5 / 32
集まれ愉快な仲間たち!
しおりを挟む
□■□
「ふわ~ぁ」
でかいあくびをして俺は目をこすった。
目が覚めたら全部夢だったりしないだろうか、という希望は無駄な抵抗に終わった。
ふっかふかのキングサイズのベッド。大きな窓から差し込む朝日。
どう見ても俺の部屋じゃない。
ここはマベルデ王国。昨日俺は『聖女』としてこの国に召喚された。
元の世界に帰れるのは一年後。それまでは聖女として、魔王の呪いにかかった人たちの解呪をして過ごすことになる。
「……で、いいんだよなぁ?」
脳内整理をしながら、俺は呟いた。
俺が帰れるのは一年後だと聞いた。けれど、それは俺が聖女の能力を有していなかった場合の話だ。
試してみたところ、俺は聖女として呪いを解くことができた。ということは、魔王の呪いが残っている状態では、期限が来たとしても帰してもらえないんじゃないだろうか。
「考えすぎかね」
用意されていた服に袖を通しながら零す。
悪い人たちには見えなかった。俺を無理やりこの世界に縛りつけたりはしないだろうけれど。
帰還条件ははっきりさせておいた方が良いかもな、などと思っていると。
「準備できました?」
「どわぁ!?」
急に背後からかけられた声に、文字通り跳び上がった。
地面から数センチ浮いた気がする。
「ラウル! びびらせんな!」
「やー、すんません、ついうっかり」
「ノックしろよ!」
「次からそーします」
へらっと笑ったラウルを、俺はジト目で見つめた。
わざとじゃないだろうなこいつ。
ラウルの案内で食堂に行くと、昨日の三人が揃っていた。
軽く挨拶をして、ちらりと視線を動かす。テーブルには全部で五人。俺の見知らぬ人間が二人、席についている。
俺はラウルに椅子を引かれて、五人と同じテーブルについた。
「ハルトは昨日から何も食べていないだろう。話は食べながらにしよう」
ありがたいことにカインがそう提案してくれたので、俺は遠慮なく温かい朝食にありつくことができた。
さすがに洋食だったが、メニューの内容は元の世界と大差ない。良かった。食文化は大事だ。ゲテモノ文化だったらどうしようかと思った。
カトラリーも変わらないので、マナー的なことを度外視すれば使うのに支障はない。食器は食べ物に合わせて考えられるものだから、あまり突飛なものになったりはしないんだろう。そりゃそうか。
むしむしとパンをちぎりながら頬張る俺に、カインが見知らぬ二人の内、小さい方をまず紹介した。
「彼は俺の弟で、カロという」
「初めまして、ハルト。僕はマベルデ王国第三王子、カロと申します」
にこっと人好きのする笑みで名乗ったのは、中学生くらいの少年だった。
ふわふわとした金髪に、兄のカインと同じ碧眼はくりくりと丸い。なるほど、兄弟というのも納得だ。凛々しいカインに対して可愛らしい印象を受けるが、カラーリングがよく似ている。
しかしスルーしそうになったが、第三王子。
……第二王子、どこ行った?
俺はもう一人の人物に視線をやった。まさか、こちらが第二王子なのだろうか。
しかしその人物は、一見すると女性に見える。
大層美しい顔立ち、長い睫毛。さらさらの銀髪は腰のあたりまで伸ばされている。
それに第二王子だとしたら、普通はそちらを先に紹介するのではないだろうか。
思わず見つめていると、ばちりと視線が合った。
ふわりと微笑んだ柔和な表情は、まるで聖母のようだった。いかん、うっかりときめいた。
「こちらは書記官のミシェルだ」
「ミシェルと申します。どうぞお見知りおきを」
「声ひっく!?」
俺は思わず叫んだ。
いやひっく!? 見た目を裏切り過ぎなんだが!?
普通に男だったわ!! よく見たら喉仏も普通にあるな!
「あっす、すみません。失礼なことを」
「いえ、いいんですよ。よく言われます」
にこりと笑ったミシェルは、気分を害してはいなさそうだった。危ねえ。思ったことをすぐ口にするのはまずい。
結局第二王子の謎は解けなかったが、そこは俺がつっこんだらまずいんだろう多分。
「ミシェルは書庫の管理をしている。ハルトはこちらの世界のことを何も知らないし、勉学の面でも世話になることもあるだろう」
「あっ、なるほど。先生?」
「先生、というのも恐縮ですが。ある程度の疑問にはお答えできるかと」
マジかよ美人教師じゃん。男子高校生からしたら夢のような存在だ。
ただし男だ。
紹介を終えたカインが、一つ咳払いをした。
「ハルトの身柄は、王子である俺が保証している。基本的には俺を頼ってくれていい。だが、俺の目が届かない場合もあるだろう。城内でのことはカロが、勉学の面ではミシェルが。騎士団の管轄はアーサーが、魔法師の管轄はアルベールが。その他の雑事はラウルが請け負う。ひとまずハルトは、この場にいる面々を覚えておいてくれればいい」
俺は全員の顔を見渡した。
そうか。俺のために、頼れる人を全員集めてくれたのか。
カインの気づかいに、俺は胸の奥がじんとした。
「ありがとう。俺、どこまで役に立てるかわかんないけど。精いっぱい、聖女とやらをこなしてみせるんで。これからよろしくお願いします!」
俺の宣言に、頼もしい仲間たちは口々に答えてくれた。
異世界なんて冗談じゃねえと思ってたけど、なんとかなりそう!
「ふわ~ぁ」
でかいあくびをして俺は目をこすった。
目が覚めたら全部夢だったりしないだろうか、という希望は無駄な抵抗に終わった。
ふっかふかのキングサイズのベッド。大きな窓から差し込む朝日。
どう見ても俺の部屋じゃない。
ここはマベルデ王国。昨日俺は『聖女』としてこの国に召喚された。
元の世界に帰れるのは一年後。それまでは聖女として、魔王の呪いにかかった人たちの解呪をして過ごすことになる。
「……で、いいんだよなぁ?」
脳内整理をしながら、俺は呟いた。
俺が帰れるのは一年後だと聞いた。けれど、それは俺が聖女の能力を有していなかった場合の話だ。
試してみたところ、俺は聖女として呪いを解くことができた。ということは、魔王の呪いが残っている状態では、期限が来たとしても帰してもらえないんじゃないだろうか。
「考えすぎかね」
用意されていた服に袖を通しながら零す。
悪い人たちには見えなかった。俺を無理やりこの世界に縛りつけたりはしないだろうけれど。
帰還条件ははっきりさせておいた方が良いかもな、などと思っていると。
「準備できました?」
「どわぁ!?」
急に背後からかけられた声に、文字通り跳び上がった。
地面から数センチ浮いた気がする。
「ラウル! びびらせんな!」
「やー、すんません、ついうっかり」
「ノックしろよ!」
「次からそーします」
へらっと笑ったラウルを、俺はジト目で見つめた。
わざとじゃないだろうなこいつ。
ラウルの案内で食堂に行くと、昨日の三人が揃っていた。
軽く挨拶をして、ちらりと視線を動かす。テーブルには全部で五人。俺の見知らぬ人間が二人、席についている。
俺はラウルに椅子を引かれて、五人と同じテーブルについた。
「ハルトは昨日から何も食べていないだろう。話は食べながらにしよう」
ありがたいことにカインがそう提案してくれたので、俺は遠慮なく温かい朝食にありつくことができた。
さすがに洋食だったが、メニューの内容は元の世界と大差ない。良かった。食文化は大事だ。ゲテモノ文化だったらどうしようかと思った。
カトラリーも変わらないので、マナー的なことを度外視すれば使うのに支障はない。食器は食べ物に合わせて考えられるものだから、あまり突飛なものになったりはしないんだろう。そりゃそうか。
むしむしとパンをちぎりながら頬張る俺に、カインが見知らぬ二人の内、小さい方をまず紹介した。
「彼は俺の弟で、カロという」
「初めまして、ハルト。僕はマベルデ王国第三王子、カロと申します」
にこっと人好きのする笑みで名乗ったのは、中学生くらいの少年だった。
ふわふわとした金髪に、兄のカインと同じ碧眼はくりくりと丸い。なるほど、兄弟というのも納得だ。凛々しいカインに対して可愛らしい印象を受けるが、カラーリングがよく似ている。
しかしスルーしそうになったが、第三王子。
……第二王子、どこ行った?
俺はもう一人の人物に視線をやった。まさか、こちらが第二王子なのだろうか。
しかしその人物は、一見すると女性に見える。
大層美しい顔立ち、長い睫毛。さらさらの銀髪は腰のあたりまで伸ばされている。
それに第二王子だとしたら、普通はそちらを先に紹介するのではないだろうか。
思わず見つめていると、ばちりと視線が合った。
ふわりと微笑んだ柔和な表情は、まるで聖母のようだった。いかん、うっかりときめいた。
「こちらは書記官のミシェルだ」
「ミシェルと申します。どうぞお見知りおきを」
「声ひっく!?」
俺は思わず叫んだ。
いやひっく!? 見た目を裏切り過ぎなんだが!?
普通に男だったわ!! よく見たら喉仏も普通にあるな!
「あっす、すみません。失礼なことを」
「いえ、いいんですよ。よく言われます」
にこりと笑ったミシェルは、気分を害してはいなさそうだった。危ねえ。思ったことをすぐ口にするのはまずい。
結局第二王子の謎は解けなかったが、そこは俺がつっこんだらまずいんだろう多分。
「ミシェルは書庫の管理をしている。ハルトはこちらの世界のことを何も知らないし、勉学の面でも世話になることもあるだろう」
「あっ、なるほど。先生?」
「先生、というのも恐縮ですが。ある程度の疑問にはお答えできるかと」
マジかよ美人教師じゃん。男子高校生からしたら夢のような存在だ。
ただし男だ。
紹介を終えたカインが、一つ咳払いをした。
「ハルトの身柄は、王子である俺が保証している。基本的には俺を頼ってくれていい。だが、俺の目が届かない場合もあるだろう。城内でのことはカロが、勉学の面ではミシェルが。騎士団の管轄はアーサーが、魔法師の管轄はアルベールが。その他の雑事はラウルが請け負う。ひとまずハルトは、この場にいる面々を覚えておいてくれればいい」
俺は全員の顔を見渡した。
そうか。俺のために、頼れる人を全員集めてくれたのか。
カインの気づかいに、俺は胸の奥がじんとした。
「ありがとう。俺、どこまで役に立てるかわかんないけど。精いっぱい、聖女とやらをこなしてみせるんで。これからよろしくお願いします!」
俺の宣言に、頼もしい仲間たちは口々に答えてくれた。
異世界なんて冗談じゃねえと思ってたけど、なんとかなりそう!
2
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる