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一話

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 私のバイト先には2週間に1度お決まりのお客さんが来る。
 バイト先はドラッグストアなのだけど、そのお客さんは必ずおむつを買っていく。それも顔を真っ赤にして。
 ドラッグストアなのだからそんな客は珍しくないが、その様子から自分で使うものなのだろうと安易に予測してしまう。
 その人の唯一異色な点といえば、現代的というかかなりお洒落なのだ。
 青みがかった黒髪のウルフカット、耳にはバチバチに付いているアクセサリー。スタイリッシュなオフショルにロングスカート。顔だって綺麗だと思う。
 ドラッグストアの客なんて近所のおじちゃんおばちゃんが多い。
 そんな人が恥ずかしがりながらおむつを買っていくのだ。正直可愛らしい。
 他のバイトの子やパートさんに聞いた話では私がレジに居るときにしかお会計をしない。もちろん、お会計をしないというのは万引きをするということではなく、私がレジに立つまで待っているのだ。
 きっと私があの人を覚えているように、あの人も私を覚えているのだろう。一言も話したことはないが。
 
 なぜその人のことを思い出したのかと自分でも思ったが、単純に暇な時間のレジ打ちだったからだ。もうすぐでシフトは終わる、と自分に言い聞かせて時計を睨む。思い出していたあの人が来る予定の日じゃないし、客も少ないから何も面白いことがない。初めて先輩と代わって入ったシフト、この時間って結構暇なんだなってのが唯一の感想。
 
 ────なんとなく店の入口を眺めていたら、見慣れた人を見つけた。さっきまで私の頭の中にいた人。
 どこか急いでいる様子で歩いている。おむつを買うときにおそらく恥ずかしさからそわそわしているのはいつもの事だが。
 いつもはおむつコーナーに直行するのに、店内に入ったあと一度止まって周りを見渡した。そしてレジの私に気がついたようでこちらに向かってきた。そして私の目の前に立つ。もともと背が高いと思っていたが、今日はヒールを履いているようでなおさらだ。そういえばスキニージーンズを履いている。いつもはスカートなのに珍しいな、ヒールも似合っているな、なんて余計なことを考えていた。
 
「あ、の……お手洗い、貸してください……」
 
 意を決したように、いつものように顔を真っ赤にしてそう言われる。だからソワソワしてたのか、なんて一人で納得した。
 声、わりと低いんだな。初めて声を聞いた気がする。
 というか、トイレなんて勝手に行けばいいのに。
 
「はい、どうぞ」
 
 思ったより冷たい声になってしまった。ごめん、いつものお姉さん。悪気はないんです。だからそんな顔しないで。
 泣きそうにも見えるお姉さんに心の中で謝る。
 
「ごめんなさい、場所がわかんなくてっ……教えてください」
 
 そういうことか。だから聞きに来たんだ。
 そろそろ危ないのかもしれない。お姉さんはお洒落な服を握りしめて細い足を擦り合わせている。
 
「あぁ、すみません。ご案内しますね」
 
 顔を赤くして恥ずかしそうにもじもじソワソワと動いているお姉さんが可愛くて、ニヤケないようにすると無表情になってしまう。
 レジ休止中の札を出して、レジから出てトイレまで歩き出す。ここのトイレは入口近くにあるのだが、入口がふたつあってお姉さんが普段使わない方の入口の近くにある。つまり、今お姉さんが入ってきたのと反対の入口近く。
 早歩きでトイレまで向かうと、お姉さんも着いてくる。その様子が可愛らしい。まるで小鳥みたいなのだ。
 
「ここです。では、失礼します」
 
 トイレの前まで着けば、役目を果たした私はさっさと戻る。……はずだった。
 
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