続・私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~

谷地雪@悪役令嬢アンソロ発売中

文字の大きさ
上 下
11 / 52
本編

黒と白の神話-8

しおりを挟む
 通路を数回曲がり、行き止まりまでくると、俺の腕試しが始まる。

「僕が向こうから来るモンスターは全部倒すから、コルネくんはそのオルトロス一体に集中して」

 俺はオルトロスは行き止まりの部分にいて、通路の方からやってくるモンスターを師匠が防ぐようなかたちだ。

 次々と他のモンスターを倒していたのを見ていたせいか師匠には目もくれず、ウウウと唸りながら離れて俺だけを睨みつけるオルトロス。

 オルトロスは今回の旅で倒してはいるが、ダンジョンのモンスターはAランク以上がごろごろいるというからそれよりも強い可能性が高い。何より、実際と同じ強さなら俺の腕試しの相手として師匠が選ぶわけがない。

相手の実力が分からない以上、こちらからは下手に動けない──そう思って様子を見ていると、痺れを切らしたのかオルトロスがこちらへ一直線に向かってくる。

 ──速い。ターニュで見たものとは比べものにならないスピードでオルトロスが迫ってくる。俺から突っ込んでいかなくて正解だったが、ここからどうするべきか……すぐに思いついたのは二つ。

 一つはこちらからも向かっていき、斬りつける。お互いに加速している状態のため、俺の剣の殺傷力は跳ね上がる。しかし、それは向こうの攻撃の威力も増すということであるのtお、お互いに勢いをつけすぎているせいで剣への負担が大きい。よほど真っ直ぐ刃を入れないと剣が折れてしまう危険がある。

 そうなると二つ目だな。俺は集中してオルトロスの動きを目で追う。今も少しずつ加速していっているオルトロスが次の瞬間どこにいるかを推測していく。

「ここだ!」

 俺は素早く土魔法でダンジョンの床を盛り上げ、土壁をつくる。ボコボコと盛り上がってくる地面にすぐに気付いたオルトロスの顔には驚きが浮かぶが、勢いがつきすぎていて急には停まれない。

「キャウ──」

 目を逸らすように頭を横に向けながらひと鳴きをしようとしたところで、オルトロスは俺の出した土壁に激突する。大きな音とともに頸椎がボキリと折れ、オルトロスの首が本来曲がらない方向に曲がる。

 もともとダンジョンの床や壁は異常に硬い。それに勢いよくぶつかれば多少はダメージが入るかと思ったが、予想よりも衝撃が大きかったようだ。

 直後、そのむくろはサラサラとなって消えていき魔力結晶となる。首の骨が折れて即死だったのだろう。

 そして残った魔力結晶はかなりの大きさだ。記憶が正しければラムハのダンジョンの奥で採れたものよりも大きい気がする。

「早かったね。意外と楽勝だった?」
「そんなことはないですね。オルトロスが突っ込んできてくれたおかげですよ」

 のんきに自分が倒したモンスターの魔力結晶を袋に入れながら師匠が訊いてくる。 からんと袋の中で魔力結晶がぶつかり合う音を聞いて顔が緩んだ師匠に、俺はずっと気になっていたことを訊ねる。

「……全部の袋がいっぱいになるまでこの腕試しは続くんですか?」
「いや、コルネくんが続けたいならそうすればいいし、満足したならやめればいいよ。僕は魔力結晶ほしいからたくさん狩るけど」

 俺が一人で大量のモンスターを倒さなくていいと知って一安心だ。

「持ってきた袋全部がいっぱいいっぱいになるまで倒すんですか?」
「え……さすがにそこまではしないよ──あれは予備。袋が破れたりなくなったりしたときのために一応持ってるんだ」

 笑って答える師匠。たしかにモンスターの攻撃や魔力結晶の重みで袋が破れることはあり得る。よく忘れ物はしそうになるのに、そういうところだけ用意周到なんだ──と心の裡で思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【書籍化・3/7取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...