1 / 1
黄昏時のあなた
しおりを挟む
「みゃーちゃん、まってまって!」
公園の中で駆け回るみゃーちゃんを私は追いかける。
やっと近づいたと思ったらまたすぐに遠くに行ってしまって、みゃーちゃんは足が速い。
それでも私は楽しかった。私と一緒に遊んでくれるのは、みゃーちゃんだけだったから。
幼稚園でも私はいつも一人ぼっち。でも寂しくない。だって公園にくれば、みゃーちゃんに会えるから。
「みずほー、そろそろ帰るわよ」
公園の入り口からお母さんの声。もう家に帰らなくちゃ。
「みゃーちゃん、ばいばい!」
大きく手を振って、私はみゃーちゃんに別れを告げた。
お母さんのところに駆け寄ると、お母さんが屈んだ。
「またみゃーちゃんと遊んでたの?」
「うん! いつもたくさんあそんでくれるの!」
「……そう」
お母さんは困ったように笑って、私の頭を撫でた。
ある日お母さんに病院に連れて行かれた。
私はどこも痛くないし、お熱もない。そう言ったけど、ちょっとした健康診断みたいなものだから、と言われた。
お医者さんからいくつか質問されて、よくわからない検査をして、私は隣の部屋で遊んでおいでと言われた。
壁の向こうから、うっすらお母さんと先生の声が聞こえる。
「――イマジナリーフレンドという――」
「――統合失調症では――」
「――幻覚はいつから――」
なんだろう。難しくてよくわからない。
みゃーちゃんが一緒に遊んでくれたらいいのになぁ。
みゃーちゃんはあの公園にしかいないから。
「みずほ、帰ろっか」
暫くして、お母さんが迎えにきた。私は駆け寄って、お母さんと手を繋いだ。
病院からの帰り道、お母さんは優しく笑って私に言った。
「みずほ、暫くあの病院に通おうと思うの。いいかな?」
「どうして? わたし、どこかわるいの?」
「悪い、ってことじゃないんだけどね。みずほがこの先、もっとお友達ができるように。先生と、お母さんと、一緒にがんばろっか」
「おともだちなら、みゃーちゃんがいるよ?」
そう言うと、お母さんは悲しそうな顔をして、私をぎゅっと抱き締めた。
「そうだね。でも、みゃーちゃんだけじゃ、寂しいでしょ?」
「さびしくないよ」
「……これから、きっと、困ることがあるから。お願い」
「……わかった」
お願い、と言ったお母さんが泣きそうだったから。
私はとりあえず、いい子のフリをして頷いた。
それから私は病院に通うことになった。
お薬を飲んだり、先生と一緒に色んなことをしたりした。
公園に行く回数が減って、お母さんにみゃーちゃんと遊びたいと頼んでも、ダメと言われることが増えた。
どうしてって思いながら、勝手に公園に行ったこともあった。すごく怒られた。
そんな風にして、暫くみゃーちゃんと会えない日が続いて。
幼稚園がお休みになったくらいに、お母さんが久しぶりに公園で遊んでいいと言ってくれた。
私は走った。久しぶりにみゃーちゃんに会える!
わくわくして、心臓がどきどきした。まずなんて言おう。会えなくてごめんね? 久しぶりで嬉しい? それから何をしよう。
みゃーちゃん、みゃーちゃん。
「みゃーちゃん!」
大声で叫びながら公園に飛び込むと、中には他の子たちの姿。
きょろきょろと公園の中を見回すけど、どこにもみゃーちゃんの姿がない。
「みゃーちゃん……?」
心細くなって、あっちこっち歩き回る。
いない。どこにも、みゃーちゃんがいない。
泣き出した私に、公園まで連れてきてくれたお母さんが駆け寄ってきた。
「おかあさあん……!」
お母さんにしがみついて泣きじゃくる。
わんわん泣いて、みゃーちゃんがいないことを必死に訴えた。
お母さんは頭を撫でて慰めてくれたけど、なんだかほっとしているようにも見えた。
それからも何度か公園に行ったけど、みゃーちゃんには会えなかった。
お母さんは「引っ越しちゃったのかもね」と言っていた。
そうだとしたら、一言くらい言ってくれても良かったのに。
ううん、私が暫く公園に行かなかったから。だから言えなかったんだ。
私はずっと暗い気持ちだった。
みゃーちゃんに会えないまま、私は幼稚園を卒園して、小学校に入学した。
小学校には同じ幼稚園の子はほとんどいなくて、私はクラスメイトと普通に仲良くなることができた。
放課後は友達と遊んでくる私に、お母さんはにこにこしていた。
今日も私は、友達と一緒に家に帰る途中だった。
「みずほちゃん、ほら早く早く!」
「ま、まって、よ~……!」
たくさんのランドセルを背負って、私は友達を追いかける。
友達は私より遠くのところで、くすくすと笑っている。
「みずほちゃんおそいよ~!」
「だって、おもくって」
「みずほちゃんがじゃんけん負けたからだよ」
笑いながら言う友達は、みんな手ぶら。じゃんけんに負けた人が全員分の荷物を運ぶルールだから。
でもなんでだろう、じゃんけんは、ずっと私の負け。何回やり直しても、ずうっと私の負け。
私、そんなにじゃんけん弱かったかな。
「あっ!」
荷物が重くて、私は途中で転んでしまった。
それを見て友達が声を上げて笑った。
「みずほちゃんとろ~い!」
「あーあ、あたしのランドセル傷ついちゃったぁ」
私は慌てて立ち上がって、友達の分のランドセルを手ではらった。
「ご、ごめんね。よごれちゃって」
「いいよぉ。でも、ばつとして、明日から一週間はみずほちゃんが荷物持ちね」
「え? で、でも」
「だってランドセル落としたのみずほちゃんのせいだよ。わるいことしたらばつがなくっちゃ」
ねー、と友達は笑い合う。そっか、これはわるいことなんだ。
じゃあ、ばつを受けて許してもらわなくっちゃ。
「うん、わかった。ごめんね」
へらりと笑った私に、友達は「いいよ」と笑ってくれた。
そんな風に、小学校の生活は順調だった。
友達はたくさんできたし、遊んでくれるし。給食のおかずも交換してくれる。勉強は苦手だけど、先生ができない子用だって特別に宿題をたくさん出してくれる。体育も苦手で、みんなが走り終わってもまだ走っていた私に、先生が最後まで付き合ってくれて。終わってから、みんなには内緒だよって足が痛くならないマッサージをしてくれた。週に一回だけある放課後のクラブ活動は、美術クラブにした。結構上手に描けた絵を美術の先生に見せたら、「これじゃ駄目よ」って全部上から塗りつぶして、もっと上手にしてくれた。持って帰ってお母さんに見せたら、「素敵な絵ね」って褒めてくれた。
お母さんが「学校は楽しい?」って聞くから、「楽しいよ」って答えた。
楽しい。でも。
「みゃーちゃんに、あいたいなぁ……」
そういえば、もうあの公園にも随分長いこと行っていない。
友達と遊ぶのは別の公園だから。
ずっと会えていないのだし、約束をしているわけでもないし、行ってもみゃーちゃんには会えないだろう。
そうわかってはいたものの、一度考えだしたらどうしてもみゃーちゃんに会いたくなって、私は学校が終わってからこっそりあの公園に行った。
夕日が差し込む公園には、もう誰もいなかった。そういえば、さっき夕方のチャイムが鳴ったっけ。あれでみんな帰ってしまったのだろう。
公園はあの頃となんにも変わっていなかった。周りをぐるっと囲むように生えた木。塗装のはげたベンチ。ちょっとしかない遊具。小さな砂場。入口に置かれた花束。
「なつかしいなぁ」
一歩公園に踏み込むと、ぶわっとあの頃の思い出が蘇ってきた。
あの頃は、あんなに楽しかったのに。
「あれ……?」
違う。今だって楽しいはずだ。毎日楽しいって、思ってる。
だって、お母さんはみゃーちゃんと遊ぶのをあんまりよく思ってなかった。私だってそのくらい気づいてた。
今は違う。お母さんが望む私になれている。友達もいる。うまくできてる。なのに、なんで。
じわりと涙が滲んだその時、誰もいないはずの公園に、ふっと影が落ちた。
「……みゃーちゃん?」
涙声で名前を呼ぶ。辺りは暗くなりはじめて、少しだけ顔が見えづらい。
でも、そうだ。わかる。みゃーちゃんだ。みゃーちゃんだ!
「みゃーちゃん!」
私は大声で叫んで、みゃーちゃんに飛びついた。
わんわん泣く私を、みゃーちゃんは黙って慰めてくれた。
ずっと会いにこれなかったのに。こんな私を、みゃーちゃんは許してくれる。
会えなかった時間を埋めるように、私はみゃーちゃんにたくさんのことを話した。
たくさん、たくさん。話している内に、すっかり日は暮れてしまった。
「ごめんね、みゃーちゃん。私もうかえらなくちゃ」
私は慌てて公園の入り口まで駆けた。
けれど外に出る一歩手前で、ぴたりと止まる。
帰ったら、怒られるかな。みゃーちゃんとのこと、話さなきゃダメかな。
「でも、またあいたいな。……ううん、できたら、みゃーちゃんと。ずっといっしょにいたい」
ずっと一緒にいられたら。寂しくなんてないのに。
もう前みたいに会えなくなることもないのに。
学校であったこと、全部聞いてほしいな。
お母さんには言えないことも、全部。全部。本当の気持ち。
『いいよ』
聞こえた声に、私は大きく目を見開いた。
これは、誰の声だろう。あれ、そういえば、みゃーちゃんの声って、聞いたことあったっけ。
でもこれ、人の声じゃ。
・
・
・
闇に包まれた公園は、しんと静かだった。
そこには何の音もなく、姿もなく。
暗闇の中、入口に置かれた花束だけが、鮮やかな色をしていた。
公園の中で駆け回るみゃーちゃんを私は追いかける。
やっと近づいたと思ったらまたすぐに遠くに行ってしまって、みゃーちゃんは足が速い。
それでも私は楽しかった。私と一緒に遊んでくれるのは、みゃーちゃんだけだったから。
幼稚園でも私はいつも一人ぼっち。でも寂しくない。だって公園にくれば、みゃーちゃんに会えるから。
「みずほー、そろそろ帰るわよ」
公園の入り口からお母さんの声。もう家に帰らなくちゃ。
「みゃーちゃん、ばいばい!」
大きく手を振って、私はみゃーちゃんに別れを告げた。
お母さんのところに駆け寄ると、お母さんが屈んだ。
「またみゃーちゃんと遊んでたの?」
「うん! いつもたくさんあそんでくれるの!」
「……そう」
お母さんは困ったように笑って、私の頭を撫でた。
ある日お母さんに病院に連れて行かれた。
私はどこも痛くないし、お熱もない。そう言ったけど、ちょっとした健康診断みたいなものだから、と言われた。
お医者さんからいくつか質問されて、よくわからない検査をして、私は隣の部屋で遊んでおいでと言われた。
壁の向こうから、うっすらお母さんと先生の声が聞こえる。
「――イマジナリーフレンドという――」
「――統合失調症では――」
「――幻覚はいつから――」
なんだろう。難しくてよくわからない。
みゃーちゃんが一緒に遊んでくれたらいいのになぁ。
みゃーちゃんはあの公園にしかいないから。
「みずほ、帰ろっか」
暫くして、お母さんが迎えにきた。私は駆け寄って、お母さんと手を繋いだ。
病院からの帰り道、お母さんは優しく笑って私に言った。
「みずほ、暫くあの病院に通おうと思うの。いいかな?」
「どうして? わたし、どこかわるいの?」
「悪い、ってことじゃないんだけどね。みずほがこの先、もっとお友達ができるように。先生と、お母さんと、一緒にがんばろっか」
「おともだちなら、みゃーちゃんがいるよ?」
そう言うと、お母さんは悲しそうな顔をして、私をぎゅっと抱き締めた。
「そうだね。でも、みゃーちゃんだけじゃ、寂しいでしょ?」
「さびしくないよ」
「……これから、きっと、困ることがあるから。お願い」
「……わかった」
お願い、と言ったお母さんが泣きそうだったから。
私はとりあえず、いい子のフリをして頷いた。
それから私は病院に通うことになった。
お薬を飲んだり、先生と一緒に色んなことをしたりした。
公園に行く回数が減って、お母さんにみゃーちゃんと遊びたいと頼んでも、ダメと言われることが増えた。
どうしてって思いながら、勝手に公園に行ったこともあった。すごく怒られた。
そんな風にして、暫くみゃーちゃんと会えない日が続いて。
幼稚園がお休みになったくらいに、お母さんが久しぶりに公園で遊んでいいと言ってくれた。
私は走った。久しぶりにみゃーちゃんに会える!
わくわくして、心臓がどきどきした。まずなんて言おう。会えなくてごめんね? 久しぶりで嬉しい? それから何をしよう。
みゃーちゃん、みゃーちゃん。
「みゃーちゃん!」
大声で叫びながら公園に飛び込むと、中には他の子たちの姿。
きょろきょろと公園の中を見回すけど、どこにもみゃーちゃんの姿がない。
「みゃーちゃん……?」
心細くなって、あっちこっち歩き回る。
いない。どこにも、みゃーちゃんがいない。
泣き出した私に、公園まで連れてきてくれたお母さんが駆け寄ってきた。
「おかあさあん……!」
お母さんにしがみついて泣きじゃくる。
わんわん泣いて、みゃーちゃんがいないことを必死に訴えた。
お母さんは頭を撫でて慰めてくれたけど、なんだかほっとしているようにも見えた。
それからも何度か公園に行ったけど、みゃーちゃんには会えなかった。
お母さんは「引っ越しちゃったのかもね」と言っていた。
そうだとしたら、一言くらい言ってくれても良かったのに。
ううん、私が暫く公園に行かなかったから。だから言えなかったんだ。
私はずっと暗い気持ちだった。
みゃーちゃんに会えないまま、私は幼稚園を卒園して、小学校に入学した。
小学校には同じ幼稚園の子はほとんどいなくて、私はクラスメイトと普通に仲良くなることができた。
放課後は友達と遊んでくる私に、お母さんはにこにこしていた。
今日も私は、友達と一緒に家に帰る途中だった。
「みずほちゃん、ほら早く早く!」
「ま、まって、よ~……!」
たくさんのランドセルを背負って、私は友達を追いかける。
友達は私より遠くのところで、くすくすと笑っている。
「みずほちゃんおそいよ~!」
「だって、おもくって」
「みずほちゃんがじゃんけん負けたからだよ」
笑いながら言う友達は、みんな手ぶら。じゃんけんに負けた人が全員分の荷物を運ぶルールだから。
でもなんでだろう、じゃんけんは、ずっと私の負け。何回やり直しても、ずうっと私の負け。
私、そんなにじゃんけん弱かったかな。
「あっ!」
荷物が重くて、私は途中で転んでしまった。
それを見て友達が声を上げて笑った。
「みずほちゃんとろ~い!」
「あーあ、あたしのランドセル傷ついちゃったぁ」
私は慌てて立ち上がって、友達の分のランドセルを手ではらった。
「ご、ごめんね。よごれちゃって」
「いいよぉ。でも、ばつとして、明日から一週間はみずほちゃんが荷物持ちね」
「え? で、でも」
「だってランドセル落としたのみずほちゃんのせいだよ。わるいことしたらばつがなくっちゃ」
ねー、と友達は笑い合う。そっか、これはわるいことなんだ。
じゃあ、ばつを受けて許してもらわなくっちゃ。
「うん、わかった。ごめんね」
へらりと笑った私に、友達は「いいよ」と笑ってくれた。
そんな風に、小学校の生活は順調だった。
友達はたくさんできたし、遊んでくれるし。給食のおかずも交換してくれる。勉強は苦手だけど、先生ができない子用だって特別に宿題をたくさん出してくれる。体育も苦手で、みんなが走り終わってもまだ走っていた私に、先生が最後まで付き合ってくれて。終わってから、みんなには内緒だよって足が痛くならないマッサージをしてくれた。週に一回だけある放課後のクラブ活動は、美術クラブにした。結構上手に描けた絵を美術の先生に見せたら、「これじゃ駄目よ」って全部上から塗りつぶして、もっと上手にしてくれた。持って帰ってお母さんに見せたら、「素敵な絵ね」って褒めてくれた。
お母さんが「学校は楽しい?」って聞くから、「楽しいよ」って答えた。
楽しい。でも。
「みゃーちゃんに、あいたいなぁ……」
そういえば、もうあの公園にも随分長いこと行っていない。
友達と遊ぶのは別の公園だから。
ずっと会えていないのだし、約束をしているわけでもないし、行ってもみゃーちゃんには会えないだろう。
そうわかってはいたものの、一度考えだしたらどうしてもみゃーちゃんに会いたくなって、私は学校が終わってからこっそりあの公園に行った。
夕日が差し込む公園には、もう誰もいなかった。そういえば、さっき夕方のチャイムが鳴ったっけ。あれでみんな帰ってしまったのだろう。
公園はあの頃となんにも変わっていなかった。周りをぐるっと囲むように生えた木。塗装のはげたベンチ。ちょっとしかない遊具。小さな砂場。入口に置かれた花束。
「なつかしいなぁ」
一歩公園に踏み込むと、ぶわっとあの頃の思い出が蘇ってきた。
あの頃は、あんなに楽しかったのに。
「あれ……?」
違う。今だって楽しいはずだ。毎日楽しいって、思ってる。
だって、お母さんはみゃーちゃんと遊ぶのをあんまりよく思ってなかった。私だってそのくらい気づいてた。
今は違う。お母さんが望む私になれている。友達もいる。うまくできてる。なのに、なんで。
じわりと涙が滲んだその時、誰もいないはずの公園に、ふっと影が落ちた。
「……みゃーちゃん?」
涙声で名前を呼ぶ。辺りは暗くなりはじめて、少しだけ顔が見えづらい。
でも、そうだ。わかる。みゃーちゃんだ。みゃーちゃんだ!
「みゃーちゃん!」
私は大声で叫んで、みゃーちゃんに飛びついた。
わんわん泣く私を、みゃーちゃんは黙って慰めてくれた。
ずっと会いにこれなかったのに。こんな私を、みゃーちゃんは許してくれる。
会えなかった時間を埋めるように、私はみゃーちゃんにたくさんのことを話した。
たくさん、たくさん。話している内に、すっかり日は暮れてしまった。
「ごめんね、みゃーちゃん。私もうかえらなくちゃ」
私は慌てて公園の入り口まで駆けた。
けれど外に出る一歩手前で、ぴたりと止まる。
帰ったら、怒られるかな。みゃーちゃんとのこと、話さなきゃダメかな。
「でも、またあいたいな。……ううん、できたら、みゃーちゃんと。ずっといっしょにいたい」
ずっと一緒にいられたら。寂しくなんてないのに。
もう前みたいに会えなくなることもないのに。
学校であったこと、全部聞いてほしいな。
お母さんには言えないことも、全部。全部。本当の気持ち。
『いいよ』
聞こえた声に、私は大きく目を見開いた。
これは、誰の声だろう。あれ、そういえば、みゃーちゃんの声って、聞いたことあったっけ。
でもこれ、人の声じゃ。
・
・
・
闇に包まれた公園は、しんと静かだった。
そこには何の音もなく、姿もなく。
暗闇の中、入口に置かれた花束だけが、鮮やかな色をしていた。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
アララギ兄妹の現代怪異事件簿
鳥谷綾斗(とやあやと)
ホラー
「令和のお化け退治って、そんな感じなの?」
2020年、春。世界中が感染症の危機に晒されていた。
日本の高校生の工藤(くどう)直歩(なほ)は、ある日、弟の歩望(あゆむ)と動画を見ていると怪異に取り憑かれてしまった。
『ぱぱぱぱぱぱ』と鳴き続ける怪異は、どうにかして直歩の家に入り込もうとする。
直歩は同級生、塔(あららぎ)桃吾(とうご)にビデオ通話で助けを求める。
彼は高校生でありながら、心霊現象を調査し、怪異と対峙・退治する〈拝み屋〉だった。
どうにか除霊をお願いするが、感染症のせいで外出できない。
そこで桃吾はなんと〈オンライン除霊〉なるものを提案するが――彼の妹、李夢(りゆ)が反対する。
もしかしてこの兄妹、仲が悪い?
黒髪眼鏡の真面目系男子の高校生兄と最強最恐な武士系ガールの小学生妹が
『現代』にアップグレードした怪異と戦う、テンション高めライトホラー!!!
✧
表紙使用イラスト……シルエットメーカーさま、シルエットメーカー2さま
結婚して旦那親戚の持ち家に引っ越したら幽霊屋敷でした。
紅月千里
ホラー
私33歳 できちゃった結婚間近の私は夫となる人と一緒に住む家を探していた。
猫を多頭飼育している私に貸してくれる家などない。そんな彼は自分の叔母が所有している家に住まないかと提案する。
そして決して訳あり物件ではないその家には、なぜか目に見えない色々な者達が出没するのであった。なぜこれほどまでに色々と出現するのか。
心霊現象に頭を抱えながらも育児をこなし、ネットの情報を頼りにあれこれ対策する99%実話の話し

逢いに来ました、真野先生
弘生
ホラー
不可解を持たない人間なんていない。
みんな辻褄の合わない何かしらを感じて、何かしらを迷って、何かしらの解を嵌めようとする。
高校美術教師を辞した男が山小屋に逃れ、描けない絵を孤独に描き続けている。
ある日を境に、教え子たちがやってきて、不思議で不可解な打ち明け話を始める。
たまたま出会ってしまった怪なのか、心の奥に潜む黒い怪なのか。
元美術教師の中に解はあるのか。
暗闇の奥で何かが共鳴していくような、曖昧な何となく怖いお話にしたい。

怪談居酒屋~幽へようこそ~
弾
ホラー
コインロッカーベイビーにベッドの下男、はたまたターボババアまで。あんな怪異やこんな怪談に遭遇した人が助けを求めて駆け込む場所があった。それが怪談居酒屋『幽』
優しい美人女将といつも飲んだくれている坊主が貴方の不思議の相談にのります。
今宵も店には奇怪な体験をした人が現れて……
怪談や都市伝説を題材にしたちょっと怖くてちょっといい話。ホラーあり都市伝説講座ありの小説です。


傍若無人な皇太子は、その言動で周りを振り回してきた
歩芽川ゆい
ホラー
頭は良いが、性格が破綻している王子、ブルスカメンテ。
その権力も用いて自分の思い通りにならないことなどこの世にはない、と思っているが、婚約者候補の一人、フェロチータ公爵令嬢アフリットだけは面会に来いと命令しても、病弱を理由に一度も来ない。
とうとうしびれをきらしたブルスカメンテは、フェロチータ公爵家に乗り込んでいった。
架空の国のお話です。
ホラーです。
子供に対しての残酷な描写も出てきます。人も死にます。苦手な方は避けてくださいませ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる