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三話

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「とりあえず、ウェットティッシュで拭いてくださいね。で、ショーツとダサくて申し訳ないけどズボンです」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、私はこれで」
 
 任務は果たした。初めてお姉さんとこんなに話せて帰るのは惜しいがこれ以上何もすることは無い。
 
「……まって」
「?……どうしました? 」
 
 お姉さんに呼び止められた。振り向くと、お姉さんはまた目をうるませていた。
 
「あの、お金……まだ渡せてないです」
「気にしなくていいですよ。好きでしたことですし」
「よくないです……本当にごめんなさい。こんな汚いところ見せて……あの、申し訳ないんですけど、このことは誰にも言わないでほしいです……」
「別に気にしてませんし、言いふらしたりもしませんよ。安心してください」
「でもっ、その……」
「早く着替えてください。私は今から帰ります。……あぁ、一緒に帰りますか?」
 
 寂しげにしているお姉さんにそう言ってみれば。どことなく嬉しそうな顔をした。
 
「……いいんですか?」
「そんな寂しそうな顔されたら放っておけないですよ。早く着替えてください。私も準備してくるので、店の入口集合で」
「は、はい……」
 
 どことなく目を輝かせているように見えるお姉さん。かっこよさげだと思ってたけど、案外可愛らしい。
 私はトイレから出て、店のバックヤードに行く。そして制服から着替えて荷物の準備を済ませる。いつもよりは少し急ぎめで。
 帰る準備を全て終わらせた私は早歩きで店の入口を目指す。
 お姉さんは先に着替え終わって待っていた。
 
「お待たせしました。帰りましょ。家どの辺ですか?」
「えっと、一駅先の津臣駅です」
「そうなんですね。私もそこまでなのでしばらく一緒にいられますね」
 
 偶然にも最寄り駅が同じだったらしい。
 心做しか、お姉さんが楽しそうに見える。元気になったなら良かった。
 
「お姉さん、名前なんて言うんですか?結構良く来てくれますよね」
 
 おむつを買いに、とは言わないでおく。
 
「一ノ瀬水葉。20歳の大学生です」
「私も20歳大学生ですよ。羽月京華って言います。お姉さん、大人びてるので社会人かと思ってました」
 
 意外な事実だ。同い年だとは思わなかった。だってお姉さんはすごく大人びてるから。
 そういえば、ずっと気になっていたけどおむつは何に使っているのだろう。今回おもらししてしまったことから、普段はおむつじゃないと予想できる。多分おねしょとかなんだろうけど一応聞いてみよう。
 
「水葉さんって、なんでおむつを使ってるんですか?どんな時に?」
「えっ、とね……寝るときと、あと……不安なときとか、寂しいとき」
「寂しいとき……?」
「そう。意味ないってわかってるけど、なんか甘やかされてる気分になりたくて……」
 
 すごく恥ずかしそうに顔を赤らめている。おねしょは当たっていたようだが、他ふたつは予想出来なかった。
 赤ちゃんみたいになりたいってことか?
 
「赤ちゃんみたいな?」
「違う。そうじゃなくて、なんか、ふわふわで気持ちよくて……おねしょ以外でおむつにおもらししたことはないけど……」
「なるほど。……なるほど」
 
 なんと言ったらいいかわからなくてなるほどを繰り返す。おむつにおもらししたことないって勿体なくない?
 いつの間にかタメになっていることに気がついて、仲良くなれた気がする。
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