッドは笑いを零した。

「オマエも変わりない……いや、変わったか」

 キッドはメイズに視線をやると、まじまじと眺めてからそう呟いた。
 キッドからそう言われる覚えはないのか、メイズは怪訝そうに片眉を上げた。

「なんだオマエらくっついたのか。おめでとさん」

 からっと笑って、キッドは酒の入ったジョッキを掲げた。
 驚いたのは言われたメイズより、奏澄の方だった。いったいどこを見てその判断を下したのだろうか。キッドに挨拶に来たのだから、当然場を弁えない振る舞いはしていないはずなのだが。

「なんでそう思ったんですか?」

 別に悪いということも無いが、見るからにそれとわかるようなら恥ずかしいので知っておきたい。場合によっては直したい。どことなく苦い顔で訊く奏澄に、キッドは目を瞬かせた後、にやーっと意地の悪い笑みを浮かべた。

「教えねー」

 その態度に、思わず奏澄はいらっとした。四大海賊の船長はどの人物も尊敬に足る人物で、貫禄もある。だというのに、何故だかキッドに対してだけは、こういう気安い感情が湧く。普通なら立場のある人物にからかわれたからといって、困惑はするかもしれないが、いらっとする、なんてことはないだろう。
 まるで同等の立場にあるような錯覚を覚える。だからこそ、奏澄は前回キッドに対して態度が取れたのかもしれない。無意識に、それが許されると思ったのだ。
 面子が大事な海賊にとって、嘗められるというのは大変な侮辱行為だ。それだけで、首を飛ばされる可能性もある。それをしない、と思ったから、奏澄は不機嫌を隠すことなく拗ねてみせた。凄めばとても恐い人物だと知っているのに、話すとそれを忘れてしまう。それは彼の人柄なのかもしれないし、もしかすると意図的な振る舞いなのかもしれない。

「まぁ座れよ」

 椅子を勧められて、奏澄とメイズはキッド同じテーブルに着いた。

「嬢ちゃんも飲むか?」
「いえ、今日は真面目な話をしに来たので。お酒は」
「ほう」

 言って、キッドは目を眇めた。わざわざ玄武を尋ねて来たのだから、それなりの用事だということは予想しているだろう。
 キッドにじっと見据えられて、奏澄は小さく深呼吸をして話を切り出した。

「黒弦海賊団を討つための、共闘をお願いしに参りました」

 その名を出した途端、空気が張り詰めた。玄武の乗組員たちが騒めく。ロバートは黙ったままだが、真意を測るように奏澄から視線を逸らさなかった。

「そりゃまた、急な話だな。わざわざ自分の古巣を潰そうだなんて、どういう腹積もりだ? 過去の汚点を無かったことにでもしたくなったか」

 からかうような口調で投げかけるキッドに、メイズは黙した。今話しているのは自分だ、と主張するように、奏澄は先ほどより大きな声を張った。

「セントラルにレオが捕らえられています。彼を解放するのに、黒弦の船長――フランツを殺さなくてはなりません」

 キッドも面識のあるレオナルドの名が出たこと。彼が囚われの身であること。そして何より、およそ奏澄の口からは出そうにない『殺す』という強い言葉に、キッドは目を丸くした。しかし奏澄の様子から、冗談の類でないことは察したのだろう。真剣な顔つきで口を開いた。

「――どういうことだ?」

 話を聞く体勢と見て、奏澄はセントラルでの出来事を説明するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...