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また会う日まで
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最後は、カインのところ。
執務室のドアをノックして、中に入る。俺の姿を見ると、カインは仕事の手を止めて、俺と向き直った。
「ハルトか。体はもう大丈夫か?」
「ああ、全然元気だよ。帰る前に復活できて良かった」
「そうか。もう明日か」
「そ。だから挨拶回りにね」
笑顔の俺に対して、カインは寂しそうに微笑んだ。
「……寂しくなるな」
「なんだよ、笑顔で送り出してくれよ、王子様」
「それもそうだな。覚えているのは、笑顔がいい」
言葉に合わせて、少し無理したように、カインは明るい笑みを作った。
「前にも言ったが、ハルトが聖女で良かった」
「……それは」
「変わらない。君がしてくれたことも。君の在り方も。ハルトがいてくれたことで、俺は救われたよ。だから言わせてくれ。この世界に来てくれて、ありがとう。ハルト」
「……俺も、この世界にこれて、良かったよ」
最初は、面倒なことになったと思った。異世界なんて、冗談じゃないと思ってた。
でも。俺はここで、たくさんの人に出会って、たくさんのものを貰ったから。
今では来て良かったと、心から思ってる。
「ありがとう、カイン!」
「こちらこそ」
最大級の笑顔で、固く握手を交わした。
あらかた挨拶も終わったか、と思いながら廊下を歩いていると、重そうな本を抱えたミシェルと会った。
「重そうだな、持つよ」
「ハルト様。ありがとうございます」
にこりと微笑んだミシェルの手から、本を半分受け取る。
最初に会えなかったしちょうど良かった、と俺は並んで書庫までの道を歩き出した。
「今日中に会えて良かった。俺明日帰るから、挨拶回りしててさ」
「ああ、明日でしたね、送還の儀は」
「そうそう。ミシェルにも世話になったからさ、お礼言っておきたくて。ありがとうな。物わかりの悪い俺に、勉強とか色々教えてくれてさ」
「いえ、とんでもないです。ハルト様の世界のお話を聞けたのも、とても楽しかったですよ」
うーん女神の微笑み。この世界で一番美人だと思ったのは、結局ミシェルから更新されなかった。
向こうでこの顔よりきれいな女の人見つけられるかな、俺。
「明日は晴れるといいですね。ピクニックの時に作っていた、あの……てるてる坊主、ですか? あれは吊るしましたか?」
「へ? いや、別に作ってないけど……。ミシェルも天気気にするんだな。けど送還は室内だろ? 召喚も聖堂だったし」
俺の言葉に、ミシェルはきょとんとした後、急に焦り出した。
「ハルト様、まさか、ご存じないんですか?」
「何が?」
「すみません、てっきり知っているものだと! まさか誰も言っていないとは」
「え? え? なに?」
混乱する俺に、ミシェルは咳払いをした。
「あのですね。送還には、国の地脈を流れる魔力の流れと、星の巡り。その両方の条件が揃わないといけないんです」
「そういやアルベールがそんなこと言ってたな。それが揃うのが明日なんだろ?」
「星の巡りは、天体の力が地上に影響を及ぼす状態……つまり、晴天でなければならないんです」
俺は目が点になった。ぱーどぅん?
「え……え? それって、じゃ、まさか、雨が降ったら」
「……雨天中止、ですね」
俺は顎が外れそうなほどに口を開けた。
ピクニックか!!
「ふざっけんな!! そんなことある!?」
「申し訳ありません……説明不足でした……」
「ミシェルが謝ることじゃないけど! ないけど! 教えてくれてありがとな!!」
叫ぶ俺に、ミシェルは困ったように眉を下げていた。ごめんな、損な役回りさせて。
けど、叫んでしまう気持ちもわかってほしい。
いくらなんでも、一年待って、それはなくね!?
その晩、俺は無心でてるてる坊主を作りまくっていた。
そして迎えた、送還の日。
「………………」
俺は、死んだ魚の目で窓の外を眺めていた。
「降ってしまったか」
「降ってしまいましたね」
「降っちゃったなぁ」
カイン、アルベール、アーサーの三人は、一応は聖堂に集まってくれたものの、儀式は行えそうになかった。ちなみにラウルは朝からずっといる。
「……これ、今日中にやめば、ワンチャンある?」
「この感じだと、明日まで雨だと思いますよ」
「残念だなー」
そんな「遠足中止になっちゃったね」みたいなノリある!? 一大事じゃね!?
誰も真剣に悲しんでくれないので、俺はラウルに泣きついた。
「ラウルー!!」
「はいはい、残念でしたね」
「思ってなさそう!!」
「思ってませんから」
え、と思ってラウルを見上げる。
ラウルは何も言わずに、ただ笑みを浮かべていた。
え。なに。怖。
「魔王の呪いかもな」
「いくら魔王でも、天候を操るのは無理だと思いますよ」
アーサーとアルベールのやり取りに、ぞわっと寒気がした。
あいつならそれくらいやりそうな気がする。
結局ダリアンとは、最後の挨拶を交わすこともなかったし。いったい今、どうしているのやら。
何にせよ。
「結局俺、また一年帰れないのか……」
「まぁ、また来年チャレンジすればいいじゃないですか」
「オレはまたハルトといられて嬉しいぞ!」
「一年くらい、すぐですよ」
「安心しろ。ハルトの生活は、引き続き俺が保障する」
べそをかく俺に、皆が次々に励ましの言葉をくれる。
あーーーーもう。
「また一年、よろしくな!!」
半ばヤケになって、俺は大声で叫んだ。
まだまだ異世界で聖女、やったるぜ!
執務室のドアをノックして、中に入る。俺の姿を見ると、カインは仕事の手を止めて、俺と向き直った。
「ハルトか。体はもう大丈夫か?」
「ああ、全然元気だよ。帰る前に復活できて良かった」
「そうか。もう明日か」
「そ。だから挨拶回りにね」
笑顔の俺に対して、カインは寂しそうに微笑んだ。
「……寂しくなるな」
「なんだよ、笑顔で送り出してくれよ、王子様」
「それもそうだな。覚えているのは、笑顔がいい」
言葉に合わせて、少し無理したように、カインは明るい笑みを作った。
「前にも言ったが、ハルトが聖女で良かった」
「……それは」
「変わらない。君がしてくれたことも。君の在り方も。ハルトがいてくれたことで、俺は救われたよ。だから言わせてくれ。この世界に来てくれて、ありがとう。ハルト」
「……俺も、この世界にこれて、良かったよ」
最初は、面倒なことになったと思った。異世界なんて、冗談じゃないと思ってた。
でも。俺はここで、たくさんの人に出会って、たくさんのものを貰ったから。
今では来て良かったと、心から思ってる。
「ありがとう、カイン!」
「こちらこそ」
最大級の笑顔で、固く握手を交わした。
あらかた挨拶も終わったか、と思いながら廊下を歩いていると、重そうな本を抱えたミシェルと会った。
「重そうだな、持つよ」
「ハルト様。ありがとうございます」
にこりと微笑んだミシェルの手から、本を半分受け取る。
最初に会えなかったしちょうど良かった、と俺は並んで書庫までの道を歩き出した。
「今日中に会えて良かった。俺明日帰るから、挨拶回りしててさ」
「ああ、明日でしたね、送還の儀は」
「そうそう。ミシェルにも世話になったからさ、お礼言っておきたくて。ありがとうな。物わかりの悪い俺に、勉強とか色々教えてくれてさ」
「いえ、とんでもないです。ハルト様の世界のお話を聞けたのも、とても楽しかったですよ」
うーん女神の微笑み。この世界で一番美人だと思ったのは、結局ミシェルから更新されなかった。
向こうでこの顔よりきれいな女の人見つけられるかな、俺。
「明日は晴れるといいですね。ピクニックの時に作っていた、あの……てるてる坊主、ですか? あれは吊るしましたか?」
「へ? いや、別に作ってないけど……。ミシェルも天気気にするんだな。けど送還は室内だろ? 召喚も聖堂だったし」
俺の言葉に、ミシェルはきょとんとした後、急に焦り出した。
「ハルト様、まさか、ご存じないんですか?」
「何が?」
「すみません、てっきり知っているものだと! まさか誰も言っていないとは」
「え? え? なに?」
混乱する俺に、ミシェルは咳払いをした。
「あのですね。送還には、国の地脈を流れる魔力の流れと、星の巡り。その両方の条件が揃わないといけないんです」
「そういやアルベールがそんなこと言ってたな。それが揃うのが明日なんだろ?」
「星の巡りは、天体の力が地上に影響を及ぼす状態……つまり、晴天でなければならないんです」
俺は目が点になった。ぱーどぅん?
「え……え? それって、じゃ、まさか、雨が降ったら」
「……雨天中止、ですね」
俺は顎が外れそうなほどに口を開けた。
ピクニックか!!
「ふざっけんな!! そんなことある!?」
「申し訳ありません……説明不足でした……」
「ミシェルが謝ることじゃないけど! ないけど! 教えてくれてありがとな!!」
叫ぶ俺に、ミシェルは困ったように眉を下げていた。ごめんな、損な役回りさせて。
けど、叫んでしまう気持ちもわかってほしい。
いくらなんでも、一年待って、それはなくね!?
その晩、俺は無心でてるてる坊主を作りまくっていた。
そして迎えた、送還の日。
「………………」
俺は、死んだ魚の目で窓の外を眺めていた。
「降ってしまったか」
「降ってしまいましたね」
「降っちゃったなぁ」
カイン、アルベール、アーサーの三人は、一応は聖堂に集まってくれたものの、儀式は行えそうになかった。ちなみにラウルは朝からずっといる。
「……これ、今日中にやめば、ワンチャンある?」
「この感じだと、明日まで雨だと思いますよ」
「残念だなー」
そんな「遠足中止になっちゃったね」みたいなノリある!? 一大事じゃね!?
誰も真剣に悲しんでくれないので、俺はラウルに泣きついた。
「ラウルー!!」
「はいはい、残念でしたね」
「思ってなさそう!!」
「思ってませんから」
え、と思ってラウルを見上げる。
ラウルは何も言わずに、ただ笑みを浮かべていた。
え。なに。怖。
「魔王の呪いかもな」
「いくら魔王でも、天候を操るのは無理だと思いますよ」
アーサーとアルベールのやり取りに、ぞわっと寒気がした。
あいつならそれくらいやりそうな気がする。
結局ダリアンとは、最後の挨拶を交わすこともなかったし。いったい今、どうしているのやら。
何にせよ。
「結局俺、また一年帰れないのか……」
「まぁ、また来年チャレンジすればいいじゃないですか」
「オレはまたハルトといられて嬉しいぞ!」
「一年くらい、すぐですよ」
「安心しろ。ハルトの生活は、引き続き俺が保障する」
べそをかく俺に、皆が次々に励ましの言葉をくれる。
あーーーーもう。
「また一年、よろしくな!!」
半ばヤケになって、俺は大声で叫んだ。
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