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ファンタジーといえば魔法
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□■□
体の面は体力づくりを続けていくとして。
呪いは魔法の領分だ。魔法師にも話を聞けば何か得られるかも、と俺はアルベールの元に向かった。
専用の研究室にいたアルベールは、きらりと眼鏡を光らせた。
「魔法に興味がおありで?」
「お、おう。魔法なんて俺の世界にはなかったし。魔王の呪いのことも、なんで俺だけ解けるのか、まだよくわかってないからさ」
「なるほど」
かちゃりと眼鏡を押し上げたアルベールは、指先を立てると、ぽっと小さな炎を灯した。
「魔法とは、基本的には体内の魔力を大気中の魔素に反応させて起こる現象です。この反応を狙った通りに正しく起こすために、魔法式や魔法陣を用いて、正しく流すための回路を作ります。慣れてくるとこのように、簡易なものなら回路がなくとも、正しく魔力の流れを操作することで発動できます」
魔法って頭良いキャラが使ってるイメージだったけど、話を聞く限り理系っぽいなと解釈した。化学に近いんだろう。ちなみに俺は文系。
「呪いをかけるのも同じです。例えば相手を転ばせたり、金銭を失わせたり、一時的な不幸を起こすのなら、一度の呪いで事足ります。しかし、身体を変化させ続けるなど継続的な効果を狙う場合、相手の体内に自分の魔力を残し続ける必要があります」
「男に変えた時点で終わりじゃないの?」
「生まれ持った性別を完全に変えるのは因果律に影響しますから。さすがに魔王といえど、運命を捻じ曲げるほどの力はありませんよ。とはいえ、常人にできることではありません。膨大な魔力を持つ魔王だからこそ、多くの人間に魔力を残すことができています」
ということは、俺が毎回追い出している黒い靄。あれって魔王の魔力なのか。
「魔王の魔力を取り除けるって、結構すごいのでは?」
「そうですよ。だから聖女なんです。魔王の魔力に打ち勝てるほどの浄化能力。あなたが倒れるのは、そのせいでしょうね。魔王の魔力と戦っているわけですから。しかも本来なら清らかな乙女に宿るはずの力ですので、抗力が半減しているんでしょう」
マジかよつら。男であることでハードモードになったわけか。
それだと体力面あんまり関係ないことになるが……考えるのをよそう。意味はあるはずだ、うん。
一応ちゃんと呪いは解けてるわけだしな。ちゃんと魔王の魔力を打ち返して……じゃない、打ち勝って……。
「あれ? ってことは、魔王の魔力は呪いを解く度に本人に返ってるってことだよな。それって呪いを解いた分、魔王強くなるんじゃね?」
「痛いところを突きますね」
アルベールが嫌そうに顔を歪めた。
「確かに、多くの人間に呪いを施している今の方が、通常より魔王は弱体化しています。ですが、そもそも我々は魔王と武力で争う気はないのですよ」
「えっそうなの!? 魔王って討伐対象とかじゃないの!?」
「違いますよ。最初に、隣の国だと言ったでしょう。かつては世界中に魔物が跋扈し、人々を無差別に襲っていたものですが。今は魔王を国王として、魔族たちは『魔国』という一つの国で暮らしています。魔王がいることで統率が取れているので、むしろいなくなってもらったら困るんですよ」
「お、おおう……」
思ったより複雑だった。
つまりなんだ。これ、魔王が人々を苦しめてるから倒そう! って話じゃなくて、外交問題なのか。
迷惑行為をなんとかやめてもらいたいけど、ボコるわけにもいかないし、被害者は増えるしで、とりあえず被害者救済のために聖女召喚を試みた、と。
「でもこのままじゃ、俺が呪いを解いたってイタチごっこだろ。どうすんだ?」
「現在も、国の外交官が交渉を頑張ってくれてますよ。平行線ですがね。向こうも向こうで魔王は交渉の場につかず、外交官に任せきりだそうですから」
「わーお役人」
誠に遺憾です、善処します、ってやり取りを繰り返してるわけか。そりゃ進まん。
「このまま進展がなければ、武力行使も吝かではないですが。弱体化していても魔王は魔王ですからね。真正面からやり合うようなことはできれば避けたいのが本音です。呪いの内容も、向こうからしたら遊んでいる程度なんでしょう。本気になれば呪い殺すこともできるはずですから」
「ひえっ」
急に魔王み増すじゃん。
最初に呪いの話を聞いた時は俺もちょっとバカっぽいなと思ったけど、遊んでて良かった。本気になられたらシャレにならん。
「なら俺にできるのは、地道に解呪をしていくことだけだな」
そう言って落胆の息を吐いた俺に、アルベールは意外そうに目を丸くしていた。
「なんだよ?」
「いえ……あなたは、それ以上のことをするつもりだったのですか?」
「そりゃ聖女として呼ばれたんだから、役割分の仕事はするよ」
金貰ってるし。衣食住も全部世話してもらってるし。
さすがにこれで無職は良心が痛む。
「……役割分の仕事は、十分にしていますよ。限界まで解呪を行っているでしょう」
「俺が男なせいで、限界値が低くて申し訳ないけどな。まぁそっちもちゃんとやるけど、他に力になれることがあれば言ってくれよ。俺できること少ないんだし、役に立てる場面限られるからさ」
パソコン関係ならちょっとはできるんだけどなー。この世界パソコンないからな。無意味。
体力勝負の雑用程度ならできるが、それをやると肝心の解呪がままならないジレンマ。
「アルベール?」
考え込むように俯いたアルベールに、俺は首を傾げた。仕事内容でも考えてるんだろうか。
「あなたは、いるだけで役に立っていますよ」
俺は目を瞬かせた。なんじゃそりゃ。お飾りってことか?
「聖女の存在は皆の希望です。あなたが健康で、笑っていることが、皆の力になります」
「えっ遠回しに倒れていることをディスられている?」
「言葉の意味はわかりませんが、悪い意味はないですよ。あなたの世界にもいたでしょう。言葉が、笑顔が、力を持つ者が」
「言わんとしているところはわかるけど、そういう人って行動が伴ってるからこそなんだが」
「あなたも、きちんと行動が伴っています」
「うそ、どの辺が?」
マジでわからん。怪訝な顔をした俺に、アルベールはくすりと笑みを零した。
「さぁ、どこでしょう」
うっわ。イケメンムーヴうっわ。
イケメンだから許される。嘘。俺は男なのでイケメンでも許さない。
ふてくされた俺に、アルベールは緩く微笑むばかりだった。
体の面は体力づくりを続けていくとして。
呪いは魔法の領分だ。魔法師にも話を聞けば何か得られるかも、と俺はアルベールの元に向かった。
専用の研究室にいたアルベールは、きらりと眼鏡を光らせた。
「魔法に興味がおありで?」
「お、おう。魔法なんて俺の世界にはなかったし。魔王の呪いのことも、なんで俺だけ解けるのか、まだよくわかってないからさ」
「なるほど」
かちゃりと眼鏡を押し上げたアルベールは、指先を立てると、ぽっと小さな炎を灯した。
「魔法とは、基本的には体内の魔力を大気中の魔素に反応させて起こる現象です。この反応を狙った通りに正しく起こすために、魔法式や魔法陣を用いて、正しく流すための回路を作ります。慣れてくるとこのように、簡易なものなら回路がなくとも、正しく魔力の流れを操作することで発動できます」
魔法って頭良いキャラが使ってるイメージだったけど、話を聞く限り理系っぽいなと解釈した。化学に近いんだろう。ちなみに俺は文系。
「呪いをかけるのも同じです。例えば相手を転ばせたり、金銭を失わせたり、一時的な不幸を起こすのなら、一度の呪いで事足ります。しかし、身体を変化させ続けるなど継続的な効果を狙う場合、相手の体内に自分の魔力を残し続ける必要があります」
「男に変えた時点で終わりじゃないの?」
「生まれ持った性別を完全に変えるのは因果律に影響しますから。さすがに魔王といえど、運命を捻じ曲げるほどの力はありませんよ。とはいえ、常人にできることではありません。膨大な魔力を持つ魔王だからこそ、多くの人間に魔力を残すことができています」
ということは、俺が毎回追い出している黒い靄。あれって魔王の魔力なのか。
「魔王の魔力を取り除けるって、結構すごいのでは?」
「そうですよ。だから聖女なんです。魔王の魔力に打ち勝てるほどの浄化能力。あなたが倒れるのは、そのせいでしょうね。魔王の魔力と戦っているわけですから。しかも本来なら清らかな乙女に宿るはずの力ですので、抗力が半減しているんでしょう」
マジかよつら。男であることでハードモードになったわけか。
それだと体力面あんまり関係ないことになるが……考えるのをよそう。意味はあるはずだ、うん。
一応ちゃんと呪いは解けてるわけだしな。ちゃんと魔王の魔力を打ち返して……じゃない、打ち勝って……。
「あれ? ってことは、魔王の魔力は呪いを解く度に本人に返ってるってことだよな。それって呪いを解いた分、魔王強くなるんじゃね?」
「痛いところを突きますね」
アルベールが嫌そうに顔を歪めた。
「確かに、多くの人間に呪いを施している今の方が、通常より魔王は弱体化しています。ですが、そもそも我々は魔王と武力で争う気はないのですよ」
「えっそうなの!? 魔王って討伐対象とかじゃないの!?」
「違いますよ。最初に、隣の国だと言ったでしょう。かつては世界中に魔物が跋扈し、人々を無差別に襲っていたものですが。今は魔王を国王として、魔族たちは『魔国』という一つの国で暮らしています。魔王がいることで統率が取れているので、むしろいなくなってもらったら困るんですよ」
「お、おおう……」
思ったより複雑だった。
つまりなんだ。これ、魔王が人々を苦しめてるから倒そう! って話じゃなくて、外交問題なのか。
迷惑行為をなんとかやめてもらいたいけど、ボコるわけにもいかないし、被害者は増えるしで、とりあえず被害者救済のために聖女召喚を試みた、と。
「でもこのままじゃ、俺が呪いを解いたってイタチごっこだろ。どうすんだ?」
「現在も、国の外交官が交渉を頑張ってくれてますよ。平行線ですがね。向こうも向こうで魔王は交渉の場につかず、外交官に任せきりだそうですから」
「わーお役人」
誠に遺憾です、善処します、ってやり取りを繰り返してるわけか。そりゃ進まん。
「このまま進展がなければ、武力行使も吝かではないですが。弱体化していても魔王は魔王ですからね。真正面からやり合うようなことはできれば避けたいのが本音です。呪いの内容も、向こうからしたら遊んでいる程度なんでしょう。本気になれば呪い殺すこともできるはずですから」
「ひえっ」
急に魔王み増すじゃん。
最初に呪いの話を聞いた時は俺もちょっとバカっぽいなと思ったけど、遊んでて良かった。本気になられたらシャレにならん。
「なら俺にできるのは、地道に解呪をしていくことだけだな」
そう言って落胆の息を吐いた俺に、アルベールは意外そうに目を丸くしていた。
「なんだよ?」
「いえ……あなたは、それ以上のことをするつもりだったのですか?」
「そりゃ聖女として呼ばれたんだから、役割分の仕事はするよ」
金貰ってるし。衣食住も全部世話してもらってるし。
さすがにこれで無職は良心が痛む。
「……役割分の仕事は、十分にしていますよ。限界まで解呪を行っているでしょう」
「俺が男なせいで、限界値が低くて申し訳ないけどな。まぁそっちもちゃんとやるけど、他に力になれることがあれば言ってくれよ。俺できること少ないんだし、役に立てる場面限られるからさ」
パソコン関係ならちょっとはできるんだけどなー。この世界パソコンないからな。無意味。
体力勝負の雑用程度ならできるが、それをやると肝心の解呪がままならないジレンマ。
「アルベール?」
考え込むように俯いたアルベールに、俺は首を傾げた。仕事内容でも考えてるんだろうか。
「あなたは、いるだけで役に立っていますよ」
俺は目を瞬かせた。なんじゃそりゃ。お飾りってことか?
「聖女の存在は皆の希望です。あなたが健康で、笑っていることが、皆の力になります」
「えっ遠回しに倒れていることをディスられている?」
「言葉の意味はわかりませんが、悪い意味はないですよ。あなたの世界にもいたでしょう。言葉が、笑顔が、力を持つ者が」
「言わんとしているところはわかるけど、そういう人って行動が伴ってるからこそなんだが」
「あなたも、きちんと行動が伴っています」
「うそ、どの辺が?」
マジでわからん。怪訝な顔をした俺に、アルベールはくすりと笑みを零した。
「さぁ、どこでしょう」
うっわ。イケメンムーヴうっわ。
イケメンだから許される。嘘。俺は男なのでイケメンでも許さない。
ふてくされた俺に、アルベールは緩く微笑むばかりだった。
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