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俺が聖女ってそれなんてバグ?
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「………………」
「………………」
煙が晴れてお互いの顔がはっきり見えるようになると、俺とイケメンどもは黙って見つめ合っていた。
いやなんか喋れや。
いらいらしながら半眼になると、はっとしたように金髪のイケメンが手を上げた。
「集合!」
その一声で、イケメン三人はがっと肩を組んでこそこそと話し出した。
よくわからんが、あの金髪がリーダーのようだ。
「どういうことだ。呼び出すのは聖女じゃなかったのか? あれはどう見ても男だろう」
「いやいや殿下、決めつけちゃダメだろ。ああ見えてちょっとゴツイ女の子だったらどーすんだよ」
「骨格からしてそれはあり得ないと思いますが……一応、確認してみては?」
「そ、そうだな」
くるりとイケメンどもがこちらを向く。代表して金髪が一歩前に出た。
「すまない、不躾なことを訊くようだが。君は……その、女性だろうか?」
「俺が女に見えてんなら眼科の診察をおすすめしますね。普通に男です」
「男じゃないか!?」
残りの二人を振り返って金髪が叫ぶ。うるせえな。
というかいい加減状況を説明してほしい。いくら温厚な俺でもそろそろキレそう。
「あの」
いらっとして、つい強い口調になってしまった。驚いて目を丸くしたイケメンどもの視線が突き刺さる。
いかん、初対面の人間を威嚇してしまった。
一つ咳払いをして、落ち着いて話しかける。
「とりあえず、説明してもらえませんか。あなたたちは誰で、ここはどこで、俺はどうしてここにいるんですか」
「そ、そうだな。失礼した」
金髪は床に座りっぱなしの俺に手を差し伸べて立たせると、聖堂の椅子に座らせた。
俺の前にイケメン三人が並ぶ。
最初に口を開いたのは、リーダーらしき金髪の男。青い瞳に甘い顔立ちは、いかにも王子様といった風貌だ。
「俺はカイン。このマベルデ王国の第一王子だ」
マジかよ本物の王子様だった。ぽかんとした俺に、続いて右隣の男が進み出た。
背中の中ほどまで伸ばした青い髪を、下の方で緩く括っている。眼鏡の奥の瞳は理知的に輝いていて、一番話が通じそうだと思った。
「私はアルベール。宮廷魔法師を務めています」
おお、魔法師。ってことはここには魔法があるのか。ファンタジー。
「最後はオレな! 騎士団長のアーサーだ。よろしくな!」
竹を割ったようなさっぱりとした笑顔の男は、服の上からでもわかるほど鍛え上げられた体をしていた。羨ましい。短く刈られた赤い髪がよく似合っている。
「俺は……ハルト。ただの男子高校生です」
相手が名前しか名乗らなかったので、俺もファーストネームだけを名乗っておく。ついでに男だということも再度強調しておいた。
「ダンシコウコウセイ」
「あー……学生です。わかります?」
「そうか! わかるぞ、学校に通っているんだろ?」
「学校はあるんですね」
「騎士学校と魔法学院があるからな」
なるほど。アーサーと名乗った赤い人の言葉に、俺はちょっとほっとした。
ハイスクールという制度はないが、学校という機関はあるらしい。つまりある程度教養を得る機会と、集団生活の経験があるということだ。文化レベルが極端に違うということはないだろう。
王子様はわからないが、少なくとも騎士団長と宮廷魔法師に関しては、そこを卒業していると推測できる。
年齢は聞いていないが俺より上っぽいから、全員二十代前半あたりというところか。ただどう見ても顔立ちが欧州系なので、当たっているかは不明。
「ハルト。急なことで戸惑わせてすまない。順を追って説明させてくれ」
王子様、カインの言葉に、俺は居住まいを正した。
「今このマベルデ王国は、魔王によって危機にさらされている」
「魔王……!」
ゲームではお馴染みの存在に、ごくりと息を呑む。先ほどまでのわちゃわちゃした空気から、一転してシリアスになった。
「既に国民の何割かが、魔王の呪いの犠牲になっている。その呪いを解けるのは、異世界から召喚される聖女のみとされている」
マジでゲームじゃん、というわくわく感と同時に、妙な違和感が襲った。
聖女?
「なるべくなら国内で事を収めたかったが、国で最も優秀な魔法師のアルベールでも、呪いを解くことはできなかった。そこで仕方なく、聖女召喚の儀を執り行うことにした。そして召喚されたのが――君だ。ハルト」
ん?
「俺?」
「そうだ」
「呼ぼうとしたのって、聖女だよな?」
「そのはずだった」
「……聖女って、女、だよな」
全員が黙った。気まずい表情で、それぞれが視線を逸らす。
おいおいおい。
「失敗してんじゃん!?」
「いやまだ失敗と決まったわけでは!」
「失敗だろどう見ても! なんだって俺なんか――」
そこまで言いかけて、はっとした。
聖女。本来召喚されるはずだった、女。
あの女子高生は、どう見ても様子がおかしかった。あれはもしや、召喚の前兆だったのだろうか。
自分からトラックに突っ込んでいくなんて、どう考えても正気じゃない。
もうちょっと穏便に召喚させられなかったのだろうか、と思わなくはないが、向こうでの存在と整合性を取るために事故に遭わせる必要があるのかもしれない。
行方不明にするとか、意識不明にするとか、あるいは――。
過ぎった想像にぞっとして、頭を振って追い払う。
しかしこの仮説がもし正しければ、俺は自分から巻き込まれにいったことにならないか?
よし、黙っとこう。
「と、とにかく! 手違いなんだから、俺、帰してもらえるんですよね?」
「あ、ああ、もちろん。ただ……」
言い淀んで、カインがアルベールに視線をやった。それを受けて、アルベールが言葉を引き継ぐ。
「聖女召喚の儀は、この国の魔力の流れと、星の巡りの両方の条件が揃わないと行えません。帰還も然り。そしてその条件が合致するのは、一年に一度きりなのです」
「……ってことは」
「あなたをお帰しできるのは、早くて一年後……ということになります」
「……マジで」
俺は唖然とした。いや、魔王を倒すまで帰れないとか、そんなハードモードに比べたら、一年待てば帰れるっていうのは結構マシな条件だと思うけども。
高校生の一年の貴重さをなめるな。留年になるかもしれないし、そうでなくとも受験がやばそう。
「ただ私は、儀式が失敗したとは思っていないんですよね」
「はい?」
何言ってんだこいつ。俺がいる時点で失敗だろ。
眉をひそめた俺に、眼鏡の奥の瞳がきらりと光った。
「あなたからは、聖女の力を感じます」
「……はいぃ?」
「………………」
煙が晴れてお互いの顔がはっきり見えるようになると、俺とイケメンどもは黙って見つめ合っていた。
いやなんか喋れや。
いらいらしながら半眼になると、はっとしたように金髪のイケメンが手を上げた。
「集合!」
その一声で、イケメン三人はがっと肩を組んでこそこそと話し出した。
よくわからんが、あの金髪がリーダーのようだ。
「どういうことだ。呼び出すのは聖女じゃなかったのか? あれはどう見ても男だろう」
「いやいや殿下、決めつけちゃダメだろ。ああ見えてちょっとゴツイ女の子だったらどーすんだよ」
「骨格からしてそれはあり得ないと思いますが……一応、確認してみては?」
「そ、そうだな」
くるりとイケメンどもがこちらを向く。代表して金髪が一歩前に出た。
「すまない、不躾なことを訊くようだが。君は……その、女性だろうか?」
「俺が女に見えてんなら眼科の診察をおすすめしますね。普通に男です」
「男じゃないか!?」
残りの二人を振り返って金髪が叫ぶ。うるせえな。
というかいい加減状況を説明してほしい。いくら温厚な俺でもそろそろキレそう。
「あの」
いらっとして、つい強い口調になってしまった。驚いて目を丸くしたイケメンどもの視線が突き刺さる。
いかん、初対面の人間を威嚇してしまった。
一つ咳払いをして、落ち着いて話しかける。
「とりあえず、説明してもらえませんか。あなたたちは誰で、ここはどこで、俺はどうしてここにいるんですか」
「そ、そうだな。失礼した」
金髪は床に座りっぱなしの俺に手を差し伸べて立たせると、聖堂の椅子に座らせた。
俺の前にイケメン三人が並ぶ。
最初に口を開いたのは、リーダーらしき金髪の男。青い瞳に甘い顔立ちは、いかにも王子様といった風貌だ。
「俺はカイン。このマベルデ王国の第一王子だ」
マジかよ本物の王子様だった。ぽかんとした俺に、続いて右隣の男が進み出た。
背中の中ほどまで伸ばした青い髪を、下の方で緩く括っている。眼鏡の奥の瞳は理知的に輝いていて、一番話が通じそうだと思った。
「私はアルベール。宮廷魔法師を務めています」
おお、魔法師。ってことはここには魔法があるのか。ファンタジー。
「最後はオレな! 騎士団長のアーサーだ。よろしくな!」
竹を割ったようなさっぱりとした笑顔の男は、服の上からでもわかるほど鍛え上げられた体をしていた。羨ましい。短く刈られた赤い髪がよく似合っている。
「俺は……ハルト。ただの男子高校生です」
相手が名前しか名乗らなかったので、俺もファーストネームだけを名乗っておく。ついでに男だということも再度強調しておいた。
「ダンシコウコウセイ」
「あー……学生です。わかります?」
「そうか! わかるぞ、学校に通っているんだろ?」
「学校はあるんですね」
「騎士学校と魔法学院があるからな」
なるほど。アーサーと名乗った赤い人の言葉に、俺はちょっとほっとした。
ハイスクールという制度はないが、学校という機関はあるらしい。つまりある程度教養を得る機会と、集団生活の経験があるということだ。文化レベルが極端に違うということはないだろう。
王子様はわからないが、少なくとも騎士団長と宮廷魔法師に関しては、そこを卒業していると推測できる。
年齢は聞いていないが俺より上っぽいから、全員二十代前半あたりというところか。ただどう見ても顔立ちが欧州系なので、当たっているかは不明。
「ハルト。急なことで戸惑わせてすまない。順を追って説明させてくれ」
王子様、カインの言葉に、俺は居住まいを正した。
「今このマベルデ王国は、魔王によって危機にさらされている」
「魔王……!」
ゲームではお馴染みの存在に、ごくりと息を呑む。先ほどまでのわちゃわちゃした空気から、一転してシリアスになった。
「既に国民の何割かが、魔王の呪いの犠牲になっている。その呪いを解けるのは、異世界から召喚される聖女のみとされている」
マジでゲームじゃん、というわくわく感と同時に、妙な違和感が襲った。
聖女?
「なるべくなら国内で事を収めたかったが、国で最も優秀な魔法師のアルベールでも、呪いを解くことはできなかった。そこで仕方なく、聖女召喚の儀を執り行うことにした。そして召喚されたのが――君だ。ハルト」
ん?
「俺?」
「そうだ」
「呼ぼうとしたのって、聖女だよな?」
「そのはずだった」
「……聖女って、女、だよな」
全員が黙った。気まずい表情で、それぞれが視線を逸らす。
おいおいおい。
「失敗してんじゃん!?」
「いやまだ失敗と決まったわけでは!」
「失敗だろどう見ても! なんだって俺なんか――」
そこまで言いかけて、はっとした。
聖女。本来召喚されるはずだった、女。
あの女子高生は、どう見ても様子がおかしかった。あれはもしや、召喚の前兆だったのだろうか。
自分からトラックに突っ込んでいくなんて、どう考えても正気じゃない。
もうちょっと穏便に召喚させられなかったのだろうか、と思わなくはないが、向こうでの存在と整合性を取るために事故に遭わせる必要があるのかもしれない。
行方不明にするとか、意識不明にするとか、あるいは――。
過ぎった想像にぞっとして、頭を振って追い払う。
しかしこの仮説がもし正しければ、俺は自分から巻き込まれにいったことにならないか?
よし、黙っとこう。
「と、とにかく! 手違いなんだから、俺、帰してもらえるんですよね?」
「あ、ああ、もちろん。ただ……」
言い淀んで、カインがアルベールに視線をやった。それを受けて、アルベールが言葉を引き継ぐ。
「聖女召喚の儀は、この国の魔力の流れと、星の巡りの両方の条件が揃わないと行えません。帰還も然り。そしてその条件が合致するのは、一年に一度きりなのです」
「……ってことは」
「あなたをお帰しできるのは、早くて一年後……ということになります」
「……マジで」
俺は唖然とした。いや、魔王を倒すまで帰れないとか、そんなハードモードに比べたら、一年待てば帰れるっていうのは結構マシな条件だと思うけども。
高校生の一年の貴重さをなめるな。留年になるかもしれないし、そうでなくとも受験がやばそう。
「ただ私は、儀式が失敗したとは思っていないんですよね」
「はい?」
何言ってんだこいつ。俺がいる時点で失敗だろ。
眉をひそめた俺に、眼鏡の奥の瞳がきらりと光った。
「あなたからは、聖女の力を感じます」
「……はいぃ?」
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