4 / 32
兄ちゃんってこんな感じ?
しおりを挟む
女の子が落ち着いたあたりで、ラウルが彼女を連れて出て行った。
俺はまだちょっと落ち着かない気持ちだった。
まさか本当に女の子だったとは。疑っていたわけではないが、完全に信じられるかどうかは別問題だ。呪いのことも、聖女の力も。
しかし実際にできてしまったからには、信じるしかあるまい。
それにしても、呪いの解除方法にはやや抵抗があったが、考えようによっては解いたその瞬間は女の子とゼロ距離なわけだ。ちょっと役得かもしれない。いや変なことはしないけども。
「ハルト!」
「うおっ!?」
がっしとカインに抱きつかれて、俺は思わず珍妙な声を上げた。
「ありがとう! 君はやはり聖女だった! これで呪われた者たちも救われる。未来に希望が見えた。君のおかげだ。心から感謝する!」
「お、おう……。わかったから、放してくれカイン……様」
王子だからやっぱり敬称は様だよな、とためらいがちに呼ぶと、カインは俺の肩を両手で掴んで体を離した。
「そんな風に呼ばないでくれ。ハルトはこの国の国民ではない。いわば救世主だ」
「救世主て。持ち上げすぎですよ」
「そんなことはない。ハルトは縁もゆかりもないこの国を救うために行動してくれた。それはとても尊い行為だ。誇っていい」
どきりとした。俺はただ、流されるまま、言われるままに行動しただけだ。
事勿れ主義。それが俺の生き方だから。
だって俺を呼んだのはこの人たちで、今のところこの人たちしか頼れないから。追い出されたら行くところもないし。
それなのに。
「君とは友になりたい、ハルト。だから気安く、カインと呼んでくれないか。堅苦しい話し方もなしだ」
「カインが、それで、いいなら」
王子様相手に呼び捨てとか恐れ多いんだが。他の人に陰口叩かれそう。
でも、きらきらと眩しい笑顔に、嫌とは言えなかった。
「オレもオレも! アーサーでいいからな!」
どしっと背中側から圧しかかってきたのはアーサーだった。こいつ筋肉の分重いな!
「私のこともアルベールとお呼びください。殿下を気安く呼ぶ以上、それより下の私に敬称など使われては困りますからね」
アルベールはこれどっちだ。本当は呼んでほしくないけどカインの手前こう言うしかないのか、ただのツンデレか。
とりあえず。俺はこの世界で、それなりに地位のありそうな三人を味方に付けることに成功した。
……ってことで、いいんだよな?
「なんかもう色々あって疲れた……」
げそっと溜息を吐いた俺に、カインが気づかわしげな顔をした。
「すまない、休める場所へ案内しよう。ラウル!」
「はいはい」
再び手を叩いたカインの元へ、ラウルが現れる。
あれさっき出て行かなかった? 戻ってくるの早くない?
「ハルトを客室へ案内してくれ」
「了解です」
三人とはそこで別れ、俺はラウルの案内で客室へと向かった。
「こちらが聖女様のお部屋です」
「うお、広……っ!」
ラウルに案内された城内にある客室は、おそらく貴賓室であろう豪奢な部屋だった。
俺一人で使うのは申し訳ないほどに広さもあり、本当にこんな部屋に住んで良いのか気後れする。
それにしても。
「これ、女用ですよね」
「そうですね。本来聖女様……ああ、女性の聖女様をお招きする予定で用意したものですんで」
そりゃそうか。
ゴテゴテにわかりやすいフリルやレースで飾られていたり、ぬいぐるみが置いてあったりなんてことはないが。
白を基調に薄いパステルカラーを取り入れた淡い色使い、所々に飾られた花、華美過ぎないものの手の込んだ細工が施してある家具や小物。淑やかな女性に相応しい部屋、という印象だ。
「聖女様が望まれるなら、お好きなように模様替えしますよ」
「いや、部屋があるだけで十分なんで。ていうか、ラウルさん。その聖女様ってのやめてください」
「おや。お嫌ですか?」
「俺男ですよ。聖女様って変でしょう」
「役職なんで別にいいと思いますけどねぇ。んじゃ、ハルト様もオレに敬語やめてください。あの御三方が呼び捨てなのにオレに敬語じゃ、首が飛びます」
「げっそんなの影響すんの!? やめるやめる」
本人から了承を取っていないし、一番年長っぽかったからつい敬語で話してしまったが。アルベールの言い草はあながち間違ってなかったのか。
俺の口調一つで他人に影響が出るなんて、うっかりなんかやらかしそうで怖い。
青い顔をした俺に、ラウルは吹き出した。
「冗談ですよ。そのくらいで罰せられたりはしませんけど。ま、聖女様は地位的には殿下と同等程度と思っていいんじゃないですかね。お偉方以外には気安く接していいと思いますよ。もし誰かに何か言われたりしたら、オレに言ってください。対処しますんで」
「対処ってなに」
不穏な言葉に思わず尋ねると、にこりと笑顔で返された。怖。なに。
「まー仲良くやりましょーや。オレあんたの世話係なんで、多分一番接点多いですし」
「お、おおう」
ばしばしと背中を叩かれて、とりあえず返事をする。
頼れる兄ちゃんみたいな感じか。あのイケメン三人よりは、身近に感じられる。落ち着く顔してるし。存分に頼らせてもらおう。
「これからよろしくな、ラウル」
笑いかけると、向こうも笑顔で俺の頭をわしわしと撫でた。
うーん、女子ならトキメキポイントなんだろうかここ。
なんてったって聖女だし、これちゃんと女の子が召喚されてたら乙女ゲームそのものだったんだろうな。あの女子高生には申し訳ないことをした。
でも俺も一年で帰るから、勘弁してくれ。
俺はまだちょっと落ち着かない気持ちだった。
まさか本当に女の子だったとは。疑っていたわけではないが、完全に信じられるかどうかは別問題だ。呪いのことも、聖女の力も。
しかし実際にできてしまったからには、信じるしかあるまい。
それにしても、呪いの解除方法にはやや抵抗があったが、考えようによっては解いたその瞬間は女の子とゼロ距離なわけだ。ちょっと役得かもしれない。いや変なことはしないけども。
「ハルト!」
「うおっ!?」
がっしとカインに抱きつかれて、俺は思わず珍妙な声を上げた。
「ありがとう! 君はやはり聖女だった! これで呪われた者たちも救われる。未来に希望が見えた。君のおかげだ。心から感謝する!」
「お、おう……。わかったから、放してくれカイン……様」
王子だからやっぱり敬称は様だよな、とためらいがちに呼ぶと、カインは俺の肩を両手で掴んで体を離した。
「そんな風に呼ばないでくれ。ハルトはこの国の国民ではない。いわば救世主だ」
「救世主て。持ち上げすぎですよ」
「そんなことはない。ハルトは縁もゆかりもないこの国を救うために行動してくれた。それはとても尊い行為だ。誇っていい」
どきりとした。俺はただ、流されるまま、言われるままに行動しただけだ。
事勿れ主義。それが俺の生き方だから。
だって俺を呼んだのはこの人たちで、今のところこの人たちしか頼れないから。追い出されたら行くところもないし。
それなのに。
「君とは友になりたい、ハルト。だから気安く、カインと呼んでくれないか。堅苦しい話し方もなしだ」
「カインが、それで、いいなら」
王子様相手に呼び捨てとか恐れ多いんだが。他の人に陰口叩かれそう。
でも、きらきらと眩しい笑顔に、嫌とは言えなかった。
「オレもオレも! アーサーでいいからな!」
どしっと背中側から圧しかかってきたのはアーサーだった。こいつ筋肉の分重いな!
「私のこともアルベールとお呼びください。殿下を気安く呼ぶ以上、それより下の私に敬称など使われては困りますからね」
アルベールはこれどっちだ。本当は呼んでほしくないけどカインの手前こう言うしかないのか、ただのツンデレか。
とりあえず。俺はこの世界で、それなりに地位のありそうな三人を味方に付けることに成功した。
……ってことで、いいんだよな?
「なんかもう色々あって疲れた……」
げそっと溜息を吐いた俺に、カインが気づかわしげな顔をした。
「すまない、休める場所へ案内しよう。ラウル!」
「はいはい」
再び手を叩いたカインの元へ、ラウルが現れる。
あれさっき出て行かなかった? 戻ってくるの早くない?
「ハルトを客室へ案内してくれ」
「了解です」
三人とはそこで別れ、俺はラウルの案内で客室へと向かった。
「こちらが聖女様のお部屋です」
「うお、広……っ!」
ラウルに案内された城内にある客室は、おそらく貴賓室であろう豪奢な部屋だった。
俺一人で使うのは申し訳ないほどに広さもあり、本当にこんな部屋に住んで良いのか気後れする。
それにしても。
「これ、女用ですよね」
「そうですね。本来聖女様……ああ、女性の聖女様をお招きする予定で用意したものですんで」
そりゃそうか。
ゴテゴテにわかりやすいフリルやレースで飾られていたり、ぬいぐるみが置いてあったりなんてことはないが。
白を基調に薄いパステルカラーを取り入れた淡い色使い、所々に飾られた花、華美過ぎないものの手の込んだ細工が施してある家具や小物。淑やかな女性に相応しい部屋、という印象だ。
「聖女様が望まれるなら、お好きなように模様替えしますよ」
「いや、部屋があるだけで十分なんで。ていうか、ラウルさん。その聖女様ってのやめてください」
「おや。お嫌ですか?」
「俺男ですよ。聖女様って変でしょう」
「役職なんで別にいいと思いますけどねぇ。んじゃ、ハルト様もオレに敬語やめてください。あの御三方が呼び捨てなのにオレに敬語じゃ、首が飛びます」
「げっそんなの影響すんの!? やめるやめる」
本人から了承を取っていないし、一番年長っぽかったからつい敬語で話してしまったが。アルベールの言い草はあながち間違ってなかったのか。
俺の口調一つで他人に影響が出るなんて、うっかりなんかやらかしそうで怖い。
青い顔をした俺に、ラウルは吹き出した。
「冗談ですよ。そのくらいで罰せられたりはしませんけど。ま、聖女様は地位的には殿下と同等程度と思っていいんじゃないですかね。お偉方以外には気安く接していいと思いますよ。もし誰かに何か言われたりしたら、オレに言ってください。対処しますんで」
「対処ってなに」
不穏な言葉に思わず尋ねると、にこりと笑顔で返された。怖。なに。
「まー仲良くやりましょーや。オレあんたの世話係なんで、多分一番接点多いですし」
「お、おおう」
ばしばしと背中を叩かれて、とりあえず返事をする。
頼れる兄ちゃんみたいな感じか。あのイケメン三人よりは、身近に感じられる。落ち着く顔してるし。存分に頼らせてもらおう。
「これからよろしくな、ラウル」
笑いかけると、向こうも笑顔で俺の頭をわしわしと撫でた。
うーん、女子ならトキメキポイントなんだろうかここ。
なんてったって聖女だし、これちゃんと女の子が召喚されてたら乙女ゲームそのものだったんだろうな。あの女子高生には申し訳ないことをした。
でも俺も一年で帰るから、勘弁してくれ。
11
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。


【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる