モラトリアムの猫

青宮あんず

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初日に、2

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下腹が重い。ちょうど、シートベルトが掛かってるあたりが疼く。
「ん、っ、」
ブランケットがあってよかった。隠すようにして出口を掴んでいてもバレない。本当は足を組みたいけど、運転してもらってる車でそんなことをするのは失礼だ。
たぶん、さっき飲んだお茶が原因。ペットボトルを見てみると、中身が半分以上減っていることに気がついた。確かに喉が乾いていたのもあって、一気に飲んだ。
「家まで、あとどれくらいですか……?」
「うーん、15分くらい。酔っちゃった?」
「っ、ふ、いえ、大丈夫です」
我慢、できるかな。いや、我慢しなきゃいけないのはわかってるけど。俺、トイレ近いのに。

トイレに入るのは苦手。個室とか狭いところは昔されたお仕置きとか思い出して、息が詰まる。あと、尿意に気付くのが遅れることもあって、トイレも近いから、失敗しないようにちゃんとトイレに行くように気をつけていた。
それなのに、今日は緊張して完全に忘れていた。最後にトイレに行ったのは会社で、5時くらいだった気がする。つまりもう5時間以上トイレに行ってない。それに加えてさっき飲んだお茶。
間に合わなかったらどうしよう。

「大丈夫?眠くなってきた?」
「ぃ、や、ちがっ、なんでも、ないです」
「んー、ならいいんだけど……」
俺が忙しなく動いていたからか、お兄さんに怪しまれてしまった。お兄さんに言ったら、どこかトイレがある場所に寄ってもらえるかもしれない。だけどさっきコンビニに行っていたのだから、その時に行けば良かかったのに、と呆れられてしまいそうだ。まだ、我慢しなきゃ。
「そうだ、今更だけどさ、朔也くんだよね。名前」
「ぇ、あ、はい!……あの、俺実は、お兄さんの名前知らなくて……」
「あぁ、そういえば教えてないか。俺、片桐伊吹」
「伊吹さん……」
「うん、よろしくね」
気になっていたけど聞けなかったから、名前を知ることができて良かった。伊吹さんは俺の名前を知っていたのが気になるけど、俺を買ったなら知っていてもおかしくない。

じょわ、と下着が濡れた気がして、思わず固まる。
シートベルトが苦しい。ズボンのベルトを緩めたい。一分一秒が長く感じる。あと、どれくらいで着くだろうか。
「ふーっ、ふっ、ぅ」
腹に響かないようゆっくりと深い呼吸をする。少し前のめりになって、片手は相変わらずブランケットの下。
最悪の展開を考えて、じわりと涙が滲む。鼻がジーンとする。

「……朔也くん、もしかしてトイレ?」
「っ、?!」
図星だった。伊吹さんにバレていた。
「あと5分くらい我慢できる?ここらへんコンビニとかないから、家に帰る方が早い」
「ん、がまん、する」
「うん、姿勢崩しな」
恥ずかしい。けど、言葉に甘えて、隠さずに足を擦り合わせる。
下着が濡れてる気がするけど、ほんとに気のせい。そう自分に言い聞かせる。まだ大丈夫。
外の景色を見て気を紛らわしながら、到着を待った。

「着いたよ……大丈夫?」
「っ、うん」
「もうちょっと頑張って。すぐそこだから」
着いたのはマンションの駐車場。運転席から降りてすぐ、伊吹さんがドアを開けてくれて、前のめりになりながら車から降りる。シートは汚れていない。
伊吹さんに続いてマンションのエントランスに入る。高そうだな、なんて思ったけどそれどころじゃなくて、足踏みをしながらエレベーターを待つ。夜だからか、俺と伊吹さん以外いなくてよかった。
「うち最上階だから、もうちょっと我慢ね」
よろよろとエレベーターに乗り込んで、最上階のボタンを押す伊吹さんを見つめる。
しゅっ、しゅい~、しょろろ……
「ぁ、んっ、んん、ぅ」
でた。いま、多めにちびった。手が濡れて、ズボンまで染みたのがわかる。やだ、まだだめなのに。
「朔也くん、降りよう」
「っ、はいっ、」
パタパタと足を動かして急いでエレベーターを出る。
ぎゅっと掴んで、伊吹さんについていく。部屋の前に着いたらしく、伊吹さんは急いだ様子で鍵を開ける。
じゅ、じゅうぅぅ~っ
また、でた。地面は汚れてないけど、ズボンは広く濡れている。
「おいで、大丈夫?」
「ひ、っん、でちゃう、」
そういうと、伊吹さんは優しく肩を支えてくれる。ゆっくり歩きながら玄関を抜ける。入ってすぐ左手に扉を見つけた。
「トイレはそこね」
「んん、っ」
よたよたと歩いて、なんとかトイレに入る。
無理やり下ろそうとしたからか、チャックが噛んでしまった。チャックを諦めて、ベルトを外さなければいけないのに、手を離したら出てしまいそうだ。片手では上手く外すことができない。
じょわ、じょっ、じゅぅぅぅ……
「あ、ぁ、っふ、ふーっ、」
ついにズボンでは受け止められなくなって、足元のマットが濡れた。
どうしよう。おしっこ、できない。でちゃう。もれる。やなのに。目の前にトイレあるのに。
じゅ……じょおぉぉぉ~……じょわわぁぁ~ぴちゃぴちゃ……
お腹が軽くなっていく。我慢しているのに、全然止まらない。足踏みするたびに足が濡れる。マットが水浸しになっていく。
「っん、はーっ、はーっ、でちゃ、っひ」
じゅいぃぃぃぃ、じゅうううぅぅぅぅ~
手の中が暖かい。ズボンはびちゃびちゃに濡れている。
足元を見ると、マットからも少し溢れてしまっていた。もし、ズボンを履いたままでもトイレに座っていたら、こんなことにはならなかっただろう。
全部出し切ったあと、変に力が抜けてそのまま座り込んでしまう。片付けなきゃいけないのに、上手く身体を動かすことができなかった。
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